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9.伯爵令嬢は学園に行く




 無紋の馬車は、約束の時間に間に合うように走らせていたんだ。




 フルリンダル学院ってさ、伯爵位以上の家格を持ったお家の子弟を教育する為の学校だったよな。 そんで、学長を含む教師陣はとっても優秀で、政治、統治、経済、軍事、外交の常識的な事を、理解させ、王国に有益な人物の形成を計るって…… そう云う事だったよなぁ



 う~ん、最初からやり直した方が良いんじゃないか? 



 張り出されている、学院の今年の後期試験問題がをチラチラ見てたんだ。 この問題が出ましたって、そういう意味で、張り出されているらしいんだけど…… 大したことないじゃん。 ロッテンマイヤー女史の勉強の中盤辺りの問題だよ、これ…… それが、最高学年の、後期試験って…… どういう事なの?


 なんか、ワイワイ騒いでるなぁって思ってんだ。 生徒さんが廊下に溢れ出てたしね。 試験結果発表が今日なんだと。 廊下の壁に大きく順位と得点が張り出されているんだよ、上位百位までだけどね。


 一学年何人いるのかは知らないけど…… 百位辺りになると、得点が七割くらいになってるんだ…… あの試験問題の何処を間違えるんだ? よくわからんなぁ……


 生徒さんでごった返している廊下をそのまま抜けていくのは、かなり苦労したんだ。 まぁ、同年代の紳士淑女が沢山いるって、そういう認識が持てたんで、よしとする。  聞くとは無しに、生徒さんの話す言葉が耳に入るんだよね。


 私が歩いてんの、なんか、変な視線で見て、コソコソ話してんの。


 悪く、目立ってんのよ、私。 


 制服は着てないし、髪も結ってない。 化粧だって申し訳程度。 だってね、これから御領に帰るんだよ? ずっと馬車に揺られ続けるんだよ? 気張ったドレス姿なんか無理だよ。 来る時だって、王都の辺境伯爵家の係累の「お家」に寄って、着替えてから、王城に乗り込んだんだよ?


 モリガンが私の我儘を、帰途の予定にぶっ込んで呉れたんだ。 勿論、フルリンダル学院側も了承してくれてた筈。 ” お待ち申し上げております ” って、お手紙頂いたしね。 お伺いも、先触れもきちっとこなした筈なんだけどねぇ……


 とことん、下に見られてるね。


 だって、フルリンダル学院側、時間指定までして来るのに、出迎えすらないんだよ? 門の近くの詰所みたいなところで、来意を伝え、何処に向かうのかをモリガンが聴いてくれて、それで、やっとこ中に入れたんだ。


 まぁ、カッコから田舎から出て来た、下級貴族の娘が何とか頑張って編入許可貰えて来ました! ってな感じに見えたんでしょうね。 ほんと、王都の人達って考えが甘すぎるわね。 辺境の領から来たのは確かだけどね。



^^^^



 ざわざわしている生徒さんの間を抜けて、応接室に向かうの。 途中で妙にキラキラした、「お綺麗」な集団に逢ったんだけどね、注意すら引かなかったよ。





 《モブ扱いってことね》


 《モブ? なんですかそれは》


 《物語に置いて、主人公、及び 物語の進行上必要な人達以外のにぎやかし》


 《つまりは、一般生徒? もしくは、物語に関係の無い人?》


 《その定義で間違いないわ》


 《! つまり、わたしは、あの嫌な御伽噺から脱出しているって事なの?》


 《…………それは、わからない。 の貴女の立場がそうだというだけね》


 《うまく立ち回らないと、巻き込まれてしまうという事……》


 《正解だと思う。 学園には近寄らない方が良かったんだけど、後々の事を考えると、一度は来なくて成らないし…… タイミング的には、今しかないのよね》


 《ええ、そうなります。 ハリーストン殿下と面会出来ればそれに越した事は無いのですが、出来なくても、歩み寄った事実には成ります。 今日だけの事ですものね》


 《考えてるわね。 でも、ココの教師たちはどう考えるのかは、判らないわよ》


 《そうですね、一応、訪問のお伺いは立てましたし、来意もきちんと伝えている筈なんですが、この対応ですしね…… なにか勘違いされているのかな?》


 《……その辺はねぇ…… また、何かあったら相談に乗るわ》


 《ええ、お願いします》





 頭の中の会話は、外には伝わらないし、伝えようがない。 フルリンダル学院の応接室に到着して、扉をノックする。 訪問予定時間、五分前到着。 何時もの通りに時間にはキッチリしているつもりなの。 でもね、中からの応諾は無い。 居ないのかな? 


 暫く待って見ても、だれも、来ない。


 モリガンが業を煮やして、廊下の居た人影に声を掛けていた。 パタパタと足音がする。 その方向に視線を巡らせると、長身でぼさぼさの髪、眼鏡に、着崩れた教師のローブを纏った一人の男がやって来るのが見えた。



 《…………あぁ、あいつが来たんだ…………》



 頭の中で、レイさんの呟き声。 それも、とっても嫌そうな声がしたんだよ。 疑問に思う間もなく、その教師と思われる男の人が私の前に立って口を開いたんだ。




「編入生の試験は、第四会議室だ! なぜこんな所に来た。 不案内にもほどがあるぞ!!」


「編入生? はて? 何の事で御座いましょう? 本日の訪問は…………」


「いいから、早くしろ! 今日はエスパーニア辺境伯様が学園の御視察に見えられるかもしれないんだ! 外敵から我が国を護られた、救国の英雄が来られるのかもしれんのだ! そんな日になんだって、面倒な編入試験なんぞ! 早くこっちへ来い!」




 そう云って、手を取り引っ張られる。 なんだ、こいつ。 瞬時に身体強化を纏い、反対にぶん投げちゃったよ。




「淑女の手に軽々しく触れないでください。 不愉快です」




 廊下に投げ捨てられた、その教員が目を丸くして私を見詰める。 すぅっと目が細められるんだ。 でも、私だってそんな理不尽は受けられない。 冷ややかに見降ろしてあげたのよ。




「本日は帰領の合間を縫い、こちらに参りました。 編入は希望しておりません。 学園長様にお取次ぎを」




 そう冷たく言ってみたの。 多分、情報の行き違いだと思うけど…… まぁ、そんなモノね。 ブツブツ言いながらその男が、言い訳じみた事を口走りながら、廊下を下がって行った。




「お嬢様すみませんでした。 ちょっと目を離した隙でした」


「いいのよ、モリガン。 そちらの方はどうでしたか?」


「はい、あの者はこの辺りを清掃していた者で、取次の権限が無いという事でした」


「では、あの教師らしき男にかかっているという事ですわね」


「御意に」


「暫く待ちましょうか」




 応接室の扉の前で、まぁ時間を潰しながら待ってたの。 レイさんが、暇つぶしの相手になってくれた。 さっき、あの男をみて、レイさんが呟いた言葉がなんか気になってね。




 《レイさん、さっきの男の事、御存知なの?》


 《ええ…… 知ってるわ。 貴女の中の御伽噺の記憶にもあるでしょ?》




 そう云われて、ちょっと思い出そうとするけど、中々と思い出せないんだよコレが。 誰だっけか? 今まで出逢った事無いし、あんなラフな格好の方なんて、思い出せそうに無いんだよ。




 《攻略対象者…… 貴女の 「お姉さん」 の取巻きの一人だよ》


 《えっ? そうなんですの?》


 《魔術の教師でね、貴女の「お姉さん」も師事してる。 出力は……たいしたことないけどね。 結構マッドな魔術師って言うのが、御伽噺の中での設定。 自身の研究が魔術の軍事利用なんてモノをテーマにしてるんだよ》


 《物騒な方ですわね》


 《こないだの紛争で、エスパーニア辺境領軍が【身体強化】の全面使用に踏み切ったでしょ。 アレが、彼にとっては目指すべき場所なのよ。 エスパーニア辺境領軍がどうやってそれを成し遂げたかを、しきりに知りたがるの》




 はぁ…… 生存確率を上げるために、私とアーリアが簡易術式組み上げたんだっけ。 御爺様みたいな人ばかりじゃないもの。 だから、【身体強化】が同程度使える様にしようとしただけなんだよ…… アレかぁ……


 御伽噺の中じゃ、アーリア単独で組み上げたって事になってるのよね。 それでも、エスパーニア辺境領軍は全滅しちゃったから、ロストテクノロジーになっちゃってね…… それを掘り起こしたのあの男。 フルリンダル学院の鬼才、ロドリゴデトリアーノ=エステル伯爵…… 魔術教師だったっけ。



 廊下に立ち続けるも、だれも来やしないんだ。 



 別に立ってるのが苦になる訳じゃないんだけどね。 ホントに馬鹿にされた気がしたんだよ。 お伺いする予定の時間の終わりに差し掛かったんだ。 学院名物の大時計が、お昼を指し示し優雅な鐘の音が校舎一杯に響き渡ったんだ。





「時間の様です。 行きましょうかモリガン」


「誠にすみませんでした。 わたくしの不手際で御座います」


「いいのよ、モリガン。 言われた通り此方に来て、言われた通り此処で待ちました。 それでいいのです」


「お嬢様……」


「御爺様がお待ちになって居られるでしょう。 行きましょうか」




 元来た道を、逆に歩く。 その頃にはもう生徒さん達も、いらっしゃらない。 人影も疎らになっている。 中庭で、優雅なお昼を取ってらっしゃるのも見えていた。 次年次の新入生らしき人達の姿も見える。 なんか判った気がする。 あの子達の検査が今日あったんだろうってね。 その一環として、編入生の検査も行われていたって所かしら。


 見慣れない私が、応接室に向って歩いて行くのを見た、どっかの御節介さんが、奴に御注進したって事かもね。 で、奴は腹立てたってことかもね。 いいや、別に。 どうでも。 御爺様をお待たせしたら悪いから、歩みを早めて校舎のエントランスに向ったの。





 ^^^^^^





 なんか、盛大な御出迎えをしてたんだ。 偉そうなおっさんを筆頭に、ズラッと教師陣が立ってる。 あの男も、なんかキチンとしてその中に混じっていたよ。 エントランスホールの入り口に辺境伯の紋章がガッツリある馬車が横付けされて、なかから御爺様が出てらした。




「エルパーニア辺境伯卿!!! 本日は、このフルリンダル学院へのお越し、誠に栄誉に思います! ささぁ! どうぞこちらに!!」




 禿げた偉そうなおっさんが、媚びた笑顔を顔に張り付けて、御爺様の手を引かんばかりに誘導してた。 御爺様はというと、物凄く不機嫌。 早く辺境領に帰りたいのに、私の我儘でお昼まで王都に居る事に成ったんだもんね。 ゴメンなさい。 一応は、歩み寄りの姿勢だけでもと思ったのよ。 あとで言い訳(・・・)になると思ったからね。


 御爺様の視線が何かを伺うように周囲に向けられる。 人だかりの後ろに私が立ってるのが見えたらしい。 つかつかと私の方に向って歩いて来てね、見下ろされたの。




「用事は済んだか?」


「はい、御爺様。 なにも見るべきモノは御座いませんでした」


「そうか…… 帰るぞ」


「はい」




 踵を返し、馬車に戻ろうとする御爺様。 その後ろを歩く私。 慌てる教師陣。  禿げた偉そうなおっさんの学長さん。




「な、なにかお気に召さない事でも御座いましたか?!」


「此処には用は無い。 用が有ったのは孫娘、フリージアだ。 伺いも、先触れも出したと思うが? フリージア、用事は済んだのだな?」


「はい、御爺様。 御婚約者様で在らせられる、ハリーストン殿下は本日もお忙しいそうで、御面会にいたす事叶いませんでした。 応接室の中にさえ入れては貰えず、ただただ、お待ち申し上げておりました。 とって頂いたお時間も過ぎましたので、もうご用は御座いません。 御爺様の貴重なお時間を頂きました事、感謝の極みに御座います。 御領へ…… 辺境領に帰還致しましょう」




 私の言葉に頷く御爺様。 ザックリと割れる教師陣の人の壁。 その中に青白い顔をした、あの男の顔。 そして、何が何だか訳が分からないと云った風の、禿げた偉そうなおっさんの学長。 その内、顔色が真っ青に変わるのよ。


 なんだ、判ってたんじゃん!


 ニッコリと微笑んでおいたよ。


 そんで、言ってあげたの。




「歓待誠に有難うございました。 辺境での学びが間違っていなかった事が判りましたわ。 みなさま、ごきげんよう!」




 薄っすらと【身体強化】を掛けて、その場を後にしたの。 まぁ、判る人にはわかる様にね。 その【身体強化】は、アーリアと一緒に作り上げた魔方陣で起動するの。 私の背中に魔方陣が浮かんでた筈よ。 


 取り逃がした魚は大きいわよね、魔術教師ロドリゴデトリアーノ=エステル伯爵。


 残念ながら、教えてあげるつもりは、


 これっぽっちも持ってないからね。







 そして、私達は王都を離れ、私達の辺境領に帰ったのよ……





 一部レイヴンのお仲間さんを残してね。







フリージアが悪役令嬢だった、御伽噺は、フリージア側では完全に崩壊しているようです。 御伽噺の主な舞台である学院とも、手が完全に切れました。 フリージア曰く、上手く立ち回ったという事でしょうか。


物語は加速します。


次回、閑話。 第四王子の憂鬱

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