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28. 辺境伯令嬢は、王子の側近を払い除ける





 右腕を失くし、激痛に悶え苦しんでいる、ミストナベルを驚愕の表情で見詰める人影が一つ…… 少しの間があって、震える声がシンと静まり返った会場に響くのよ。 でもさ、決して彼の側には近寄らない。 強い血臭に腰が引けてるよ? ん、どうしたの? 聖女グローリア様



「ミストナベルが! これではミストナベルが死んでしまう…………」


「放置すれば……ですね。 ご自分で、処置出来るでしょう。 たかが、右腕一本落としただけです」


「なっ! い、医務官を!! 癒しの神官様を!!」


「えっ? ……そういえば、グローリア様は、「聖女」様なのでしたね。 では、聖女様の「癒しの御力」で、治療されては、如何でしょうか? ミストナベルにはまだまだ、聴かねばならぬ事が有ります故、お早く……」




 聖女グローリア様からの「お言葉」を頂きました。 でもさ、助けてあげなよって言ってるのに、グローリア様は動かない。 両手でスカートをグッと握り込んで、固まったよ。 なんでだ? 「聖女」様なんだろ? 「聖女」様なら、癒しの魔法が使え無きゃおかしいよね? それも、とびっきり上等の奴。 私の力と同様に、斬り飛ばされた手も生えてくるような、凄い奴…… ねぇ、なんで固まってるの?


 それにさぁ、ミストナベルって、こういった緊急事態の対処法、教えて貰わなかったのか? 仮にも見習い騎士やってたんでしょ? 戦場で、手や足を失った時の対処法とかさ…… 冷たく見下ろしながら、エルクザードと、マエーストロに 【遠話】で聞いてみたんだ。




 《 なんで、ミストナベルが自身で対処できないの? 》


 《 お嬢…… 緊急時の対処方法って、野戦対処方ですよね 》


 《 そう云う事になるの? 》


 《 あれは、辺境領軍の軍令です。 本領軍は別の軍法が有るのですよ 》


 《 えっ、あの、実現不可能な奴? 戦場のど真ん中に、高位神官を連れて行けとか言う 》


 《 そうですね。 アレしか無いですね…… 》


 《 実現不可能だよ…… そんな事してたら、死んじゃうよ? レイヴン! ねぇ。 なんで聖女様固まってんの? 自分で言い出した事だから、すぐに治療に入るんじゃないの?》


 《 主よ。 無茶言ってやるな。 なんの力も無い小娘に、出来る訳などなかろう? 側に付いておる準司祭にしても、癒しの力は持っておらんようだしな。 「癒しの力」の発動など、期待できんよ 》


 《 なんですって!! まだまだ、ミストナベルからは、お話聞かなくちゃいけないのに!! キュアポーション! 出して!!》



 《 怪我すると思ってなかったんで、持って来てません 》

 《 お嬢様以外に使う事は禁じられております 》

 《 傷口、焼いとけばいいんでは、ないですか? 》

 《 周囲に人が多い、主の力は使うな。 いいな、決して使うな 》

 《 こういった対処法に一番詳しいのお嬢さまでは? 》




 う、うわ、こいつ等…… くそっ、なんでも私に丸投げするな! し、仕方ないよね。 うん、しかたない。 緊急処置しとくか…… 蹲って、ダラダラ腕から血を流しているミストナベルの、斬り飛ばされた腕を無造作に持ち上げてね、発火魔方陣を発動するの。 まぁ、こんなの誰だって出来るくらいの、極初歩の魔法だしね。


 で、その魔方陣を切り飛ばされたミストナベルの腕に押し付けるのよ。



「ぎゃぁぁぁぁ!」




 肉の焼ける匂いが辺りに漂う。 戦場で嗅ぎ慣れた匂いだし、顔色すら変わんないよ…… ね? あれ? あれれ? 辺境領の人達以外、物凄く引いてるんだけど? この対処しなきゃ、失血で死んじゃうよ? 


 医務官とか、癒しの神官様とか呼びに言ってる間に、簡単に死んじゃうよ? 極標準的な対応方法だと思うんだけど……




 《 主よ…… 此処は、戦場より遥か遠い。 そのような事は、見た事が無いのだ 》


 《 だって…… 仕方ないでしょ? モリガンに刃を向けたんだもの。 首が落ちなかっただけでも、有難いと思ってもらわないと! 》


 《 主なら、そう言うと思っていた 》


 《 さて、ちょっと疑問に思った事があるのよね、 ―――尋問でも、始めましょうか 》




 激痛に身をよじり、脂汗を流しつつも、これで失血死は回避されたミストナベルに、冷たい目を向けながら、問い質したんだ。




「ミストナベル、貴方の着用している正装は、どなたから頂いたモノなの? 殿下より下賜されたものなの?」


「ぐ、ぐぅぅぅ…… こ、この晴れの日に、お母様がご用意してくださったのだ!! そ、それを!!!」




 親族からか…… いけない事だよね。 いや、ミストナベルの式服を送るのは良いんだ。 でも、それが近衛騎士団の式服に酷似してるってのが……ね。 また、指揮官の口調に戻っちゃったよ……




「ふむ、貴殿の母君がご用意されたのか…… その着衣の意味を御存知か? それをあつらえる事の重大さを、理解されているのか?」


「な、なに!!」


「見るからに、近衛騎士団の正装に似せて作ってある。 よく見ないと、間違う位に。 その意味を知って、お作りに成られ、それを貴殿は意味を知って着用されていると…… そう、断じて良いのだな?」


「で、殿下の御側に立つのは近衛の仕事だ!! お前のせいで、軍籍が抜かれたのだ!! が、殿下の御側に立つ事を許されたのだ!! 何が悪い!!!」


「……魔法騎士アーリア。 記録と報告を。 この式服を近衛騎士団のモノと似せて作り、着用に至ったと。 将軍閣下にも、出来るだけ早い経路で宰相閣下にも、御報告しなさい」


「御意に!」




 はい、犯罪者に決定だね! お母様の「お家」も同罪よ!




 もう、いいや、ミストナベルの事は。 あとは、宰相府で処理してくださるわ。 どんな高位の貴族だって、国法には頭を下げざるを得ない。 傲然と国法を無視するのは、「大逆罪」と言う訳よ。 あぁ~あ、せっかく、将軍閣下が温情与えてたのに…… 処刑だね…… 貴族籍も持たないミストナベルは、貴族の尊厳死なんてもの、与えられない…… よくて非公開断首。 普通は公開処刑だもんね。


 言質はとったよ。




「何を、ふざけた事を!!」




 また、殴りかかって来てやんの…… 懲りないねぇ…… 今度は容赦なく、エルグザードが意識を刈り取っていたよ…… トンって、首に手刀を落としただけどね…… 冷たく、エルグザードが崩れ落ちる、ミストナベルを見てたよ…… 唖然とする周囲の貴族さん。 えっ? なんで? 戦闘指揮官に悪意を向け殴りかかって来たんだよ? 当たり前の対処だよ…… はぁ…… なんなんだこいつ等?


 まっ、いいか。 えっと、次は……




「き、き、貴様は何をもって、この暴虐、悪辣な、非道な事を成したのか!! 庶民が貴族に刃を向ける!! このような事が罷り通るとは嘆かわしい!!! 即刻、剣を置き仕置きを受けよ!!」




 吠えるねぇ…… マクシミリアン=ヨーゼフ=マクダネル子爵。 頭いいんだろ? マジで、どうなってんの? 私はちゃんと、自身の立場を表明したよ? 聞いてたの? 法的根拠もあるよ? 明示したよ? その中で、一番緩いのを適用したんだけど…… 判ってないか……




「マクダネル子爵。 わたくしは最初に申し上げましたわ。 わたくしは、辺境領、第一遊撃隊、指揮官フリージア=エスト=エスパーニアと。 緊急対応条項一条一項により、制裁を下したと」


「き、貴族でも無いお前が!! フルブランド伯爵家の令嬢では もはや無く、貴族籍を喪失した癖に……」


「辺境領の領軍の指揮官任命権は、辺境伯の専権事項に御座いますわ。 それに、あなた……きいていらっしゃったの? わたくしは、フリージア=エスト=エスパーニアと、名乗りました。 たとえ、フルブラント伯爵家の籍を失っても、エスパーニア辺境伯家の籍は失いませんわよ? 文章官が削ったというわたくしの貴族籍はあくまでフルブラント伯爵令嬢としての籍。 お考え違いなさいませんよう。 わたくしは、エスパーニア辺境伯様の孫娘として、この場に罷り出ました。 人を弾劾するならば、もう少しよくお調べになった方がいいわ」


「ぐッ!」


「マクダネル子爵。 そんな貴方に一つ質問が有ますの。 着用されている式服は、高位官吏のモノ…… ミストナベルの着衣同様、成人直後の若者が着る事が出来るような軽いモノでは御座いませんわ。 それは、貴方のモノなの? それとも、御尊父のものですの?」


「こ、これは、俺のモノだ! 卒業祝いにと、父上から……」


「ま、マックス!!!」




 おやおや、取り乱しておられるわねぇ…… 財務長官 レイモンド=エルビン=マクダネル侯爵閣下。 式服の意味、御存知なんですよね。 経験年数を経ず、試験も受けず、その衣をただ、高位貴族の権威に使い纏うという事の重大さに。




「魔法騎士アーリア。 記録と報告を。 宰相閣下には繋ぎは着きましたか?」


「はい、司令官殿。 もう直ぐ此方にお見えになります。 大変お怒りの御様子に御座います」


「そう…… 事実のみ、お知らせするように。 要らぬ意見は必要ありません。 着用を禁止されている式服を着用したこと。 それを促したの御尊父で有る事のみで宜しいですわ」


「御意に」




 キョトンとした表情をしているマクシミリアン。 その後ろで、真っ白になって、ガタガタ震えている、レイモンド=エルビン=マクダネル侯爵閣下。 ……無様ね。 長い年月をかけて、整備してきた法典は、こんなバカを放置する事はないんだよ。 特に権力近辺に居る者達に、厳しく適用されるんだよ。 腐らないように、王国が健全に運営される様に…… 


 歴代の国王陛下と、側近たち、法務官達の汗の結晶なんだよ、法典は。 それを、完全に無視したでしょ? 王国首脳部に対する挑戦と受け取られたよ。 特に宰相閣下はそう云った事に細かく煩いんだから。 だから、私は待ったんだよ。 きちんと法的裏付けが取れるまで、動かなかったんだよ。 


 マクシミリアン、もう、貴方の言葉には重みは無いの。 都合の良い事実のみを手にするような人に、王国の未来は担う事は出来ないの。 




「な、何故だ!! なぜ、ミストナベルが血を流さねばならんのだ!! 殿下に不敬を成す、ただの庶民を排除しようとしただけなのに!」


「緊急対応条項一条一項により処罰されたミストナベルへの擁護は、貴殿もまた同様の意思が有ったと理解するが、宜しいな! 大逆犯容疑者である、ミストナベルと同様の容疑者とする。 衛兵が来るまで、其処で大人しくされている事を、推奨する。 もし、何らかの害意をわたくしに向けると、即座に緊急対応条項一条一項により処罰しますよ? 容赦はしませんよ?」




 ミストナベルが命を保ったのは、将軍閣下の「お孫さん」だからだよ。 マクシミリアンには、これっぽっちも斟酌する必要はないもんね。 ババァァン~~ ってさ、殺気を当てたら、その場に崩れ落ちやがったんだよ。 うわぁぁぁ、根性無いなぁ…… 新兵でも耐えるぞ? わたしの殺気くらいは……




 《 主よ、やり過ぎだ。 主の殺気は心を折る…… やめておけ 》




 レイヴン? えっ、そうなの? なんでよ! 新兵訓練の時、みんな耐えてんじゃない!!




 《 只の新兵が、主の前に立てるものか…… アレは、皆、選抜された者達ばかりだ 》




 そ、そうだったんだ…… 知らなかったよ…… ホントに知らなかったんだ。 ごめんなさい。 大した事無いと思って、新兵訓練の時にバンバン殺気当ててたよ…… ほんとにゴメンよ~




「ほ、法が許しても、教会は! 神官長様は! お許し成られない!!!」




 三人目のお馬鹿さん。 出て来たよ…… 打ちひしがれてるグローリア様を庇うようにね。 私もこの人には言う事が無いよ。 王国が(まつりごと)に教会の意思を極力排除する為に施行している国法を、無視しちゃってるもんね。 でもって、こいつ、神官長の息子さんときたもんだ。 神官長様がこいつの言う事を追認すれば、教会がこの国から叩き出されちゃうんだよ?



 はぁぁぁ…… 何言い出してるんだか。




「貴方のお言葉は、神官長様の御意思でしょうか? それとも、貴方の御意思? それに、その式服は枢機卿様方の式服ではございませんか? 貴方は何時枢機卿様に任命されたのでしょうか? 寡聞にして存じ上げませんが?」




 物凄い嫌味なんだよねコレ。 教会内の仕置きについては、私達貴族側からは何も言えない。 言っちゃいけないんだ。 けどね、暴虐が過ぎると、国王陛下よりお叱りが有るのよ。 今回の一件については、こいつが絡んでる筈だから、きっと、教会内部でも強烈な審問が有るよ。 あの潔癖な神官長様なら、とことんやりかねんよ。 ” 息子だから? それがどうした ” ってね 


 ……手加減するような方では無いね。 あの方が現在の地位を得るまでに、どれ程真摯に祈られてこられたか、田舎の教会にまで知れ渡ってるもの…… 枢機卿さん達が全員神官長に成られる様にって、推挙されたって意味って……  神官長は世襲職じゃ無いのよ? どれ程の研鑽が必要なのか…… わかっておられるのかしら?




「ち、父上は神官長だ! その息子である私の意思だ!! 民の声を聴き……」


「おこがましい…… 貴方の自身の研鑽は、何時終えられましたの? たしか準司祭でしたわよね。 民の声を聴くのではなく、民の為に奉仕するのでは無くて? あなたの職位の役割は。 教会の事は判りかねます。 しかし、この事は容易に見過ごすわけにはいきません。 魔法騎士アーリア。 記録と報告を。 宛は、神官長様、及び 審問官様へ」


「えっ、し、審問官……」


「貴方の言動は、激しく教会の教義、規範を逸脱しております。 よって、審問官様に御報告申し上げます。 教会の沙汰は、追って届けられるでしょうね」


「そ…… そんな…… ば、馬鹿な…… 私は神官長の息子だぞ…… その私に……」


「貴方には、なんの権限も御座いませんね。 あなたのお立場は、準司祭。 それ以上でも、それ以下でも御座いますまいに…… 残念ですわ」




 なんか、審問官に報告するって事で、顔色真っ青にしてるね、ヘレナベル=ミスト=ルシアンティカ準司祭。 きっとさ、お母様であるアメリリア様とフルブランド法衣伯爵閣下の婚姻宣誓書を破棄したのもこいつだね。 いや、準司祭に閲覧権限が無かった可能性もあるのか…… なにせ勅命だったものね…… 別枠処理だったのかもね。


 ここに至っては、どうする事も出来ないね。 


 さて、側近共の悪事は暴いたよ。 それで、上にも報告した。


 あとは、上がどう判断するかだね。



 普通に考えれば、未来は無くなったよね。




 おや? 怖い顔したおっさんが一人、こっちにやって来たよ……






 ―――モリアーティ=ドルド=レーベンハイム侯爵―――






 最後に魔王様のお出ましって事か。



 小娘と侮っているのが、ありありと判るよ。



 ロッテンマイヤー様の薫陶宜しく、



 ガッツリ、カーテシー 捧げてあげたよ。



 最初で、最後の、貴方に対する淑女の礼。



 存分に受け取ってね。








魔王様の前には、四天王をぶっ飛ばすんだよね。 王道だよね。 だから、ぶっ飛ばされてたんだよね。 随分と弱い四天王様だよね。 聖女様って、見た目の自称だったんだね。 そうだった、そうだった。 だから、誰も彼女が癒しの力を持ってないって事に、疑問を持ってなかったんだ。 単に光ってただけだもんね。


とうとう出て来た、悪の親玉。 侯爵閣下。


長い年月、恨みつらみを滾らせて、悪辣非道を成して来た、王国の闇の魔王。 フリージアと言う光の前にさらけ出されて、どう抗うか。 


頑張れ、負けるな、我らが姫様!


物語はエンドロールに向って驀進中です。



次回、 魔王堕つ!  (予定だよ? 副題は、まぁこんな感じに成るよ? キーボードが限界だよ? 大丈夫か!!

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