26. 伯爵令嬢は二女だと言われる
学院の卒業記念パ―ティに、出席する為にドレスアップをしたんだよ。 ほら、これでも一応、ハリーストン殿下の婚約者だもの、一応しっかりとしたドレスは持って来たんだ。 馬車で移動している時に、レイさんとお話してて、思いついた事があるのよ。
なにかしら、相手側が仕掛けて来ても、私を私と認識して居なきゃ、対処時間は取れるし、いきなり戦闘になっても、間合いとか、配置とか、整理出来るかもしれないって、思いついたんだよ。 なに、本当に簡単な事よね。 本来だったら、絶対に使えない手だし、よしんば使うとしても、相当に準備が必要になるから、普通はやらないよ。
でもさ、私と殿下の関係性とか考えても、何となく目論見通りになると思うのよ。
だって、正式にハリーストン殿下と御会いした事無いもの……
それでさ、モリガンとね着るべき服を、取り換えたのよ。 私が着るのは、いつも彼女の着ている、濃紺のワンピース。 普段はこれに純白のエプロンを重ねてるんだ、、モリガンは。 完璧侍女姿な彼女なのよ。 流石にヘッドレストは付けないけど、でっかい伊達眼鏡を掛けてみた。 よく見ないと、瞳の色は判らないよね。
あとは、髪を侍女風に整えれば出来上がり。 エプロンが無いから、地味~~~な 「田舎の御令嬢の姿」と、変わりないわよ。 いいね、これ。 動きやすくて、なんか色んな所に隠しポケットとかもあるしね。 こんど、これと同じようなモノを作ってみようかしら?
「お嬢様、コレで…… 宜しいのでしょうか?」
そう云って私の前に来たモリガン。 普段私の着ている、まぁ、お嬢様風のドレスを纏っているの。 髪はハーフアップに纏め上げて、ガーベラの生花を使った髪飾り。 清楚な雰囲気が良く出てるよね。 髪の色は私より薄い蜂蜜色だけど、あんまり変わらないし…… でも、私とモリガンを良く知っている人達なら―――
” 何やってんだ、お前ら…… ”
ほおら、レイヴンが良い合いの手を入れてくれたよ。
「レイヴン、出て来て。 ちょっと相談が有るの」
「あぁ、主よ。 理由は説明してくれるんだろうな」
「勿論よ。 この姿で、卒業記念パーティーに行くわ。 ちょっとしたお試し。 いつも、試されているから、今日は私が試すの。 わたくしを何処まで知っているか、知りたいのよ」
「……辺境領の者だったら、俺と同じ反応だな。 また、なんか面白い事始めたな……なんて思われるのが落ちだ」
「それが良いのよ。 きちんとわたくしをわたくしと認識できている人達には、何の問題も無いもの。 それに、本領の貴族さん達だって、こんな余興よくするんでしょ?」
「……余興ときたか。 何を狙ってるんだ?」
「大した事じゃないわ。 大した事じゃ……。 殿下を含め、わたくしをわたくしと認識できているのならば、問題は起こりえないでしょ。 私が罠を張ったと理解すれば、余計な事をしなくなるんじゃないかなと、思っただけよ。 私を認識できなくて、モリガンを私だと思って、何かしかけても、私は傍観できるし、対処の時間も稼げるわ…… ほら、何かを仕掛けて来るにしても、動きやすいこの服ならば、どうとでも対処できるし、相手が直接手を出そうとしても、【身体強化】を使って、全力で走って逃げるわよ……」
「確かにな。 主の全力ならば、誰も追いつけまい…… しかし、簡単に主と気が付くのではないのか?」
「何故?」
「主のドレスを着たモリガンの胸元…… パツパツだ。 モリガン、動きづらいだろう」
アグゥゥ!! 血涙が浮かびそうだよ!!! こなくそ!!!! 神は死んだ、死んでしまったんだ!!!! あえて、気が付かない振りしてたんだ!!!! 指摘するな!!! そうだよ、モリガンはスタイル抜群なんだ。 お胸だってデッカインダ…… 私じゃ出来ない盛り上がりが胸元を強調してんだ。 はぁぁぁ………… 凹む…… とても、凹む……
「お嬢様! 大丈夫です! なにも、問題はございません!! ほら、こんなに軽やかに動けます!!」
そういって、パッとターンすると、ピッって糸が切れる音…… 胸周りの脇の所が圧力に負けて弾けてた…… 理不尽…… まったくもって不公平…… スッと顔色が青くなるモリガン。
「お直しする時間ある? 早急にどうにかしなさいね」
極めて冷静に…… 何の抑揚のない言葉が私の口から漏れた…… ひっ って言う、小さな悲鳴ににも似た何かを漏らしつつ、モリガンは足早に侍女の控室に消えて行ったんだ。 おい、レイヴン、なに声押し殺して笑ってんだ? あ”ぁぁぁ? なんなら、相手になってやるぞ? こっそり【身体強化】を掛けると、レイヴンの奴、笑いながら云うんだ……
「主は本当に楽しい御方だ。 ―――警備は任せろ。 何人か会場に紛れ込ませているし、エルクザード、マエーストロ、それに、アーリアの三人も、護衛について居る。 きっと、主の姿を見て、笑いを堪えるのが精一杯になるだろうがな。 あいつ等、感はいい。 主が何をしようとしているのかくらい、すぐに判る。 安心していい……主に危害を加える者は、俺達が排除する」
そう云って、また いつものように存在感を消して、部屋から退出して行ったんだよ……
判ってるって。 貴方達がずっと付いてくれているって。 だから、私はこんな大胆な方法を思いついたんだ。 貴方達の事を信頼してるからね。 さてと、モリガンのドレスの修正の手伝いでもするか。 あんまり時間は…… 無いからね。
******************************
さて、主戦場にやってきましたよ。 そう、王立フルリンダル学院の今年の卒業記念パーティの会場。 今年は、ハリーストン殿下が卒業生に含まれるからってんで、王城の舞踏会が行われる場所での開催となったんだって。
流石に王城の一角って事も有ってね、豪華絢爛、キンキラな空間だったよ。 その上、人が多いんだ。 学院の教授陣、学長様以下首脳部、そして卒業生、在校生代表…… あと、その親御さんかな、大人の貴族の人達が犇めいているんだ。
うあぁ、人口密度たっけぇなぁ……
【遠話】の魔法使って、レイヴンがその中に居る、主要人物…… 特に大人の人達の事を教えてくれた。 まぁ、レイヴンが言うのには、モリアーティ=ドルド=レーベンハイム侯爵の一派って事だけどね。 あっ! あそこに居るの、財務長官のレイモンド=エルビン=マクダネル侯爵じゃん! やっぱり、あの人もそっち派かぁ…… だろうね。
例年なら、フルリンダル学院の会場を使用するんだって。 色んな高位貴族さん達が、色々と画策した結果だそうよ。 そりゃ、こんだけの人が集まるのなら、この位の空間が必要になるよね。 きっと、ハリーストン殿下と誼を繋げようと、がんばってるんだろうねぇ……
レーベンハイム侯爵の野望は大体読めているんだよ。 いう事を聞かない…… というか、自分の野望の邪魔に成る現王太子である ベルグラード=ウーノル=ランドルフ王太子殿下を、御世継ぎが生まれない事を理由に、王太子位の禅譲を迫るのよ。 禅譲相手は、ハリーストン第四王子。 王位継承権がある、最後の、王妃の御子息だもんね。
王太子教育も其処まで深く教育されてない、第四王子。 レーベンハイム侯爵にとっては、本当に都合の良い傀儡に成るよね。 国王陛下は、レーベンハイム侯爵の妹様であられる、王妃殿下に未だお気を使われている様だし、まぁ、成功すると思うよね。
そんで、彼は国王の外戚としての地位を固め、ハリーストン殿下が王位に着いた際には、自身が宰相位に着き、まあ好き放題するつもりなのよねぇ……
判りやすい、” 悪 ” なんだと思うよ。 下手すりゃ、宰相と言う名の新たな王ができるって感じだね。 あくなき権力欲と、財欲。 無能な王の下、全てを操り手中に収める気満々なんだろうね。
裏は、とってるよ。 辺境領に支店出してた、レーベンハイム侯爵お抱えの例の商会。 法規違反を盾に、ガンガン内部捜査を進めてさ、地下奴隷商組織の親玉って証拠も手に入れたしね。 そのキンランド商会、鉄の結束を誇るって言う割に、命の保証と引き換えに、情報バンバン出して来たんだよ。
レーベンハイム侯爵が指示してたってのも、財貨を集める為に非合法の商いをしてたってのも。 バレそうになると、隠れ蓑にしてる男爵家とか子爵家に全てをおっかぶせて、トカゲのしっぽ切りをしてたのも。 裏帳簿も、なんもかんもね。 各種証拠、証言付きで、将軍閣下にお送りしておいたよ。 あちらで唯一信用できるのって、将軍閣下だけだもんね。
やっぱ、商人だよね、命は惜しいらしい。 ここで、ヘタ打っても、どっかで再起をかけるつもりかもしれんし、奴隷売買って結構旨味があるから、横の薄暗い繋がりもある訳じゃん。 危なくって、国内に置いとけるわけ無いよね。 だからさ、証拠も証言も全部吐いてくれたから、遠くの国に贈ってあげたんだ。
獣人国の所までね。 あっちのお役人様、とっても嬉しがっていたよ。 なかなかと尻尾を出さない、人身売買組織。 摘発は後手に回っていたからね。 一応、辺境領の中では、「命の保証」してあげてたけど、あっちじゃ判らない。 まぁ、国法に違反してるんだから、無罪放免って訳には行かないよね。 だから、国外追放って処分って事で、探してた人達に「引き渡して」あげたんだよ。
「騙しやがったなぁ!!!」
って、声がなんでか、とっても耳に残ってるけど、どうでもよかった。 だって、領の人達に危害を加えたんだよ、単に処刑するなんて、甘い判断下すわけ無いじゃない。 商人の癖に、甘い話に乗るから身を亡ぼすんだ…… 冷たい目で見てあげたら、口を閉じて、がっくりと肩を落としてたね……
それを自業自得っていうんだよ。
情報には、おまけがあったんだよね。 大物、小物 含めて、色んな貴族さんの影の部分を掴んでるんだ。 まぁ、おおよそ、このパーティに集まっている人達かな。 王国の法をないがしろにしたんだ……
どうなるか、知ったこっちゃ無いけど、決して、オーベルシュタット辺境領には来ないでね。 来たら、即日、捕縛してあげるよ。 その指示は、御爺様を通じて、赤鬼ミネーネ様に伝わってるから、今頃、領境には兵団が送られているんじゃないかな……
^^^^^^
さてと、私達の席はっと…… あぁ、一応 貴賓席に設けられてたわ。 で、モリガンに私が座るべき席に座って貰って、私がその右斜め後ろに立つのよ。
ほら、マエーストロ! 笑うな。 落ち着け。 こら、アーリア! ニヤつくんじゃない。 真剣に、真摯に、お祝い申し上げる様に! 騒めく会場は、まだいらして居ないハリーストン殿下の事を御噂するので忙しそうね。
そのうち…… 誰かが、私達がこの部屋に居る事に気が付いたらしいの。 まぁ、豪華なドレスのお嬢様に比べたら、ほんと質素なドレスだもんな、私の一張羅でもさっ! でも、モリガンが着ると、豪華に見えるのが不思議よね。 ええ、不思議ですとも!!!
聞こえよがしに、” 偽物が! ” とか、” 恥を知らんのか! ” とか、聞こえて来るんだよね。 もう、何がなんだか…… でもさ、面白い事に、ココに居る人達はみんなその事に同意しているみたいなんだ。 つまりは、根回し、空気の醸成には成功したってことだよね。 そしたら、この卒業記念のパーティーって、それを確定しようとしてんじゃないか?
ほうっ! 面白い。 何をどうしたのか、よく効かせて貰おうかな
高らかなファンファーレと共に、ハリーストン殿下がお出ましになったんだ。 ちゃんと王族の正装を着用されてる。 豪華な金髪に眩しい白の正装。 肩帯は深紅…… あれ? それって、王太子様の御正装じゃね? まぁ、帯剣は普通の騎士剣だったけどね…… マズいんじゃね?
あら? どなたかを、エスコートされてるね。
これまた、ゴージャスな金髪の女性の手を取られて居たね。 ふむふむ、輝くような純白のドレス。 ありゃ? あの生地……発光シルクじゃん。 やっとこ、量産出来る様に成ったって、アントーニア王国、デギンズ第三王子がこのあいだ、お手紙で教えてくれた奴じゃん。 でもさぁ…… 大聖堂の時のスタイルとは違うよね、アレ……
また、作ったんだ。 ドレス一着分の発光シルクって…… 並みのドレスの何十倍以上するよ? たぶん、ハリーストン殿下からの贈り物でしょ? それに御飾りだって、豪華なモノね。 良くは判らないけど、あのドレスと対になる様なモノだったら…… 王都にお屋敷買えちゃうんじゃないの? マジで!
――― グローリア=メイ=フルブランド 伯爵令嬢 ―――
我が世の春って感じの表情だよ。 レイヴンの話じゃ、彼女 「聖女様」って祭り上げられてるらしいし、彼女が微笑むだけで、周りがキャーキャー言うらしいんだよ。 まったく実力を伴っちゃいないけど、そりゃねぇ~~。 そんな対応されたら、私達みたいな年頃の女性なら、舞い上がるわ…… 確実にね。
周りに憑りついている側近共も精一杯のオシャレしてんだもの、ちょっと笑っちゃったよ。 でも、それは無いわ~~、絶対に無いわぁ~~~ 色んな所の不文律犯しまくりじゃない。
ミストナベル=エイランド=ヒルデガンド元子爵なんて、近衛騎士団の正装に近いモノを着用してるんだ。 あれ、たしか偽物除けに、同じ意匠のモノ作るだけで、首が飛ぶんじゃ無かったっけか? あぁ、殿下の個人警護官って事で、殿下から下賜されたって事にしてるのか…… 危ない橋、渡るんだなぁ……
辛うじて、首の皮一枚で殿下の側に仕える事が出来てるなんて、これっぽっちも思ってないんだ…… もし、理解してたら騎士団の正装じゃ無く、衛士の正装くらいで止めなきゃ…… その騎士団にしたって…… まさかの近衛騎士団のモノ…… 有り得ない! ほんと、有り得ない位の馬鹿!
マクシミリアン=ヨーゼフ=マクダネル子爵も同じ…… って、何着てんのよ! 官吏の式服だよそれ! それも高級官吏のやつ!! たとえどんな高位の貴族の子弟でも、高職位の子弟でも、アレを着る為には相応の試験を受けなきゃならんし、その試験を受ける為には、少なくとも年単位の実務経験を要求されるはずだろ?
学校卒業したての若いのが、そんなの着る事が出来る筈ないもの…… はっ! あれ、もしかして、あの人の父親の? マジ? そんな事すれば、財務長官のレイモンド=エルビン=マクダネル侯爵も一緒に処罰されちゃうよ?
あれも、殿下の下賜って事か? マジか? だれも、大人の人、止めなかったのか? わけわかんないよ。
ヘレナベル=ミスト=ルシアンティカ準司祭に至っては…… もう何も言えないよ。だって彼が着用してんのって、まるっきり意匠が枢機卿様と同じものだよ…… 教会関係者が見たら、激怒ものだよ? 教会と貴族の社会は、国王陛下と国法により、完全に分かれているんだ。
もしさ、貴族の誰かに唆されて、あの正装を着用したんなら…… 国の制度の根幹を揺るがす事に成りかねないよ。 今でさえ、教会の影響力が徐々に増大してんだし、それを抑える為の国法なのに…… 貴族の側から、教会の制度にいちゃもんを付けた形になっちゃうよ……
わかってやってんのか…… それとも、何か黒い策謀があるのか…… 教会だって一枚岩って訳じゃないからなぁ……
五人の高位の人達が、貴賓席の反対側に立つと、学長さんがおもむろに、卒業を祝う祝辞を述べ始めたんだ。 あぁ、これ、卒業式の代わりかぁ………… 優秀な成績を修めたって事で、ハリーストン殿下とその仲間達が表彰されとったよ。 ミストナベルにも有ったのが、ホント笑っちゃった。
あいつ、たしか、学院の学籍失ってたろ? どっかの高位貴族に頼み込んだのか? 母親の伝手なのか? にしても、よく学長その表彰状渡せたな…… 例の一件の事、知らんわけでもあるまいに…… にこやかな顔の裏側に、苦い表情を見た様な気がしたんだよ……
^^^^^^
さて、卒業式もおわった。 後は卒業記念パーティーの目玉って言う所の、舞踏会があるんだっけ? 一応、私、殿下の婚約者だから、ファーストダンスの用意しとかないといけないかな? でも、なんか仕掛けるんなら、ココだと思うのよ。
きっとね……
ほら、動いた……
特設の舞台の上に上がって、有難いお言葉をこれから、お吐きになるんだね。 ご清聴しましょうか。 凛として、ほんと見栄えはいいのよね。 何を吹き込まれたか知らないけど、” 国を背負っていきます! ” 風な、雰囲気を醸しているのよ。 それで、ときおり視線を グローリア=メイ=フルブランド伯爵令嬢に向けてさ、とっても優し気にふるまってるの。
反対に、貴賓席に座っている、本来の婚約者である私――― モリガンには冷たい視線をおくってんのよ。
はぁ、やっぱり、私の情報きちんととれてなかったんだ。 私の代わりに私が座るべき椅子に座っているモリガンに対して、疑問すら覚えて無いよ。 周囲にそっと視線を走らせても、だれも気がついてない。 私の護衛の人達は…… 呆れかえってモノも言えない状態だよ。 戦闘準備体勢には移行したけどね。
ハリーストン殿下は、グローリア嬢を庇うように、特設の舞台の上に立つと、朗々と響く良い声で何やら変な事を言い始めたんだ。
「今宵集う卒業生の皆、我等の教育に尽力を尽くしてくれた先生方、そして、我らを慈しみ育てて下さった皆に卒業の祝辞を述べる。 ランドルフ王国に忠誠を捧げ、一層の研鑽を積み、我らが国に栄光をもたらさん事を!! わたし、ハリーストン=フォズ=ランドルフもまた、皆に誓う。 善き国王とならん事を! ―――更に言うべき事が有る」
あぁぁ~~~ 言っちゃったよ。 マジかよ…… この場には国王陛下も、王妃殿下も、王太子殿下もいらっしゃらないんだよ? 承認される方が居ない状態で、国王に成るなんて…… よっぽど「お花畑」としか、言いようが無いよ。 周囲の大人たちがそう云わせてるの? これって、明らかに「大逆」に当たるんじゃないの?
もう、知らん。 私の事なんて、どうでもよくなった。 この場を去らないと、同類に見られてしまう可能性すらある。 今現在、国王陛下は、ローレンティカ帝国のライオネス=レオン=シンガーデリクト様との御会談中の筈だ。 マズいよ、ほんと、マズい。 ん? なんか、風向きが変わったぞ?
「この良き日に、君達に知らせねばならぬ事が有るのだ! 長年、私の婚約者として遇せられて来た、フリージア=エスト=フルブランドは、私との婚約の要件を謀る者であった! その者はフルブラント伯爵家の長女では無く、二女……いやそれ以下のモノであった! 私を騙し、王家を誑かした罪は重い…… 本日只今を以て、フリージアを婚約者から外し、本当の婚約者であった、グローリア=メイ=フルブランド伯爵令嬢と婚約を結び直し、良き日を迎えんとする! ミストナベル、アイツを、あの席から立たせろ! さらに、フルブラント家に於いて、「聖女」グローリアを苛んだ罪、甚だ許し難い、しかし、釈明の機会を与える…… 真摯に謝罪するならば、グローリアの優しさに免じ、罪を軽減し国外追放処分としてやる! お前の行った所業は、これでも生ぬるい。 後悔し、懺悔し、グローリアに謝罪せよ!」
ミストナベルが凶悪で、そして、残忍ともいえる笑みを浮かべながら近づいてくるのよ。 こいつならわかるかなって、思ってたけど、やっぱ脳筋さんは脳筋さんだったの。 なにも疑う事も無く、モリガンの前に立ち、傲然と言い放つの。
「今度観た時には容赦はせぬと云ったな。 そこを立て、偽物!! 殿下とグローリア様の前に進み、謝罪せよ、その後 放り出して呉れよう!!!」
だと。 まぁ、モリガンはある意味完璧な偽物だから、言われたように立ち上がって前に進み出るのよ。 侍女って立場な私だから、一緒に行こうって思ったら、ミストナベルに止められたの。
「お前は下がって居ろ! ……フルブランド法衣伯爵殿! こ奴は御家侍女であろう、下がらせよ!」
ちょっと、小太りのおっさんが、私の注意を引いて後ろに下がったの。 あぁ? なにすんだ、こいつ…… ん? ミストナベルなんつった? フルブランド法衣伯爵殿? と、言う事は、この人が……
エルブンナイト=フォウ=フルブランド法衣伯爵……なの?
ちょっと、表情を伺うの。 まぁ、確かに私に似てるっちゃぁ似てるね。 大人しく、その場から動かない事を確認すると、私の側に立ったんだよ。 監視のつもりか? 静々と歩を進めるモリガンを見ながら、小さな声で…… ホントに小さな声で、十六年ぶりに逢う御父様に御声をお掛けしたんだ……
「伯爵様におかれましては、このような場で御声掛けする事をお許しください。 ご質問が御座います」
「なんだね…… フリージアの侍女」
「はい、フリージア=エスト=フルブランド 様が、長女では無く、二女……以下とは?」
うん、聞いたよ、御父様に。 ハリーストン殿下の言葉の真意を…… 何をやったらこうなるのかを……
―――― 長女が二女って、どういう事なのでしょうか? ――――
ってね。
さて、断罪シーン その1
表題がついに現れました。
断罪シーンは続きますが、すでにたくさんの破綻部分が露出しております。 野望は大きく脇の甘い侯爵閣下の思惑は、何処まで破綻するのでしょう? なぜかとても楽しみです。
馬鹿殿下のいわれなき断罪についにフリージアは切れます。 キレッキレにキレております。 そして、何をしたら、長女が次女に……いえ、それいかになるのでしょうか。 最終決戦と、御父様であるフルブラント伯爵とも溝は何処まで深くなるのでしょうか。
がんばれ、負けるな、我らが姫様!
物語は頂上に達しました!
次回、フリージアの反撃 次回更新は同日に行います (……予定ですよ?