24. 伯爵令嬢の居る場所
「閣下の御前に伺候いたしました。 法衣伯爵エルブンナイト=フォウ=フルブランドが娘にして、辺境伯リンデバーグ=フォン=エスパーニアが孫娘、フリージア=エスト=フルブランドに御座います。 初めて御目に掛かります、ローレンティカ帝国、「一ノ宮」家 御側用人 ライオネス=レオン=シンガーデトリク様。 どうぞ、よしなに」
貴賓応接室の中でね、緊張しながらそうご挨拶したんだよ。 そう、先程、お着きになられた、ローレンティカ帝国の御使者の方にね。
黄金に輝く瞳が私の姿を映し出し、なにかとても懐かしいモノをご覧になられたように目を細められた。 ばっちりとカテーシーしている私なんだけど、威圧感と緊張でガッチガチになってるんだ。 へんな粗相しないかな。 大丈夫かな。 ロッテンマイヤー様の薫陶があったって、やっぱ緊張するもんは緊張するよ。
「私と対峙してなお、淑女の礼を崩さぬか。 ロッテンマイヤー、流石エレノア様の御血筋だけはあるな。 貴女の薫陶も遺憾なく発揮されている。 そしてその度胸は、リンデバーグ=フォン=エスパーニア辺境伯譲りか…… レイヴン、お前良き主に巡り合えたな」
後ろに控えていたレイヴンへまで、お言葉をかけて頂いたんだ。 様子は伺えないけど、レイヴンもビビってんじゃないかな? そんな気がするよ……
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ご挨拶に先立ってね、玄関から貴賓応接室に行く途中で、御爺様が漏らされた言葉―――
”まさか、あの方が来られるとは…… ”
将軍閣下、御爺様は、御存知の御方だったの。 御婆様が御爺様の所にお嫁に来られた時、散々折衝を重ねた相手だって、そっと耳打ちされたんだ。
ん?
おかしいぞ?
だって、シンガーデトリク様って、見た目そんなに御年とは思えないよ。 豪華で豪奢な金髪は、ふっさふさだしさ、お肌だって、ちょっと怖い表情だって…… 将軍様の息子さんである青鬼ベルガ様と、変わんないよ? 物凄い若作りなのか、それとも…… 年を取ってないって事?
貴賓応接室の中でね、上座にシンガーデトリク様を、下座に御爺様、将軍様、そして私が立ってね、ご挨拶が始まったんだ。 あちらのお付きの人が、シンガーデトリク様の来意と、御爺様が訪問を許した事への謝辞を述べられてから、おもむろにシンガーデトリク様が言葉を紡がれたんだ。
「ローレンティカ帝国、「一ノ宮」家 御側用人 ライオネス=レオン=シンガーデトリクである。 此度は、我が君の御意思で、今は亡きエレノア=ウリス=エスパーニア辺境伯夫人の御令孫への面談を実施する至り罷り越した。 よろしく頼む、 …………ダイストロ=マリアーク=ヒルデガンド侯爵、 リンデバーグ=フォン=エスパーニア辺境伯 久しいな。 ロッテンマイヤーも、帰還せずにいたか」
緊張の面持ちで、将軍閣下がお返事されてたよ。
「シンガーデトリク卿が、御使者に立たれるとは、思いもよりませんでした。 ローレンティカ帝国からの御書状で、もしやとは思っておりましたが、「一ノ宮」家の御側用人である貴方が来られるとは……」
「見てみたかったのだよ、エレノア様が愛されたオーベルシュタット辺境領という場所をな。 わたしも無理を言って出て来たのだ。 あの日、ローレンティカ帝国、帝都から出立されたエレノア様の御姿をここでは、あちこちに感じるな。 まこと羨ましい限りだ、エスパーニア辺境伯」
御爺様が胸に手を当て、大きく礼をしたまま、言葉を紡ぐの……
「大切にしておりました故、エレノアの愛したモノはなに一つ変えてはおりません」
「ふむ、やはり、貴殿にお任せしたのは、間違いでは無かったな。 帝都におわす、陛下に成り代わり礼を言おう」
「御約束致しました故。 しかし、有難く」
「それで、そちらの御令嬢か? 貴殿の御令孫の令嬢は」
シンガーデトリク様が、吸い込まれる様な瞳で私を見詰めて来たんだ―――
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御爺様、普段と全然違うよ。 畏まって、礼法の先生のような完璧さでもって対応されているよ。 「一ノ宮」の御側用人ともなれば、他の国々では宰相職の方達とか、もしかしたら国主様と同様の力を持ってるはずだもんね。 そりゃ、畏れ敬うのも当たり前だよね。 私達がもしローレンティカ帝国、帝都にてシンガーデトリク様にお逢いしたいと、お願いしたって、まず間違いなく却下されるね。
面識があるって言っても、御爺様と将軍様は、先の国王陛下の随身としてローレンティカ帝国に行っただけだもんね。 本来なら、シンガーデトリク様はこうやってお会いできるような御方では無いんだよね。 ほんと、私がココに居るのが不思議なくらいよ。
そんな方の目的が、「私と逢う事」なんだよね。
もう緊張の極致よ! でも、こんな事に、負けるかっ! さて、私の挨拶の番か! よし、気合入れて! 息吸って! さぁ、ご挨拶だ!!!
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大きく間を取った設えの貴賓応接室。 領城の中でも一番大きなお部屋。 なんでも国王陛下の御行幸の際に使われるお部屋って事なのよね。 だから普段はきっちりと封ぜられて、私も入ったのが今回が初めてなんだよ、この部屋に入るのは。
ででん! って感じで、上座にシンガーデトリク様がお座りになっている。 当然、下座に座る事に成ったんだけど、なんでか私が一番前に座る配置に成ってんだよ。 なんでだよ! 普通なら一番下座だろ!!
にこやかな威圧感が半端ねぇな、この御仁。 正対して座ってるだけで、のけ反りそうに成るよ。 そんな私を目を細めて見てるんだ。 口元に笑み迄湛えてね。
「エレノア様に瓜二つだな。 ロッテンマイヤーも長きに渡る滞在期間も判らんでは無い。 どうだ、楽しかったか? 幼き頃のエレノア様と暮らしていた様な気分であったのであろう?」
「御推察、誠に……」
「お前がなかなか帰還しない事に、皇帝陛下も焦れて居るぞ。 口添えはして置こう、ロッテンマイヤーはエレノア様と共に在りたかったとな。 では、フリージアよ。 我に手を。 奇跡の技を使ってみてくれ」
なんだ? 奇跡の技? どういう事だ? 視線をロッテンマイヤー様にむける。 私をジッと見つめ返してくるの。 レイヴンが近くに来てね、耳打ちするんだ。
” 魔力の同調をしてくれ。 それだけで、あの方なら判る筈だ ”
こくんと頷いてから、席から立ち上がり、シンガーデトリク様がお座りになっている椅子の前に跪く。 差し出されている両手に手を添えるの。 手に触れたとたん、目の前に靄が出て来る。 何時もの通りね。 さて、この御仁の魔力の色をみましょうかっ、ってね!
手に載る魔力の解析に時間が掛かるんだ。 未だかってこんな事無かったよ。 でも、徐々にその訳は判った。 この人、魔力の質が違うんだ。 …………人の持つ魔力じゃない。 レイヴンと最初に触れあった時も感じた奴だ。 あの時は、全く分からなかったけど、沢山の人の魔力の同調をして判ったんだ。
馬さんとかも、癒さなきゃならない時もあるじゃない。 だから、人以外の魔力を持つモノについても、何となくだけど理解しているんだよ。 同調しないと【身体強化】かけられないし、癒す事も出来ないもん。
そんな中で、明確に人と違う質の魔力がある事に気が付いたんだよ。 まぁ、気が付いたってだけで、何をするってのは無いんだけどね。 でも……シンガーデトリク様の魔力って、どっかで感じた事が有る様な気がしてたんだよね。
どこかな~ どこかなぁ~~
ふと、記憶にある香りが、脳裏に浮かぶの…… 眼を閉じると、瞼の裏に記憶の景色が映り込む。 大聖堂、光の精霊様の御降臨…… そして顕現された時に感じた香りだ!
もしかしたらと思って、精霊様と同調する時のように、変調したとたん!!!
目の前に極彩色の魔力の流れが見えて来たんだ。 赤、青、緑、黄、紫………… 色んな色をした魔力が、シンガーデトリク様の身体を覆うように、渦巻いているんだよ。 なにこれ、なんて魔力量なの! その上、この魔力って、人のモノとは違うから 普通の人の魔術師には感知できない類いの力……
威圧感の元に成ってたのはコレかぁ…… 理解したよ。
私が魔力同調しようと、四苦八苦してる様子を、面白そうな眼を向けていたシンガーデトリク様は、私が彼の魔力が人のモノでないと判断した辺りで、真剣な目になったの、そして、精霊様と同じ感じの魔力と思い、同調に成功した時…… 眼を大きく開き、黄金の瞳に真摯な光が宿ったんだ。
「これは…… まさしく「奇跡の技」であるな…… レイヴン! 最初から知って居ったな!!」
「ライオネス殿、俺が、我が主と契約を結ぶ事を決意したのは、この力を予備知識無しで振るわれたからに相違ありません。 歴代の「癒しの手」の記録にも…… こんな方は居られなかった。 契約を結ぶ事が出来る方は、数少ない。 ロッテンマイヤーに呼び出された時も、半信半疑だった。 この力、みすみす消耗させるべきでは無いと、私から契約を願った。 対価を差し出すので、契約してほしいと」
「対価は、《隷紋印》で、縛るのだろ? 普通は」
「フリージアは…… 対価に…… 朋になって欲しいと願った」
「なに!!! なんと!! お前はそれを、受け入れたのか!」
「俺が此処に居て、フリージアの「目と耳」として今も一族郎党共々御役目を果たしているのが答えだ」
「…………「霊獣」たる我等と友誼を結ぶか………… それも、一族丸ごととな………… 「九ノ宮」の血筋だけでは、説明がつかぬ…… エスパーニア辺境伯の血か………… この地に根差す精霊様の御力か……」
深い思考の沼に飲み込まれてたよ、シンガーデトリク様は。 ブツブツと口の中で何かを仰っておいでだよ。 意味わからんけどな! そろそろ手を離してもいいかな? 同調するのにも、結構魔力を消費するんだ。 まして、人以外の魔力に同調するのは、結構しんどい……
「あの…… 宜しいでしょうか?」
「ん? あぁ、そうであった。 解かれよ。 十分に見せて貰った」
「はい、有難うございます」
ゆっくりと同調を解くの。 いきなり離したら、シンガーデトリク様にもご負担がでるしね。 自分の魔力に戻してから、手を離すのよ。 その様子にまた驚かれていたんだ。 なんでだ?
「レイヴン、この方は何時もこうなのか?」
「主は――― 我等の事を 「 人 」 と認識しておいでだ。 そして、朋と言われる。 友が苦しむ様は見たくないと、我らを気遣って下さる。 俺もそうだが、モリガン、ジャックドー、ナッツクラッカー、ヴァハ、バズヴ………… 皆、この方に忠誠を捧げている。 皆がな…… 自らな……」
「ぬぅぅぅ………… ん、ちょっと待て、レイヴン、私と同調出来たという事は、私とも契約を?」
「あぁ、その通りだよ、ライオネス殿。 確かでは無いが…… 十二霊獣全てと同調出来る可能性がある。 貴殿と同調出来た事がその証左だ。 貴殿ほど複雑な霊力を持つ者は他には居らぬからな。 だから、嫌だったんだ…… 貴殿と逢わせることが……攫って行かれてしまうかもしれんからな」
なんか、トンデモナイ事が起こっている感じがするんだよ。 とんでもない事がね。 黄金色の瞳が輝くんだよ、この御仁のね。 一応さ、元の席に戻って、座らしてもらったんだよ。 大分魔力を使って、ちょっと疲れたし。 でね、貴賓応接室の中の空気が、ちょっぴり変わったのよ。
何て言うかな…… さっきまであった、威圧感が無くなった? みたいな…… 穏やかな空気が流れるんだ。 モリガンがみんなにお茶を出して来た。 やっと、御茶出しできる雰囲気に成ったって事かな? 顎に手を当て、遠くを見るようにしている、シンガーデトリク様。 あれ、きっと、猛烈に頭の中で何かを考えてるんだよ、きっとね。
御茶を頂いて一息入れられたんだ。 随分と楽になったよ。 周りを見る余裕も出来た。 御爺様も、将軍様も、よくやったって感じで見てる。 ロッテンマイヤー様はなんか目に涙迄浮かべてるし、モリガンはとってもいい笑顔。
上手く行ったみたいだね。
よかったよ。 うん、負けなかったよ……
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「フリージア様の御力、確かに見届けました。 今は無きエレノア様の御力を真に受け継がれた事、お慶び申し上げる。 「九ノ宮」の力…… いいえ、それ以上のモノを見せて頂きました。 皇帝陛下よりの御依頼により、貴女の力が本物であれば、授ける様にと申し伝えられたモノが御座います」
「はい…… わたくしにで、御座いますか?」
「貴女にです。 手に持てるモノでは御座いません。 また、貴女のご負担になるモノでも御座いません。 しかし、お渡しする事で貴女のお立場が変わります」
「と言いますと?」
「エスパーニア辺境伯、フリージア=エスト=フルブランド様は、今現在の王国に置いてのお立場は…… フルブラント法衣伯爵の長女にして、王国第四王子、ハリーストン殿下の御婚約者で、間違いは無いですね」
「はい、その通りに御座います」
「ランドルフ王家に嫁すと言う事で間違いないのか?」
「……王家、という訳では御座いませんが……」
「うむ…… この婚姻は、間違いなく行われるのか?」
私の隣に座ってて、顔を見合わせる御爺様と将軍様。 何処までこの御仁が知っているのかと、ちょっと不安げな表情になるんだよね。 私だって、このままハリーストン殿下との結婚するとは言い切れない状況なんだよね。 なんか、王都の情勢がきな臭いし、高位貴族の一部によからぬ動きだって始まっているし……
だからこそ、将軍閣下がこの領に、御爺様に逢いに来たんだし……
何て言うか流動的……な、感じなんだよね。
「フリージア様に置かれては、個の特別な「モノ」を、皇帝陛下より直々にお渡しする。 名代として、「一ノ宮」側用人、ライオネス=レオン=シンガーデトリクが、全権を持ち履行する。 ―――「九ノ宮」エレノア姫様の停止されている、帝国籍、および、それに付随する権利、権能を本日只今の時点を以て、フリージア=エスト=フルブランド様に移譲する。 さらに、帝国名をお渡しする。 名をフリージア=エスト=エスパーニア=ローレンティカ。 万が一、ランドルフ王国の貴族籍が抜かれた場合、フリージア様は帝国籍に完全復帰し全権能を使用できると宣言しよう。 受け取って貰いたい」
えっ? 私が、帝国臣民になるの? 御婆様の権能? なにそれ? ちょっと意味わからんよ。 田舎の法衣伯爵の娘が、外国の人には絶対に与えないって言う帝国臣民籍を貰うの? 各国の王族だって貰えないのよ? それがなんで、一介の小娘に?
” 厄介ごとが団体で着いたみたいだな、主よ。 しかし、今の状況からすると、これ程力強い事は無い。 権利には義務が付随するが…… まぁ、俺達が何とかする。 して見せる。 受け取って。 主の立場を明確にすべきだ ”
レイヴンが言葉を選びながらも、そう言ってくれた。 御婆様が壊れそうになった程のモノを私が受け取るの? マジで? レイヴンがそう云うなら…… いいか。 でも、お母様は? お母様も血筋から言ったら、そうなんでしょ? お母様はこの力に目覚めなかったの?
私の中でなんか引っ掛かったんだよ。 どう考えてもおかしいよね。 だから、聞いてみる事にしたんだ。 いままで、誰も言わなかった、教えてくれなかった事だもんね!
「シンガーデトリク様。 有難く「贈り物」は、頂戴致します。 が、一つお尋ねしたい事が御座います」
「何なりと、フリージア姫。 わたくしに答える事が出来る事ならば」
「遠くまで、届く「目と耳」をお持ちでしょうし、問題はないかと思います。 お尋ねしたき儀は、お母様、アメリリア=フラール=エスパーニア…… いえ、フルブランド法衣伯爵夫人についてに御座います。 お母様は御婆様の娘。 わたくしよりも強く「この力」をお持ちであった筈。 何故、お母様にはローレンティカ帝国の籍をお与えに成りませんでしたの?」
将軍閣下の視線が下を向く。 ロッテンマイヤー様の嗚咽が耳に届く。 御爺様の重く沈痛な声が聞こえる。
「フリージア…… その質問には儂から応えよう。 アメリリアにも、お前と同様の力はあった…… あったのだが、師が居らなんだ。 娘が生まれ、五歳まではこの領にて暮らしていたが、現国王との婚約が成立した事で、王城にて王妃教育の名分で取り込まれた。 ロッテンマイヤー殿に繋ぎを付け、導いて貰おうとしたのだが、それも叶わず…… 結局、力の使い方も魔力の在り方も教育されず…… 年々にその身体を蝕む事になった。 後で聞くに、王宮魔導師たちが、「薬」で抑えておったそうだ」
なんだそれ? 私にはロッテンマイヤー様とかレイヴンとかいたけど、お母様には誰も居なかったって事? 王国の教育官は何をしてたの?
「知識や立ち居振る舞いは、十分に教育されたそうだが、あくまでもランドルフ王国の王妃と言う枠内だそうだ。 物静かで穏やかな性格のアメリリアには、魔力…… お前の中にある力の発現に耐えられなかったのだ。 帝国の方々も承知していたのであろうな…… やっとの事で王国の頸木を離れたのは、お前が三歳になった時の事」
そうか…… それまでは…… ランドルフ王国の重監視下に置かれてたって事か…… 強いお薬をたっぷり使われてたから、あんなにボンヤリしてたんだ…… 心……壊しちゃってたって事か……
「何とか治療をと手は尽くしたのだが…… エレノアの残した「力」を以てしても…… 帝国から医師を招聘しても…… ここに居るロッテンマイヤー殿に相談もしたが………… 手は、尽くしたのだ、手は」
そうだよね…… お母様の寝所には結界石で重結界が施されてたもんね。 皆、頑張ったんだよね。 お母様が元に戻れるようにって…… でも、壊れた御心は、修復できないもんね。 その頃、私は能天気に遊び回ってたって言うのに……
「理解しました。 真実を語って頂いて…… 有難うございます…… わたくしが第四王子の婚約者として決められた時、御爺様がわたくしをこのオーベルシュタット辺境領に留め、ロッテンマイヤー女史を招聘してくださったのも、そう云う理由があったのですね」
「同じ轍は踏みたくなかったのだ。 愛おしい我が子が壊れている様を見続けていた。 何が理由で壊れたのかもな」
「御爺様…………」
自然と涙が零れ落ちたの。 お母様…… お母様…… お母様……
「儂はな、フリージア。 お前の心が健やかに育つ事が何よりも大事だと思って居ったのだ。 お転婆でも、強情でも、淑女とは呼べぬ行いをする戦乙女でも……な。 ロッテンマイヤー=フォン=アフト=エデュケット、貴女の尽力と深き愛情に、このリンデバーグ=フォン=エスパーニア感謝申し上げる。 皇帝陛下に誓った約束を違えぬようにとした結果、アメリリアは心を壊した。 その轍は踏まぬ。 踏んでなるものか! この先何が有ろうとも、フリージアは儂の孫だ、どんな名を名乗ろうとも、何が起ころうとも!」
ポロリと御爺様の瞳から涙が零れ落ちるんだ。
御爺様も御辛かったんだね。
命を懸けて護ると誓ったのに……
良かれと思って送り出したのに……
お母様は……
故に私を……
判ったよ
この贈り物は確かに受け取ったよ。
秘したる私の名前は
フリージア=エスト=エスパーニア=ローレンティカ
想いは受け取ったよ。 もう、迷う事は無いね。
この先、なにが有ろうと。
私は、私だ。
条件は整いました。
フリージアは、帝国籍を得ました。 その権利、権能に付随する義務もまた。 しかし、彼女に付き従うレイヴン以下眷属全ての忠誠を得て、彼等の全力を以て護られるているという事も確定しました。
彼女が彼女らしく生きて行く事を、誰もが望み、その実現に奔走する。
”何が有っても……”と言う辺境伯の言葉。 もう、フリージアは迷いません。 何が起ころうとも彼女は彼女らしく生きて行く事に成るでしょう。
頑張れ、負けるな、我らが姫様。
物語は最終局面に突入します。
次回、王都にて (断罪→ざまぁの王道です!!!




