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23. 伯爵令嬢の元に集う人たち

 




「主よ、マズいモノに目を付けられた」


「えっ? マズいモノ?」


「あぁ、「一の宮」の所の奴だ。 「五の宮」の所の奴が感づいて、俺が止める間もなく、報告しやがった」


「…………どのくらい、マズいの?」


「そうだな―――  この辺境領がひっくり返るくらいだな。 まぁ、対処として、将軍の爺さんを呼んだ」


「はっ? えっ? どういう事?」


「帝国に、この辺境領を毟り取られたくないだろ? 一応の策だ。 「一の宮」の所の奴も、あの爺さんには一目を置いているしな」


「お、御爺様は?」


「戦馬鹿に、脅威は感じねぇよ、あの方は。 まぁ、真正面からどうこうしようとは、思わないでくれるかもな」




 うへぇぇぇ…… なんか、とっても厄介な人を呼び込んじゃった感じがする。 十七歳の誕生日を迎えたとたんに、大人の試練が始まっちゃったよ。 上手く立ち回らないと、辺境領が…… ボンッ! って感じで消えかねないよね、コレ。 はぁ、あと三ヶ月もすれば、王都に行かなくちゃならないのに!!!



 ロッテンマイヤー様から告げられた、ローレンティカ帝国の御使者を受けるかどうかのお話……



 レイヴンに相談しようとすると、すでにレイヴンの方でも把握してた。 なんか、とっても偉い人が来るみたいなんだよ…… そりゃ、ロッテンマイヤー様の御指導で、たとえ、ローレンティカ帝国の皇帝陛下の御前に出たとしても対処できるよ。 でもさぁ…… やってやれない事は無いって程だけなんだけどなぁ…… ロッテンマイヤー様の顔もあるし、私もそうは動かせるような立場に無い―――



 だから、お話を受けた。 でもさ…………  受けたとたんに、なんか、物凄く緊張して来たよ。



 そのうえ、レイヴン…… ダイストロ=マリアーク=ヒルデガンド侯爵閣下をオーベルシュタット辺境領に呼んじゃったみたいなのね。 あの戦争の時の立役者だから、あちらとも十分な繋がりが有るらしいのよ。 まぁ、重鎮だしね。 今じゃ将軍閣下だもの、そりゃそうよね。 辺境で防衛の任に当たっている、御爺様と違って、王都で権謀術策に揉まれてるもんね。


 ローレンティカ帝国だって、抜かりはないわよね。 王都とか、王城にもきっと沢山の 「目と耳」を放ってる筈だもの…… 大聖堂での事は、ホントに迂闊だったわ。 でも、まさか、精霊様の顕現の切っ掛けが、あんなに簡単なモノだなんて、思わなかったもの。



 きっと、アレね。



 アレが、あちらの「目と耳」に引っかかったんだ。 そうとしか考えられないものね。 顕現を引き出せる血筋の者が、この辺境領と王都で二回も顕現に出くわしている。 網を張り続けて居る帝国にとっては、あまりにも判りやすい事だったんでしょ。


 ふう…… 知られちゃったら仕方ないもの。 隠し続ける事の難しさを嫌と言う程、味わったわ。 でも、これが交渉のカードに成るかどうかは、私の行動次第ね。 頑張るわ。 ええ、切り抜けて見せる。 この辺境領に争いごとをもたらしたくないもの。


 色々と、調整してたんだ。 先に辺境領に着くのは将軍閣下の方ね。 それから、二日ほどして、あちらの御使者がみえられるって事に成ったんだよ。





 ******************************





「色々と、すまんな。 そして、今回はローレンティカ帝国からの御使者がフリージアを名指しでお見えになるとか…… いよいよ、あちらも痺れをきらしたか……」




 将軍様がお供を引き連れ、御視察という名目でオーベルシュタット辺境領、領都クナベル、領主の城に入られたんだ。 精一杯の歓待をすべく、色々と準備したんだけど、そんな事必要なかったみたい。 来られるなり、御爺様の執務室に籠られ、今後の対応のお話に成ったんだよ。




「一番の問題はな、リンデバーグ…… おぬしが継嗣(あとつぎ)を指定していない事に有るのだ」


「この領の辺境伯は、なまじの者では務まらん。 王都に居ながらにして、この領を治めようとは、片腹痛いわ」


「だろうな。 魔物も多い、天候も不安定、余りに田舎過ぎて治安とか法とかも行き渡らない。 なにか事が有れば、即応の為に領主自ら行かねばならぬし、その場で緊急命令を下さねばならん自体も…… 少なくは無い。 王都で安穏と暮らす、貴族共では一年と持たぬ。 そのくせ、口だけは出す。 代官を置くとしても、よほど優秀な者でないと務まらぬ…… そう、このオーベルシュタット辺境領を良く知ろうとし、愛していける者が必要だな」


「判っているではないか。 それが、理由だ。 この地を任せられるに足る人物となると……」


「あぁ、候補は絞られる。 だから、連れて来た」




 ダイストロ=マリアーク=ヒルデガンド侯爵閣下の斜め後ろに、二人の男の人が立っていたんだ。 一人は、王国軍 近衛騎士隊の制服を着込んでいる。 マントの裾に大きく 『 Ⅱ 』 の刺繍が入っているのと、背中の近衛騎士隊のエンブレムに「ラリクトの葉」の文様が入っている処から、第二騎士隊の隊長様って事が判るんだ。


 つまりは、王城周りの警護の親玉。 精鋭揃いで、近衛第一騎士隊よりも荒事向きな人達なんだよ。 いうなれば、王国の懐刀。 最終防衛線な人達。 まぁ、その隊長様って当然、古強者な訳だよ。 さらに、王都の貴族様の横暴にも、良く慣れていらっしゃるってことね。


 もう一人は、私と同じ位の歳…… いや、もう少し上かな? ゴツイ強化革鎧で身を包み込んだ、眼光が只者でない冒険者風の男の人。 見るからに、強そう。 そんで、うっすらと魔力を纏ってたりするんだ。 「身体強化」の魔法かな…… チラッとだけど、首から下がる冒険者ギルドの身分証の色が白銀って事は…… 上級冒険者って事だよね。 うわぁ、初めて見るよ。 


 たしか、王国には両手で数えるほどしか登録されてないって聞くよ? そんな、強~~~い冒険者様が、なんで、将軍閣下と一緒にいるんだろうって、素直に疑問に思ったんだ。





「おお、青鬼ベルガ! 久しいな!」


「リンデバーグ=フォン=エスパーニア辺境伯、お久しぶりです。 此方が、噂の秘蔵のお姫様ですね。 初めまして、王国軍、第二近衛騎士隊、ベルガ=ファンド=ヒルデガンドに御座います。 そして、此奴は我が愚息にして、貴族の生活を嫌い飛び出したウリクル=ヒルデガンド。 お見知りおきを」


「ご丁寧な、ご挨拶 誠に有難うございます。 法衣伯爵エルブンナイト=フォウ=フルブランドが娘、そして、リンデバーグ=フォン=エスパーニア辺境伯が孫娘、 フリージア=エスト=フルブランド に御座います。 どうぞ、よしなに」




 ほうほう、この方が青鬼と異名を持つベルガ様だったんだ。 たしか、将軍閣下の御三男で、伯爵位を持たれている筈なんだけど……




「……騎士隊、特に近衛第二騎士隊では、爵位は言上致しませんよ。 全ては実力でのもの。 騎士爵の上官に伯爵の下級騎士など、ざらに御座いますれば、いらぬ混乱を招かぬようにですよ」




 爽やかに笑われた。 顔に出てた? 表情を読まれたの? 侮れませんなぁ~~ 流石に王宮近くにいる騎士さん達は違うよ。 詰まんなそうにしていた、私と同年代くらいの男の人は、私が名乗ると、私に興味を覚えたみたい。




「貴女がフリージア殿か!! そうか、そうか!! 傭兵、冒険者の中では、今でもあなたの突貫は語り草になっておりますよ。 こんな可憐な淑女が、アレを成した方か!! いやはや、世界は広い!! そんな貴女を育んだ、この辺境の地に俄然興味が湧きました!」




 でけぇ声。 はいはい、どうせ碌な噂じゃ無いんでしょ!!! 男勝りとか、猛々しいとか、血に飢えているとか………… ふん、あの時は、ああでもしないと、ホントにヤバかったんだから!!




「フリージア嬢、此奴の云う事は貴女の危惧するような事では御座いませんよ。 何者かが我等 王国軍の初動を遅らせ、侵攻の情報を掴んだ時には、すでに国境線を大きく割り込まれた後でした。 あの時、辺境領の方々が命を賭して戦って居なければ、オーベルシュタット辺境領は失われ、王国東部は不安定になっていた所でした。 諸問題を一気に押し流したのは、常軌を逸する貴女の騎馬突貫でした。 わたくしの部下も…… いえ、わたくしにしても、同様な突貫を命ぜられても出来たかどうか……」


「嫌ですわ、あの時は必死でしたの。 後が御座いませんもの。 私達の後ろには大勢の領の民が居たのです。 貴族が貴族たるを示さねばならなかったのです。 お分かりで御座いましょ?」


「はてさて、辺境の地はかくも覚悟を強いられる場所ですか。 父上、わたくしに務まるのでしょうか? いや、愚息も含め父上の期待に沿えるのでしょうか?」




 一体何を言っているの? 良く判らないけど、将軍閣下も御爺様もニヨニヨ、ニカニカ、笑ってるよ。 とってもご機嫌だね。 なんでだ? はっ!! もしや!!!




「青鬼ベルガと異名を取る者とも思えん言葉だな。 十七歳の成人に成ったばかりの淑女に、こうまで言われて、まだ覚悟が決まらぬのか? 貴族の本分たるは、 ” 民を安んじ、国を安んじ、もって御国の盾と成らん ” ではなかったか? 近衛に配属される時、何と宣誓したか、よもや忘れた訳ではあるまい?」


「父上…… 御人が悪い」




 って、事は…… この青鬼ベルガ様が、御爺様の継嗣になられるの? このオーベルシュタット辺境領をお治めに成るって事? 御爺様も御承知なの? エスパーニアの血は途絶えてしまうのよ? いいの御爺様。




「ダイストロ…… 俺に任せて置けと言ってはいたが、途轍もない大物をよこしたな。 あぁ、そうだな、青鬼ベルガであれば、この地を任せられる。 お前の長子が来た時にはどうして呉れようと思ったがな……」


「言うな! 本当に済まんと思っている。 アレは、廃嫡した。 二度と陽の目を見れぬように致した。 外部との接触も出来ぬようになっ!! あの、ウツケに関しては本当に申し訳なく思っている。 俺も、次男も、此奴も、責任をもって事に当たる。 許してくれ」


「…………おぬしの孫息子は如何する気なのだ?」




 ジロリと見詰める御爺様。 ほら、御爺様も御爺様で「目と耳」を持ってらっしゃるじゃない。 一旦は蟄居と決まった、ミストナベル=エイランド=ヒルデガンド元子爵殿が、いつの間にかハリーストン殿下の御側に返り咲いている事に、かなりの苛立ちを覚えてらっしゃるのよ。




「アレについては、すでに我が家の貴族籍を抜いた。 アレの母、つまりは長男の嫁が、レーベンハイム侯爵の係累に当たるのだ。 その筋が強力に押してな。 今では、ヒルデガンドの名は名乗ってはいるが、我が家とは全く関係が無い ―――他家の者達の力添えが有ったのでな」


「すべては、あの皇子の横車か………… 見えぬ奴だな」


「…………まったくな」




 御二人で、とっても、深い溜息を吐かれたんだ。 私の婚約者様って……ほんとにねぇ…… かなり、いい感じに、取り巻きに抱き込まれて居るって事ね。 もう、久しく殿下は、将軍閣下の執務室への訪問もしていないらしいの。 代わりにミストナベルが、やって来るんだって。 どうも、御爺さんと孫の仲違いを取り持つ意図でやらかしてるらしいけどね……



 逆効果だよ。



 将軍閣下の裁定を無視した行動は、将軍閣下の「勘気」を買うことはあれ、「許し」を乞う事など出来はしないんだよ。 怒っている人、煽ってどうするの? 馬鹿としか言えないよ…… 穿った見方をすると、ヒルデガンド侯爵家の家族の絆を揺るがそうと、ワザとしてるようにも見えるよね。 あぁ、黒幕は…… レーベンハイム侯爵あたりか…… 


 恩を売りつけるつもりか、ヒルデガンド侯爵家を揺さぶるつもりか…… まぁ、将軍閣下、ベルガ様、そして、ウリクル様を見ていれば、ヒルデガンド侯爵家はこゆるぎもしてない感じだね。 もう、バルバルド=イミーズ=ヒルデガンド元伯爵閣下は、歴史の一頁に成ったって認識してるよ、この人達…… あとは、死ぬまで飼い殺し的な……



 せめてもの、親子の情って事かしらね。



 御爺様の…… オーベルシュタット辺境領の、最大の懸案事項はコレで解決したって事だよね。 あとは、正式書面で認可が下るのを待つだけ。 この話が、ヒルデガンド侯爵閣下の口から出たって事は、多分宰相様もご存知って事よね…… そんじゃ、確定じゃない。  よかったよ、まともな後継者が来てくれて。 これで、安心してお嫁にいけるよ……



 何処に行くにしてもね。






 ******************************





 そして―――  二日後


 領都クナベルに一際豪華な一台の馬車がやって来た。


 漆黒の車体、金のモールが輝く大型の馬車(ワゴン)。 六頭のバイコーンに曳かれたそれは、重厚で

 豪華で、華麗。 人目を引くのはなにも、その馬車だけじゃ無いの。 周囲を固めるのは、ローレンティカ帝国、近衛騎士団の騎馬隊。 真っ白な重装鎧に金色の文様。 はためくマントには深紅の十字架。 はぁ…… カッコいいなぁ……


 玄関で御出迎えしてるんだけど、余りの重厚さに仰け反りそう…… 隣には、もうすでに、契約期間は過ぎていたロッテンマイヤー様が、ついて居てくれている。 どうにも不安だと、ご帰国を引き延ばしてくれていたんだ。


 軽やかに馬車が車寄せに入って来る。


 軋みの音も無く滑らかに止まる。


 お付きの御者さんが、流れる様に足台を置く。


 ミネーネ様が、扉をゆっくりと開く。 落ち着いた、赤い色の内装がちらりと覗くの。




 一人の偉丈夫が、ゆっくりと馬車を降りて来た。




 黄金を固めた様な総髪。


 怜悧な瞳。


 引き締まった体躯。



 なにより、その場を圧する威圧感。





 帝国の御使者の御到着なんだよ……








 くそっ! なんだ、コレ。 




 ま、負けねぇぞ!!!




 負けるもんか!!!








トンデモナイ大物が登場。


その威圧感に、いつものフリージアらしくなく、慌てております。 心を振り絞り、何とか立て直そうと努力中。 いやぁ、大人の世界って、怖いですね。


頑張れ、負けるな、我らが姫様!


物語は佳境に入ります。



次回、伯爵令嬢の立場  (の予定です。 ええ、予定ですとも!

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[一言] 誤記と思われます。   あの皇子の横車か →あの王子の横車か
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