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21. 伯爵令嬢は故郷に帰る

 



 ゴトゴトと、馬車は揺れる。




 隣にいるモリガンの機嫌はすこぶる付きで悪い。




 まぁ、私のせいなんだけどね。





「御茶会」で、色々と見えて来たんだよ。 あの後でさ、ちょっとあちら側の状況を説明してもらったんだ。 どんなことが起こっているのか、過去、何が有ったのかとかね。


 まぁ、あんまり気分のいい話じゃ無かったよ。 とくにさ、王国を裏側から牛耳ろうとしている、黒幕さんである、モリアーティ=ドルド=レーベンハイム侯爵の事なんてさ。 ほんと、ムカつくのよ。 一緒に聞いていた、モリガンもそのせいで機嫌が悪いと思っていたのよ。



 違ったよ~~~



 あの森の端での事は、モリガン達には一言も言ってなかったからね。 緊急事態と、周辺監視強化、情報収集を頼んだから、その事にかかり切りになってて、レイヴンも、モリガンも、あの時、あの場所での私の動向を見失ってたんだって。 双方がきっと見ていてくれるって、そう信じ込んでいたんだって。 だから、あのとき私は、本当に一人きりになってたんだ。



 そこで、やらかしたのが、「秘匿するべき力」の行使。



 お陰で覚醒したけどねぇ………… レイヴン達は、私の力がまだ完全開放状態じゃないって、判っていたんですって。 でも、御婆様の事があるから、私自身を消耗させないように、黙ってたんですって。 それが目を離した隙に、完全開放はするわ、魔力の大半を失うような魔法を使うわ……




「お嬢さま、死ぬ気ですか? 私達に何故黙っていたのですか? そんなに信用が置けませんか? 友では、無かったのですか?」




 そう問われて…… 困ったよ。 本当に困ったんだよ。 友達って、自分で言っておきながらね…… モリガン、レイヴン、そして、いろんな仲間達の事は、信用してるし、信頼もしてる。 嘘とかそんなもの、言った事も無い。 いつも、私を曝け出しているつもり……だったんだよね。 でも、「この事は」言わない方がいいなって感じて……ねぇ。  心配かけちゃうでしょ? 私だって、あのとき、ヤバいなぁって思ったんだもの。




「お嬢様が私達に隠した事は、とても、とても、重要な事だったのです…… お嬢様のお気持ちはわかるつもりです。 私達に要らぬ心配をかけたくなかった…… で、御座いましょ? 朋に隠し事は、よくないです」


「ごめんなさい…… 言わねばなりませんでしたね。 本当にごめんなさい…… わたしは、自分の事を良く判っていなくて…… 皆に迷惑をかけましたね…… 」


「違います~~~!  迷惑だなんて思っていません!!! ただ、ただ、心配してるんですぅ~~ お嬢様が消耗しつくされて…… ボロボロになるなんて、見過ごせません! それも、あのうすのろ(ハリーストン殿下)の為に命を危うくするってのが、気に入らないんです!! 貴女は、大切な人。 私達を、朋と呼んでくれた、とても、とても、大切な人なんですから!!!」




 プンスカ怒るモリガンなんだけど、何に怒っているか判ったから、よかったかな。 そっかぁ、心配してくれてるんだね。 ごめんよ、ホントにゴメン。





 ^^^^^^





 辺境領迄の道は、とても長閑なんだよ。 一日の行程で行ける所まで進んで、街でお泊り。 王都から離れるにつれ、街の規模は小さくなって行く代わりに、広大な田園地帯が広がっていくのよ。 この国って農業国って言うのが良く判るね。 お天気もいいし、街の宿で食べる御飯も美味しい。 気を張る必要も無いしね。 


 そう云えば、御父様のお家、お引越しされたって、レイヴンが言ってたけど、何処だっけ?




「お嬢様が知る必要は御座いません。 あちら側から何もお知らせを頂いておりませんので、そう云う事です」


「王都に滞在する時、いつも王城でお世話になっているのよ。 心苦しいわ」


「気に入りませんが、御嬢様は 第四王子の婚約者。 その上、遠く辺境より運ばれて居るのです。 それに、王城の方が私達も護衛がやりやすいのです。 レイヴンが手配しておりますので、お気になさらないで下さい」


「やっぱり、アレは、レイヴンの手配なのね。 そうじゃないかしらって、思っていたわ。 一介の法衣伯爵家の娘が、いくらハリーストン殿下の婚約者と言う立場でも、王城に滞在するのはおかしいと思っていたもの」


「フルブランド法衣伯爵家より、なにも案内が無いのが現状です。 わざわざ人を割いてまで、お嬢様の警護体制を新たに構築するのは不経済です」


「……まぁ、そうなんでしょうけどね」


「そうです。 お嬢様は、お嬢様。 フルブランド法衣伯爵家とは一線を画しております。 あちら側も、なにかしようとは、しないでしょうし。 黙っていれば、下賜される資金が手に入る状況です。 お嬢様にと下賜される、王宮からの資金さえあれば……」


「えっ、なにそれ?」


「失言です。 お忘れください」


「気になるわ。 国王陛下から何かしらのお金を、下賜されて居るの?」


「お忘れください」


「……もう! そう云うなら、もう聞かないわ。 ―――それでね、レーベンハイム侯爵の事なんだけど……」




 あちらで聞いた、胸糞悪くなるようなお話。 この事については、この先じっくりと情報を集めて貰おうと思っているんだけど、現状知っている…… 違うね、判っている事ってのを聞いておきたくてね。 だって、あの御茶会ではなんか言葉が濁り切って、良く状況が見えなかったんだもの……


 モリガンが重い口を、やっと開いてくれた。 辺境伯が用意してくださった馬車の中である事と、王都から随分と離れたからね。 聞き耳を立てるような人、いないもの。 私も待ってたんだよね。 王都を離れ、此処まで来るのをね。


 モリガンの持っていた情報は、主に王太子妃殿下の護衛準備をしている時に、収集したもんだったんだ。 レイヴンが私の命を受けて、王太子妃殿下周辺の害意のある者達を、裏から手を回して遠ざけている時に気が付いたんだって。


 王太子妃殿下に忍びよる「魔の手」ってやつね。 結構 判りやすく、あんまり隠してないような感じだったんだって。 で、その手の元はね、やっぱり王妃様。 まぁ、あんなモノ(お薬入りマドレーヌ)なんざ、寄越してくるくらいだもんね。 でね、その御薬とか、呪具とかの出所を叩かなきゃって事で、その出所を追ったんだって。


 何ヶ所も経由してたんだ。 それ(ブツ)の入手先。 レイヴン以下多数の「目と耳」が、丹念に追って行ってね、一つの商会に突き当たったんだよ。 王都、随一の商会 ―――キンランド商会 なんだよね、そこ。 辺境領の領都にも支店を出してるんだよ。 御爺様の息の掛った商会の商売敵にもなるんだ。 色々と無茶するって、ミネーネ様が苦言(グチ)を吐かれていたっけ。 御視察にくっ付いて行った時も、なんか嫌な感じのする所だったなぁ


 で、そのキンランド商会の最大のパトロンが、くだんの侯爵閣下なのよ。 市井の経済を握るって結構難しいのよ? でも出資して、規制関連の事に便宜を図ってたら、そりゃ付いて来るわよね。 そのおかげで、王国随一の商会になれたんだものね。 


 御爺様の所の御用商人さん達とも、そうとう激しく遣り合ってるから、キンランド商会への情報戦はすでに始めているんだ。 あっちの組織の中に御爺様の手の者(目と耳)も、何人も潜り込んでるしね。 そこに、レイヴンの手の者が付けくわえられたんだもの、あっという間に、あっちの内情は丸裸。


 まぁ、出るわ出るわ、不正の数々。 でも、どこの商会も多かれ少なかれ、やってる事だしね。 それをもって、民に還元できるんなら、目をつぶる事も(やぶさ)かではないって、御爺様も言ってたしね。 まぁ、清濁併せ呑むってことね。 でもさ、あっちの商会、濁濁って感じ。 まともな商売の方が少ないじゃないか? って、情報源の人が言ってたって……


 そんな中で見つけた証拠があるんだ。 レーベンハイム侯爵が内々に発注した呪具の数々の伝票。 それと、危ないお薬の手配書………… 本来なら、隠滅しなきゃ成らないモノなんだよね。 それを、隠し帳簿にしっかりと記載してんのよ。 領収書付きでね。 なにか有れば、それ使って脅す心算ね。 商人のしぶとさって、こんな所に出るんだよねぇ。 


 ただ、頭を撫でられて、利用しに来る高位貴族の首根っこしっかり抑えているのよ。 じゃなきゃ、王国随一の商会なんて、維持できないもんね。 キンランド商会の商会長さんって、業界では《悪魔》とか、呼ばれちゃってるものね。 まぁ、裏帳簿とか、禁止されている奴隷取引とかの証拠、がっちり握ったから、辺境領内では無茶出来なくなるよ、これからはね……




 これだけの情報を貰っても、私は、どうしても、レーベンハイム侯爵の意図が読めないのよ。




 レーベンハイム侯爵って言ったら、王国でも有数の高位の貴族。 領地も広いし税収だって豊。 さらに商会とも強く結びついて、王国の経済の四分の一を抑えているって聞くわよ。 公職にはついておられなくて、もっぱら領地経営に専念されているって噂はお聞きしているけど、それは、どうかな? 


 なんでも、御領地の領都にはでっかい宮殿みたいなお屋敷が有るんだけど、ここ何年もご帰郷されず、ずっと王都でお暮しになっているのよね。 領地経営に専念? 馬鹿ねぇ~ 現地に居らずして、何が専念よ。 王都の闇の中で色んな策謀巡らして居るの、見え見えなんだよね。


 でも、だれも突っ込まない、突っ込めないって言うのが、現状ね。


 それにさ、現王妃様って、レーベンハイム侯爵閣下の実の妹君なんだよね。


 アラフレア=ミスト=ランドルフ王妃殿下ってのはね、四人の男御子を生んだ現王妃様なんだよ。 本気で国母してるよね。 偉いよね。 ……馬鹿だけど…… レーベンハイム侯爵閣下って、その御兄さまでしょ? 影響力ならば、どんな貴族にも負けないよね。 





 ――――十分な権力と、莫大な財力を併せ持ってる、レーベンハイム侯爵。 この上、彼は、何を望んでいるのか、ほんと、謎だよねぇ。




^^^^^



 このままハリーストン殿下と結婚したら、レーベンハイム侯爵は、私の姻戚にもなるんだよね。 なんか、嫌だよねぇ~ あちらは微塵もそんな事考えて無いんだろうけどさぁ…… レーベンハイム侯爵閣下もう一人の妹君 ( ―――なんでも、愛妾様の御子なんだと。) がね、お嫁に行った先が、レンブルトン公爵家なんだよ。 


 レンブルトン公爵家ってね、没落しちゃった公爵家なんだよ。 先々代の時に臣籍降下されたんだけど、まぁ、あんまり目立った存在では無いんだ。 今回の御城での滞在で、何度もレンブルトン公爵閣下が暴言吐かれれている所に出くわしちゃってるんだよ。 優秀…… ってのと、対極に居られる方。 って言うのが、私の認識なんだよね。 初代様は有能な方らしかったけどね。 今は何かと御噂の絶えない御家なんだ。



 でもさ、公爵家っていう格式高い御家柄だし、暴言は吐くけど、実行力、影響力は皆無と言う、傀儡に生まれるべくして生まれたような御方だし、レーベンハイム侯爵にとっては、都合のいい隠れ蓑になってるってさ。 レーベンハイム侯爵が多少無茶したって、レンブランド公爵の方が目立っちゃってるからねぇ……




 でさぁ、問題はココなのよ。




 御父様が本気で愛して、愛妾から正妻に格上げして、何もかも捧げ切ってる私の御義母様(見た事無い、継母様)…… そのレンブルトン公爵の実の妹君なんだ。 世間てとっても狭いのよ…… 特に貴族間の婚姻なんて、こんなモノね。 



 レーベンハイム侯爵ってさ、なんか「姻戚」を武器とした、王家と言う大樹に、巻き付く寄生木みたいに見えちゃうよね。 絶対に離すもんか! って気合みたいなモノすら、感じてしまうよ。


 でもさ、そんな用意周到なレーベンハイム侯爵にも、「 誤算 」があったんだ。 それはね ―――我らが、第一王子にして、王太子殿下で在らせられる ベルグラード様が慎重に選び抜かれた妃となる方が、ミサーナ様。 現宰相 シドニアン=エラルーシカ=ウインストン公爵の御長女なんだよね。 ついでに言えば、ウインストン公爵ってね、レーベンハイム侯爵の政敵でも有るんだ。


 先代国王陛下が、臣である高位貴族の圧力に負けて、御母様を現国王陛下の御婚約者から外し、アラフレア侯爵令嬢に王太子妃の座をお渡しに成った時にね、これ以上レーベンハイム侯爵家の力が強く成らない様にって、宰相位をウインストン公爵家にお渡しになったのよ。


 王妃の兄にして、宰相となり、表からこの国を牛耳ろうと狙ってたらしい、レーベンハイム侯爵が地団太踏んだんだけど、後の祭り。 ウインストン公爵が宰相に任じられてから、レーベンハイム侯爵の王宮での専横も掣肘される様になったんだって。 そりゃ、国権を私物化されちゃ、たまったもんじゃ無いしね……


 なんか、レーベンハイム侯爵閣下、必死に絵を描いてそうなんだ。 王国を実質上、自らのモノにする為にね…… 


 そんな気がするんだ―――




「モリガン、お話してくれて、ありがとう。 今後はレーベンハイム侯爵の動向もつぶさに報告してね。 レイヴンにもその旨を……」


「承知いたしました、お嬢様。  ―――お嬢様、差し出がましい事なのですが」


「なに? 言って」


「はい、お嬢様は、第四王子(ハリーストン)殿下の事を、今も、お慕いされて居るのですか?」


「―――そうね、少し前まではね。 見目麗しい、優しい方だから……」


「左様に御座いますか。 ……では、全力で排除させて頂きます」


「えっ! な、なんで?!」


「お嬢様の優しさ、素晴らしさを解せず、周囲に愚物を置く。 それ故に、お嬢様に危害が加わる可能性もまた、高くなります。 危険は放置できません。 危険の根源より、排除せねばなりませんので。 ” 少し前まで ” と、承りました。 では、は、違うという事です。 これで、心置きなく「排除」できます」


「い、いや、まぁ…… そ、そうなんだけどね…… ぶ、物理排除はしないでね……」


「御心のままに……」





 ヤベ~~~!! こいつ、マジだ。 マジもんの目だよ。 相当怒ってるって事だよね。 なにか…… 別の情報でも掴んだのかな? しかし…… それにしても…… 


 どうして、レイヴン達の言動って、いちいち、危ないのかしら? ほんとに、身も細る思いするわよ……






 ******************************







 滞りなく、馬車は進み、オーベルシュタット辺境領、領都クナベルに戻って来たよ。


 気持ちのいい風が、大地を渡り豊穣の香りを運んでくれる。


 大地の精霊様の 「加護」 受けし土地。





 皆で幸せになろう!


 豊かで文化的な生活を送ろう!!!




 私は、この辺境の地が大好きなの!




 馬車の窓を開けて、胸いっぱいに息を吸い込んでから、大声出して、ご挨拶よ!








 「 ただいま!!!! 帰って来たよ!!! 」
















 精霊様が微笑んで下さったような気がしたんだ。










お家へ帰る フリージア。 辺境領の優しい風が彼女を迎え入れてくれています。 精霊様も彼女が帰って来た事をとても喜んでおられます。


王都に渦巻く、色々な策謀を、領都から観測しつつ、その対策を練る事に成りました。


頑張れ負けるな、我らが姫様!


物語は、ちょっと一息つきます。



次回 閑話 王都の情景 (予定はしてます、予定は!

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