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2.伯爵令嬢の記憶



 小競り合いには勝利したらしい。 あの後、アントーニア王国、デギンズ第三王子の御一行様は、残余部隊をひこずって、御国に御帰還あそばされた様ね。 チョッカイは失敗したって事。 倍の戦力で、ワンサイドゲームの敗戦。 デギンズ第三王子も、ちょこっと負傷。 暫くは手を出されないよね。 出すなよ? お願いだから…………

 


******************************




 私は…………





 ランドルフ王国 オーベルシュタット辺境領、エスパーニア辺境伯爵の孫



 フリージア=エスト=フルブランド 伯爵令嬢 





 よし、ちゃんと、覚えてた。 そう――― 私は、フリージア。 





 白煙に紛れて、やっとこ、何とか、どうにか、戦場を離脱。 二百五十騎の内、重軽傷者が半分。 幸い、死亡者は居なかった、アラルカン渓谷迎撃戦。 負傷者の中で、私が一番、重篤な症状って事になってた。



 そりゃ、征矢(そや)が頭に当たったんだからね。



 でも、(メティア)を貫通せずに、叩き落しただけだったらかね。 脳震盪起こして、フラフラになっただけだからね。 ほら、他の人の方がよっぽど重傷でしょ?


 なんて事、撤退後の集合場所では言えなかった。 だって、意識なかったんだもん。 引き摺られる様に、後送されたんだってさ。 つうか、いま居るのは、アラルカン渓谷から西に一日の距離にある、サナトス城塞の御爺様の居室近くの私のお部屋。 


 気を失って、担ぎ込まれて、担当医務官が付きっ切りになって看病してくれたらしいのよ。 




 意識不明瞭なんだから、仕方ないよね。




 戦闘詳細報告なんかは、エルクザード と、マエーストロ の二人がやって呉れてたみたい。 御爺様である、エスパーニア辺境伯爵も戦後処理、及び、賠償金の確定とかで、クッソ忙しかったらしい。 まぁ、この戦が起こり始めてから、あんまり寝てなかったから、意識不明瞭にかこつけて、ガッツリ睡眠採ったってことも有るんだけどね。





 その間、夢を見てたんだ。





 子供の頃からの私の生活をね。 詳細に、刻みつけられる様にね。






 ○○〇〇〇〇






 三歳の頃だった。 お母様の体調が思わしくなくて、御爺様の御領地の静養所に来られたんだよ。 本来なら私は、御父様のいらっしゃる王都に居残る筈なんだけど、法衣貴族の御父様は御城勤めで、” 非常に忙しく ” 私の相手が全くできない程だという理由で、お母様にくっ付いて、御爺様の御領地に来たんだ。




     見るモノ全てが珍しくてね。




 それまで、お屋敷の中のお部屋から一歩も外に出してもらえなかったから、余計にね。 御爺様の教育方針で、子供は外で遊ぶって事で、静養所の近所のガキどもに揉まれて育ったんだ。 ヒョロヒョロのモヤシっ子が、小麦色の逞しい女の子に変わるのにはそんなに時間は掛かんなかったと思うよ? 第一、好奇心とかは旺盛だし、なんでもやってみたい年頃だし、お母様はあんなんだし……


 お母様は心の弱い人でね。 想った事とか感じた事とかを、口に出す事さえ出来ない人だった。 とっても綺麗な人なのに、とっても暗い影を纏っててね。 何かに怯える様に暮らしてたんだ。 療養中もあんまり変わんなかった。 それにね、私を見ても、反応薄いんだよ。 まるで、居ないかのように振る舞われるんだ。


 御爺様の御領地に還って来た時から、多分、フルブランド伯爵夫人から、エスパーニア辺境伯爵令嬢に心の中で変化しちゃったんじゃないかなと、私は思っているんだ。 御父様の話は一切しないし、侍女の人達も何も言わない。 その上、侍女の人達、お母様に対しては何時も、” お嬢様 ” って呼び掛けてたから、心の弱いお母様は、きっと結婚して一児を設けたことを記憶の奥底に封印してしまったと思うんだ。




 ほら、最初から期待してなかったんだよね、お母様から愛情が貰えるなんてね。




 元気に二年過ごして、健康優良児になってた私。 ある日、渓流に掛かる橋の上から落っこちた。 悪ガキ共と遊んでて、足滑らしたんだ。 悪ガキ共、必死に助けを呼んで呉れて、大人達が渓流に引っかかってる私を見つけてくれたんだ。 ぐったりしてるから、もうダメかもって、そん時助けてくれた人が思ったんだって。


 で、早馬で、お母様の居る静養所に担ぎ込まれて、絶対安静って事になった。 一応生きてるけど、かなりあちこち打ってたから、最悪ダメだろうって…………





      そん時に夢を見たんだ。





 私、フリージアじゃない「人生」の夢。 というより、その人の記憶が流れ込んできたんだ。 私五歳、その人、三十七歳。 私、女の子。 その人、お姉さんなお兄さん。 訳わかんなかったヨ。 流れ込んで来る、その人の記憶がね、ほんと支離滅裂なんだよ。 男の人の身体をもって生まれて来たけど、魂は女の人だったとか…………


 なんつったけ…… えっと…… せ、せい? そうだ、性同一性障害って言ってたね。


 かなり悩んで、悩んで…… やっと、カミングアウトしたら、白い目で見られて…… そんで、また悩んで、悩んで、で最後には吹っ切ってた。 いや、めっちゃヘビーな話ですよ、マジで。 五歳児に聴かせるような、話じゃねぇし! で、そんな人格と私の中で逢ったんだよ。


 その人が言うには、知識と知恵は使いなさいって。 その人の人格は、深く眠るって。 だから、私は私のまま。 フリージアは何も変わらないって事になったんだよ。 でもまぁ、膨大な量の情報を貰っちゃったんだ。 その人、頭はすこぶる優秀でね。 いやぁ、参ったよ。





 三日三晩、昏々と眠り続け、意識が回復した後も、一ヶ月ほどはボンヤリしてたってっさ。





 そりゃ、五歳児の頭の中に、三十七年分の記憶と知識が詰め込まれたんだ。 それに、そんなヘビーな人生でしょ? パンクするって。 なにも変わらない筈のフリージアは、なんか、変な女の子になって、蘇って来たんだ。


 まぁ、その間、お母様からは梨の礫。 御爺様は流石にヤバイと思ったのか、私の監視を始めちゃったんだよ。 あぁ、それにね、辺境伯爵家と、王家の間になにやら取り決めがあったらしくてね、命も助かった事だしって、その取り決めが実行される事になったんだよ。




「昔の約束の、履行を求められた。 王家のとの絆を結ぶ。 いいな」




 ってね………… 取り決めの内容は聞かされなかったんだけどね、第四王子の婚約者に選定されたんだ。 未来の大公妃様だよ。 びっくりしたよ、その話を伺った時にはね。 私に拒否権は無い。 でもまぁ、この御領地から離れる事は無いし、御爺様の伝手で、優秀な教育担当官も用意されたんだ。




 なにせ、未来の大公妃だからね。 




 御爺様は、まぁ戦闘狂な部分もある、辺境伯爵家の当主であり、この王国東部辺境を抑える重鎮だもんだから、教育の一切を任せますって、王家からのお墨付きを捥ぎ取って来たんだってさ。 でも、王都に居る方が、私的には楽だったと思うよ。 それからの事を想えば…………


 だって、御爺様、語り合うのは拳を交えてからって人だし、やるからにはとことん突詰めないと、収まんない人だし………… 御婆様、良くあんな人と結婚したよね…… 私がこの領に来た時には、すでに御婆様は、鬼籍に入れれてたから、直接は存じ上げないのよ。




 ただね、使用人の人達が皆、絶賛するのよ。




 私の教育係の人も、御婆様繋がりの人だったよ。 ロッテンマイヤー女史って言うのよ。 彼女。 なんでも、御婆様のお友達って触れ込みだったけど、アレは違うね。 いやまぁ、完璧な淑女だよ。 読み書きも計算も、マナーも、ダンスもなんでもこなしちゃう、素敵超人なんだよ。 



 でも、五歳児の教育係って、本当なら幼稚園の先生って感じでしょ?


 あれ? 幼稚園ってなんだ? 



 そうなんだよ、あの人の記憶が色々と浮かび上がるんだよ、こうやってね。 五歳からの英才教育で、叩き込まれる、大公妃に必要な知識と常識。 まぁキツイよね。 私、伯爵家令嬢だよ? 階級差があるから、本来は婚約するにしても、ギリギリのラインなんだよ? 





「今から準備せねば、間に合いません」





 だとさ…… で、頑張る事を約束させられたんだ。 いや、マジでゴメンナサイ。 常にお腹一杯です。 そんな、淑女の英才教育を受けている私が、何故、戦場に立ったか……




 これ、御爺様の…… いや違うね、辺境伯爵家の家風なんだよ。




 ほら、辺境領って、王国直轄領と比べて、治安だって悪いでしょ? その上、周辺国とのいざこざナンテモノもあるしね。 女性だからって、ただ護られているって言うのは、他への負担が大きすぎるって事で、子供の頃から、この辺境領の辺りのお貴族様は、婦女子もある程度、戦えるようにしないといけないんだとさ。


 お母様は、あの通りの人だからってんで、大事に大事に箱入りにされてたらしいけど、私はその辺駆けまわる健康優良児だったから、ロッテンマイヤー女史の授業の合間に訓練受けた訳よ。 ロッテンマイヤー女史もね、言うのよ―――





「そうですね、フリージア様。 夫が暴漢に襲われた時、身を挺して護るのも、妻に課された役目で御座います。 小太刀の使い方は覚えていて損はありません。 また、何者かに捕らえられ、主家に仇なすとお思いになられた場合、自決の為に使う事も考えられます。 小太刀の扱いは熟練を要しますので、是非、御教えを、受けて下さい」





 だってよ。





 はぁ~~~って、でかい溜息が出たよ。 護ってもらうって、考えが欠落してるぞ? 自分で血路を切り開けってか? まぁなんだ、そんな訳で、ほんと、十分以上の戦闘訓練を受けさせてもらいましたよ。 ええ、あの御爺様配下の戦闘狂(バーサーカー)共にね。


 長物(グレイブ)の使い方を覚えたのも、この頃だった。 覚えが良いってんで、すっごくキツイ訓練させられたよ。 まぁ、身体使うの楽しかったし、色んな体術も面白かったし、良かったよ。 でね、八歳を超えるあたりから、御爺様が特別に指導教官を付けてくれたんだ。


 それが、今も私の横っちょにずっと居続けている二人のおっさん。




 エルクザード=デスクワイヤー子爵 と、マエーストロ=チェアリス子爵




 腹黒さんと、脳筋さん。




 そう私の中では呼んでいるんだ。 二人はエスパーニア辺境伯爵の子飼いの子爵家の人。 デスクワイヤー子爵家の二男さんと、チェアリス子爵家の三男さんだから、御爺様に付き従って居るって訳だ。 そんな大事な方々を私の軍学と体術の指導教官にって、付けて下さったんだ。


 まぁ、おっさんって言っても、十五歳年上ってだけで、当時二十歳だったのよ二人とも。 これで教官二人に、教師一人の三人体勢。 二十四時間勉強できますか? 状態よ。 体中青痣だらけに成りながらのダンスの授業って、壮絶でしょ? ほんと、よくやってたわ。


 基本楽しい人達だから、苦にはならなかったし、色んな事教えてくれるんだ。 感謝こそすれ恨みなんか無いよ。 しんどかったけど。




 でね、そんな中、魔法の方もちょびっと使えるようになったのよ。




 これは、あの人の知識には無かったけど、お腹の中でほんのり暖かい所が有ってね。 何かわけのわからない力をそこに感じて、気持ち悪くなってさ。 それで、ロッテンマイヤー女史に聴いてみたんだ。





「あの、この感覚は何で御座いましょう? 温かく溢れ出るような、感じがします」


「…………フリージアお嬢様。 魔力検査をしてみましょう。 万が一という事が有りますので」





 ロッテンマイヤー女史の妙に真剣な目。 緊迫したような表情。 なんか怖いような、いけない事言ったような、そんな気がしたんだ。 御爺様子飼いの、魔法騎兵の人達が物々しい装備と検査器具を携えて、その日のうちにお屋敷にやって来たんだ。 なんか色々くっ付けられて、寝椅子に半分寝た様な恰好させられて、目隠しされてね。 





「何か見えましたら、仰って下さい」


「はい…… あの、目隠しをしたままですか?」


「ええ、そうです。 これから、魔力を外から流し、お嬢様のお身体に当てます。 もし(コア)が有り、魔法の素養が有れば、視覚に干渉しますから、何かしら見えると思います。 見えましたら、仰って下さい、何が見えたか、どの様に見えたかを」


「そうですか。 判りました。 ……始めて下さい」


「始めます。 お嬢様、気を楽にしてお待ちください」





 ブ~ンって羽虫が立てる羽音みたいな音がして、お腹の中の暖かいモノが膨れ上がったんだ。 途端に、目の前にお部屋の様子が見えたんだ。 目隠しされている筈なのに、鮮明に、何もかも自分の目で見えているのと同じように。 いや、それ以上に私の周り全てが見えたんだよ。





「何か見えましたか?」


「ええ、御部屋の様子が全部」


「?!?!? 全部? で、御座いますか?」


「ええ。 貴方が私の方を向いて、ビックリされているご様子とか、手に持たれている棒が今にも落ちそうになっているのとか。 もう一人の方が、何かの機械の前で慌てていらっしゃるのとかが、良く見えておりますわ?」


「えっ………… あ、あの、では、今 私は、指は何本立てているのか見えますか?」





 そう云って、三本の指を立てられたのよ。 当然見えてるし。 答えるわよね。





「三本で御座いましょ? ほら、また、棒が落ちそうになっておられますわよ?」





 まぁ、なんかビビってらっしゃるわよ。 知らないわよね。 何が起こっているのか、判らないもの。 でも、その検査の後、脳筋さんからの授業に身体強化の魔法を教えて貰えるようになったの。 検査結果は、教えて貰えなかったけど、魔法が使えるって事は、その時判ったんだ。


 魔法騎士隊の人達とも仲良く成れたし、そこでまた色んな事を教えて貰えたよ。 好奇心の向くまま、知識を吸収して行ったんだ。 そこで逢えたのが、魔法馬鹿。


 ちょっと年上の女の子だと思ってた、魔法騎士。 そう、今も仲良く色んな事してる、魔法騎兵アーリア=テレヴァーレ騎士爵  テレヴァーレ子爵のお嬢さんなんだけど、私より六つも年上なんだよ。 バインバインな身体つきとは裏腹に、めっちゃ幼げな御顔なんだよね。 




 その実とっても優秀な通信魔法の使い手でも有るんだ。




 普通の通信魔法兵の四倍近い距離で通話できるんだよ。 凄いよね。 で、生活魔法一式も卒なくこなすし、制御魔方陣だってうまく操作できる。 まぁなんだ、私の魔法の先生みたいなもんだよ。 まぁ、先生って言っても、なんか面白そうな事を考え付いたら、一緒になって魔方陣いじくる仲間みたいなもんだしねぇ。



 てな具合に、強力な教師陣四人組に徹底的にシゴキあげられて、今の私が出来上がったって事よね。 




 普通の伯爵令嬢じゃねぇんだよ。





******************************





 十二歳になった時、ついにお母様が、命の火を燃え尽くされた。 療養地である場所から、ついに出ることなく、お部屋で静かに身罷れた。 息を引き取られる前に、お母様の御側について居たんだ。 この世から去られると判っていても、御止めする事は出来なかった。


 お母様にとって、この世は煉獄ようなモノ。 何も言えず、何も御心に叶わず、唯々籠の鳥の様にお暮しになった。 他の人々の思惑に振り回され、愛する事も、愛される事も、いや、愛情とは何かと理解する事も無く…………逝ってしまわれた。


 御父様にお知らせしたんだけど、やはり、王城のお仕事が忙しいと、来られる事も無く………… 結局、荼毘に付し、御爺様の御領地、御婆様のお墓の横で永久の眠りにつかれたんだ。 御父様もその様にして欲しいと、お手紙に書かれていた。


 一度も此方には来られず、お母様の葬儀は粛々と、御爺様の手で営まれたんだ。


 一年の服喪の期間。 私は静かに、勉強してた。 御父様にはもう何も求めはしない。 夫婦の在り方、それも、貴族の夫婦の事だから、こんなことだって、不思議じゃない。 王都での御父様のお仕事がそんなに忙しいとは………… 思えないんだけどな。 


 つまりは………… お母様も、私も、御父様にとっては、他人以上に関わりたくない人って事なんだと…………






     そう理解したんだ。






 それからは、遮二無二、勉強したね。  フリージアが、法衣伯爵家の長女たらんとする為に。 第四王子の婚約者として恥ずかしくない様に。 そして、何より、私を私と定義する為に。


 貴族の嗜みから、軍学、魔法学、冶金学、領地経営学、交渉術、体術………… まぁ、なんだ、トンデモお嬢様が出来上がった訳だ。




^^^^^^



 十四歳になった時、本領の王城での舞踏会で、デビュダントって事になったのよ。 色々用意してくれたのは、御爺様。 御父様である、フルブランド伯爵からは、 ” 御城勤めで忙しいから、そちらでご用意してください ” って、お手紙貰ったよ。 御爺様は、憤慨されていたけど、仕方ないよね。





 多分、私は要らない子。 そう云う事よね。





******************************





 結局、王城舞踏会でのデビュダントには出られなかった。 だって、その辺りから、御爺様の御領地である東方辺境領に隣接している、アントーニア王国がチョッカイかけて来たんだもの。 御爺様の ” 御耳 ” が、集めてきた情報よ。 確かなものね。 でさぁ、この地を纏めている御爺様は、相手が本気で「 戦争 」吹っ掛けて来るって、理解した訳ヨ。


 そうなったら、戦闘狂な御爺様。 兵士の動員、訓練始めちゃって、私の事は二の次になったんだ。 で、相手の動きを探る内に、相当な戦力を用意してるって判ってね。 何時もみたいな、ちょろっと手を出してきてるんじゃ無いって判って、御領地に動揺が走ったんだ。


 ほら、いくら辺境伯って言っても、独自で集められる戦力かき集めても、歩兵千五百に騎馬兵三百五十、魔法騎兵三十って所が精一杯。 その内、治安維持とか、哨戒、偵察なんかの人員抜いたら、実兵力、歩兵五百、騎兵二百五十、魔法騎兵十って所ね。


 その上、指揮官も、足りない。


 早速本領に援軍をお願いしたんだけど、本気に取って呉れなくてね。 あっちじゃ、そんな情報掴んで無かったから、 ” 何を戯言を ” ってな感じだったのよ。


 周りの辺境伯にお願いしても、色よい返事は貰えないんだ。 万が一御爺様の掴んだ情報が本当なら、周りの御領地にとっても脅威だからね。 自領の防衛に走るんだよ。 だから、合力は望めない。 という事で、狩り出されたのが…………



 ” 私 ”



 な訳よ。


 軍議の席に呼ばれてね。 そんで、私も戦えと………… 





「すまんなフリージアよ。 今は火急の時。 戦える者は、一人たりとも無駄には出来んのだ。 お前ならば、部隊の将として立てる。 この、御先祖達が眠るオーベルシュタット辺境の地を、アントーニア王国の奴等ごときに蹂躙されては、御先祖達に申し訳が立たん。 お前にも、エスパーニア家の血が流れて居る。 一将となり、皆を奮い立たせよ。 よいな」





 辺境伯たる御爺様に、真正面から睨みつけられて、「嫌だ」 って言えるような、そんな胆力、私には無いよ。 下手したら、マジで死ぬね。 逃げたら、御爺様にお手討ちにされるかもしれない。 そんで、何の策も無くアントーニア王国軍と対峙したら、これまたヤラレルね。 





 ―――だから、必死に考えた。 考えたさ。 どうやってしっぺ返しするかをね。





 魔法馬鹿な、魔法騎兵アーリアと遊んでた事が此処で生かされた。 急遽、試作段階だった、火箭(ロケットランチャー)を、出来るだけ多く作ったんだ。 で、試射。 上手く行ったんで、作戦案を御爺様に奏上。 つうか、強要したよ。


 御爺様みたいな、脳筋狂戦士(荒ぶる英雄)ばっかりじゃ無いんだよ。 ほかの人達は、斬られたら痛いし、死んじゃうよ。 だから、作戦が居るんだ。 事前に出来るだけ情報を集めて、解析して、相手の進軍路を私達に有利な様に持って行き、一回の戦闘で最大級の戦果を挙げて、持って、相手の意図を挫き、経戦意思を喪失させるってね。




 腹黒参謀、エルクザード=デスクワイヤー子爵 が、乗っかってくれた。




 想定戦場も設定できた。 御爺様が難しい誘因役を引き受けてくれた。 でも、私が騎兵を率いるのは、皆が止めてたんだ。 サナトス城塞に居ろってね。 でもさ、なにか不測の事態が有るかも知れないじゃん。 この作戦案、出したの私だよ? 最後まで責任負うよ。 最後の突撃までね。


 固い意志を持って、御爺様にお伝えしたの。





「私は、エスパーニアの血の継承者に御座います。 この体に流れる血の半分は、この辺境の大地に根差す、辺境の子の血。 その血が言うのです。 夷狄(いてき)から、この地を護れと。 お許し頂けなければ、今より、単騎で参ります」





 ってね。 みんな唸ってたよ。 見栄えの良い、旗頭にでもする気だったんだ。 残念でした。 貴方達が作り上げた、トンデモお嬢様な私は、御飾りには成らないんだよ。 やれって言われてんだから、最後までやり抜くよ。 根性見せるよ!


 真剣で真摯な私の言葉は通った。 通ったから、やるだけやったんだよ。 やり切ったんだよ。 戦果は………… まぁ、あそこまでやったんだ、きちんと成果は出てる筈だよね。 こうやって、サナトス城塞のお部屋で寝てられるんだしね。 お医者様も穏やかだし、代わる代わるエルクザード、 マエーストロ、 ロッテンマイヤー女史、 アーリヤ、 そして、御爺様がお見舞いに来てくれてたんだもんね。  


 でもさ、そんな中、私の意識は朦朧としたままなんだよ。 なんか、とっても眠い。 なんとか意識を保ってようとしても、何時の間にか、うつらうつらしてしまう。 そんな微睡は、優しく私を包み込んで、身体を癒してくれているんだ。 





 そんな微睡の中、あの人が起きて来たんだ。






 そう、私の中のあの人がね。









物語は、加速していきます。

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