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12. 伯爵令嬢、紅い花咲き乱れる園で……

 


 どうしよう! どうしよう! どうしよう!!!



 この方が、私の婚約者様だなんて!!! ぼっこり凹んでいる胸当てに震える手を添えて、剥ぎ取る。 このままじゃ、圧迫されて、いつ肋骨が心臓に突き刺さるかも知れなし…… 胸の圧迫を取り除いたんだけど、相変わらず、息が苦しそう。


 そりゃそうだよね。 肺が半分押しつぶされているもの……




 ” おい、ゆっくりしてられねぇぞ、小型の魔物が隙を伺っている ”


 ” 戦列が此処に来るまでどのくらいかかる? ”


 ” いくら急いでも、あと十分は掛かるな。 今のままじゃ、十五分以上かかる ”




 息を飲むの。 森の中からは、幾多の魔物の気配。 傷つき血を流した、殿下の配下の方々の気配と、血の香りを存分に楽しんでいるのよ、奴等。 ボロボロ、ヨレヨレだけど、殿下の配下の高級指揮官達は、まだ自力で動ける。


 それに、殿下が肩を貸し、最後まで盾と成り助けて居られた方も、意識は無いけど、殿下より遥かに軽傷。 あれなら、回復ポーション一瓶のんで、ぐっすり眠ったら、何とかなるレベル…… あの人が受ける攻撃を全て、肩代わりされたのは殿下……



 無茶よ……



 状況を必死で読むんだけど、このまま、このボロボロの人達を残して、一時防衛線を張っても、時間の問題。 私が今持っている、簡易結界石の結界はホント小さな結界しか張れないもの…… それに、殿下を移動させるのはどう考えても、無理………… 無理なのよ。



 …………どうしよう…… どうしよう……




 ”撤退時期を見失うと、全滅するぞ?”




 レイヴンの【遠話】が、耳に届く…… 最善を尽くす…… そうだよね…… 取り敢えず、最大多数の幸福を追求しなきゃ!


 大きく息を吸って…………




「第三遊撃隊、及び、近衛騎馬隊! 下命します! 王国軍高級指揮官と、学院の生徒一名を救出しなさい。 特務戦列の背後に駆け込み、退却中の部隊と合流してください」


「了解…… って、出来る訳ないでしょ!! お嬢!! 貴女は如何するつもりなんです!!」


「此処にいる全員を覆える結界石はありませんが、私達二人ならば、この結界石の簡易結界の内側に入れます。 貴方達は、そちらの方々を後送…… ―――エルクザードと、マエーストロに連絡をつけてください。 衝撃で、長距離通信が切れてしまいましたから」


「…………それが、お嬢を助ける唯一の道というのなら……」


「最善を尽くしましょう。 さぁ、行って!!」




 わたしの叫びにも似た命令に、第三遊撃隊と、近衛騎馬隊は、嫌がる王国軍上級指揮官を無理矢理騎馬に乗せ、駆け出したんだ。 一刻も早く、―――エルクザードと、マエーストロをこの場に呼び寄せる為に。 唇が切れるほど食いしばった口から、各指揮官が出した言葉―――




「お嬢の命は我等の速度にかかっている!! 総員、全速! ―――エルクザードと、マエーストロ様にお嬢の命令を届けるぞ!!!」




 なんか、泣きそうになったよ。 走り去る騎馬たち。 結界石を起動させて、その中で殿下を膝に抱く私。 どうしよう………… どうしよう………… れ、レイさん…………




 《 フリージア!! やっと、呼んでくれた!! 貴女!!! えっ、王子様?》


 《 そう、殿下…… ハリーストン殿下が、誰かを庇って、魔物に…… ど、どうしよう…… け、結界は張ってるけど…… 魔物暴走寸前で…… 辺境領軍は…… 遠くって…… 》


 《 しっかりしなさい! フリージア! 》




 私の中のレイさんが、私を叱咤して来たんだ。 怒ってる?  ち、違う……?  わ、私、なんか出来る事が有るの? 耐える以外に……




 《 フリージア! 貴女は、貴女の為すべき事がある。 この辺境で、今、命の炎を揺らがせる者が、貴女の目の前にいる。 貴女は、貴女の力を使うべきなのよ。 受け継がれし、尊き力。 その力を貴方なら(ふる)えるのよ…… 覚悟を決めなさい。 思い出して、貴女が何者なのかを…… 》




 私? 私は…… フリージア=エスト=フルブランド伯爵令嬢。 エルブンナイト=フォウ=フルブラント法衣伯爵を父に、アメリリア=フラール=フルブラント法衣伯爵夫人を母に持つもの…… 単なる法衣伯爵家の長女…… 力なんて…… なにも…… ない……




 《フリージアァァァァ!!! 貴女、何を言っているの! もっと大事な事が有るでしょ! 貴女は誰の血脈なの!! どなたの血を色濃く受け継いだの!!! 私にはわかるの ―――貴女の中に居る私には。 貴女が何者で、どんな力を秘めているかも! 眼の前の、命の火を揺らがせているのは誰? フリージア!! いい加減に、 () () () () () ()ぉぉぉ!!!》




 色濃い血の継承? 私だけの力? なによ、それ…… なんなのよ…… 眼の前に倒れているのは…… ハリーストン殿下…… 約定が交わされて後、今日初めてお逢いした、私の婚約者…… 命の火が揺らぐ、婚約者様…… 



 う、失いたくない。



 まだ、一言も言葉を交わしていない。


 まだ、何も始まっていない……


 私に出来る事…… そう……かぁ…… そうだよね、出来る事有ったよ。 レイさん、ありがとう。 思い出したよ。 私の出来る事。 




 《レイさん、レイヴンが教えてくれた、あの力…… 使うね。 使えるよね》


 《貴女が、使う意思を持ち、力の開放を望むなら…… きっと、血は応えてくれる…… そう信じてる。 やるべき事を、精一杯おやりなさい。 私は見守っている》


 《うん、頑張るよ。 精一杯》




 ハリーストン殿下の手甲(ガントレット)を外した。 血の気の引いた青白い手を握る。 モヤモヤとした感じがする。 いつもと同じに、同調する…… 色が…… 色彩が鮮明に私の瞳に浮かぶ。 キラキラとした、金色の波が、辺りに満ちる…… コレが、ハリーストン殿下の魔力かぁ…… 



 そっと口ずさむ。 【身体強化】……



 薄緑…… 人によってはエメラルドグリーンって言うわね…… 二人の身体を包み込むの。 私の魔力が吸われる…… どんどん、どんどん…… あっという間に限界にくるの…… でも、ハリーストン殿下の身体は、まだ危機的状態…… 失うの? ここで、私も一緒に…… でも、出来る限り……




 《フリージア、私は知っている。 貴女の力は、もっと大きなモノ…… 心を静め、開放を願いなさい》




 優しい レイさんの声がする。 そして、その通りにするの。 お願いします、精霊様…… 殿下を、この国にとって、大切なこの方を…… 私の婚約者様を…… 助ける為の力の開放を…… 願います…… 


 耳に、魔物の咆哮が聞こえる。 邪魔しないで! それどころじゃないのよ!!





 グギャギャ!!

    ギャギャギャ!!!!





 結界石の結界に阻まれているとはいえ、その結界は頼りなく薄い。 揺らぐ結界の向こう側に紅い血に飢えた眼が幾十、幾百も此方を伺っているの。



 ムカついた。



 抗うと決めた運命に、形ある死の気配に、本当にムカついた。 沸々と怒りが、心を満たして行く。 なぜ、ハリーストン殿下に、こんな事をした。 何故、助けようとする私の邪魔をする。 何故、何故、何故……




 グギャギャギャギャギャ~~~~~!!!!




 小型の魔物の手が、薄く揺らぐ結界に手をかけるの。 ピチッって、結界が歪み、割れる…… じんわりと侵入してくる魔物の手…… その手がハリーストン殿下の脚に触れようとした時


 ―――何かが私の中で弾けた。







「触るな、下郎ぉぉぉ!!!! わたくしの大切なものに、触るなぁぁぁぁ!!!」







 枯渇寸前だった、私の魔力が膨れ上がったの。 大きく強く、膨れ上がった魔力は、【身体強化】の魔法を爆発させたんだ。 結界の周囲に居た小型の魔物達が吹き飛んだ。 吸い込まれ続ける魔力をものともしない私。 ハリーストン殿下の優雅で少し汚れた眉が、震えた。 


 殿下からに注がれていた魔力が反発して帰って来たんだ!


 殿下の身体の修復が完了したんだ!!!


 で、でも、その為に、殿下の体力は限界……




「で、殿下、ポーションをお飲みください。 体力が限界です。 このままでは、魂がお身体を離れてしまいます!」


「う、うぅぅぅ……」




 弱々しく、唸る殿下。 意識が朦朧として、ご自身で何かが出来るような状態じゃない。 えっと、えっと、腰のポーションパックから、体力回復ポーションを取り出したのはいいけど、どうしよう…… えっと、えっと…………


 飲めないなら、飲ますしかないかぁ……


 い、命の危機だもんね。


 不敬に当たらないよね。




 そっと、メティアを取るの。 ポーションの封を切り口に含むの。 ごめんね、殿下…… こうするしか方法は無いんだよ。 そっと唇を合わせ、顎を引く。 口に含んだお薬を、殿下の喉に滑り込ませたのよ…………






 あぁ…… ファーストキスだったんだけどなぁ…………








******************************



 殿下の体力は、お薬(ポーション)によって、回復した。 結界周辺に紅い花が幾つも咲いている。 意識は回復してないけれど、ハリーストン殿下は、もう大丈夫ね。 うん、体力も、魔力も、肉体の損傷個所も、全部元に戻った…… 


 ゆっくりと私の魔力が、うねるの。




《 フリージアちゃん!! やったわね! 力の開放よ! 》


《 レイさん………… 救えたよ…… 殿下…… 救えたんだ…… 》


《 そうよ、フリージアちゃん。 貴女はやったのよ。 やり切ったのよ。 ん? あらぁぁ? ハリーストン殿下って、よく見たら、……かなりのイケメンねぇ》


《 そうなんだよね、レイさん。 ドキドキしちゃうね 》


《 あらぁ~? そんな麗しの君に、フリージアちゃんは、ぶちゅ~~って、したのぉぉ? 》


《 れ、レイさん!!! あ、アレは、必要に迫られt:@;」@;・ 》


《 うふふふ、何言ってのかしら? 》




 顔から火が出るくらい、真っ赤になってんの判る。 もう!!! どうしよう!! は、恥ずかしい~~~ 殿下は気を失っていらしゃったから……  これは、私だけの思い出になるよね。 あっ、レイさんもかぁ…… うわぁぁぁ、ど、どうしよう! 


 なんて、一人、上がったり、下がったりしてると、長距離通信が入って来たんだ。 魔法騎士アーリアからね。 そう云えば…… 命令下していたんだっけなぁ……




 ザッ……




” 姫様、所定の位置に着きました。 標的の詳細を、お教え下さい ”




 そうねぇ…… 魔物暴走スタンピートが始まりかけてるし、この際、小型の魔物の数を大きく減らして置いたら、魔物暴走スタンピートも落ち着くかしら。 小型の魔物の遺体は、森の中への引きずり込まれ、足りなかった餌になる筈だし……


 そうねぇ…… 今なら…… この潤沢な魔力を得た、今なら、やれるかもしれない。


 心に決めた、この領の人達の安寧を護るという意思は、失ってなかったよ。 一気にかたを着けようと、そう思ったの。




” アーリア、私の位置は把握してる? ”


” ええ、判ります ”


” では、命令を下します。 良く聞いて。 私を中心に、森の端に対して、絨毯攻撃。 弾種、霰玉あられだま。 着弾は重なる様に、手持ち全弾にて掃討して ”


” えっ? そ、そんなぁ…… ”


” 私は大丈夫。 結界がきちんと機能してるしね。 ……今なら、魔物暴走スタンピートの頭を叩けるわ ”


” 姫様ぁぁ ”


” 復唱は、要らない。 可及的速やかに実行する事。 いいわね ”


” は、はい…… 了解しました ”




 通信が切れ、静かになる私の周り。 できるよ、全然、問題無いよ! 



 今なら、空だって飛べるような気がしてるもん。



 私は……、




 殿下を膝の上に抱えたまま、




 飛んでくる噴進弾の飛来音を、




 心安らかに聴いていたんだ。










今夜も、やってまいりました。 恋愛タグを機能させようと、努力の結果、こうなりました。


フリージアの周囲の紅い花は、なんの花なんでしょう? 不穏な花ですねぇ~


初めましてが、戦場のど真ん中。 そして、片方は瀕死の重傷。


護りたい気持ちが、全てを覚醒させてしまいました。 彼女はこの強大な力をどう、使っていくのでしょうか? 頑張れ、負けるな、我らが 姫様!



物語は加速していきます。



次回、戦犯にお仕置き。 (予定は未定

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