11. 伯爵令嬢は婚約者と巡り逢う
集合場所まで五分の所で、レイヴン、モリガンの二人には情報収集の為に別動してもらった。 【遠話】は常に開いておいてもらってる。 なにか分かり次第、連絡をくれるように頼んだの。
その間も、騎馬は疾走させてるの。 そして、やっと、集合地点が見えて来たんだ‥‥‥
ありていに言えば、混乱の極み。
私が発した檄で、辺境領軍は秩序だった動きを見せているけど、王都から来た人たちは、ぐちゃぐちゃ。 誰が指揮官なのかもわからないし、それぞれが変な事を口走っているんだよ。
明らかに指揮権を持ってない学院の教師が、辺境領軍の魔法騎兵になんか命令してるし―――
” 姫様!!! 来てくださった!!! この馬鹿、何とかしてください!!!”
” 王国軍の上級指揮官が見当たらない。 誰がどんな役職かもわからんのです。 防御陣を組まなきゃ、撤退するにも不都合です。 お嬢様、なんとかしてください ”
” 最上級指揮官が、学生らしいのです。 どうも高位貴族か、王族か…… そんな感じなのです。 その上、王国軍上級指揮官をお供に、どうも森の方に行ったらしいのです。 お嬢様、如何致しましょう”
” この馬鹿共、どうにかして下さい。 ウロウロうろつき、長弓の射線を塞ぐんです。 なんとか成りませんか? このままじゃ、遠距離支援の続行は難しいです ”
” 東北方面の魔物達の影が薄いんですが、なんか学校の先生達がギャーすか喚いていて、そっちに行きたくなさそうなんですよ。 なんでも、王国軍の正規兵の部隊が有るんだそうで…… 自分達の失態を報告されたくないとかなんとか、ブツブツ言ってるのを、うちの兵が聞いてんですよ…… 何なんすか、これ? ”
” 魔物暴走警報が発令されて居るのは、指揮官クラスの王国兵は知ってましたぜ、お嬢。 馬鹿共が、良い訓練になるとか言って、強行したらしいんです。 その上、俺達辺境領軍が到着展開する前に、一部生徒と、新兵が一緒になって、森に入ったらしいんです。 そこで、小型が襲って来て、逃げ惑ううちに、結界石の一つをぶっ壊した…… てな訳です。 本格的な、魔物暴走じゃねぇんですが、このままいくと、本格的になりますぜ? ”
次々と入って来る、そんな情報に頭が痛くなって来た。 もういいや、ココの兵権掌握して、どっかにいっちゃった、王国軍の上級指揮官を探さなきゃ! 取り敢えずする事は、東北方面にいる、王国軍正規兵の増援の所に、この烏合の衆を送り届けなきゃね。
「総員、傾聴!! これより、辺境軍指揮官より、撤退戦の構想を述べる。 この場の軍、最高位指揮官は、私の前に!」
デカい声出して、そう言い切ったんだ。 こんなバカげたこと、サッサと終わらせて、魔物暴走に備えなきゃ! 一人の王国軍の漢が私の前に来たんだ。
「警護部隊、ナニセンノ中級指揮官に御座います。 エライネン上級指揮官殿より、この場の指揮を命ぜられました」
「宜しい。 私は、フリージア=エスト=フルブランド。 辺境伯爵様より、今回の護衛部隊の指揮官に任ぜられております。 よしなに。 さて、ナニセンノ中級指揮官。 この混乱を早期に納め、安全な場所に撤退する為に、御力添えをお願いしたい」
「王国軍、戦時軍務令により、ナニセンノ、フリージア指揮官殿の指揮下に入ります。 御命令を」
「緊急時、指揮権移譲の軍務令を、御存知でしたのね。 ならば、話は早いですわ。 ナニセンノ中級指揮官に置かれましては、フルリンダル学院の学生、及び教官、教師を纏め、行軍準備を。 並足、大隊標準での行軍となります。 よろしくて?」
「方角は?」
「王国軍、正規兵による増援部隊の居る東北方面。 教科書通りですわ。 新兵の教導としても、戦時下、急転進として十分、訓練になると思われます。 フルリンダル学院の方々については、野外実習の中止と撤退を伝えて下さい わたくしは、森の方に向かわれた、最高指揮官様と、高級指揮官様を探します」
「有難うございます。 何卒、最高指揮官様をお助け下さい……あの方は……こんな場所に来るような方では…… あぁ、でも、学院のあ奴ら、言う事聞くか…… 判りません」
「従わなければ、戦時特別法、第二十二条四項を適用して構いません。 時間もあまり無いので、その場で首を刎ねられるか、それとも命令に従うかを問えば宜しい。 命令、発令者は私ですよ、良いですね」
「……御意に」
ん? そんなに大切な人が、最高指揮官なの? ほんと、誰なのよ、もう!! あたふたと、ナニセンノ中級指揮官は、胸に拳を当てから、命令を実行する為に駆け出して行ってんだ。 さてと、私は撤退戦の陣形を伝えなくちゃね。
”魔法騎兵アーリア、 ” 例の物 ” 持ち込んでるわよね? ”
”なんか嫌な予感がしてたので、ココから三十分の距離に配備してあります”
”持って来て、森の境界を射程に収められる場所に展開。 よろしくて?”
”御言葉のままに。 今から準備を始めます。 三十分後、ご連絡致します”
”頼んだわよ。 後、広域通信は私が継続します。 では、三十分後…… エルクザード、貴方は左翼を掌握してください。第二槍兵隊を二分割、第十五歩兵大隊は、四分割、第六弓兵隊を二分割。 各第一中隊を貴方に預けます。 マエーストロ同じく、分割した各、第二中隊を貴方に預けます。 右翼、左翼に展開し、森と撤退部隊の間の壁となって下さい ”
” ” 承知! ” ”
”第十と歩兵大隊、第三中隊、第四中隊、及び、第七弓兵隊は、撤退部隊の前面に出て、薄くではありますが、存在する魔物を蹴散らし、友軍増援部隊に引き渡してください。 指揮官はマルコネン――― 貴方にお願いします”
”承知!!”
”第三遊撃隊、及び、近衛騎馬隊は、わたくしが直卒します。 森の方面に向かわれた、上級指揮官と、最高指揮官を探します。 あちら側は、魔物の数も多い。 紡錘陣形を取り、広範囲を捜索します。 よろしくて?”
”姫様直卒とは、誉に御座います。 何時でも行けます!”
” 森から魔物が溢れだす前に、どうにかしないと、領民の暮らしが脅かされてしまいます。 では、始めましょう!! ”
きちんとした構想と、兵力の分配、そして、戦う意思とその理由。 全てが用意できると、辺境領軍の動きはとっても良くなるのよ。 だって、危険と背中合わせに暮らしている辺境領の兵なんですもの。 私達の陣形が大きく変化しているのを、王国兵 中級指揮官の方も横目で見てたの。
練度は高いのよ。 まずます、統制の取れた動きも出来るんだから。 一人は皆の為、皆は一人の為。 一人で出来ないような事も、皆が力を合わせれば、どうにかこなせるって、よくわかっているもの。 前回の紛争から、その思いが辺境領軍で共有出来てるしね。 それぞれが それぞれの特技をもって、事に当たり、全員で勝利を捥ぎ取るのよ。
なんかごちゃごちゃ言ってる、フルリンダル学院の教師陣…… 何やってんだ? 中級指揮官殿と、揉めんな。 中級指揮官を振り切って、一人の教師が私の前にやって来た。 魔術教師の、ロドリゴデトリアーノ=エステル伯爵 だったよ。
「魔法騎兵を借り受けたい。 さすればこの包囲網を突破して見せよう!! さぁ、早く、差し出すんだ!!」
兜 の下の私の顔が、酷く歪む…… こいつ…… 何言ってんだ?
「一般教職員の貴殿に兵の指揮権は無い! 下がられよ」
「私は、ロドリゴデトリアーノ=エステル伯爵 上級職王宮魔導師でもある。 御託はいいんだ、さっさと、魔法騎兵をよこせ!」
「ふざけるな!! 兵の指揮権は我に在り。 その兵権の簒奪を目されるのであらば、軍法により貴殿を処罰する」
「辺境領軍の指揮官風情が、何を言う!!」
「貴殿が如何なる爵位、如何なる職位であろうと、軍務は軍務令により規定されている。 貴殿に兵権は無い。 ナニセンノ中級指揮官、この馬鹿を排除しろ。 時間が惜しい。 いう事を聴かねば、首を刎ねよ。 我が許可する。 おい、命が惜しくば、ナニセンノ中級指揮官の云う事を聞け!!」
羞恥に身を固くし、フルフル震えている、ロドリゴデトリアーノ。 御伽話の中では、ミステリアスな魔術教師で、ヒロインである ” お姉様 ”が、困る事態が有ると、優しく助けてあげる人。 現実では、自分の事しか考えない、自己中心的な貴族思想の持主だった事が、これでわかったね。
あの優しさは、自分の目的の為に、手当たり次第に手駒を増やそうとしてた為だったんだよ。 ほんと、なんなの?
貴重な時間を無駄にしちゃったよ。 紡錘陣形を取った捜索隊は、そのあと直ぐに、森の端に向って駆け出したんだ…………
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でもなぁ…… 誰なんだろうなぁ………… お知らせの文書には、正確には ” 誰 ” って記載されてなかったしなぁ…… 中級指揮官もなんか、歯切れ悪かった無しなぁ………… それに、最高指揮官って、どういうことなのかなぁ…… 学生がよ? 正規兵の新兵も含めた訓練部隊の最高指揮官って…………ねぇ…………。
ほんと、本領のお貴族様の考える事ってのは、良く判ん無いねぇ。
ミズガルデアの森の端に沿って、捜索してんのよ。 でも、痕跡すらないんだ。 もっと中の方かなぁ……
ヤバいなぁ…… 森の中に入ると、機動力がガタ落ちになるんだ。 その上、グレイブ振るう空間さえ、限られちゃうもんなぁ……
” フリージア…… 見つけたぞ。 右手、森の中…… 外に向かって一団が出て来る。 大きいのに追われている。 小さいのも、いるな…… どちらにせよ、その後ろから、次々に来やがるぜ ”
小さな声。 レイヴンだ。 何処で見てんだろ? でも、いいや、そんな事。 レイヴンの情報の確度は物凄く高い。
「総員、右手森の奥。 注意!!」
レイヴンの云った通りに、ボロボロの一団が、よろよろと森から走り出て来るんだ。 装備品を見る限り、王国上級指揮官の服装だよ…… 中に一際 豪華な装備を付けた人が一人の男の人…… あれが、最高指揮官だね。
「総員、抜刀! 追手を迎え撃つ。 用意!!」
ボロボロの一段のすぐ後ろ、大型の魔物一匹…… うわぁ…… 戦鬼だ…… あんなのが、出てくんのか…… こりゃ、魔物暴走も近いよねぇ…… なんか、小型の魔物も多いなぁ……
あっ! 最高指揮官が、誰かに肩を貸してたんだけど、転がった!!
二人が倒れ込んだ所に、戦鬼が突っ込んできやがった!!
やっべぇ~~~!
「続け!」
拍車を当て、疾走したんだ。
けどね……
もうちょっと、あと、ほんのもうちょっとの所だったんだ。 でも、その、ほんのもうちょっとが足りなかった。 その豪華な装備を付けた、最高指揮官が、部下と思われる男を庇って、戦鬼の渾身の一撃を喰らっちゃんたんだ……
「殿下~~~!!!!!!」
絶叫が森の端に響き渡る。 森の端から、叩き出される様に、最高指揮官が転がり出て来た。 周囲に展開する、ボロボロの高級指揮官達。 助けられていた男も、一緒になって叩きのめされて居たんだ。 気を失ったらしい。 行足のついて居た私は、グレイブを振りかぶり、戦鬼に一閃。 綺麗に首を落としてやったよ。
一番危ない危機は取り敢えず、排除した。 なんとか助けようと、騎馬を降りたんだよ。 倒れ込んだ、最高指揮官の首根っこ持って、出来るだけ森から離れようとしたんだけど、足が止まった。 豪華な装備の胸当てがぼっこり凹んでいるんだよ………… 肋骨どころか、肺も逝ってるなこれ………… 兜がずれ落ち、豪華な金髪が風に晒されていたんだ。
うわぁぁぁ、めっちゃいい男だよ…………
いや、まぁ、そんな事どうでもいいよ。 いま、この人は、命の危機にある。 あるんだ。 ここで何らかの処置しないと、死んじゃう。 後方に移送してたら、間に合わない。 というより、ここから動かしたら、まず間違いなく、心臓に傷が入る。 大出血して、終わりだ…………
「殿下ぁぁぁ!!! ハリーストン殿下ぁぁぁぁ!!!!!」
えっ? いま、なんつったの?
ハリーストン殿下?
じゃぁ、このスンゴイ美形さん………… 第四王子のハリーストン殿下なの?
私の……
婚約者なの?
なんで、今、ここで逢うの?
異世界転生のカテゴリーで十位以内に、複数日ランクイン。
皆様のお陰です。 精進いたします。 ほんとうに読んで下さってありがとうございます!!
やっとこ、王子様♪に逢う事が出来たんだけど、王子様人事不肖、さらに重傷。 もひとつ酷い事に魔物が迫ってる状況。 さぁ、どうする、どうなる、フリージア。
頑張れ、負けるな、我らが姫様!!
やっと、恋愛カテゴリーっぽい事が出てきました。 はい、そうなんですよ、このお話って、恋愛カテゴリーなんですよ!!! (力説!
物語は加速していきます。
次回、瀕死の王子様と………… (予定は未定です