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閑話 ハリーストン殿下の憂鬱と疑問




 ――――私には婚約者が居る。




 法衣伯爵の御令嬢だ。 




 不釣り合いだと云う者は多数いる。 それは、この国の貴族の間では、公然と話されている事実だ。 というのも、私はこの国の第四王子に生まれた。 国王陛下も、王妃殿下も、私の相手には特に気を配って居られたという。


 御婆様である王太后陛下が私の婚約者をお決めになったのは、私が七歳の頃。 ローレンティカ帝国との古い約束を果たそうとしたためだった。 ローレンティア帝国は、国力、軍事力で比較出来ない程の強大な国家だ。 古い約束だとしても、違える事は国を危うくすることになると、言を尽くして国王陛下を説得されたらしい。



 そして、この婚約が決まった。



 法衣伯爵のフルブラント伯爵の長女と言う事だった。 彼の正妻が、ローレンティア帝国の末の姫の娘であり、その第一子がフリージアという訳だ。 母である王妃殿下はこの婚約の事はお気に召さない。 何故ならば、本当なら母の居る王妃の座にフルブランド伯爵の正妻が座る筈だったから。





 ^^^^^^




 当時、決まっていた、その輿入れに、この国の高位貴族の大半が反対した。 王太子であったルードヴィック=フェールタール=ランドルフ四世は、先代国王陛下の只一人の男児。 この国の王家に他国の血を引き入れることに強く強く反発したのだ。


 その上、王太子であった父上には想い人が居た。 レーべンハイム侯爵家の長女、アラフレア=ミスト=レーベンハイム…… そう、母上なのだ。 深く共に愛し合っていた二人は、先王様に願い出た。 伴侶として、国母として、そして王妃として、アラフレアと共に歩くと…… ほぼすべての貴族がその事に諸手を挙げて賛同し…… その重圧に屈し、あの方は婚約者の地位をお母様に明け渡したんだ。


 あの方…… リンデバーグ=フォン=エスパーニア辺境伯爵と、ローレンティカ帝国の末姫 「九ノ宮」様、帝位継承権九位のお姫様エレノア=ウリス=エスパーニア辺境伯婦人の一人娘……




 アメリリア=フラール=エスパーニア辺境伯令嬢……




 そして、貴族達は考えた。 女児しかいないエルパーニア辺境伯の女婿に当たり障りない、フルブランド法衣伯爵を与えようと…… フルブラント伯爵家は古くから王家に仕える法衣伯爵家。 領地は無いが、王家の信認も厚く、重用されてはいた。 財務にも明るい有能な官吏。 そして、ゆくゆくはエルパーニア辺境伯の領地、家門を継いで領地伯爵として遇するという、餌をぶら下げて、その婚姻は勧められた。


 フルブラント伯爵の係累達はこの厚遇と、将来の辺境伯の地位に魅了された。


 嫌がるフルブラント伯爵を説き伏せ、婚姻を結ばせたんだ。


 しかし、彼には将来を約束した相手がすでに居た。 レンブルトン侯爵家の二女、マーリヤ=ノイ=レンブルトン公爵令嬢だった。 そう、フルブラント伯爵…… エルブンナイト=フォウ=フルブラント法衣伯爵は、彼女を失う事を良しとしなかったんだ。 御家の為、アメリリア様と婚姻を結ぶが、愛妾として、マーリア様を常に側に置き続けた。


 アメリリア様との間に一子を設けた後は、彼女を遠ざけた。 


 苦言を呈する、王太后様に言われた言葉…… 母上がそっと教えて下さった。





「役目は果たしました。 愛するものと共に生きて行きたいというのは、それ程までに罪深いモノでしょうか? ならば何故、国王陛下の御側にアメリリア様を置かれなかったのです」




 愛を貫き通すその姿勢に、王太后陛下は何も答えられなかったらしい。 父、ルードヴィック=フェールタール=ランドルフ四世を、心から愛していたのは、なにも母上だけでは無かった。 アメリリア様も同様にある意味、慕って居られた……


 長きにわたる厳しい王妃教育も、笑顔で潜り抜けられたアメリリア様…… 厳しい目を向けられつつも、国王陛下の隣に立てるよう、国母として恥ずかしくない様、なにより、我が国と、ローレンティカ帝国の間の平和の礎となる様、そうずっと教育され、応えられてこられたのだ。


 しかし、アメリリア様は…… 婚姻の適齢時期に、突然その婚約を破棄され、意に沿わぬ婚姻を強いられ、愛されもせず、子を孕んだ後は顧みられもせず……


 御心を壊されて、辺境伯領へと療養に向われ、その地で身罷られた。 


 ランドルフ王国の高位貴族達は、後味の悪さを感じていた。 残されたフルブラント伯爵との間に出来た女児……




 これが、私の婚約者となる、フリージア=エスト=フルブランド伯爵令嬢であった。





 アメリリア様の御療養に伴い、彼女は三歳で王都を離れ、以来王都には戻っていない。 彼女が五歳になった時、私との婚約が決まったのだ。 報えなかったアメリリア様への償いなのか、王太后陛下は強硬にこの婚約を勧められたのだ。



 父王も、母妃殿下も、同じような罪悪感を感じていたのかも知れない。



 私は第四王子。 王家の血筋という面では、さして重要ではない。 すでに長兄である、ベルグラード第一王子が王太子殿下として立っている。 さらに、美しい皇太子妃も娶られ、仲睦まじき様子は、私から見ても微笑ましく、そして頼もしく思う。


 王太子として、ベルグラード兄上が立太子した後、次兄であるヘリオス兄上は臣籍降下され、さらに第三王子であったフルブルトン兄上は、隣国エデンバラ王国第一王女の王配と成られた。 どちらの兄上も、良き伴侶を得られ、仲睦まじき御様子なのは、私としても嬉しい限りなのだが…………





 しかし、残念なことに、本当に残念なことに、「問題」が持ち上がったのだ。





 仲睦まじいベルグラード兄上御成婚より、五年の月日がたった今でも、御義姉様に「ご懐妊」の兆しが無いのだ。 王家としてはこれは大変困った事なのだ。 ベルグラード兄上は、国王陛下を大変敬愛されており、また、女性関係も、国王陛下と同様に大変潔癖であるという事は、周知の事実。 どれだけ周囲が側妃をと勧められても、頑として言う事を聞かないのだ。


 すでに次兄は臣籍降下されている。 次兄もまた、殊の外、愛しておられる御義姉様を娶られていた。 女児では有るがすでに第一子も設けられている。 いずれ、男児の誕生も考えらるが、今はまだ未来の話。 ヘリオス兄上は臣籍降下されている為、王位継承権が無い。 ヘリオス兄上は、次代の王太子としては立てないのだ。


 詰まるところ、ベルグラード兄上の所に男児が生まれるか、ヘリオス兄上の所に男児が生まれ、ベルグラード兄上の御養子になるしないと、いけないのだが…… 万が一と言う事が有る。




 そして、第四王子の私にその役割が授けられそうになっている。




 未だ未成年。 十五歳なれど、王位継承権を保持したままの私。


 万が一の場合は、私が王位に着き、次代を作らねばならない事に他ならない。 このような事態になり、私と、私の周りには、今までになく注目が集まってきている。 すでに婚約者を持っているが、その相手が、法衣伯爵の娘。


 未来の国母に成らんとするには、些か爵位が足りないと言わざるを得ない。 しかし、王太后様からの強い勧めで結んだ婚約……  白紙に戻すにはなかなかに難しいと言わざるを得ない。 私の婚約を白紙にすれば、エスパーニア辺境伯爵家との間に世代を超えての「二重の不義理」となってしまう。 東方辺境を担う東の辺境伯の勘気を被る事は間違いなく、その場合、東方辺境域の王国からの離脱すら考えられる。


 高位貴族達は軽く考えているが、ヘリオス兄上も、他国の王配になったフルブルトン兄上も憂慮されている。 二人の兄上から、” くれぐれも短慮せず、大局を見る様に ” と、仰せつかっている。 


 私の周囲の策動は、今に始まった事ではないが、王家の血筋に他国の血を入れる事に否定的な多くの貴族達が、母上、アラフレア王妃殿下に取り入っている事が、事態をさらにややこしくしているのだ。 王家の思惑、高位貴族の策動、ランドルフ王国の国体…………


 一度もあった事の無い、私の婚約者殿。


 貴女は、私の置かれているこの状況をどのくらい理解されているのか?


 手紙一本も寄越されない貴女に、どの様に心を砕けば良いのか?


 聴けば、先ごろ王都に来られたとか。


 なぜ、私と逢おうと成されないのか。


 避けておいでなのか?


 貴女の母上にしてしまった、王家の仕打ちに……



 其処までの「お怒り」を覚えておられるのか?



 王家からの婚約の打診を受けられたのは何故なのか?






 フルブラント伯爵の意思か?



 エスパーニア辺境伯の意地なのか?






 フリージア殿…… 貴女の意思は、何処に有るのか…………




 判らない…………



 判らないが故に…… 問うてみたい…………




 まだ見ぬ、我が婚約者、フリージア殿。








ハリーストン殿下もまた、情報統制下に置かれているようですね。


一本の手紙すら彼には届いていないようです。 フリージアさんが何を為し、何を考えているのかが、全く伝わっていません。 純粋培養中の殿下は、なにか行動を起こしそうなそんな気配が濃厚です。



物語は、加速していきます。



次回、辺境領にて お送りいたします。

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― 新着の感想 ―
アメリリアお母さん、可哀想なだけの人じゃないですか。
[気になる点] どうして自分から手紙を送るという発想にならないのか……。 フリージアを責める資格ないですよね。
2023/09/14 02:59 退会済み
管理
[一言] 誤記と思われる個所をご報告いたします。 レンブルトン侯爵家の二女 →レンブルトン公爵家の二女
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