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1.伯爵令嬢は戦乙女

何故だろう? 女性主人公の方が動くんですよ。


突然思い立って、つらつら綴る、緩いお話。


宜しければ、お茶請けにどうぞ。



             澄み渡る空。



       高い雲。 明るくも慈愛の籠った陽光。




            鳥が鳴いてるね。




        とってもいい、ピクニック日和だわ。





 バスケット下げてさ、お昼ご飯詰めてさ、大好きな人と一緒に散策するんだよ、こんな日は。 芝生の上に敷物を敷いて、でっかい帽子の下からはにかんだ笑顔を向けるんだ。 そんでさ、バスケットの中から、ちょっぴり歪になった、サンドイッチとか林檎酒とかだしてさ、そっと大好きな人に手渡すんだ。


 顔を見合わせて、美味しいねって言い合ったりなんかしてね。 いいなあ~~ そう云うのって。


 






 現実は厳しいんだよ。 お馬さんに乗った私の両隣は、重装騎兵の装備を着込んだ、むっさいおっさんが二人。 エルクザード と、マエーストロ。 通信兵からの連絡を受けて、私に報告して来るんだ。 甘い妄想は、ココでぶった切られるんのさっ!




「前方に展開する、歩兵。 数、千五百。 二個方陣を組み進軍中。 歩兵装備については、アントーニア王国兵準拠。 槍兵五段、主力として短剣盾装備兵十五段、後備に遠距離支援弓兵五段 その他重騎兵五十騎、軽騎兵百騎が、後方に展開。 側方迂回の機を伺っております。 敵軍団長は、最後尾。 後備兵は配置されておりません」


「練度は高く、士気も旺盛。 王族直卒というのが、効いて居るのかな? あの将旗は…… 確か、精鋭と伝わってる、アントーニア王国 第二軍、第一軍団の物ね。 つまりは、第三王子が出張って来たって事よね」


「お嬢、ヤバいですよ。 こっちは王都からの援軍は期待できませんし、あちら程、練度は高くないですから」




 薄暗い、お部屋の中で、散々説明したじゃ無いの。 御爺様だって、ご了承してくれたじゃ無いの。 私達だって、なけなしの戦力かき集めてるんだって、知ってんでしょ? 乙女の妄想ぶち壊してくれたんだから、もっとシャキッとしなさいよ、もう!




「あら、弱気ね。 でもね、あちらもそうは余裕ないわよ?」


「「 お嬢ぉぉ !!」」


「だって、見てごらんなさいな。 軍団はとっても気張っているけど、輜重隊が細いのよ。 それに、後備兵居ないでしょ? 現有戦力にて、サナトス城塞をどうにかしなきゃ、戦略的にあちらの負けよ? で、ココは何処かしら?」


「…………東アラルカン渓谷出口ですな」


「そう、あちらがサナトス城塞を落とそうと思っても、まだ、アラルカン渓谷を抜けないといけないの。 それも、たった二個軍団でね」


「であるならば、渓谷内に引きずり込んで、殲滅すればよろしかろ?」





 参謀職なんだからね、マエーストロは。 そんな、脳筋的思考しないでよ。そんな事をしたら、ドンダケの損害が出るか判ったもんじゃないでしょ? 勝てると思ったら、あちらの国は、次々と増援送るわよ?


 第三王子だけの手柄だと、政治的衝撃が、大きすぎるもんね。 きっと、王太子様の近衛とか、下手すりゃ、国王が陛下の親征なんて事にもなりかねないもの……


 耐えられるの? ここで叩き潰さなきゃ、図に乗って来るわよ? きっと、ココが分水嶺。 負ければ引くし、勝ったら、押し込んで来る。 間違いないのよ。 うちの諜報官達は優秀なのよ?




「渓谷は一本道じゃ無いし、それこそ入り込まれたら、殲滅するのは大変よ? サナトス城塞はそれ程強固な城塞じゃ無いんだし。 此処で迎撃戦するから、あちらも部隊を分けず、進軍してきたのじゃない。 それに……」




 騎馬の首を巡らし、私の背後を見るの。 側についてくれている、二人の参謀が同じように、背後を見る。 ギラギラした目の騎兵達が、殺気を漲らせつつも、静かに馬上に伏せていた。




「精鋭二百五十騎。 お嬢直卒…… それに、アレは、あいつ等は知らない……ですな」




 エルクザード、判ってんじゃない。 私の視線の先は、騎兵達の更に後ろ。 アラルカン渓谷出口に集められている、数百本の筒状の物に向けられているのよ。 小柄な魔法騎兵が一人そこから、ズンズン近寄ってくるの。 準備完了って訳ね。 走り寄って来る魔法騎兵は私の直前に到着すると、下馬せずに、するりと近寄って来た。




「嬢様、準備終わりました。 何時でも、御下命下さい」


「照準は事前の想定通りなの?」


「はい、嬢様。 あちらが、簡単に引っかかってくれたおかげで、想定通りの進撃路を通って呉れますので」




 先ずは、順調って訳よね。 でも、その為に歩兵達には苦労を掛けたわ。 戦わずして引くのは、辛い撤退戦だもの。 纏め上げている、御爺様はほんと凄いと想うの。 私じゃ、あんな事出来ないわよ。 さすがは、ランドルフ王国の白戦鬼と名高い、辺境伯爵様だこと。 でも、御爺様、開戦前のお約束、破ってはダメよ。 ちゃんと生きてサナトス城塞でお逢いしましょうね。





「あちらも、こちらも、もう後は無いんです。 では、始めましょう。 辺境伯歩兵が、予定線まで撤退したと同時に、行動開始です。 アーリア、連絡は宜しくて?」


「嬢様、勿論に御座います」


「エルクザード、マエーストロ、騎兵の皆さんの準備は、完了しておりますわよね」


「号令と共に、襲撃可能だ。 いつでもいいぞ」


「よろしくて! この戦、負けられません。 魔法騎兵アーリアは先に戻って、現状を報告。 一千五百 対 七百の戦。 度肝を抜いてやりましょう。 全騎兵抜刀! 砲兵準備! 騎兵突撃準備! 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…… 我に続け! 突貫!!!」





 背後から、肚に響く重い音が響いて来た。 まずは10発、そして、五月雨式に、10発づつね。 相手の矢よりも遠くから、打ち込んであげるの。 着弾と同時に蹂躙開始するわ。 というより、着弾速度に合わせての進軍。 この音と爆発に耐えられる馬を鍛えるのが、ホントに大変だったもの。 二百五十騎…… それしか用意できなかったのよ。


 隠していた騎兵たちと丘を乗り越え、駆け下り、そして、ちょっと進撃進路をずらして、御爺様率いる歩兵の前面に出る。 そして、そのまま突撃。 本来ならあり得ない戦術。 槍兵の前に騎兵が立ち向かうなんて、それも固い方陣に対して正面から殴りかかるなんて、戦場の常識をまるっと無視しているの。 



 でもね、ここでは、コレが正解。



 固い方陣の前面に展開している槍兵をどうにかしたら、後は歩兵。 そして、弓兵。 それも長射程の長弓兵だから、突撃した騎兵には効かない。 相手の騎兵は正面から殴り込んできた、私達をどうかしようとしても、完全に遊兵化しちゃってるから、対処不可能。 


 あの第三王子の狼狽が目に浮かぶわ。


 で、こんな無茶な戦術を可能にしたのが、そう、今背後から飛んできたモノなんだ!




      ヒュルヒュルヒュル~~~

                ドドンドン!



           ヒュルヒュルヒュル~~~

                   ドドンドン!




 着弾と同時に大きな破裂音。 それと同時に抉られる大地。 巻き込まれる、相手方歩兵の方々。 ええ、そうよ、榴弾なのよ。 強力な攻撃魔法の存在しないこの世界。 魔法と言えば、生活魔法とか、通信魔法くらいしかないこの世界。 強いてあげれば、身体強化するくらい。 そんな魔法なんて、およそ軍事的に大々的には利用できていなかった。 でも、御爺様と私は、御領地の皆と、そんな魔法を使える形に()()()()()




 爆発は、高速の燃焼。




 薄く引き伸ばした金属で出来た筒の中に燃焼材を詰め込み、生活魔法でおなじみの発火魔方陣を重複して書き込んだだけの代物。 筒の片側を閉じて、もう片側に穴を開けた蓋で閉じただけのモノ。 内側から高速で燃焼。 燃焼ガスが穴の開いた蓋から、猛烈な勢いで迸るの。 それが、城壁爆砕用の爆薬を素早く進軍して来る敵歩兵のど真ん中に落とす事が出来るって、だれも予測はしてないよね。


 構造は簡単、効果は絶大。 何度も実験を繰り返して、ばらつきも抑えて、試作から、本生産までを極秘裏に進めたのは、御爺様と、辺境領の魔法騎士たち。 こんな辺鄙な領土に居るくらいなんだから、王宮魔導師みたいな、高い能力を秘めた人材何て皆無なのにね。 でも、必要に迫られると、人って変わるのよ。



 みんな素敵な人よ。 ほんと、頭もいいし、優しいし、真面目だし。 私の大切なお友達なんだからね。



 着弾の衝撃で穴の開いた方陣。 狼狽える敵兵。 戦意を失った者達には興味は無い。 一目散に司令部の有る場所を目指す。 蹴散らかされる、歩兵さんと弓兵さん。 進軍速度と同じ速さで撃ち込まれる着弾音は、唐突に終わる。 丁度、方陣を抜けた。 あと少ししたら、撤退用の煙幕が撃ち込まれる手筈。




 だから、ココで決めなきゃ!




 何処だ! ――――居た!!





 第三王子の将旗が翻る場所。


 王子を護ろうと、慌てて集まる、彼の参謀の人達


 でも、遅い!! 


 手に持ってる、グレイブを振り上げる。






「ランドルフ王国 オーベルシュタット辺境領、エスパーニア辺境伯爵が孫 フリージア=エスト=フルブランド!!  アントーニア王国、デギンズ第三王子の身印を頂戴したく馳せ参じた! 御覚悟召され!!」






 まぁ、名乗りはあげないとね。 驚愕に目を見開いて、豪華な装飾の剣を引き抜く事もままならない、デギンズ第三王子。 爆音にすっかり怯え切ってる白馬は、竦んじゃって動きも出来ない。 よし、万全。


 魔力を体に沿わせて、体力強化してるけど、あんまり魔力総量無いんだよね、私。 だから、ちゃっちゃと終わらせないと、とってもヤバイのよ。 グレイブを振りかぶって―――



     一撃!



 参謀の一人が間に入ってきて、私の一閃に吹き飛んで行った。



     二撃目



 別の参謀がやっぱり邪魔をする。





 こっちは、時間が無いんだってば! 三撃目は突きに変えるの、もっと彼に近寄ってね! さぁ、覚悟をお決めくださいませ! うなりを上げて、突き出すグレイブ。 白銀の豪華な鎧の胸板に届いたんだ。 いける!! 押し切れば! 紛争は終わる!!


 豪華な金髪のイケメンなデギンズ第三王子の顔に驚愕と怖れと、死への恐怖が刻まれ、落馬したんだ。






             〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇






 でもさ、現実はそう甘くないんだ。




 油断は大敵。




 二百五十騎の先頭を走っていた私だもの、あっちから見たら、良い的よね。 方陣の真ん中を突っ切って来たんだ、そりゃ、短時間の勝負だからさ。 でも、あっちも相当の手練れだもの、やっぱり混乱から回復するんだって早いんだ。


 両翼の後段の弓兵が、中央部を割って司令部に押し入った騎兵を見つけるのは、時間の問題だったんだ。


 まぁ、想定してた時間よりも、早かったって事よね。 流石は精鋭って訳よ。 






           カ―――ン!






 (メティア)に強い衝撃が有ったの。 長弓で狙撃されちゃったよ。 時間切れだよ。 衝撃で、頭を振られたから、視界が歪む。 脳震盪だねこりゃ……





「「 お嬢ぉぉぉぉぉ !!!!! 」」





 ちょっと、遠くに、エルクザード と、マエーストロの声がした。 




 ヒュルルルルル~~~~~


 ドドンドドン





 周囲に白煙が充満する。 撤退援護用の煙幕が展開されちゃったよ………… ダメだ、押し切れなかった私。 メティアがさっきの衝撃でずれ落ちた。 私の深い琥珀色の髪が、戦場に晒される。 まだ、諦めきれない。 もう一撃……  そう思っていたんだ。



 でも、私の騎馬が良い働きをするんだ。



 フラフラになってる私を落っことさない様に、それでも、出来るだけ早く、煙幕の中に駆け込んでくれた。 あのまま、あそこに留まってたら、確実に殺られてたね。 ちょっと、頭に血が上ってた。 フラフラ蛇行してた私の両脇に、エルクザードと、マエーストロの騎馬が寄り添い、私が落馬しない様に支えてくれた。




「お嬢、約束が違います。 こんな所で、貴女を失う事など、出来る訳などない!! 者共、引けぇぇ、後は、辺境伯が押し出される!! 任せよ!!!」




 エルグザードの叫びに似た声が私の耳朶を打つんだ。 そうだよ、そうだったよ。 私は死ねないんだ。 こんな所で、死ぬわけにはいかないんだ。 御爺様と約束したじゃないか。 サナトス城塞でお逢いしましょうって…………




 そうだよ。 私は死ぬ事なんざ許容しない。




 生きて、生きて、生き抜くんだ。



 おばあちゃんになって、孫やら、ひ孫やらに囲まれて、目を閉じるその時まで、絶対に諦めないんだ。 そうさ、諦めないんだよ。 





 死ぬには、早すぎるんだ。





 そうさ、だって私、






 まだ、






 十五歳なんだぞ?












色々詰め込んでみた。


詰め込み過ぎた。


そして、暴走が始まるのです。


楽しんで頂ければ、幸いです!!




龍槍 椀



(このお話は、勢いで綴りました。 後悔はありません!)

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[気になる点] 誤字報告不可なので、こちらに入れておきます 筒の片側を閉じで→閉じて
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