日常
次の日、僕は紫が家を出てから10分間ぐらい時間をおいて家を出た。
その事が幸いしてか紫に会わず学校に来れた事にホッとして、荷物を置くと。
「こんにちは、光君」
「こんにちは、葵さん」
葵さんが挨拶をしてきてくれた。
葵さんは入学式の日、知り合いが誰もいなくて不安だった僕に初めて話しかけてくれた、それ以来時々話をする様な仲だ。
「光君、あの、紫さんとはどんな関係なの?」
僕が少し不思議そうな顔をしていると。
「いえ、大した事じゃないのだけど、やっぱり転校生じゃない? クラスに溶け込めるか不安でしょ? どんな子なのか気になって…」
そうか、葵さんは紫の事を心配してくれているのか。
「ああ、でもまだ、会って2日ぐらいだから、よくわからないよ。一応、義理の兄になるみたいだから、何かあったら助けようとは思うけど…
そう言えば、紫は毎日日記をつけてるみたいだから、案外マメなのかもしれないよ」
でも、実際に日記をつけている所を見た事はないや、やっぱり見られたくない事とかも書いているのかな?
「へえ、紫さんも日記つけてるんだ」
葵さんがそう言い終わるとチャイムが鳴り、僕と葵さんは席に着いて本を読み始めた。
その日家に帰って来ると母さんが少し真剣な声色で僕に話しかけてきた。
「ねえ、光。紫ちゃんは学校で上手くやれてる?」
「さあ? まだ転校して間もないから、わからないけど特に気になる所は見てないよ、どうしたの?」
せいぜい転校当日の爆弾発言ぐらいだ。
「そう、なら良いのだけど…」
「けど?」
母さんは真剣な表情で僕を見ると
「光、この話をした事は紫ちゃんには秘密ね。」
「う、うん」
「紫ちゃんの行っていた児童養護施設はあまり良いところではなくてね、紫ちゃんも女の子じゃない? だから色々あったみたいで、私達が紫ちゃんを初めて見た時も酷かったの、だから急いで貰って来たんだけど光も出来る限り紫ちゃんを気にかけてあげてね」
急な話でイマイチ現実味を帯びてこないが紫にも色々とあったのだろう。
「そうなんだ……紫も意外と大変な生活をしてきたのか」
するとドアを空ける音がして、紫が帰ってきた。
「ねえ? 何か私の事話してなかった?」
話が聞こえていたのだろうか? 僕が測りかねていると、母さんが
「お兄ちゃんになったんだから妹を見よろしくねって光に言ってたのよ」
「そうよ、お兄ちゃん。もっと私を可愛がりなさい!」
少しわざとらしく紫が胸を張って言うが
「いや、逆にどんな対応を求めてるんだよ」
「そ、それは、勉強を教えてくれたり?」
「勉強を教えるって言っても同じ学年なんだけど」
「………」
「はいはい、夕食はできてるから早く食べましょ」
母さんが見兼ねて助け舟を出してくれた。
こんなふうに僕は少しずつ紫を受け入れて行った。