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春の君の嘘なんて僕は知る由もない  作者: 朝日奈 イリナ
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BOYMEETSGIRL

春風に舞い散っていく花びら。鼻につく甘い香り。校門の桜並木の前を歩いていく生徒達。それぞれが仲の良い友達と並びそれぞれの教室に向かい玄関をぬけていく。だが僕は違った。校門のすぐ横で足を組みパイプ椅子に腰掛ける。片手には黒のボールペン。もう片方には全校生徒の名簿が書かれた紙を綴っている丈夫なファイル。それの表紙には几帳面な字で『遅刻者名簿』そう書かれていた。そうこれが僕の仕事だ。僕が通っている国内でも群を抜いたほどの進学校、私立星野夜高等学校生徒会副会長且つ風紀委員長。生徒会長がつい先週転校したおかげで僕が実質生徒会長のような立場だ。本当にため息が止まらない。教室に向かう女子生徒がこそこそと噂話をしている。その話に耳を傾けては微笑を浮かべしまう。それは僕を絶賛するものだった。整った顔立ち、180cmを超える高身長。生徒数約1000人のこの学校でもトップを誇るほどの学力。前回の全国模試でも総合で2位をキープした。追随をかけるように運動に関してはこの学校でも僕の右に出る者はいなかった。自分で言うのもなんだが才色兼備という言葉がよく似合う。ただ一つの点を除いては。

『コンプレックス』。おそらく多くの人が抱えてる悩みだろう。それは眼鏡をかけているだとか身長が低いだとか。そのコンプレックスのピラミッドの頂点に常に位置するもの。それは趣味の中でも世間的には最も忌み嫌われてるもの。オタクだ。しかし、僕は隠れオタクというやつで、全くモテないわけではない。むしろ噂話をされるほどモテていて、何度も告白されたことがある。だが未だに女の子と付き合ったことがなかった。それは仲良くなった女の子に趣味について語ってしまうことと、小さい頃、今までで唯一好きになった子の忘れもしないあの一言に起因するのかもしれない。

教室に入っていった生徒とは違い校門前に残る僕。パイプ椅子に掛けている重い腰を上げ僕の身長の2倍はあるであろう校門を閉める。これと生徒の服装を目視で確認するためだけに朝早くから学校へ来ないといけない。正直、憂鬱だ。仕事を終えて背を向けた校門から後ろ髪を引くように、

「ちょっとそこのキモオタ!ここを開けなさい!」

理不尽な罵倒の声とともに振り返る。寒気がした。恐る恐る振り返るとそこにはこの世のものとは思えないほどの美しい少女が立っていた。すらっと伸びた長身に綺麗な黒髪は腰くらいのの高さまでカールを描いて伸びている。絵に描いたような美しい顔立ちに幼さを残した胸元。その美しさに魅せられ一瞬声が出なくなった。だが嫌な予感がする。見覚えのある黒髪、聞き覚えのある声。すると彼女は繰り返すように

「ちょっとそこのアンタ聞いてるの?!変態!ブス!キモオタ!」

なんという根拠の無い罵倒だろうか。質素な見た目とは相反し女性としての品格を疑ってしまう。しかしどうやらオタクはバレた訳では無いらしい。めんどくさいから後は先生に任せてしまおう。そう思い再び歩みを進めたときだった

「転校生なのよ!」

聞き流すことが出来ない言葉だった。4月も終盤に入ろうかというこの時期。明らかにおかしな時期の転校。僕のオタク知識が立つであろうフラグの匂いを嗅ぎつけたかのようだった。すぐさま振り返りにっこりと微笑み謝りの言葉を入れゆっくりと校門の片方を開けた。「転校生には優しく」これは僕の一つの座右の銘だった。やはり近くで見ても誰もが見とれるような美しい少女だった、。校門を通りゆっくりと歩みを進めしばらくすると足を止めた。振り向いたかと思えば足速にこちらへ向かってくる。するの彼女ははにかむように

「あっ、ありがと!」

座右の銘のおかげでそっこうでフラグを立ててしまったようだ。

すると彼女はその言葉に続けるように

「私 湊 成葉!よろしくね!」

鳥肌が立った。名前までもが聞き覚えがある。いや、正直に言うべきだろう、繋げたくなかったピースが全て繋がってしまったのだ。春の淋しい風に吹き立てるられるようにただ一人佇んでいた。

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