第2話 遊園地①
「それにしてもこの部屋、大きすぎるだろ」
俺にあてがわれた部屋は、15畳ほどの大きさでその中には据え置き型の高性能パソコンに高級なシングルベッド、いくつかの本棚には様々な分野の本が入っていて部屋の中央には数人が一緒に食事ができる机まである。
そんな部屋を、1人で使っているのだからさぞかし豪遊できていると思うかもしれないが実際は、地下5階に設置されている部屋なのだ。
何故、そんな部屋にいるのかというと俺の能力に関係してくる。
俺の能力は八岐大蛇の力であり、先祖の誰かがその能力を欲したからだと言われているがその結果、強力な力を得たが子々孫々まで伝わるという代償を払うことにつながってしまった。
そのため、子孫達は強大な力をコントロールするのに手間取り続けた上に時折、制御できずに暴走もしたので当時の人々は、とにかくこの力を制御して自由に使えることに力を注いだ。
そして現在、八岐大蛇の力を完全に制御できる術式と共に俺の身体の中に存在し、俺は自由に使えるようになった。
それでも、万が一という言葉があるようにいざという時に俺を閉じ込める方法として、地下深くに俺専用の個室が設けられた。
地上に出る時は、エレベターを使って移動する他に非常時には階段も使えるようになっているが、その階段は何重にも組まれた防衛システムがあるので基本的には使えない。
それだけ、この力は強大だと言うことだ。
――プルルルルルルル、プルルルルルルル、ガチャ
「はい」
「恵介君、遊園地に行きましょ~」
俺がそう思っていると、パソコンの隣にある固定電話が鳴ったので受話器を取ると彩葉が出てきた。
「今日は大丈夫なの?」
「勿論よ~、じゃなかったら君を呼んだりしないもの~」
彩葉は、20代前半の女性だが舎弟頭と呼ばれている実働部隊のリーダーをやっていて、近いうちに幹部への昇格試験があってそれに受かったら晴れて幹部になるらしい。
若頭補佐にする声もあったが、彼女の年齢でそれになるのは早すぎるという意見もあったので、まずは幹部という役職で様子を見て決めるらしい。
昇格試験の試験内容や基準などはわからないが、少なくとも彼女にはそれだけの素質があってそれを見抜いた組織の人が、昇格試験を行うようにしたと俺は考えている。
一方の俺は、武蔵黒澤組の中でも最終兵器みたいな位置づけのため、基本的には組織の方針などには口出しを禁止されている。
口出しできるのは俺の身の回りのことだけであり、それですらも大幅な制限が掛かっているので実質的には口出しできない状態だ。
しかし、そんな俺でも生活の自由は許されているので朝の6時から夜の12時までだったら、好きな時に外出していい。
朝帰りとかは、前もって母親との打ち合わせで許可が下りないとダメなので、1人でする機会はあまりないだろう。
「どこに行くか、決まってるの?」
「近場の遊園地だけどちゃんと遊べるようにお母さんの許可は取ってきたわ~」
そんな訳で、彩葉との遊びについては俺も行きたいのでどこで何をするかをちゃんと打ち合わせようとした時、彩葉が先回りで許可を取ったらしい。
「・・・話が早いな」
「当然よ~、恵介君と遊べる機会がめっきり少なくなったんだから行き当たりばったりだと大変でしょ~?」
「そりゃそうだ」
俺がその意見に賛同すると、彩葉は俺を急かした、
「ほらはやく~、じゃないとすぐに閉まっちゃう~」
「はいはい、すぐに行くよ」
俺はそう言って、電話を切って時計を見ると朝の9時を回ったところだ。この分だったら、ちゃんと準備をしていった方が良いなと思って行動に移す。
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遊園地 入り口
「それにしても人がたくさんいるなぁ」
「それは当然よ~、だって今日は休日だし~」
「なるほどねぇ」
彩葉はヤクザなため、高卒ではあるが仕事の方はしっかりとやっているようだ。
学校を卒業したら年中、暇になる俺とは違ってこの世界の女性達の殆どが働く女性として生活を送っている。
そうしないと自分の望むような男とは出会えないし、出会ったとしてもその男を養っていける収入がないと見向きもされないので殆どの人が頑張っている。
しかし、そんな彼女達にも休日は必要だ。
休暇で遊ぶのは、俺のいた世界と殆ど同じようでゲームセンターや遊園地などに行ったりするらしい。
と言うことで、俺達がいる遊園地もかなりの人でごった返している。
「それにしても、護衛が本気なんだけど?」
「仕方ないじゃない~」
俺がそう言うと、彩葉は仕方なしにそう言った。
と言うのも、俺の周囲にはスーツ姿の女性が6人ほどいて警戒に当たっているし、彩葉の他に琴音や珠緒まで来ているのでどこのセレブだよと思ってしまう。
そんな彼女達の服装は、彩葉が巫女服のスカートバージョンで琴音が大正ロマン、珠緒が和服姿だった。
「だって男性の方が外に出ること自体が珍しいことなのよ~。だからこのぐらいのボディガードは必要なのよ~」
「あぁ、確かに男はそれほど見かけねぇな」
俺がそう言って、周囲を見渡すと遊園地に来ている人の殆どが女性で男を見かけるとしてもごく稀であり、見かけても俺と同じようにボディガードで周囲をガチガチに固めている。
それだけ、この世界の女性は男に飢えていることがわかる。
「そうなのよ~、だからけい君と遊びに行けるのをとても楽しみにしていたの~」
「せっかくの休日を返上しているんだから感謝しなさいよね!」
「・・・」
琴音はともかく、珠緒は怒った口調でそう言ったがその割には俺の腕に寄り添って離れようとしない。
「珠緒ちゃん、くっつきすぎじゃあないですかね」
「何よ!文句あんの!?」
「いいや、全くないんだぜ」
「ふん!」
「珠緒ちゃんはツンデレよね~」
「ツンデレですね~」
その事を言うと、珠緒は逆ギレ状態で聞いてきたので俺は笑顔で返すと彼女はそっぽを向いてしまい、それを見ていた彩葉達は楽しそうにそう言っていた。
そんなことがありつつ、俺達は遊園地の入場ゲートまで来て前日に買ったチケットを受付の女性に渡すと、その女性は少し驚いた表情をしていたが俺の周囲にいる人達を見て納得した表情で判子を押してくれた。
そのため、入場ゲートをくぐって遊園地に入って彩葉達を待っているといきなり、後ろから袋をかぶせられた。
「ちょっ、何をするだー!」
「黙って捕まれ―!」
俺がそう叫ぶと、彩葉達やボディーガードの女性達の声ではなかったので正当防衛として行動に移した。
「おらー!とっとと放しやがれ―!」
「!?」
しかし、いきなりのことだったので、反射的に後ろにいた女性を背負い投げしてしまった。
その結果、袋をつかんでいた女性が手を放したのですぐに飛び退いて袋を外すと、路上に倒れ込んでいたのは俺と同じぐらいの年齢の女性だった。
また、とっさのことだったので技をちゃんと決められなかったが、騒ぎを聞きつけたボディガードの女性達が駆けつけてくれて、その女性はすぐに捕まった。
「だ、大丈夫!?恵介君!」
「あ、あぁ。なんとか大丈夫だ」
「怪我とかしてない~?」
「切り傷、刺し傷などはないな。痛くないし」
「もう!気をつけてよね!」
「すまんすまん」
彩葉達も、すぐに来てくれて俺の身柄を心配したり、注意を受けたりした。
(やれやれ、話には聞いていたがここまで飢えているとはな。前途多難だぜ)
誘拐などの話を聞いていたから、ある程度の警戒をしていたが男が1人でいるだけで、ここまで行動に移してくるとは思っていなかった。
こりゃ、外出するだけでも一苦労しそうだと思いながら気を引き締めて彼女達の話を聞いていた。
8月の頭に投稿すると言っていたのに、フライング気味で投稿してしまって申し訳ねぇ・・・
文字数としても少ないですが、ちゃんと書いていくつもりなのでよろしくお願いしますm(--)m