第11話 授業参観
聖華高校 授業中
「何、あの人・・・怖い(ヒソヒソ」
「完全にヤクザさんだよね・・・(ヒソヒソ」
「でも、誰かに雰囲気が似てない?(ヒソヒソ」
「そ、そうかな・・・(ヒソヒソ」
「服装もかなりゴージャスだよね(ヒソヒソ」
「着物姿なんて珍しい(ヒソヒソ」
「・・・」
授業中にも関わらず、ひそひそ話が聞こえるのは仕方ない。
何故なら、俺の母親が目立つような服装で来てしまったからだ。
雰囲気や気配やらはヤクザの生活では必要だし、顔もかなり怖い表情だから仕方ないから別に良いとして服装がかなり派手である。
もう少し、落ち着いた服装で来れなかったのだろうかという気分だが今は授業中のため、昼食の時にでも突っ込もう。
(それはともかく、先生ごめんなさい)
今は昼食前の数学の授業なのだが、母親の外見や雰囲気を見て完全に気圧されてしまっているため、かなり上がっているようで普段の3分の2ぐらいのペースで授業を進めている。
俺も、彼女と親しくなかったら道を譲ってしまうぐらい怖い。
そのため、午前中の授業はややピリピリした中で行われていった。
~~~~~~
聖華高校 食堂
「―――それでこっちが食堂です」
「ほぅ、落ち着いた食堂だな」
授業が終了した瞬間、急いで教室を出ようとした俺を「おい、ちょっと待てよ、コラ」と母さんが己の左手を俺の右肩に乗せた。
その瞬間、教室はかなりざわついたがクラスメイトは遠巻きでしか見れない雰囲気になり、俺は深いため息と共に母さんの案内役になった。
(せめて今朝、念を押してから登校すればよかった・・・あ、ダメか・・・そしたら「押すなよ?絶対に押すなよ?」になるから・・・ん?)
普段だったら、昼食時に俺を誘ってくる女子達も母さんの雰囲気に気圧されて話しかけてくることもなく、参観日のむなしい昼食になるかと思いきや珠緒が数人のグループで食堂に来た。
よく見ると、彩葉達や祐子の他にもう1人の女性が一緒にいた。
「あ、来てたんだ」
「珠緒、さっきから恵介の顔が真っ青なんだけど普段からこうなのか?」
「まっさかー、そんな訳ないじゃん。ねー、恵介」
「あ、あぁ。普段はもっと元気なのさ」
絶対に母さんのせいだ、とは言えないのがつらい。
助けてくれよー、ドラ○もーんと思いつつも俺は話題を見知らぬ女性についての話を振る。
「それでそちらのご婦人は?」
「私のお母さんですー」
「ゑ”」
俺の疑問に、祐子が普段通りの笑顔で言ったので変な声と共にその女性と祐子をまじまじと見比べてしまった。
すると、祐子と彼女の母親との顔の輪郭や眉毛などが親子でよく似ていることに気が付いた。
しかし、あまりにもジロジロと見ていたため、姉妹から注意を受けた。
「あまり人の顔を見るもんじゃないわ~」
「他人の顔を見るよりも私達を見てほしいのです~」
「驚くのも無理はないけど彼女達に失礼よ?」
「おぉっと、そいつはすまねえ」
俺が祐子の母親に謝ると、彼女はある爆弾発言をした。
「ふふっ、構いませんわ。茜姉さん達以外は誰も私のことを六菱重工業のCEOだとは気づいておりませんから」
「・・・はぁ」
その発言に俺はそのまま、聞き流そうとしたが聞き捨てならぬ単語を耳にして俺は数秒、固まった後でこう叫んだ。
「ええええええええ、六菱って日本の根幹を支えている会社だぜ!?その会社の会長がこんな学校に護衛もなしで来て良いのかよ!?」
「ちょ、声が大きいって」
「てか、祐子がそのご令嬢って全然、聞いてないんですけど!?」
「恵介君は今まで通信機器を通しての会話がメインでしたからこの事は知らなくて当然ね~」
「今まで祐子ちゃんに敬語を使ってなかったけどこれからは使った方が良いの?」
「大丈夫ですよ~、ね~?祐子ちゃん」
「はい~、特に気にしていませんので普段通りにして下さい~」
予想外の情報に、軽くパニックになっている俺の質問に珠緒や彩葉がツッコミや答えを言いつつ、琴音が祐子に話しかけると彼女はそう言ったので俺は胸をなで下ろした。
そして、俺は六菱重工業の会長と名乗る女性に改めて質問した。
「それで、護衛もつけずにここに来ても大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。何故なら優秀な護衛が目の前にいますので」
彼女は俺を見てそう言ったため、やれやれと思いながらも話を聞いていくと次のようなことがわかった。
まず、祐子の母親である尾頭百合と俺の母親である黒澤茜は遠い親戚にあたり、俺と珠緒が聖華高校に入学すると言うことで同年代の祐子もこの高校に入学させることにした。
祐子は尾頭家の三女であり、2人の姉は既に大学に入学して会社運営のための知識を身につけ始めているとのことだった。
その一方で、彩葉達と大学に入学した姉妹達とでの交流が小さい頃からあったらしく、その中で俺の存在を知らされていたらしい。
「うぅ、そういうことを早めに言ってくれたら対応も変わったのに」
「そしたら逃げるじゃん」
「はい~、初めての男性の肩が恵介君でよかったです~」
「あっ、てことはお父さんがいない系か」
この世界での男は貴重な資源のため、手厚く保護されていると言えば聞こえが良いがその反面、かなりの行動が制限されている。
一例として上げるならば、今でも男に怪我をさせたくないから肉体労働をさせないという傾向が強いし、軍隊でも兵や下士官よりも士官の方が好まれている。
こうした傾向から、基本的には男は事務職という場面で活躍する人が多い上に定時までに仕事を終わらせるようにする会社が多い。
これは家で子供に接する時間を増やすのと同時に、種馬として男の子を1人でも多く産んでほしいからだ。
その結果、多くの女性は結婚してもそれはあくまで書類上での話であり、実際には母親1人で子供を育てることが多いらしい。
その一方、男共は基本的には施設暮らしか複数人の女性から養われるような存在で、女性の許可がないと自由に外に出歩くことすらできないという事例まであるからかなり窮屈ではある。
それでも多くの国で高校生までは比較的、自由に生活させようという動きがあるため、俺も気ままに高校生活をエンジョイしている。
卒業したら彩葉達を初めとする女性と合体することになるんだろうけど、体外受精もオッケーとのことらしいからそっちの方面でも頑張っていきたいと思う。
そんな訳で、楽しく昼食を食べることになったのだが一方では政治や経済の話になり、もう一方では腐女子としての話で盛り上がっていた。
理由は、尾頭家の長女と次女が途中で合流したので男である俺は腐女子トークにはついて行けず、おっとりとした祐子は政治や経済の話しについて行けなかった。
(なんだろう、この疎外感・・・懐かしいというかなんて言うか・・・)
前世では平凡すぎる能力と言うことで、周囲の人から面白くないと言うことで距離を置かれていた時以来だなぁと思いつつ、話半分で聞いていた。
すると、母親が俺に話を振ってきた。
「そう言えば、クレー射撃で1位になったのって話したか?」
「いや、俺からは話していないけど?」
「うぉぉい、なんで話してないんだよ」
「だってあまり詳しく聞かれなかったしね~」
俺がそんなことを言うと、祐子の母親が詳しく聞いてきたので聞かれた範囲内で答えていった。
~~~~~~
聖華高校 射撃室
「・・・」
「・・・」
「・・・」
普段だったら、それなりに騒がしくなる射撃部のメンバーやその母親達は、緊張のあまりに完全に押し黙っている。
その理由は勿論、俺の母親が部室にいるからだ。
自分達の組織のトップである組長が部活動を見るために直接、自分の足で来るなんて状況はこの場にいる全員が想像しなかっただろう。
俺にとっては只の母親だが、響子達にとってはどこぞやのバラライカみたいな人が組長であり、機嫌を損ねた時点ですぐに首になるのではないかという恐怖心から子犬のように震えている。
「なぁ、恵介」
「なんだい?母さん」
「いつもこんな感じで静かなのかい?」
「いつもはもっと騒がしいんだけどねぇ」
響子達はクレー射撃の腕前を見せようと努力しているが、母親のせいで完全に緊張して力んでしまっている。
おかげでいつもの半分の命中率しか、たたき出していないので母親は俺にやめさせるように言って、他の部活動を見て回りたいと言い出した。
「射撃中止ー!」
そのため、俺はそう言って後の指揮は響子に任せることを伝えて銃から弾丸を抜いて指定の場所に戻してから母親を案内していった。
~~~~~~
聖華高校 廊下
「私が来ただけで力むようじゃあ、まだまだだね」
「ごめんなさい、母さん」
母親が不満げにそう言ったので、俺が謝ると彼女はこう言った。
「ちゃんと鍛え直しておけ、じゃないと次の日には川でうつ伏せの状態で溺れていると伝えておけ」
「了解」
俺はそう言いながら、学校内で行われている部活動の説明をしていった。
主人公の母親はBLACK LAGOONに出てくるバラライカの様な人物だとイメージして頂ければありがたいです
地上で最もおっかない女性らしいですけど、自分の子供に優しいとか萌えませんか?