第6話 クレー射撃の前日
5月初め 学校の射撃場
「よーし!そこまで!」
澪さんがそう言うと、俺や響子達は射撃訓練を終了した。
そして、各自が使っていたショットガンに使っていない散弾がないかを確認してから銃を所定の場所に戻す。
銃で1番怖いのは弾丸の暴発であり、大抵は使っている人の危機意識の低さから来ているらしいので、射撃のコーチをしている澪さんの指示によって銃の確認を徹底させている。
また、銃の仕組みをよく知るために銃を使わない日には手入れも兼ねて、普通の工具で分解できる範囲で分解してきれいにしている。こうすることで、弾詰まりを起こす確率を減らしている。
(明日には射撃大会があり、その結果でこの部活動の存続が決まる)
響子達も、そのことを知っているので自然と無言の作業になってしまう。
大会で優勝している澪さんや、部活を掛け持ちしている俺と違って彼女達の表情はかなり緊張している。
そのため、俺は大会でどのようにするかの確認をする上でこう言った。
「結果に必要な点数は、全点数の9割以上の145点だから最大で5発までしか外せない。だけど気にすることはねぇよ。そのために訓練してきたんだからよ」
「わかってる。わかってるんだよ、恵介。でもな・・・」
俺の言葉に反応した響子が、皆の気持ちを代弁するかのようにこう言った。
「色んな経験をしているお前と違って私達はこの大会、初めてなんだ!とても緊張してんだ!だからもう黙っていてくれよ!」
「・・・・・・わかった、もう俺からは喋らないでおくよ。だが―――」
彼女達の顔を見ていると、誰とも話したくないような表情をしていた。
しかし、だからこそ俺はこの言葉を彼女達に向けて静かに口にした。
「俺は君達と訓練をしていて楽しかったぞ?」
「・・・・・・っ!」
俺がそう言うと、彼女達は苦虫を噛み潰したような表情になったが俺はそれを無視して、地上に上がる階段を登っていった。
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帰宅時の車内
「どうですか?訓練はできうる限りでやりましたが」
射撃部のコーチをしてくれている澪さんが、さっきの会話を聞いていたので心配そうに俺に聞いてきた。
そのため、俺はやや憮然としながらこう言った。
「大会自体は訓練の時と何も変わらねぇ。ただ、周囲が騒がしい点を除けばな」
俺の発言に、澪さんは頷きながらこう返した。
「確かにやること自体は訓練と対して変わりません。しかし、掛け持ちをしていない彼女達にとって廃部は死活問題です。ですので、余計に緊張しているのではないでしょうか?」
「だからこそ、その緊張が困りものなのさ。緊張は身体を力ませるからな」
人間というものは緊張すると変に身体に力が入ったり、パニック状態になりやすくなるから困りものだ。
だから普段から冷静になったり、訓練などをして身体に覚え込ませる時間の方が重要になってくる。
俺もこの1ヶ月間は、クレー射撃の大会さながらに訓練をしてきたため、ショットガンの撃ち方は既に習得している。後は、響子達の気持ちと射撃の腕次第だな。
「・・・もし、大会で合計の点数が最低ラインを下回ればどうするんですか?」
「廃部になるし、俺はそれを阻止しない」
澪さんが、念のために聞いてきたので俺は平然と言いのけた。
すると、
「理由を聞いてもよろしいですか?」
と、澪さんが聞いてきたので俺は思っていることを口にする。
「根本的な原因は、彼女達の先輩達がやらなきゃいけない作業の怠慢をしたためにそのツケを彼女達が払っているに過ぎない。無論、その中に俺も入ってはいるが俺は澪さんを呼んだり、俺を中心に指示を出したりもしていた」
俺はそこで一息、入れてからこう言いきった。
「つまり、俺はルール違反にならない程度にやれるだけのことをやった。だからこれ以上のことは一切、やるつもりはない」
情がないという訳ではないんだがね、と付け加えると澪さんは面白おかしく笑いながらこう言ってきた。
「あなたは冷たい人だと思っていましたがそうでもないんですね」
「おいおい、俺はあくまで結果を求めているだけでそこまで冷たくはねーよ」
彼女のジョークに、俺がツッコミを入れると互いに笑い合った。
こうして、俺は澪さんを駅で降ろすとそれぞれの家に戻っていった。
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夜 自宅
「えーっと、アイウェアとヘッドフォン型保護具はよし。キャップ付きの帽子と手袋も良し。明日、着ていく服もよしっと」
明日は射撃大会と言うことで、地下にある自室にて大会に必要な装備の確認をしている最中である。
銃自体は大会の会場で用意してくれるので問題なく、出場できる上に問題行動を起こさなければ誰でも参加が可能という大会だ。
その分、警備も厳しいが銃を所持する許可証が降りない俺らでも参加できるし、警視庁の許可も出ているので銃を持った俺らを警官が引っ捕らえることもできない。
そんな中、夜なのに俺の携帯に電話が入ってきた。
そのため、電話に出てみると響子からだった。
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自宅から最寄りの駅
夜の10時を過ぎていたため、車での移動はしないで3人程のボディガードと共に駅まで歩いたのだが、電話を受けてから20分ぐらい掛かってしまった。
とは言え、夜に来るまでの移動は目につくので歩いた価値は十分にあっただろう。
電話越しの響子は、ややすまなさそうな感じがしていたのであまり目立つ行動はしたくなかったしね。
そんな訳で駅の指定場所で響子と待ち合わせるため、ボディガードにはある程度の距離を置いて待機してもらうことにした。
そうすることで、彼女との会話もしやすくなるだろう。
そして待つこと、5分。
電車が駅に到着し、しばらくしてから改札口から多数の乗客と共に響子も出てきた。
「おう・・・すまねえな、こんな時間に呼び出しちまって」
「なぁに、気にすることはねぇよ」
出てきた響子は、俺を見つけるとまっすぐに来てそんなことを言ったので俺は本気で気にしていない素振りを見せた。
そのため、彼女は俺にボディガードがいることを確認してから少し歩こうかと言って駅の改札口から離れた。
いくら電子化が進んでいるとは言え、夜になると改札口は仕事帰りの人で混雑するので静かな場所で話したいのだろう。
そのため、ボディガードに移動する合図を出して距離を取りつつも何かあればすぐに行動できるように、一定の距離を保ってついてきてくれた。
そして、歩きながら響子はこう言った。
「昼間はその・・・なんか悪かったな」
「昼間?あぁ、部活動で怒鳴ったことか」
「・・・(コクリ」
射撃部の時に、響子が俺に怒鳴ったことを謝罪していた。
それに関してはこの1ヶ月間、俺も言い過ぎたというと彼女はそれでも謝りたかったのとどうしても聞きたいことがあると言ってこう聞いてきた。
「恵介はさ、こういったイベントの時はいつもどういう気持ちになるんだ?」
「そうだなぁ、俺の場合は緊張と興奮が混じってなかなか眠れなくなるんだ」
「眠れなくなる?」
「そそ、普段だったらもう寝ている時間なのに寝付けなかったりするから、次の日は寝不足で望むことになるから大変な目に遭う」
「それって大変なんじゃないか?」
「あぁ、大変だよ」
響子が驚いた表情でそう聞いてきたので、俺は普通の表情で言うと彼女はさらに聞いてきた。
「そ、その時はいつもどうしているんだ?」
「大会の前日までに可能な限りの準備をして望むようにしている」
俺がそう言うと、響子は納得した顔で頷いてこう呟いた。
「そっか、そうなんだな。恵介でも緊張するんだな」
彼女は、何度もそう呟きながら頷いて俺にこう言ってきた。
「ありがとう、明日はなんとかできそうだ」
「そう?ならよかった」
俺はそんな彼女の顔を見て、少しは彼女のためになったかなと思いつつ、駅に戻ってまた明日と言い合って別れた。
次回投稿が1週間ぐらい後になるかもしれません
理由は私生活での忙しさ、ですので堪忍してつかぁさい