第4話 休日の使い方
黒澤家 朝食
「射撃部に入部したんだってな」
「はい、気の合うメンバーがいましたので」
入学してから1週間程が経ち、そろそろ落ち着いてきた頃を見計らったように母親からそう言われた。
そのため、俺がそう言うと彩葉達がこう言ってきた。
「あそこって確か、うちの構成員の子供がやっているんじゃなかったかしら~?」
「そうです~、元々は普通の人達にも銃に接してもらう機会を設けたいという構成員からの嘆願で始まったんです~」
「恵介はそこに入ったんだ、私はどこだと思う?」
「へぇ~、そいつは初耳だ。それで珠緒はどこに入ったんだ?陸上部とかか?」
朝食時には、俺の家族はあまり喋らないから静かになる場合が多いんだけど、家族共通の話題が上がれば盛り上がることが多い。
仕事上では、縦社会によってあまり会話をすることはない家族だがこう言った私生活においては、普通の家族のように喋ることの方が多い。
そのため、昨日に見たテレビの話題なんかもここで上がることもある。
朝食終了後は、それぞれの役割に就くがその前に彩葉に声を掛けられた。
「先日はありがとね~」
「敵対組織をうまくつぶせたんだってな」
家がヤクザの家系であるため、組織から意図的に離されている俺に対して警察などとの交渉ごとを頼まれることが多い。
理由は、表向きには敵対している警察や他の暴力団やマフィアなどにコネがあり、暗号化された通信を使ってやり取りを行っている。
今回、彩葉達が行ったのは麻薬取引で行われる会場を妨害しようとしていた規模の小さい暴力団を潰すことであり、向こう側から仕掛けさせることで警察が動く状況を作り出した。
その舞台設定を行う上で、俺があえて警察や潰した暴力団に別々の情報を匿名のリークをしたことで邪魔だった暴力団は実質的に解体された。
本来だったらこんな面倒くさいことはせずに直接、潰すことができれば理想だったが場所が場所だったため、そういったことに無縁の俺まで駆り出されることになった。
まぁ、それで組織として動きやすくなるのなら俺が出張った甲斐もあるだろう。
そんな訳で今日は休日のため、午前中は各部署とのやり取りの他に海外に出張している特派員達との連絡を行って、情報の共有をして組織に整理した情報を渡すようにしている。
通常なら、組織と関係があまりない俺にこんなことをやらせているのは高校を卒業したら家業を手伝うことになっているからであり、今のうちにその練習をやっているに過ぎない。
そんなことをやりつつ、ゆっくりと過ごしていると数日前から調べている情報漏洩についての報告が上がってきた。
それによると、武蔵黒澤組と敵対してる組織が以前から潜入調査を行っていて、その中で俺が聖華高校に入学したことを知ったらしい。
その組織の名は姫路山本組であり、西日本では最大の広域暴力団に指定されている組織だ。
構成員は3000人規模であり、準構成員も5000人近くとされているので“東に黒澤があれば、西に山本がいる”と言われている程、仲が悪い。
そのため、互いに蹴落とせるチャンスがあれば全力で蹴落とすし、蹴落とされないように知略を働かせて負い目を作らないようにしている。
しかし、俺の能力によって一致団結している武蔵黒澤組と違って姫路山本組は現在、組織的に空中分解を仕掛けている。
理由は2つあって、1つ目が世界中での活動が未成熟であること。2つ目が、俺のように警察などの行政機関とのパイプを持っていないので法律によって、がんじがらめにされているのでそう簡単には動けなくなってしまう。
行政機関とのパイプがないと、監視網などにわざと穴を開けることができないので海外進出などもはかどっていないようだ。
また、柔軟な発想ができる奴が組織の上位にいないので組織の硬質化を招くことになり、内部抗争が勃発する可能性すら出てきている。
幸い、俺が間接的に所属している武蔵黒澤組にはそういった怪しい雰囲気というのはないので、しばらくは大丈夫そうだなと思っているので普段通りに生活していこうと思う。
―――ピリリリリ、ピリリリリリリ、ポチッ
そんな訳で午前中に終わらせないといけない仕事を終わらせた後、ベッドで読書をしながらグダグダと過ごしていると枕元においてあった携帯電話が鳴った。
「はい、黒澤です」
「まどかですけど今、時間空いてます?」
そのため、電話に出てみるとクラスメイトのまどかだった。
「大丈夫だがどうした?」
「映画のチケットを3枚、買ったので一緒に見に行きませんか?」
「映画って何時からの映画だい?」
「14時からです」
俺が時計を見ると、11時過ぎだったのでこう言った。
「この後の予定を確認しないといけないから折り返しの電話をしてもいいか?」
「はい、急なお誘いでごめんなさい」
「別に構わへんよ~」
俺がそう言った後、少し会話をして電話を切った。
そして、今日の予定を確認すると特にこれといった予定がなかったため、14時から映画の予定を入れて準備をするのだった。
~~~~~~
最寄りの駅の広場
「はわわ!本当に急に入れてしまってすみません!」
「大丈夫よ、まどか。彼自身が数少ない男だから護衛が必要なだけであってこれぐらい問題はないわ」
「・・・」
俺がまどかに誘われてきたのは学校の最寄りの駅であり、まどかの他にはなのはがいた。
そこまで聞くと普通のデートではあるのだが、問題なのが俺を守るように4人のスーツ姿のボディガードがいるので、引っ込み思案なまどかは完全に萎縮して縮こまってしまった。
そのため、俺は誤解を解くためにこう言った。
「諸事情でこうなったがあまり気にしないでくれ。彼女達は仕事熱心だから」
俺がそう言ったものの、まどかは萎縮しっぱなしなので気分転換に話題を変えることにした。
「それはともかく、なんで映画に誘われたのか。理由を聞いていいか?」
「あっ、それはですね」
俺がそう聞くと、まどかは恐る恐るこう言った。
「実は私達、今まで男性の方を映画などに誘ったことがなかったんですよ」
「それで俺を誘った訳か」
「急に誘ったのは悪いと思っているけどあんたといる時にしか、できないからいいでしょ?」
まどかとなのはが、それぞれの心情を語って行くうちに顔を真っ赤にして行くのがよくわかる。
それだけ、考えた上でのお誘いなら断る理由なんてないわな、と思って引き受けると2人はかなり喜んだ表情になり、すぐに映画館に行くことになった。
(しかし、久しぶりだな。電車に乗るなんて)
母親や彩葉達からは、電車という不確定要素が多い乗り物を使ってほしくはないとのことを言われていたし、どうしても使うんだったらボディガードと共に行動してくれとも言われていた。
言われた通り、車での移動をメインにしていたので電車で移動するのに新鮮さを感じてしまう。
そんな訳で、彼女達と会話をしながら電車で揺られてしばらくすると映画館の最寄りの駅に到着した。
今回、見る映画はアクション映画とのことだから映画館に着いて、指定された座席に座るとまどか達は俺を挟むかのように両方の席に座った。
そのため、彼女達とお喋りをして待っていると始まりのチャイムと共に映画が始まった。
薄々、予想はしていたがアクション映画の内容はコ○ンド―に出てもいいようなガタイのいい美人の女性が、マフィアに捕まった自分の息子を助けるという古典的な物語だった。
所々、小気味いいジョークも言ったりするのでなかなか面白かった。
その結果、見終わった後は映画に関して色んな話で盛り上がった。
クラスメイトとのデート(?)ってこんな感じだと思うんですよ
と言う訳で、主人公と関係のある女子とのイベントが進んでいない時はこんな感じで進めていきます




