第3話 入部
聖華高校 射撃場
「んちわー」
「あぁん?」
生徒会長に入部を誘われた日の放課後、俺は1人で射撃部の部員がいるという場所に来ていた。
そこには、難関校にいるはずもないヤンキーな女の子達がたむろしていた。
「射撃部に入りたいんですけど」
「てめえみたいなひ弱に銃を扱えるかよ」
「ひ弱じゃないんですがね」
俺がそう言うと、ヤンキー達の中でリーダー格の女の子が出てきて俺にこう聞いてきた。
「お前、名前は?」
「・・・黒澤恵介」
「なっ!?」
俺が自分の名前を言うと、リーダー格の女の子が驚愕の表情をあらわにして部員達を別室に集め出した。
「あんたはそこで待ってろ!いいな!」
「あっはい」
彼女に言われて待つこと5分、早く出て来ないかなぁと思っているとヤンキー達は別室から顔面蒼白になって出てきて、頭を上げながら俺にこう言った。
「「「「「暴言吐いてすみませんでした!!」」」」」
「・・・ファ?」
状況が読み込めず、俺は変な声を出すしかなかった。
~~~~~~
「なるほど、そんなことになっているとはたまげたなぁ」
「発信源まではわかんないっすけどかなり拡散しているので信憑性は高いっす」
俺がリーダー格の女の子から聞き出したのは、頭を下げた理由と謝罪した理由についてだった。
まず、頭を下げた理由は難関校を成績トップクラスで入学していたことと俺が武蔵黒澤組の関係者だと言うことが上げられる。
暴力団自体は、民衆から忌み嫌われる存在ではあるがその傘下に入っている下っ端にとってはなくてはならない存在とも言える。
何故なら、彼女達にとって自分の存在証明をしてくれる組織であり、自分が属している暴力団の組長の関係者ともなれば滅多に会えない存在である。
射撃部のメンバーは武蔵黒澤組に属している組員の子女であり、リーダー格の女の子は俺の能力に関しては親からよく聞かされていたので男である俺がこの部活にきた時から注意していた。
そして名前を聞いた瞬間、驚愕したのは組長の長男だと言うことがわかったからであり、部員達に俺が組長の息子だと言うことを証明したからだ。
一方、謝罪した理由は俺の機嫌を損ねて組長に今回の件を報告されたら間違いなく、親の首が飛んで自分達が路頭に迷うからである。
暴力団というのは、基本的に縦社会であるので上の意向に逆らうとあまりいい顔をされない上、大きく反発すると反発した人間が失踪してしまうこともあり得る組織である。
そのため、無礼を働いたが頭を下げて謝罪することで悪いように報告しないで下さいという考えが見えた。
俺としてもあまり、暴力沙汰や流血沙汰になってほしくはないので親には報告をしないと言うことで話は纏まった。
しかし、事実を知った彼女達の中で縦社会の雰囲気が一気に出てきたので極度の緊張が見られる。
理由は言うまでもなく、俺が持つ八岐大蛇の能力が起因しているがこの状況を打破するには、俺から話題を切り出さないと行けないと思って色々と聞いていた。
その中で気になったのは、難関校に入学した俺の情報が本来ならば秘匿していたはずなのにどこからか、漏れ出していたことについてだった。
暴力団の関係者が入学すると言うだけでイヤな顔をされるため、入学に必要な書類は全て表向きの会社名などを使用していたのだが意図的に漏らされた可能性が出てきた。
これに関しては、後で調べるとしてまずは入部が可能なのかについて知りたい。元々の目的が、それだったし。
俺がそれを言うと、リーダーの女の子はお茶を濁したように言った。
「あー、それはなぁ・・・」
「どうした?」
俺は、眉を片方上げてさらに突っ込むとその子は申し訳なさそうにこう言った。
「実は近々、クレー射撃の大会があってそこでちゃんとした成績を残さないと廃部になってしまうんだ」
「なん・・・だと・・・?」
それを聞いた俺は、驚きはしたが驚愕の域にまでは達しなかった。
何故なら、銃を管理するのにはお金が掛かるので家に1挺とか2挺とかのレベルならまだしも、学校などの公共機関が管理しているのは10挺単位の数だ。
そうなれば、銃に対する様々な維持費は最低でも年間で数十万円もかかるが、それを支払っているのは学校のお金だ。
となれば、結果を残せていない上にお金が掛かる部活動に対して学校が支払うことを躊躇うはず。
ならば、背部にしようという論調も理解できる。
しかし、銃好きな俺からすればそんな論調のままで射撃部を廃部させる訳にはいかない。
と言うことで、俺はこう言った。
「だったら俺が入部して結果を残せばいいじゃん」
「だ、だけど兄貴。クレー射撃はハードルが高くて結果を残しにくいんだぜ?」
「大丈夫大丈夫。俺は何度か、クレー射撃の大会に出てるから」
「・・・」
射撃部のメンバーが、俺の入部を引き留めようとするのも無理はない。
実際、クレー射撃で必要なスコアは凶悪事件などの発生で年々、上がってきているために銃を持とうとする人が減ってきている。
そのため、お金が掛かる上に試験なども難しくなってきている銃よりも弓道や剣道の方がやりやすいと言うことで、部員数も最盛期の20人から今では5人にまで減ってしまった。
事情が事情だし、ここでちょっとしたブームでも起こればいいかなぁと思ったので入部しておこうという行動だ。
(それに彼女達だったら俺に無理矢理迫ってくることはないだろう)
俺はそう考えて、改めて入部届を出して射撃部に入った。
~~~~~~
帰り道 車内
「珠緒様は先にお帰りになりましたよ」
「ありがとうございます、須藤さん」
平和な世の中とは言え、何が起きるかがわからないのがヤクザの世界。
そのため、家から学校までの往復の通学やそれ以外の目的地までには、自家用車で移動するのが家の当たり前となっている。
特に、特殊な能力を持っている俺が拉致でもされてしまったら組織に理不尽な要求をされてしまう可能性があるため、車での移動が基本となってしまう。
その結果、この世界に来てから電車に乗ったことがない。
元々、平凡な学生だった俺としては高級車で送迎されることになれておらず、今でもそわそわしながら乗っている。
とは言え、部活動に参加できるのは大きい収穫だった。
銃を扱った部活とは言え、部活動で行われるイベントに少し憧れていたんだ。
その中で必要なのは、部員達との交流だろう。
幸い、部員数が少ないのですぐに名前と顔が一致するだろうしな。
そう思いつつ、メルアドを交換したのでそれを見ながらそれぞれの顔を思い出していく。
まずは小野寺響子。
部活のリーダーで、黒髪ロングとロングスカートという古典的なヤンキー風の少女なため、目つきが悪いので友達が少ないらしい。得意な銃はアサルトライフル。
次に大林恵里香。
金髪美少女で、のんびりとした性格なのだが大柄で力持ちなために男達から遠ざけられている。その一方で、女子達からは頼りにされている存在。得意な銃はスナイパーライフル。
3人目は今川杏。
完全なロリっ子で、まどかやなのはよりも小さい。しかし、射撃部内ではかなりの気の利いた少女で先生とのパイプ役。得意な銃はサブマシンガン。
4人目は黒木明理。
部活のサブリーダーで、響子の幼馴染み。きつい性格ではあるが、小さい頃から響子と遊んでいたので彼女のことはよく知っているらしい。得意な銃はポンプアクション式のショットガン。
最後は市ヶ谷美玲。
お淑やかな性格らしく、俺が武蔵黒澤組の関係者だと知ってもあまり驚かなかった。とは言え、怒ると相手に容赦しないとのことだったので俺も慎重にならざるを得ない。得意な銃は自動拳銃。
多分、彼女達とは長い付き合いになりそうだなと俺は感じていた。
クレー射撃とか、知ってそうに書いてますけどあくまで知識として知っている程度なので、作者の知っている範囲内で書こうと思います。
実際に違っても、そんなものなんだなとスルーして頂けるとありがたいです。