第99話 シスコンの末路
「全員集合!緊急家族会議を開きます」
欲しかった労働力が向こうから来てくれたので俺は踊りだしたい気分だった。軽快なステップで神に感謝の舞を捧げていたら・・勇者が地雷を踏んだのだ。
「何変な踊り踊ってるんスか?呪いの踊りっすか?」
「呪いじゃない、神に捧げる感謝の踊りだ」
「絶対嘘っす!見てるとHPをガリガリ削る様な呪いの踊りッス」
「・・・ああそうだよ!邪神に捧げる悪魔の舞だよ。・・・これでイイんだろ」
「あちゃ~!マジで感謝の舞だったんすか。悪かったっす」
「謝るなよ、マジで凹むから」
折角のいい気分も勇者のイヤミで最悪だ、つまり俺は機嫌が悪くなったわけだ。そして機嫌の悪い俺はドンドン冷静になっていく訳だな。怒れば怒るほど冷静に相手の弱点や自分の利点を計算して最短距離で目的を果たす計画を練る訳だ。そして計画を3つ程用意して実行するのだな、そもそも代替案が無い計画を立てる程馬鹿でもないし世間知らずでもないからな。
「良く聞いてください、私の計画を話します」
「はいっす」
「我々には大人が必要です、しかし大人なら誰でも言い訳では有りません。今回狙うのは騎士団の補給部隊に居るはずの工兵です。後は要りません」
「何故だ?騎兵の方が優秀だぞ。捕虜にするなら騎兵だろ?」
「騎兵は戦闘力しかないし、飯代が掛かりそうなので要りません。だだし装備は全てはぎ取ります、装備は金になりますからね」
「で・・何故工兵なんだ?魔王どの」
そこから俺は工兵が欲しい理由を話した。工兵は戦闘力は騎兵に負けるが、畑を耕したり飯を作ったり、野営の建物を作る専門家である事、こういう辺境の場所では彼らの様なプロが一番役にたつ事等だ。それにこういう補助要員はあまり気が荒くないので子供達の世話係りに丁度よい事を話して聞かせた。
「成程、つまり騎兵をボコボコにして装備をはぎ取れば良いっすね!」
「そうだ、騎兵は死んでも構わんぞ、ただし工兵は傷をつけるなよ。彼らは大事な俺達の財産になるのだ」
工兵を俺の手下にする訳だが勿論大事に扱うつもりだ、人間が増えれば当然週休二日にするし給料もちゃんと払うつもりだ。それに彼らを無理やり奪うと世間体が悪いので相手に友好的に譲ってもらう予定なのだ。世間一般で言う誠意ある謝罪って奴だな。
「つまり相手に難癖をつけて工兵をぶん取るって話っすね!」
「平たく言うとそうだ。でも世間体が悪いから黙っとけよ!」
「流石魔王だ!黒いな!真っ黒だ」
「う~ん、敵に回すと嫌な奴だな。味方なら心強いが・・」
「はいはい、作戦要項は以上です。配置について下さい」
敵の騎兵を受け止めるのは勇者夫婦。俺達は後ろでぼ~と立ってるだけだな、相手をボコボコにした後で交渉するのが俺の役目だ。それと予定外の事態が発生したら勇者夫婦に新たな指示を出す、マーガレットは俺の護衛だ。イザベラや勇者に鍛えて貰ったのでグリフォン騎士団の騎士並に強くなった、俺はまあ弱いから立ってるだけだ。銃は持ってるから2~3人なら秒殺だがそれ以上は弾切れで無力になる予定だ、ハッタリだけで勝負だな。
騎士団が近づいて来ているが少しおかしい。先頭の3騎が突出していて残りがかなり離れている、長距離移動だからバラけてるのか?それにしても敵の前では陣形を整えるのが普通なのだがな~。
「お~い、イザベラ。先頭の3騎はもしかして知り合いか?」
「うむ、あれは父上と兄達だな」
「やっぱり、シスコンの逆ギレか~。メンドクセ~」
「うむ!私もいい加減頭にきた、引導を渡してくれる。辺境は私が継ぐ」
「んじゃ協力するっす。イザベラは頭が良いから良い領主になるっす」
先頭を走る3騎、一番前は恰幅の良い騎士だ、多分イザベラの父親だろう左右にこれまた体格の良い騎士が2名。片方は先日来たイザベラの次兄だからもう片方は長兄なんだろうな。その後ろに50m程離れて騎兵が100騎、その後ろに補助部隊の荷車が多数ついてきていた。この騎兵って奴は結構厄介なしろもので昔は戦争の主役になってた位の代物なんだな、スピードも驚異なんだが大きさと重量による威圧感と戦闘能力が凄いのだ、一言で言えば軽自動車が突っ込んで来てる様な物なんだな。だから普通の歩兵は逃げるしか無いのだ、馬に激突されると大怪我するからな。そして逃げても向こうの方が早いから追いかけられてやられるのだ。
「「「イザベラ~!!!」」」
先頭の3騎がイザベラの名前を絶叫しながら近づいてくる。イザベラは顔を真っ赤にして怒ってるようだ、額に青筋がハッキリ見えていた。「へ~青筋って本当に有るのだな~」等と思っていた俺は結構冷静だった。
先頭の3騎がイザベラと5m程の距離になった時、いきなりイザベラが先頭のオヤジにドロップキックを見舞った。もんどり打って落馬する親父さん。呆然とする兄たちに見事な飛び蹴りをかますイザベラ。一瞬で先頭の3騎はイザベラによって地面に叩きつけられてしまった。俺は予想の斜め上の事態に呆然として見学していた。勇者はというと先頭の3馬鹿をイザベラに任せて、残りの騎兵の前に仁王立ちして牽制していた。騎兵は全員停止してこちらを見ないようにジット立ち尽くしている状態だった。真っ黒な特大のオーラを纏った勇者はそれはそれは恐ろしい化物に見えた、騎兵からは大悪魔か魔王に見えたと思う、絶対に勇者には見えない禍々しい何かだった。
「イザベラって強いな」
「私の師匠だからな、魔剣なしでもAランクらしいぞ」
「素晴らしいドロップキックだったな、本当にやる人間が居るとは思わなかったぞ」
地面に落ちた3人を鬼の形相で蹴りまくるイザベラを見て俺達は冷静になってしまった。責任者が死ぬと交渉が上手く行かなくなるので俺が困るので止めに入ることにする。
「あ~、イザベラ君。そこらで止めてくれ、話がしたい」
「止めないでくれ、一生の禍根を今断つのだ!」
「迷惑だから止めてくれ、それに自分の肉親を殺すところを旦那に見せるつもりか?」
「・・・・・」
イザベラが攻撃を辞めてくれたので今度は勇者の方に合図を出して騎兵に対する威嚇を辞めてもらった。騎兵は勇者に恐れをなして物凄く遠くまで逃げて行ったので交渉出来ないのだ。
「う~イザベラ、酷いではないか。いきなり何だ」
「黙れ!3人ともそこに正座しろ!今すぐにだ!」
イザベラの父親と兄2名を正座させてイザベラは正面で仁王立ちだ。凄く怖い。
「で?何しに来た?祝福か?」
「誰が祝福などするか~!!!」
「・・・・・・・」
無言で魔剣を抜いたイザベラはマジギレしていた、ここで止めないと首が3個落ちそうなので慌てて俺が介入だ。
「取り敢えず話し合おう、マーガレットの屋敷でお茶でも飲みながら話そう」
「・・・・・・・・・」
「イザベラ、ここは魔王さんに任せるっすよ。短気は駄目ッス」
イザベラ達を連れて屋敷にはいった俺は交渉を開始した。後から騎士団の副長が入ってきたので、副長も交えて交渉開始だ。
「副長君、この間の警告は覚えているかね?」
「はい勿論です!我々は敵対する気は毛頭ございません。散々止めたのですがどうしてもと言うので我々は渋々付いて来ただけであります!」
「何だと!貴様!裏切るのか~!」
「勿論裏切ります、貴方達に付いて行けば我々は全滅しますから。それに、領主はイザベラ様の方が我々も領民も喜びます」
素晴らしい、こいつらは騎士団から見放されている様だ。流石は兵士、現実的だ。いい感じなのでこの波に乗るのだ。それからは嫌がる父親をボコボコにして兄2人を散々脅して引退させて、イザベラを新しい領主にする誓約書に無理やりサインさせてやった。これでイザベラは辺境伯になったのだ、そして新しい辺境伯のイザベラは辺境からの貢物として工兵20名を無償でマーガレットの領地に貸出してくれることになった。こちらの完全勝利って奴だ。
そして嫌がる3人を副長から団長に新しく昇格した騎士が無理やり領地に連れて帰ってもらった。3人が不幸になったようだが、他の大勢が幸せになったので良い事だ。
「イザベラ様、ご結婚おめでとうございます!騎士団全員と領民一同は大変喜んでいます」
「うむ、ありがとう」
「勇者殿、領主様の事よろしくお願いいたします。何か有れば我らが直ぐに参ります」
「ありがとう、俺は頑張るっす」
シスコン連中が普通に結婚を祝えば、勇者と言う絶対戦力が手に入って辺境は軍事的には磐石になったはずなのに、余計なことをしたばっかりに3人は隠居して全てを失った。そしてイザベラが全てを手に入れた訳だ。勿論イザベラが手に入れたって事は勇者や俺も儲かるって事だから、結果的には大成功だった。