第98話 魔王と勇者の正座
昨日は花火大会でした。椎茸の花火には笑いました、ここの特産品だからでしょうね、他の場所では多分見られないものでしょうね。
自分に似合わない説得なんかをしようとして失敗した俺は反省した、俺は1秒で方針を変える能力があるのだ。何時もどうり強気の交渉をイザベラの兄貴とする気にしたのだ、俺に常識や説得は似合わない。俺の要求を相手に飲ませるだけだ。
「おいアルファード、何か言いたいことは有るか?」
「・・・む~、イザベラの相手があんなに強いとは・・正面からは勝てん・・・」
「言っとくがアイツに毒とか効かないからな、毒耐性やら魔法耐性とかオールAだぞ」
「なんと厄介な・・・・だが俺は諦めん!」
「じゃあしょうがないな。お前の所の騎士団は殲滅するし、領地も俺達が頂く。今から帰って戦争の準備をしておけ」
「!!!・・何を言っている、正気なのか!」
「正気に決まってる、お前達が消滅すればお前の領地はイザベラの物だろ?違うか?」
「我らはグリフォン騎士団だぞ、帝国最強の騎士団だぞ!」
「お~い、イザベラ。グリフォン騎士団って全部で何人位だ?」
「確か1000騎位だな、ウチの旦那なら1時間で殲滅出来ると思う。私が手伝えばもう少し早いな!」
「・・だそうだ・・アルファード君どうするかね?」
イザベラの兄さんは泣いていた、大男の癖に涙をポロポロこぼして「こんな子じゃ無かった」とか「一体こんな男の何処が良いんだ」とか言いながら。
泣いてる大男の横で俺の嫁は目を輝かせてワクワクしていた。「辺境を切り取るのか?」とか「私も戦いたい」とか「相手がグリフォン騎士団なら面白い」とか言いたい放題だ、そして俺の嫁が何か言うたびにアルファードは大声を上げて泣くのだ。俺の嫁はドSの様だ。俺はと言うと、大男がワンワン泣いているのを見たら何だか可哀想になって来た。元はと言えばシスコンをこじらせたこの馬鹿が悪いのだが、一応イザベラが大好きな様なので領地まで乗っ取るのは可哀想になってきたのだ・・そうこの時点ではな・・・。
「おい!2人を祝福しておとなしく帰るのか、それとも俺たちと戦争するのか好きな方を選べ!5秒でな」
「両方嫌だ~!!!!!!」
これだから金持ちのボンボンは嫌いだ、何でもかんでも欲しがるのだ。死ぬまで金や物に固執するのだ、死んだら持っていけないのにな。この馬鹿は生まれてからズ~とこの調子で生きてきたのだから何を言っても無駄だ、目障りなだけなので帰ってもらうことにした。嫁に騎兵隊の副隊長を呼びに行かせて話をした。勇者の恐ろしさを知った副隊長は俺の言うことは何でも聞いた、当たり前だが今生きているのは俺達が寛大なお陰なのだ、機嫌を損ねたら全員殲滅されるのは確実だからな。
「この馬鹿を連れて帰ってくれ、ついでに国元の連中に今回の件を話しておいてくれ。これ以上あの夫婦に手を出したら辺境相手に戦争する」
「分かりました、寛大なご処置に感謝いたします」
騎兵隊の副隊長は嫌がる馬鹿を無理やり引きずって帰って行った。後からなんと言われようと命の方が大事なようだ、まあ当たり前だなドラゴンより強そうな勇者に立ち向かう馬鹿はいないし、そもそも原因がシスコンだから関わるだけで馬鹿らしいと思う。
馬鹿が帰ったのでその後俺達は又のんびりした生活に戻った。借金返済の為の薬草採取や亀捕獲、その他にもギルマスのイザベラが居るので割の良い話を請け負って居たら直ぐに金が貯まった。その金を払込んだらマーガレットも落ち着いたようだった。それに領地もあれから更に子供たちが増えていったのだな、1週間に一度街に買い出しに行くたびに孤児達が俺の驢馬の荷車に近づいてくるのだ、俺達と一緒に行けばまともな生活にありつける事が噂になってる様だった。孤児の10人や100人くらい食わせる事は出来たので俺は全員を領地に連れて帰った。そして全員に仕事を与えて生活をしていたので大忙しだった。
「魔王さん・・俺は疲れたっす」
「うむ、俺もだ。しかし投げ出すわけには行かないな」
「そうっすね」
俺は100人近い子供の世話で疲れていたが、勇者は畑や牧場を土魔法で作っていたので魔力の枯渇と肉体労働でヘロヘロになっていた。しかし不思議なことにイザベラやマーガレットは忙しくても平気な顔をしていたのには驚いた。女っていうのはこういう場合は男よりもタフなのだ、まあ男より頑丈だから寿命も女の方が長いんだけどな。
「魔王さん。何とかして欲しいっす。何時もの様に強引に状況をひっくり返して欲しいっす」
「そうだな~、このままじゃ俺達は過労死目前だな・・・」
「やっぱあれかな?問題点は人手不足って奴だな、子供の面倒を見る大人が足りないせいだな」
「分かったっす!俺、大人を攫って来るっす。何人捕まえれば良いっすか?」
「阿呆!何でそんな話になるんだ。金出して雇えば良いだけだろう・・まあタダの方が良いんだがな」
「あっ・・そうっすね」
そして俺とサトウが色々話していると嫁たちに呼ばれてしまった。なんだか機嫌が悪そうだ。
「魔王、そこに座れ」
「へい」
女の機嫌が悪い時は逆らってはいけない事を知ってる俺は素直に従った。それに俺は常識が無いから嫁が怒ってる時は大体俺が悪いのだ。
「魔王!私がなぜ怒っているか分かるか?」
「いや・・全然わかりません・・・」
「全くしょうがない奴だな、頭が良い癖に自分の事だけは無関心な奴だ」
「はあ・・申し訳ございません」
「旦那様!となりに座ってください」
「はいッス・・・」
イザベラに言われて勇者は俺のとなりに正座した、こいつも神妙な顔をしていた。いつもはニコニコして大事にされているが嫁が怒ってるので怖いようだ。
「あなたは何故怒られているのか分かりますか?」
「・・・分からないっす・・俺も魔王さんも頑張ってると思うっす」
「はあ~全く・・・」
俺も勇者も神妙な顔をしているが全く心当たりが無いのだ、久しぶりに全力で頭を使ってみたが思い当たる事がまるでないのだ。悪事でもしてたら上手いこと隠す自信が有るのだが・・何もやってないのだな。
「魔王よ、自分の顔を鏡で見てるか?」
「すいません、顔とか興味ないんで見たことないです」
「俺も自分の顔とか興味ないッス」
「「・・・・・・・・」」
「魔王も勇者も頑張り過ぎだ!死にそうな顔しているぞ!何故私達に相談しないのだ!」
俺と勇者は死にそうな顔をして毎日働いていたらしい、このままでは危ないと思って今回俺達に文句を言ってるのだそうだ。何か有ったら嫁を頼れって事だな、何でもかんでも抱え込んで自爆するなって話だった。俺も勇者も死ぬまで頑張る癖が有るのが悪いようだ、普通は逃げ出すような事でも頑張ってしまうのだな、まあ生まれつきの性格なのでしょうがない。
「分かった、心配かけてスマンかった」
「悪かったッス。これからは無理せず相談するっすよ」
「大体何時もやり過ぎなのだ!”やる気ない”とか言いながら倒れる寸前まで働いているではないか!」
「旦那様もだぞ!吐きながら働く事は無いのだ!少しは人を頼ることを覚えないと死んでしまう!」
「分かった、少し頭を使う事にする」
「ごめんなさいッス」
その後俺達は話し合い、大人の働き手を確保することで話はまとまった。クエストで稼げば10人くらいは雇えそうだしイザベラは金持ちなので後10人くらいは楽勝で雇えそうだ。
「大変っす!勇者センサーに反応ありッス!」
「何だ?敵か」
「総員200名の騎兵がこっちに向かってるッス!」
「まさか・・又兄上達か?」
「・・・へへへ・・丁度良い・・・・」
「何か凄く悪い顔してるっすね、久々に見る魔王さんの悪い顔ッス」
「タダの大人ゲットだ、勇者!俺達楽出来るぞ、喜べ!」
ありがたい事だ神に感謝せねばな、うまい具合にカモがネギをしょって来てくれるのだ。どんな手を使ってでも俺の労働力にしてくれる。勿論タダでな。俺は悪いことだけは得意なのだ。