第93話 隣街のギルドマスター
2人を連れて帰った俺達はマーガレットに2人を預けた。盗賊のアジトから持ち帰ったのは金が50万程と馬が4頭、そしてこの娘2人だった。
「やあマーガレット、新しい領民を2人頼むよ」
「うむ、任せておけ」
「お前達、この人が領主様のマーガレットだ。いい人だから安心しろ」
領主と聞いて娘たちは少し安心したようだ、俺達みたいな怪しい人間とは違って領主は信用されてる様だった。それからはマーガレットやアリア達が2人を世話してくれていた、何も聞かなかったって事は事情は察してくれてるらしい。
「魔王さん、俺達無力だったっすね」
「そうでもないぞ、救い出したのはお前だからな。少なくとも彼女達に未来は与えたはずだ、それに盗賊に犠牲になる人間はもう出ないからな、これで良かったんだよ」
「そうっすね、何でも出来る訳じゃ無いっすね」
勇者は何時ものようにシャワーを用意して皆に振舞った。今回は自分から目隠しして神妙な顔をして給湯器として活躍していた。俺は石鹸を取り出して提供した。これで残りの石鹸はあと1個だ。
次の日に隣町に着いた俺達は盗賊団壊滅の報告を衛兵にして、盗賊1人を引き渡した。責任者はマーガレットにしておいたので煩い尋問等は全くなかった、ここでもマーガレットが領主という貴族階級が物を言ったようだ。
「魔王よ、盗賊団壊滅の報奨金が出るようだ。調査が終わるまでこの街に居てほしいらしいぞ」
「別に構わんぞ、ここのギルドに薬草を売って、クエストを受けようと思ってたからな」
泊まる宿屋を探したら結構高い飯抜きの値段で4人部屋と2人部屋で3万ゴールドだ、4人部屋に女5人、2人部屋は俺と勇者だ。盗賊の報奨金が幾らか知らないが長く泊まると赤字に成りそうな感じだな。
部屋に荷物を置いて早速薬草を売りにギルドに向かう、俺たちが登録したギルドより大きくて景気が良さそうな所だった。
「ここのハロワは大きいっすね」
「本当に大きいな、仕事が多いんだろうか?」
薬草を買って貰うので中に入り何時ものように一番空いてる窓口を探す。結構混雑してるが一つだけポッカリ空いてる窓口が有った。見てみると美人の女が居る、チョット目つきが怖いが良い女だった。
「魔王さん、何で空いてる窓口に並ばないっすか?何時もなら空いてる所に並ぶのに・・・」
「馬鹿!あっちを見るな!物凄く怪しいからに決まってるだろ」
「怪しい?」
「美人のネーチャンの所が空いてるのは物凄くヤバイからに決まってる。あの姉さんに関わりあうと多分駄目なんだよ!」
「おや、随分嫌われたようだね」
「・・・・・・・」
「・・無視っすか?」
「黙れ!関わったら負けだ」
「こっち来な、話を聴こうじゃないか」
目つきの悪い受付に無理やり席につかされた俺は要件をさっさと告げて逃げる準備をしていた。
「成程、薬草を売りに来た訳だ」
「その通り、買取の場所を教えてもらいたい。要件はそれだけだ、他には一切ない」
「随分嫌われたものだな、良かろう付いてこい」
目つきの悪い女が通ると冒険者達が蜘蛛の子を散らすように離れてゆく、やはり俺の勘は間違ってない、こいつはヤバイ奴だ。
「ここが買取場所だ、覚えときな」
「ああ、ありがとう」
「ギルマス!どうしたんですか?珍しい」
「冒険者を案内してきただけだ、薬草の買取だそうだ」
何か有るとは思っていたがこの女はギルドマスターの様だ、つまり凄く有能かコネが有るかだ。どちらにしろギルドのトップなので目を付けられると厄介な事には違いない。成程冒険者が近づかない訳だな、何かの弾みで嫌われたりしたら仕事がやりにくくなるからな。
「ほう、えらく状態の良い薬草だな。氷魔法か?」
「そうっす。毎日凍らせてるッス」
「お前魔法が使えるのか?」
「一応使えるッス」
「よし!合格だ、クエストは明日の朝から始める、遅れないようにギルドに来い」
「え?・・何の事っすか?」
女は言うだけ言って何処かに行ってしまった。何なんだあの女、変な奴だな。
「あんた達とんでもないもんに目を付けられたな、可哀想に・・・」
「やっぱり厄介な女か?」
「厄介どころか、ボコボコにされた冒険者が多勢いるぜ・・・おっと、俺が言った事は内緒だぞ」
買取の職員に同情された俺達は薬草120本を150万ゴールドの高値で買い取ってもらった。金が手に入ったのでもうここには用はない。
「どうするっすか?」
「さあ?・・逃げるか?」
「逃げると負けたみたいで気持ち悪いっす」
「じゃあ無視しよう」
ギルドでクエストを眺めていたマーガレットを連れて帰ることにする。クエストの数も元の街と違ってすごい数が壁に貼ってあった。ギルマスに関わり合わなければ良いクエストが有ったのに残念だ。
「良いクエスト有ったか?」
「うむ、有った。挑戦クエストだがな、選抜チームに合格すれば10万ゴールド、勝利すれば1000万ゴールドだそうだ」
「何に勝利するんだ?」
「ここのギルドマスターに挑戦するらしいぞ」
「うえ~、さっきの奴じゃん」
「な~んだ、俺がサクっと片付けるっすよ。楽勝っす」
本当に大丈夫だろうか?勇者が負ける訳はないが、ギルマスに勝ったりしたら恨まれて酷い目に合いそうな気がする。その後、宿に戻ってアリア達と晩飯を食って薬草の売上や、ギルマスに絡まれたこと等を報告する。俺が思うに自分に挑戦するのを金を出してクエストにするのは変だと思うのだが、勇者は気にしてない様だ。「修行のつもりじゃ無いっすか」等と言っていた。そう言われればそうかも知れんが、冒険者達が逃げてたのは何でだ?
気になったので宿屋の主人にギルマスの事を聞いてみたら、何でもギルマスは辺境伯の長女なのだそうだ、公爵の次男と婚約していたが、次男をボコボコにして家を追い出されてこのギルマスに島流しされたのだそうだ。ギルマスは自分より弱い男に嫁ぐ気は無いのだそうだ。公爵の次男も騎士団の副団長を務める程の腕なのだがギルマスは魔剣使いで鬼の様に強いのだそうだ。
「お~い、ギルマス魔剣使いだってさ」
「へ~、俺と同じっすね」
「公爵の次男ボコって家を追い出されたそうだ」
「ほ~、なかなかやるではないか。自分の好きな男と添い遂げようとするとは立派だな」
「そうなの?」
「貴族の娘は普通は親の決めた相手と一緒になるものだ、それを蹴るとは中々の根性だぞ」
「まあ確かに根性はありそうだったな」
冒険者達が逃げてたのは、以前ギルマスに勝負を挑んでボコボコにされたからだそうだ。この街のA級冒険者のほとんどと腕自慢の冒険者は賞金に目がくらんでかなりの数が挑戦したが誰も勝てなかったそうだ。
まあ色々考えてもしょうがない、世の中なるように成るだろう、なんといっても勇者だからな、それよりも救い出した女達の方が心配だ、早く立ち直れば良いがな。それとなくアリア達に様子を聞いてみたが余り回復した感じじゃないそうだ、やはり時間がかかるのはしょうがないか。盗賊から奪った金が50万と薬草売った金が150万で合わせて200万も儲かったのだが、ここに居ると食費と宿泊費で1日当たり4万ゴールド程消えてゆくので早く盗賊討伐の金が欲しかった。最悪マーガレットを残して隣町に帰るのも有りだな、女たちもここに居るよりは落ち着くだろうしな。