第91話 隣街へ
さて薬草を売りに隣街に出かける事になった俺達は5人でトコトコと歩いている。いつも通り驢馬と一緒のんびりした旅だ。最近こればっかりだから流石に慣れたな。そして痩せた、魔族の国では引きこもりかケルベロス犬車での移動だったので痩せなかったが、こっちに来てから移動が全て徒歩なので体重が大分落ちたと思う、体重計が無いから分からないがズボンのベルトは3穴程移動した。
「歩くだけって暇っすね」
「ああ、俺達は現代に毒されてるからな~。同時に色々するのが当たり前だもんな現代って」
「そうっすね、それで皆イライラしてたんですかね?」
「分からんな、でもストレスが掛かってたのは事実だろうな。1日中ボ~とするのも大事な事なんだがな」
「そんなに向こうは忙しいのか?」
「忙しくはないが、時間毎にすることが決まってたな」
考えてみれば学校って細かく時間が決まってたな。実際の学習内容なんて大した事無いからあんなに時間がいるわけもないのにな。そういえば一流って言われる学校は何年分か先に終わらせて後は受験対策するって言ってたな、今は知らないが。そりゃ受験で点が取れる訳だよな、まあ頭の良いやつは何処でも出来るのだろうが普通のやつはそこに行けば成績が底上げされるだろうな、貧乏人の俺には関係ない異世界の話だがな。
とことこ歩いていると他の移動中の馬車や人と一緒になってきた、何故か皆固まって移動するのが好きなようだ。商人たちの馬車や驢馬等は荷物を満載してるし、徒歩で移動している人たちも沢山の荷物を背負っていた。買い出しに来てたのか?それとも俺たちみたいに売りに行ってるのかな?今では何故か俺たちの周りに20人位居るのでキャラバンみたいになってきた。
「なあアリア、なんで沢山人が寄ってくるんだ?」
「多分、勇者とマーガレットが強そうだからじゃないかな?」
「へへへ、俺が強そうに見えるっすか。笑っちゃうッス」
「いやいや、凄く強そうに見えるぞ。マーガレットもな」
勇者はスワット用の黒い上下の戦闘服に魔剣グングニルを腰に差しているので非常に不気味な雰囲気を出している、本来は光属性のはずなのだが、何処かで何かを間違えたようで闇のオーラが凄いことに成っていた。マーガレットも子供の頃からナイトの親父さんの特訓を受けてきたのでどう見ても騎士か兵士にしか見えない姿だった。今回の旅にもご丁寧に槍まで持ってきている位の徹底ぶりだ。アリアたちは普通の冒険者って格好だし、俺はスワットの服は着てるがナイフしか装備してない様に見えるから多分頼りない感じにしか見えないはずだ。
大人数に囲まれて周りが見にくいので俺たちだけで進みたかったが、俺たちが休息すると周りの連中も休息するので囲まれたままだった。旅は道連れ世は情けって言うけど周りの連中は俺たちを怖がっているのが丸分かりだった。全然話しかけてこないし、勇者の腰を見て明らかに怯えている感じだった。
「感じ悪いっすね、チラチラ見られてるっす」
「そうだな、怖がってるくせに離れないんだから変な奴らだな」
「多分、私たち護衛替りに利用されてるよ」
「護衛って、何か出るのか?」
「盗賊団がたまに出るって、何故か金目の物を沢山持ってると襲われるって話」
「それは街に盗賊の内通者が居るって事だよな」
「マジっすか、じゃあ俺達危ないっすよね。ここんとこ結構ギルドで稼いだっす」
「そう言われるとそうだな、オーク討伐の分を入れると結構な稼ぎだよな」
余計な話をしてたらフラグが立ったのか周りがザワめき始めた。だんだん俺達の方に寄ってきて益々周りが見えなくなってきた。俺は景色を見ながらのんびり旅をしたいのに非常に迷惑だった。
「なんか様子がおかしいッスね」
「周りが全然見えんぞ、凄い迷惑だ」
「そういう状況では無いようだぞ魔王!」
周りの馬車や旅人から悲鳴が上がっているが俺からは何も見えないのだ。何故か俺達は周りに囲まれて全く身動き取れなくなっていた。訳が分からなくてつっ立っていたら矢が飛んできた。
「うわ!危ぶね~!」
「攻撃されてるッス!」
「盗賊団だよ!」
「周りが邪魔で全然見えん」
盗賊団等勇者が居れば何でも無いのだが、周りが邪魔で先手を取られてしまった。矢が飛んできて危ないので荷車の下に隠れる。アリアやココも荷車の下に入ってきた。周りの馬車や旅人も馬車の影に隠れだした様だ。下から覗いてみると馬に乗った連中がこっちに矢を射掛けている様だ、全部で10騎位か?
「本当に周りをグルグル回りながら矢を射ってくるんだな、騎兵隊の映画は本当だったのか」
「威力は無いけど面倒っすね」
「やばいよ!火矢が来るよ!」
盗賊団が火矢の準備をしだしたようだ。周りから悲鳴が上がっている。こちらからも弓が打ち返しているが数が少ない上に腕が悪すぎて効果がない。弾が勿体ないから撃ちたくないのだがしょうがない、そろそろ介入しようかと思っていたら、ロバートが嘶いた。
「あ!ロバートに矢が当たったっす!」
「何だと!」
我慢は終わりだ、俺の忠実な下僕を傷つけた者には死有るのみだ。腰からガバを引き抜き安全装置を親指で解除する。ここまで約0、5秒だ、こいつは初速が遅いので動く目標には当てにくいから我慢してたが数打てば当たるし、止まってる奴なら50m以内なら全弾当たる。
「うお~!!!」
「あっ!何してるっすか!危ないッス!」
荷車の下からダッシュして一番外側の馬車の荷台の下に走り込む。まだ正気を保っているので銃は撃ってない。走りながら撃っても当たらないので意味が無いのだ。伏せ撃ちの基本通り軽く足を開き両手でグリップを保持する、呼吸が整った所で射撃開始。横方向に移動してる目標は当てにくいのでこちらに向かってきてている2騎を目標に選んで2秒で全弾発射する。マガジンを交換して開いてるスライドを閉じて次の目標を探す。残りは腰のマガジン1個だけだ、バラの弾薬は背嚢の中なので今は補充出来ない。狙った相手は馬から落ちてピクリとも動かない、2人共即死の様だ。
「魔王さん!何してるっすか!危ないっすよ」
「全員ぶち殺す!ロバートの敵だ!」
喋りながらも次の目標の1m前と50センチ程前に弾丸を発射する、相手の速度が分からないから勘で未来位置に弾を蒔くのだ。
「ロバートは生きてるから大丈夫ッス!落ち着くッス」
「そうか・・なら冷静に皆殺しだ」
「こういうのは俺の役目っすよ、任せるッス」
「そうか、なら1人残して全員殺せ」
「了解っす」
訳が分からない内に3人殺られた盗賊は少し浮き足だって離れた所から矢を放っていた。そこに勇者が突撃する。50メートルを2秒で走り手近な者からグングニルで真っ二つにしてゆく。化物の登場に驚いた盗賊たちは逃げ出したが、馬よりも勇者は速かった。悲鳴を上げて逃げ回る盗賊達を追い回し次々に仕留めていった。
「終わったっすよ、一人捕まえたッス」
「ご苦労さん」
「これが魔王と勇者の戦い方か・・もはや虐殺だな」
「俺達の戦いに慈悲なんてないぞ、マーガレット。微笑みには微笑みを、敵には死をくれてやるのが俺達だからな」
「魔王さんは味方がやられると逆上するっす。暴走しだしたら止まらないっすよ」
「敵に回してはいけない人間なのだな、味方なら心強いな」
生かして捕まえた盗賊からアジトを聞き出す。勇者の恐ろしさを知った盗賊は諦めて簡単に場所を喋ってくれた。さて反撃だ、盗賊の貯めた物は全部俺たちが頂くのだ、魔王に喧嘩を売ってタダで済む訳は無い。