第90話 休日
クエストの金を受け取った俺達はアリアの借家に向かった、まだ晩飯を食べてないので市場で食料品を買い込んで帰る。特に野菜と果物が不足がちだったので大量に購入する。食える時に食っておかないと何時食えるか分からないのだ。ついでに寝るのもそうだ、何時ねれるか分からないので暇が有れば寝るのが普通の冒険者の特徴だ。
「あれ?何か増えてるな・・・・餓鬼」
「そうっすね」
アリアの借家に帰ったら住人が増えていた。何れも小汚い餓鬼が3人程増えている様だ。前にいた子供よりは大きいが10歳位の餓鬼だった。
「ごめんなさい魔王様、直ぐに出て行かせますから」
「一体何なんだこいつらは?」
「見て分からないのかい?こいつらは浮浪児さ」
この街には孤児が何人か居るらしい、雨露しのげる場所を探したり、小銭になる仕事をして何とか暮らしているのだそうだ。この3人の子供は偶々女の知り合いで俺達が旅に出ている間住まわせて飯を食わせていたのだそうだ。
「おい、サトウ風呂沸かせ、餓鬼を風呂に入れるぞ。汚なすぎる。アリアとココは飯の支度をしろ」
「魔王よ、面倒見るつもりか?」
「あと5年もすれば良い働き手になるぞマーガレット。また領民ゲットだな」
「お前は実は子供好きなのか?餓鬼餓鬼言いながら風呂に入れたり、飯を食わせたりして面倒を良く見てる気がする」
「別に好きじゃないが、困ってる奴がいたら助けるのは当たり前の事だ」
「お人好しだね~、甘すぎる気がするけどね。でもまあ魔王の好きにすると良いよ」
余裕がない時は無理だが、子供を3人食わせる位何とでもなるし領地に住民が欲しいのだ。働き盛りの大人を領地に連れて行ったら他の領主からクレームが来るが、浮浪児なら問題は無いだろうって考えも有ったのだ。
小汚い餓鬼を風呂に入れてピカピカにしたら3人とも女だった。汚い髪や服で全然分からなかったのだ、もう少し年を取ったら見ただけで分かる様になるなるだろう。
「お前ら名前はなんだ?」
「私クレスタ」
「チェイス」
「私はマーク」
「そうか俺は魔王だ、宜しくな」
風呂から上がった俺達は、他の者が風呂に入ってる間に晩飯を食べた、人数が増えすぎて一度に食べれなくなったのだ。腹いっぱいになった子供達は満足している様だが、俺は満足してなかった。折角風呂に入れたのに服が汚いのだ、女の子供達も同様だ。明日は餓鬼や女の服を買いに行かなくてはならないな。
風呂から上がったマーガレットがパンやスープを持って俺の隣に座って飯を食いだした。
「魔王は子供が好きなのだな。私が沢山産んでやるから安心しろ、身体だけには自信が有るのだ」
「はは、一応自分が女だと気が付いたのか?」
「領主として領民が増えるのは良い事だからな」
言いたい事だけ言ってマーガレットが立ち去ると次は勇者が俺の横にやって来た。インスタントコーヒーを俺に差し出しながら俺の横に座る。
「甘いと思うか?」
「思わないッスよ、俺やアリアやマーガレットも同じようなモンっすからね」
「そうか、ならいい」
「こうやって仲間を増やしていくッス。裏切らない大事な仲間っす」
「まあ俺はオマケみたいなもんだ、お前が活躍しなけりゃどうにも成らないからな。頼りにしてるぞ」
「頼られるって言うのは気分が良いッスね。無視されるよりよっぽど良いッス」
何か勇者が遠い目をしているので知らん顔をしておく、過去に何か有ったかも知れないが聞かない方が良い事も有るからな、言いたくなったら自分から言うだろう。
クエストの後は2日間休みと決めているので、女と子供を連れて街に服を買いに行った。手作りなので服は結構高かった。庶民用の服でも1枚5000ゴールド程するのだ、中古の服も有ったが長持ちしないので子供や女に3枚ずつ服を買ってやった。子供達を家に帰して俺は一人でドワーフの店を訪ねた。
「よお、お前さんか。驢馬は元気か?」
「ああ、とても元気だ、荷車は役に立ってるよ」
「そりゃあ良かった、道具は使って貰わなくっちゃな」
ドワーフの親父と簡易シャワーについて話したが、もしかしたら売れるかもしれないって話だった。一応作って売ってみるらしい。売れたら1割程アイデア料でくれるって取り決めになった。次に熱気球を作る布地の話になったのだがドワーフは布地は作ってないのだそうだ、売ってる中で最大のやつは船の帆だろうと言う話になった。熱気球を作るときは港に行って船長に話を聞かないといけないようだ。そして船の帆は物凄く高いだろうって話になった、まあ服があんなに高いのだから丈夫な船の帆は高くても納得だった。
「ありがとう親父!」
「な~に、良いってことよ、また遊びに来いよ。新しいアイデアがあったら教えてくれよ!面白そうだ」
あっしまったリーフリジッドを頼むはずだったのに忘れてた。まあ荷車は速度が遅いから今度でいいや、のり心地が少し良くなる程度だからな。熱気球は作るのに金が掛かりそうだからマーガレットの借金を払い終わってからになるな、まあしょうがないな。これで休みの間にすることは終わってしまった、後は何すればいいんだ?ここじゃ遊ぶ所も無いしネットもゲームも本もない。楽器でもあれば俺が不愉快な雑音を出して遊ぶのだがそれもないしな~、暇だわ。
「ただいま~」
「おかえり~!!」
「「おっちゃん!見てみて!!」」
帰ったら子供たちが出迎えてくれた、さっき買った服を着て嬉しそうだ。ぴょんぴょん飛び跳ねている子もいた。暇だから子供達と一緒にロバのブラッシングをしたり洗ったりしていた、まあ少しは暇つぶしになった。そうこうしてる内に勇者達が買い物から帰ってきた、いろいろ買って楽しそうだ。頑張ったから買い物くらいしないとやってられない気持ちはわかる。
「ただいまっす」
「お帰り、色々買ったみたいだな」
「俺は主に食物っす、肉を沢山買ったからひき肉作ってハンバーグの練習っすね」
「私たちは服を買ったよ、気持ちよく買い物したのは初めてさ。楽しかったよ」
勇者達が果物を買ってきてたので少しもらっておく、後で天然酵母を作るのだ。天然酵母が上手くできなくてもナン位なら出来るだろう。それにハンバーグを挟めば食えるはずだ。
「へ~今度は天然酵母作りっすか、働きますね~。俺も和紙作りでもしてみましょうかね。魔族の国で紙作ろうと思ってネットで調べた事が有るっすよ」
「良いんじゃないか、上手く出来たら役に立つし金になるかもしれんな」
「知識って金になるッス」
次の日は子供たちも交えてハンバーガー作りに精を出した、色々な肉を包丁で小さく切ってコネ回したのだ、ハンバーガーは塩やハーブを入れたら簡単に出来上がった。しかしパンが出来ないのだな、天然酵母は1週間くらいしないと出来ないので、果物と水を入れた入れ物は1日に何回か振り回すように子供たちに頼んでおいた、多分1週間位で出来ると思う。今回は買ってきたパンにハンバーグや野菜を挟んで皆で食べてみたら好評だった。
「これは中々旨いな、魔王」
「簡単に食べられて良いね」
「これは売れるよ、安ければね」
中々好評の様なので安心した、これはその内商品化して屋台で売ることにしよう。大した稼ぎには成らないだろうが子供たちの食費位にはなるはずだ。
そして次の日は売らないで取っておいた薬草を隣町に売りに行くことにした、やはり歩いて2~3日掛かるそうだ、面倒だが何時までも薬草を抱え込んで置くわけにもいかないのでしょうがない。
「じゃあ明日からまた旅だな。面倒だ」
「そうでもないぞ、隣の街はここよりも大きいからギルドのクエストも高いやつが有るかもしれん」
「へ~、どの位大きいんだ?」
「帝国の2番目に大きな街だ、ここの10倍位あるのではないかな」
「おほ~、それじゃあ人もいっぱい居るっすね!楽しみっす」
俺は人が多いところは嫌いだが仕方ないな、みんな行きたがってるから付き合う事にしよう。子供たちには1週間分の食料を置いていけば大丈夫だろう。