第88話 毒の沼で亀を捕獲せよ
次の日は山からの帰り道に毒の沼と呼ばれる所で捕獲クエストだ。毒の沼って名前だが沼が毒液で出来てる訳ではないらしい、毒蛇がウジャウジャいるのでこう呼ばれているのだそうだ。こんな所が有るなんて怖いな、知らないで入ったら蛇に噛まれて死んでしまう。やっぱり地元の人間が居ないと旅やクエストは無理だな。この世界は危険が一杯なのだ、命が安いとも言うな。
「どうしたんスカ?難しい顔して」
「いや~、毒の沼について考えてたんだ。看板でも立てて危険を知らせた方が良いんじゃないかなってな」
「でも俺達字が読めないから駄目ッスね~」
「それもそうだな、じゃあ髑髏の看板なんかどうだ?」
「海賊っすか?」
マーガレット達は地元だから皆この沼の事は知ってるらしい。旅人がたまに噛まれて死んでる様だが誰も気にしないみたいだな。そもそも沼にどかどか入って行く奴は居ないそうだ、足が濡れて歩きにくいから。
「なあマーガレット、亀ってどうやって捕るんだ?」
「そうだなまず毒蛇に噛まれても良いように足に布か革を分厚く巻くな、中にはフルアーマーの下を装備する者も居る。そして蛇に噛まれながら亀を探して捕獲だな。でもこの亀は動きが早くて捕まえるのが大変だな、直ぐに水に潜るしな」
「そうそう、水に潜ったらもう終わりさ、水の中に入ったら蛇や亀に噛みつかれて死んでしまうからね」
「成程、大変そうだな。1匹3万だけの事は有るな。命がけなんだ」
「それより気になる事が有るッス。毒蛇に噛まれることが前提で話が進んでるッスよね」
「そう言えばそうだな」
「俺、蛇苦手なんすよ、気持ち悪いっす」
今は夏なので特に毒蛇が活発に活動しているらしい、普通の冒険者は毒蛇があまり動かなくなる冬場に捕獲クエストを受けるのだそうだ。でも今頃言われてもな~、もう来ちゃったしな。
「どうする?噛まれても良い様に足に布でも巻いとくか?」
「そんな布無いっすよ、兎の革なら昨日取ったヤツが有るっすけど」
「勿体ないけど、兎の皮を足に巻こうよ。死ぬよりましだよ」
「兎の毛皮って幾ら?」
「1匹500ゴールド位だよ」
「う~む、全員分は無いし。勿体ないな」
兎の毛皮は20羽位有るのだ、全部で1万ゴールド。金も勿体ないが数が足らないので全員の足に巻くわけにもいかない。2人分が精々だな。
「何か考えてくれ魔王」
「そんな事言われてもな~」
「一人じゃ絶対に行かないッス!蛇怖いッス!」
勇者なら全耐性Aだから毒蛇に噛まれても平気だと思っていたのだが、まさかの蛇嫌いだった。まあ蛇が好きな奴は余りいないからしょうがない。俺だって嫌いなものがウジャウジャ居る所には入りたくないしな何か考えなくては成らないな。
「どうすかな~?・・・へ・・」
「何やってんだマーガレット?」
「うむ、こうすると魔王が良い考えを出すと勇者が言っていたのだ」
勇者に亀を捕って貰うには蛇をどうにかしなくて成らない、どうやって誤魔化すか考えているとマーガレットが背中にしがみついて来たのだ。そのまま背中に密着してるので暑くてしょうがない。冬なら温かいから良いが今は夏なのだ。
「暑苦しいぞ!マーガレット」
「ははは、マーガレットは駄目だね!女らしさが足らないんだよ!」
「こうやるんだよ、良く見ときな!」
「見ときな!」
今度はアリアとココが俺の両腕につかまって来た、なんだ俺に嫌がらせしてるのか?それでなくても夏は暑くて嫌いなシーズンなんだがな。・・・違うな、これは嫌がらせじゃなくてサービスか?なんか2人とも胸を大きく開けて谷間を強調してるし、腕に胸が当たってるしな・・うむ、ココの方が大きいな。
勇者はこっちを見てヘラヘラ笑っていた。
「ほらほら、早く考えなよ。良い考えが出たら夜もしてやるよ」
「添い寝してあげるから頑張りな魔王」
「暑いから結構だ、それよりもコーヒー煎れてくれ勇者!」
「全くわがままッスね!コーヒーよりオッパイっすよ普通!」
勇者がブツブツ言いながらもインスタントコーヒーを煎れてくれた。砂糖を入れて甘くして飲んでいると勇者が小声で聞いて来た。
「オッパイどうでしたか?」
「うむ、柔らかかったぞ。ココのが一番大きいな」
「やる気出たっすか?」
「いや全然、暑くて却って考えがまとまらんな」
「枯れてるッス!それじゃ駄目っす。魔王なんだから手当たり次第に子種をばら撒くっす!世の中の女は全部嫁にする位の気迫が欲しいっす!」
「無茶言うなよ、女がどの位メンドクサイのか説明せんといかんのか」
「贅沢過ぎッス!」
「俺はハーレム嫌いなんだよな、めんどくさくってな。一人居れば十分だ」
「どひ~!俺も真顔でそのセリフ言ってみて~ッス!」
その後勇者はマジ切れしてファイヤーボールを周囲に撃ちまくっていた。ストレス発散に魔法は丁度良い様だな。勇者の魔力はタダで幾らでも魔法が撃てるチート仕様の様だな、一体エネルギーの源は何なんだろうな?そもそも魔力や魔法が何なのか分からないから考えてもしょうがないがな。
「よし、そんじゃ亀取るぞ~!全員集合!」
「何か思いついたのかい?」
「まあな」
「蛇をどうにかして貰わないと、俺は沼に入らないッスよ」
作戦は凄く簡単だ、勇者が魔法で蛇や亀を蹴散らす作戦だ。どうやら魔力が有り余っている様なので有効に活用しよう。
「俺達の国じゃ違法だからしたくなかったが、しょうがないからやる事にする」
「何ですかそれ?」
「電撃を使った漁だ、効率は物凄く良い。まあ電気が無いからこの国じゃ普通は出来ないけどな」
「サトウ、電撃魔法を撃ちながら進め。俺達は後からついて行く」
「分かったッス」
勇者がゆっくり歩きながら辺りに電撃をうちまくる。俺達は危ないから離れた場所で見ている。勇者は全耐性Aなので軽い電撃は平気な様だ。
「サンダーボルト!サンダーボルト!サンダーボルト!」
天気の良い昼間なのに勇者の周り中に雷が落ちている、恐ろしい景色だが勇者は平気な顔して歩き回っていた。
「こんなものッスかね?」
「よ~し、行くぞお前ら」
勇者が電撃を辞めたので見に行くと、蛇や魚や亀が生煮え状態で死んでいた。ちょっと出力が大きすぎた様だ。
「電撃の威力があり過ぎた様だな、煮えてるぞ」
「でもまあ、蛇が死んでるから良いッスよ」
「生煮えの亀って売れるのかな?」
「チョット電撃の威力を落としてみるっすよ」
何度か練習して出力を落とした電撃を撃てるようになった勇者は、また電撃を放ちながら歩き出した。今度は蛇や亀が気絶してる状態だった。俺達は急いで亀を捕まえて袋に詰め込んだ、結構大きくて重いのだ1匹でも5キロ位有るので4匹位で捕るのを辞めた。重くて袋が破れそうなのだ。
「この位にするっすか?」
「そうだな、全部で20匹も有れば十分だろ」
「アリア達は何してるっすか?蛇の首を集めてるみたいっすけど?」
「蛇の毒が売れるんだってさ、狩に使ったり薬に使うらしいぞ」
十分な亀を確保したので、毒の沼から離れた場所で野営の準備だ、沼で捕れた魚を焼いて食べる事にする、マーガレット達は亀を料理する様だ。
「不味いッス」
「うん、泥臭くて不味い」
「亀を食べなよ、こっちは泥臭くないよ」
「今日は食欲が無いから遠慮する」
「俺も今日は食欲無いっす」
「美味しいのに、勿体ない」
マーガレット達の鍋には亀の手足が浮いていたのでチョット食べる気がしなかった。蛇の身も入ってた様な気がする。食えば不味くは無いのだろうが柔な俺と勇者には無理だった。