第87話 薬草採取
朝は日の出と共に起床する、女3人は荷車の上のワンタッチテント、俺達は地面の上のワンタッチテントで寝ていたのだ。日の出は今は夏らしくかなり早い、そして一日が長いのだ。もし冬だったらここには来れないだろうな、冬の装備を持って無いので山登りなんて無理だ。
「おはようッス!」
「おう、おはよう。今日は頼むぞ」
「了解っす」
朝飯の支度をしてたっぷりとした朝食をとる。今日は山の上での薬草採取なのだ。事前に手に入れた薬草の絵を見せて勇者に覚えて貰う。このクエストは勇者が単独で行うのだ、俺達が行くと山に登るのに時間が掛かる上に野生の狼達と戦う邪魔になるからな。
「勇者、気を付けろよ。狼は集団で現れるからな。囲まれると厄介だ」
「大丈夫っす、まとめて吹き飛ばすッス」
「大丈夫だよマーガレット、勇者は滅茶苦茶強いからな、多分狼に噛みつかれても平気だと思うぞ」
「そんなに強いのか?」
「その内模擬戦でもしてみるっすか?」
「うむ、一手ご指導願おう」
食事が終わった俺達は勇者の装備を点検して、水筒2本、昼飯用のパンと干し肉、薬草を入れる背嚢等を勇者に渡して出発を見送る。勇者に今一やる気が感じれれないので魔法の言葉を掛けた。
「おい、山ほど薬草採ってきたらギルドのお姉さんがビックリすると思うぞ」
「お~!成程、まずギルドのお姉さんからっすね!」
やる気のない瞳に欲望の輝きが出て来た、これで勇者の真の力が発揮できるだろう。それからおもむろに勇者はギルドのお姉さんの名前を叫びながら頂上目がけて走り出した。恐ろしい速さだ、もはや人間ではないナニカと化した勇者はあっと言う間に見えなくなってしまった。あれに追いつくにはヘリか飛行機が要るだろうバイクでは絶対に追いつけない。
「凄いな、本当に人間なのか?」
「人間だ、ただし勇者だな。人類最強じゃないかな?」
「人間ってあんなになるんだ、そう捨てたもんじゃないね」
「いや成らないから、鍛えてもあんなに成ったりしないからな、勘違いするなよ」
勇者を送り出した俺達は近くで狩をしたり、金に成りそうな薬草や毒草を集めて回っていた。勇者一人に働かせて遊ぶほどメンタルが強く無いのだ。ここでもアリアやココは地道に狩や薬草集めをこなしていた。中々堅実な冒険者だ、マーガレットは草の見分けが滅茶苦茶なので主に兎狩りにいって貰った。兎の毛皮なんかも安いけど買い取って貰えるのだそうだ。狩って来た兎はドンドン皮をはいで陰干しにしていた。肉は別にして昼や夜に食べるのだそうだ。
しかしまあ逞しい娘共だ、これで胸が大きくなかったら完全に男だよな、スカート履いてる所なんて見た事ないしな、やっぱり女は外見だよな。冒険者って肌の露出が全然ないから色気が無いんだよな、まあ怪我するから肌を出さないのが当たり前なんだがな。俺達がふもとでちまちま作業をしていたら、昼飯前位に勇者が凄い勢いで帰って来た。
「ただ今っす!」
「早いな」
「全力出したッス。沢山生えてる所見つけたからもう一度行って来るっすよ!」
背中に背負っていた背嚢は薬草でパンパンに膨れている、凄い量採って来た様だ、更に採ってくるつもりらしい。
「ちょっと待て、まあゆっくり休めよ」
「え~、まだ一杯あるッス。これの3倍位」
アリア達に手伝って貰って背嚢の中の薬草の数を数えたり、10本毎に束ねたりしていると勇者がソワソワしだした。もっと薬草を採りに行きたい様だ。
「おい、薬草採取はもういいぞ。これだけあれば十分だ」
「でもいっぱい有るっすよ!」
「そうだよ、もっと採ろうよ」
「まあ待て、魔王には何か考えが有るのではないか?」
考えが有る訳じゃないが、数えたら240本程薬草が有ったのだな、これを全部引き取ってくれれば良いが農産物なんかは豊作の時は値段が下がるのだ。そしてどうするかと言うと廃棄して値段を一定に保つのだ、勿体ない様だがこうして値段を調節しないと損するからするのだという事を4人に話した。
「成程、そういう訳っすか。納得っす」
「沢山取っても金に成らないなら要らないね」
「取った薬草は小出しにして高く買って貰おうと思う。半額なんかに成ったら他の冒険者達も困るだろうからな。今日の分は勇者の氷魔法で凍らせて半分だけ売ろうと思うんだ」
「了解っす、全部取ったら次の分が無くなるから、この位で辞めとくっす」
世の中ってむやみに頑張れば良い訳じゃ無いからな、資格試験等は規定点取れば後は無駄な点だしな、無駄な試験勉強の時間で他の事して遊んでた方が良いのと同じだ。時間は限られてるからなるたけ効率よく物事を進めた方が楽なんだな。
薬草も十分集まったし、後は勇者達とノンビリして半日過ごす事にする。明日はまた50キロ移動して毒の沼に行かなくてはならないからな。
「模擬戦でもするっすか?」
「おう、丁度良い。頼む」
昼飯を食べてノンビリしてたら、暇になった勇者がマーガレット達に稽古をつけてやる気に成ったらしい。そう言えばあいつが剣を使うのを見た事ないな。
「何処からでもかかって来て良いっすよ」
勇者がノンビリ立っている。マーガレット達は手に木の棒を持っている。あれで叩かれると結構痛そうだが勇者は余裕の表情だ。マーガレットが最初に仕掛けて行ったが、軽く躱される。凄い速さの連撃も勇者にかすりもしない。アリアやココも左右から打って出たがそれでも勇者には当たらない。当たる寸前で躱してる様だ。
「遠慮は無用っすよ、当たっても平気っすから」
「何故当たらん!貴様化け物か」
「ふっ、当たらなければどうと言う事もないッス」
「こんなに素早いとは・・・」
勇者ってスゲ~な、見てから躱して間に合うんだな。多分当たっても平気だけど習慣で当たらない様にしてるんだな。5分程逃げ回った勇者は笑っていた、息も切らしてない余裕の完全勝利だ。マーガレット達は全力で空振りを繰り返してたので肩で息をしていた。
「魔王さんもやるッスか?」
「俺は剣なんか使った事無いぞ」
「でも練習しといた方が良いっすよ。いざという時時に役に立つっス」
「それもそうだな、マーガレットが駄目なんだから俺が駄目でもしょうがないな」
俺は剣なんか使った事が無いのだな、唐手や柔道はしていたが、棒切れを振り回しても当たらないのだから素手が当たる訳ないのでマーガレットの槍を借りる事にした。長さが丁度良いのだ。
「それじゃ、この槍使って良いか?」
「銃でも構わないっすよ、避けれるッス」
「いやいや、銃は駄目だ。冗談でも味方に向ける訳にはいかんな」
本当は6尺棒が良いのだが無いのでマーガレットの槍だ。長さは2メートル位で穂先が30センチ位の奴だ、多分使えると思うが、俺が使うと槍本来の動きとは違うだろうな。
「それじゃ行くぞ」
「どっからでも掛かって来ると良いッス」
「魔王、槍使った事無いんじゃないか?変な構えだな」
「良く分かったな、槍使うのは初めてなんだ。多分変な動きだと思うぞ」
それから俺はおもむろに攻撃をする、槍は本来突くものだが俺は棒術しか知らないので構えからして違うし、持ち方も全然違う打撃がメインで攻撃するスタイルなのだ。
「うわ!・・ズルいッス!」
「ズルく無い!・・・死ね!」
「うひゃ!危ないっす!・・・普通に攻撃して欲しいッス!」
「煩い、逃げるな!」
俺の攻撃は汚い攻撃なのだ、石突きで砂を相手の顔に飛ばしてからの足首への攻撃、槍の持ち手を変えて間合いをずらした首への打撃など、必ずフェイントの後に本命の攻撃が入るのだ。おまけに攻撃は全てノーモーションの全力攻撃だ。
「魔王の攻撃はエゲツナイな、汚すぎだろ」
「あれは冒険者の喧嘩で使う手だね、勝てば良いって戦い方だね」
「何とでも言え、これは技だ。師範がそう言ってたのだ」
「どひ~!躱しにくいッス!」
結局5分程攻撃したが勇者には当たらなかった、やはり勇者は化け物だ。攻撃を見てから躱すなんて人間には無理だからな。その後散々俺の攻撃をけなしていたマーガレット達が汚い攻撃方法を学びたいと言って来たので、相手の顔に砂を飛ばして足を狙う方法や、足を地面に縫い付けて攻撃する方法、槍の間合いを見せずに長さを変えて攻撃する方法等を教えた。もうこいつらと練習したくないな、凄く汚い戦い方をするから負けそうだもの。