第82話 魔王領主の子分になる
「いや~昨日の焼き肉美味かったっすね!」
「たまに食うと美味いよな、今晩は魚の塩焼きでもするか」
「良いッスね、でも川魚はあんまり旨くないっすよね」
「そうだな、アユなんかだと塩焼きは結構美味いんだがな、小魚捕まえて佃煮にするか?」
俺達は今森の中を移動中だ、昨日のオーク討伐の事は余り話題に上らない。アリア達は詳しい話を聞きたがったが勇者が話したがらないのだ。多分耳を切るのがトラウマに成ったのだろうな、俺だって戦って殺すのは平気だが耳を切って集めるのは抵抗が有るからな。
「魔王さん、俺は冒険者に向いてないみたいッス」
「そうだな、食うために殺すのはしょうがないが、金の為に殺すのは抵抗が有るな」
「今度は殺さないクエストにしましょう」
「ああ、薬草採取にしような」
やっぱり勇者は気にしてた様だ、俺でも気にするだろうな。他に金を稼ぐ方法が有るなら別の金もうけを考える事にしよう。嫌な事を無理してやってると壊れてしまう。
「そんなに嫌なのかい?あたし等は平気なんだけどね」
「勿体ないね、あんなに強いのに」
彼女達は納得いかない様だが、殺さなくて儲かる方法が幾らでも有るのだと言ったら驚いていた。彼女達はクエストを受けるか身体を売るかしか金を稼ぐ方法を知らないのだ。
「あたし達馬鹿だから商売とか出来ないよ」
「そんな事は無い、出来るぞ。人間なんて大して能力に差は無いんだ」
「そうっす、俺もやってたら皿洗いや料理が上手くなったっすよ。教えて貰えば良いだけッス」
今回のクエストで300万ゴールド入る予定なので1年位は遊んで暮らせるし、商売の元にも成るはずだ焦って何かをする必要もない。そもそも金持ちに成る気もないのだ。
「早いな、駄目だったのか?」
「いや、もう終わったよ」
村に帰りつくと直ぐに領主がやって来た、相当気にしている様だ。それはそうだな、自分の領地が駄目になるかどうかの瀬戸際だからな、村が駄目になると自分の収入が無くなるのだ。領主や村長にオークの耳を見せたら余りの多さに驚いていた。想像以上の数だった様だ、危うく村が消滅する危機的状況だったのだそうだ。
「これほどのオークが居たとはな、おまけに上位種まで居るとは予想外だ」
「危ない所でした、一度に襲われたら村が全滅する所でしたな」
領主と村長が色々話をしているが、俺達はクエストをこなしただけだから関係ないな。金額は内容からすると安すぎる様だ、討伐隊を組織して討伐すると10倍を軽く超える金額になるだろうなと思う。人を雇って働かせると人数掛ける日数分の金が掛るのだ、俺は魔族の国でコロシアムを作った時に嫌と言う程思い知らされたのだ。
「冒険者の皆ありがとう、歓迎の宴会と報奨金を払うので屋敷まで来てくれ」
「どうするッスか?」
「クエストの完了のサインを貰いに行こうかな」
勇者は早く帰りたい様だが、領主の折角の好意みたいだから受ける事にする。こっちの大陸では権力者は全然知らないので少しは知り合いを増やしておきたい。この大陸は帝国っていう位だから階級に煩いハズだ下位の人間は上位には逆らえない制度に成ってると思う、裏を返せば上の階級の奴を知ってると色々と便利が良いってことだな。
領主の屋敷に行く道すがら俺達は領主に家来に成ってくれって頼まれた。領主と言ってもつい先日なったばかりで借金まみれで金が無いそうだ、この土地は貧しい土地なので税金も入らないし住民も少なくて何時まで領主が出来るか分からないそうだ。
「何にも無い領主様だね」
「面目ない、貴族と言っても一番下だからな。その内国に返上しようと思っている」
「何か取り柄とか無いのかな?領主さん」
「取り柄は広い土地と大森林位しかないな、代わりにオークとか魔物が多いので皆逃げ出してしまうのだ」
「ふ~ん」
「また悪い事考えてるっすね!目が笑ってるッス」
悪い事は勿論考えてない、領主は貴族の一番下だからナイトかな?領主は女だからレデイになるのか。広い土地と森林ってのは良いな、この大陸にも拠点が欲しいな。戦争をする気は無いが情報を集める事は大事だしな。それにこの女領主、飾らない姿勢が気に入った。
「家来に成ってやろうか?」
「何だと!貧乏な領主の家来になるとな。変わり者なのだな」
「ふふ、今は貧乏かも知れんが少しは豊かにしてやろう。半年程待てるか?」
「半年位なら何とか持つと思うが、1年は無理だぞ」
領主の屋敷に着いた俺達はささやかな宴会を開いてもらった、この貧乏領主は本当に貧乏らしく貧相な食事だった。家来は年取った兵士兼執事が2名と老婆2人が使用人の全員だ、昨日の護衛は給料が安いので逃げたそうだ。しかし、もてなそうとしてくれた心意気は大いに買うし、クエストの報酬の300万ゴールドもちゃんと払ってくれた、貧乏を理由に値切るかと思ったら値切らなかったのでびっくりした。流石ナイトの娘と言うべきなのだろうな。俺はこの娘が気に入ったが料理は気に入らなかった。
「しかた無いな、俺が作る!」
「手伝うっす!カレーっすね」
食事が貧相なので俺が作る事にした、ここは貧しい土地で狩に行ける家来も居ないので毎日硬いパンと野草のスープなのだそうだ。俺がご飯を炊いてる間に勇者がカレーを作り出した、背嚢から貴重なお米とカレーのルウを取り出し支度する。全部で9人前だがメイド喫茶で鍛えた俺達にとっては何と言う事も無かった。
「真面目な領主っすね、助けてやるつもりっすね」
「ああ、良いか?」
「良いっすよ、冒険者よりも人助けの方が面白いッス」
この大陸初の異世界料理のカレーが出来上がった。初めて食う連中様に甘口で作ったので皆喜んで食べていた。スパイスは贅沢品なので香りが堪らないのだそうだ、何時も食べてる俺達にはスパイスとか言われても分からないが、香りの事らしい。
「本当に私の家来に成ってくれるのか?給金は安いが大丈夫か?」
「給料は要らん、代わりに場所をくれないか?色々作りたいんだ」
「場所なら好きなだけやろう、幾らでも余ってるからな」
その日の夜、領主の館の隣の石造りの使用人用の家に泊めて貰う事になった。勇者は早速土魔法を駆使して風呂を造り出した、落ち着くと決まったら風呂や竈等をガンガン作るのだ。アリア達が風呂に入ると領主も物珍しいのか様子を見に来た。結構大きい風呂なので領主もアリア達と一緒に入れてやった。
「どうだ?領主はオッパイ大きいか?」
「けっこう大きいッス。気痩せするタイプっすね」
「やっぱり透視してたのか、最低だな。一緒に入って見れば良いだろ」
「そんな恥ずかしい事出来ないッスよ。魔王さんは出来るっすか?」
「アリア達は一緒に入っても良いって言ってたぞ。混浴って普通らしいぞ」
「マジっすか、明日頼んでみるっす。透視ってハッキリ見えないッスよ、実は骨が見えたりするからキモイっす」
やっぱり透視ってそんなものか、骨や内臓とか見えたらグロいだろうな、それでも見る勇者にドン引きだな。アリア達が風呂から上がったので今度は俺達が入る。領主も初めて入った風呂を気に入った様だ、石鹸やシャンプーに興味を持った様だった。
「ふ~、良い風呂っす」
「おい、魔力貸せ」
俺は背嚢から取り出した魔力玉を取り出して勇者の目の前に突き出した。非常時に魔族の国のセイロン男爵と連絡を取ろうとして持って来てたのだ。しかし俺では魔力が無くて通信できないので勇者に魔力を供給してもらう、勇者の魔力なら魔族の国まで通信が届くはずだ。
「お!魔力玉っすか、相手は誰っすか?」
「セイロン男爵だ、あいつは口が堅くて信用できるからな」
「仲間を呼ぶっすか?」
「ああ、ここに拠点を作るぞ。別荘みたいなもんだ」
勇者に魔力を供給してもらったらセイロン男爵に直ぐに繋がった、男爵は俺からの通信を待ってた様だ。
「魔王様!大変です直ぐにお帰り下さい。物凄い混乱状態になってます!」
「何事だ、俺が居なくなってたった2か月だぞ。何が有った?」
「少々お待ちください、またあとで通信します。1時間後に通信いたしますから必ず魔王様が出て下さい!絶対ですよ!」
なんだか魔族の国が不味い事になってる様だ。俺達が出て来る時は平和だったのにな、争いの兆候など全然ないハズだったのだがな。まあ焦ってもしょうが無い、手早く体を洗って自分たちの部屋に帰る事にした。部屋で通信を受けることにする、俺達が魔族の国の人間だと知られたくないのだ。