第81話 オーク討伐
次の日、ロバートに人参をやりブラッシングしていたら。馬に乗った奴が3人やって来た。女が1人と武装した兵士が2人だ。3人程度なら軽くさばけるのでぼんやり見ていたら俺に何やら話がある様だ。
「お前がオーク討伐を受けた冒険者か?」
「・・・・・・」
馬の上にいる兵士が俺に言った。なんだかとても偉そうだ、馬に乗ってるから偉いのか?俺は驢馬だから馬鹿にされてるのか?
「貴様耳が聞こえんのか!」
「聞こえてるぞボンクラ!何の用だ」
「貴様生意気な!」
「生意気だったらどうするんだ?やる気か?ボンクラ」
こいつが誰だか知らないが礼儀知らずには俺は容赦しない、礼儀には礼儀で無礼には無礼で返すのだ。おまけに俺は喧嘩上等なのだ。良い馬に乗ってるからぶち殺して俺の馬にするのも良いな、高く売れそうだ。ふふふ・・誰に向かって喧嘩売ってるのか分かってるのかなこの阿呆。もう直ぐその馬は俺の物だな。
「待て!我々は怪しい者ではない、ここの領主だ」
「あんたが領主か?」
「無礼者!跪け!下郎」
「跪かしてみろ!お前に出来るかな」
俺達の仲間の3人がやって来た。アリアとココは領主に緊張している、勇者はのんびりしたものだ、魔王と一緒に旅をしているので今更木っ端領主なんて眼中にないようだ。多分この国の王が出て来てもヘラヘラしてるだろうな。
「何してるんすか?喧嘩なら手伝うっす」
「貴様ら、たかが冒険者のくせに!」
「たかが冒険者に助けてもらう奴が偉そうに!助けて欲しかったら泣いて頼め!雑魚が!」
わははは、俺は口喧嘩でも強いのだ。挑発するのは得意なのだ、早く俺に切り付けて欲しい所だ。そして反撃してこいつらから有り金残らず巻き上げてやるのだ。
「待て!いい加減にやめてくれ。私は君達を激励に来たのだ」
「激励?」
「私が不甲斐ないばかりに、冒険者にオーク討伐を頼むのだ。直接会って激励するのが筋だろう」
「あんたの所は兵隊居ないのか?」
「うむ、ここは金に成らない領地なので専属の兵士は5人しか居ないのだ」
この領主の治める地域は村が5個、全部で500人しか居ない過疎地だった。土地だけは広いがオークやゴブリンなどの魔獣が出て来る場所なので人が住みつかない場所なのだそうだ。それに彼女の父親が借金まみれで死んだので今の彼女は貧乏でどうにもならない状態なのだそうだ。
「ふ~ん、大変だな。でもまあオークは殲滅するから安心しろ」
「何を生意気な!E級冒険者に出来る訳はない」
「領主さん、こいつちょっと借りるね」
先ほどから俺に喧嘩を売って来る奴に思い知らせる事にした。領主に俺達の実力を見せる良い機会だ。助けてもらう必要は無いが邪魔されると頭に来るのだ。
「何処からでもかかって来い、雑魚野郎」
「E級の癖に!」
アリアもココも俺の実力を見た事無いから心配そうだ。まあ俺は普段は戦わないし盗賊達の金目の物をはぎ取るのが専門だったから仕方ないな。勇者はロバートに岩塩を舐めさせていた、こっちには興味ない様だ俺が負ける勝負はしない事を知ってるのだ。
生意気な奴が長剣を抜いて向かってくる、余裕の表情が何かムカつくな、俺がナイフしか持って無いから舐めてるのだろうな、腰の銃が武器だとは思ってもみないのだろうな。長剣で切りあったら俺が負けるのは確実だが俺はそんな戦い方はしない、遠慮なくぶっ放すのだ。
「E級!早く構えろ!C級の実力を見せてやる」
「御託は良いからさっさと来い!雑魚が」
護衛の冒険者が近づいて来たので、抜き打ちで45口径を2発ぶっ放す。普通は腹に当てるのだが領主が見ているので遠慮して両膝を撃ち抜いた。ちょっと片足がもげそうだが仕方ないな、これは戦いなのだからな、生きているだけでも儲けものなのだ。そして、悲鳴を上げて転げまわってる道化を無視してもう一人の領主の護衛に銃を向けた。地面で転げまわってる阿呆は雑魚だがもう一人の護衛はかなりの使い手なのだ、歩き方や重心の取り方で強さはある程度分かるのだ。
「あんたもやるかね?」
「いや、遠慮しておこう。私は馬鹿ではないのでね」
もう一人の護衛は戦う気は無いようだ、金に成らない事はしないのだろうプロの見本みたいな奴だな。話が早くて分かり易い。首から下げているB級のタグは伊達では無いようだ。
「あんた、こんなに強かったんだ」
「強くは無いな、こいつが弱いだけだ」
アリアとココが驚いていた、領主も45口径の轟音に驚いていたが、俺は魔道具使いで銃は魔道具って事で押し通した。
「魔道具使いとは、初めて聞いた。凄いものだ」
「まあな、違う大陸から来たんだ。冒険者になったのもつい最近だ」
「もう一人の方も魔道具使いなのか?」
「ああ、奴は剣の魔道具使いだ。強いぞ」
「へへへ・・・それ程でもないッス」
地面で泣きわめいていた奴はもう一人の護衛に何処かに連れて行かれた様だ。これであの阿呆も世の中には理不尽な存在が有る事が分かっただろう、一つ賢くなって生きていけるハズだ、金が有れば治癒魔法で元に戻るし金が無ければそのままだな。
「じゃあ領主さん、俺達はオーク討伐に行ってきますね」
「宜しく頼む、私の村を守ってくれ」
へんな連中のせいで30分程遅れたが、俺達は背嚢を背負って森の中に入って行った。本当は荷物を村に預けておきたいが、全財産入っているので置いて行くわけにはいかないのだ。米や飯盒、着替えに予備の銃弾、手回し式の懐中電灯など必需品が入っているのだ。森に分け入るのでロバート君と荷車は渋々村長に預けてきた。護衛のやられた姿を見たら俺達の荷物にちょっかいを出す奴は居ないだろうな。
森の中を4人でドンドン進んで行く、オークが良く現れる場所を聞いていたのでコンパスを見ながら進んで行く。村長に簡単な地図を描いてもらったが、川とか大きな木が目印なので地元の人間にしか分からない地図だ。方向音痴の俺には有っても全く役に立たないのでコンパスで奥に一直線に進んで、帰る時は同じく一直線に帰るしか遭難しない方法が考え付かなかったのだ。まあ実際には森の中を一直線に進むのは無理だから帰りも相当苦労するだろう。
「おい、勇者なんだからマップ機能とか出せよ」
「無理言わないで欲しいっす、水だしたり光ったりするだけで勘弁して欲しいっす」
「そうだよ、勇者のお陰で毎日水浴び出来るだけで、凄い事だよ。おまけに凄く強いしね」
「えへへへ、モテてるっす」
討伐がこんなに面倒だとは思わなかった、敵を倒すにはまず敵が居る場所に行かなくてはならない。当たり前なのだが、やって見るまで気が付かなかったのだな。人間ってこんな感じで微妙に抜けているのだ、後から批判するのは簡単だが実際やると難しいのだ。
「ふひ~、もう限界。俺を置いて行ってくれ。俺はここで飯でも作る事にする」
「それじゃあ、俺一人で行って来るッス、一人なら多分凄い速さで動けるっすよ」
「煙を出す様にたき火をするから、俺の居場所は木に登ればすぐ分かると思うぞ」
「了解っす、狼煙っすね」
背嚢を背負って森の中を移動するのは疲れるのだ、俺みたいな普通の人間には長時間は無理だな。勇者一人の方が早いから任せる事にする。俺達3人は森の少し開けた場所でキャンプをする事にした。火を起こして湿った枝や葉っぱをくべれば煙が物凄く出るので狼煙になるのだ。
勇者の背嚢を預かって俺達はテントを張って休憩だ。勇者は水筒を2本持って物凄い速さで森の中に消えて行った、野生の狼よりも早いし虎よりも遥かに強くて凶暴だ。
「勇者さん大丈夫ですかね?」
「あいつなら大丈夫、多少怪我をしても治療魔法も使えるし攻撃魔法も使えるんだ」
「凄い男だったんだね、勇者って」
「そりゃあまあ、勇者だからな。多分凄いと思う」
俺達は暇だったのでキャンプの周りで狩をして夕飯の材料を集めたり、コンソメスープを作ったりしていた。オーク討伐は勇者に丸投げ状態だな。暇なので地図作りの計画をノートに書いておく事にする。アリア達は文字が書けないので珍しそうに俺が書いている文字を見ていた。考えてみれば昔の人は暦を作ったり、地図を作ったりしてたわけだが、凄いもんだと思う。実際に自分でやろうとしても出来るものじゃないからな、昔の天才の知能とやり遂げる意思は凄いものだとつくづく思う。
「ただ今っす!」
「おお!お帰り。どうだった?」
「オークのたくさん集まってる場所見つけたっす。全部片付けたっす」
「オークのコロニー見つけたのかい、もしかして大きなオークが居なかったかい?」
「そう言えば、色が違う奴とか大きい奴とか居たっす」
勇者が集めて来たオークの耳は全部で69個有った、その中に色の違う奴が4個。アリアが言うにはオークの上位種の物らしい。このオークが居るとオークは極端に攻撃的になって人間の脅威になるのだそうだ。
これだけの規模で上位種が居れば普通は騎士団100名位で殲滅するクエストなのだそうだ。
「へ~、そうっすか。でも一番大変だったのは耳集めっす。気色悪かったっす」
「だよな、今日は特別にご飯にするか。俺達の初クエスト達成だからな」
「良いッスね!これでビールでも有れば最高なんすけどね!」
勇者の活躍で俺達はクエストを達成出来たようだ、アリア達に褒められた勇者は凄く嬉しそうだった。ご飯のおかずは森で狩った兎や鳥だ。秘蔵の焼き肉のたれで豪勢に食べた。良く考えたら俺達は森にキャンプに来ただけだな、まあいいか、勇者も美味い物たべてアリア達にチヤホヤされて嬉しそうだしな。