第80話 ボッチ村到着
「わはは~!楽しいな」
「ご機嫌っすね、魔王さん」
「なんか冒険者になったみたいで楽しいな。例えるなら転職したばかりの時のテンションだな!」
「お~、あれっすか!まだブラックな仕事に気が付いてない状態っすね!そっから毎日テンションが下がって行くッス(笑い)」
「お前、身も蓋もね~奴だな」
「魔王さんの傍にいたから毒舌が身に着いたっす」
ロバート君が曳く馬車の傍を俺達は歩いて行く、捕まえた盗賊は紐で縛って歩かせている。逃げる気は全然無いようだ、逃げても無駄な事が分かってるのか失敗した時の事を考えているのかは分からなかった。
「警戒しろ!勇者は前方、アリアは右・ココは左!俺は後方を警戒する」
3人が即座に警戒態勢に入る、ロバートの耳が左右に動いているのだ。尻尾も警戒するように左右に揺れている。俺は動物の警戒態勢を高く買ってるので即座に皆に警戒させた。動物は寝てる時でも警戒しているのを俺は知っていた、動物たちは人間よりも遥かに優れた耳や鼻をもってもっているからな。
「サトウ!見つけたか?」
「分からないッス!」
「勇者アイとか勇者センサーとか無いのか?」
「そんな便利な物無いっす!」
「風呂覗くだけかお前!」
「何だって!」
「うひ~、今言わなくたって良いじゃ無いっすか!」
駄目だ勇者は役に立たない、それ以上に俺は役に立たない。アリアやココも冒険者としては2流なので期待出来なかった。この場で一番優秀なのは驢馬のロバートだ、俺はロバートの耳を見て敵の方角を探る事にした。ロバートの耳は左の森の中を警戒している様なので俺も左の森を集中的に探す事にする。索敵方法の視線の動かし方は色々有るのだが、森の中は索敵難易度が高いので周辺視野を使って索敵する。多分アリア達には出来ない方法だろう。
「見つけた!左の森15メートル奥だ!」
人間サイズの者が2体森の中を移動しているのを俺が捉えたのだ、静止していれば森の中に隠れている個体を見つけるのはほぼ不可能だが、動いていれば見つけられるのだ。これはギリースーツを着ている場合でも同様だ。
敵らしき者を発見したので俺はアリアとココの傍に行き、銃を引き抜いた。銃は45口径のコルトガバメント、俺は小口径を信用しない大口径信者なのだ。それに俺は手が普通サイズの人間なのでダブル弾倉の銃のグリップは太すぎて持ちにくい、撃っても上手く当たらないだろう。だがガバメントなら10メートル先の飛んでる蠅に当てる位の腕はある。
「勇者いけ!」
「了解っす!」
魔剣グングニルを手に持った勇者が突撃する。邪魔な木を切り倒しながら進む姿は最早化け物だ、あいつが味方で良かったと思った。あいつが全く敵わない4天王のオルフェイスやシルフィーネはどのぐらい強いのか想像も出来なかった。
「やったッスよ!」
森の中から勇者が呼んでいる、俺達は周囲を警戒しながら森の中に入って行った。盗賊達は怯えて固まっていたので驢馬と一緒に道に置いて来た。勇者の前には物理的に2つになった怪物が2体倒れていた。
「なんだこれ?」
「これがオークさ」
「これがオークか、顔が豚で身体は人間に近いのか?足は凄く短いみたいだな」
アリアとココはオークの耳をナイフで削いでいた。不思議に思って聞いてみたら討伐の証拠になるのだそうだ。そしてオークの耳が5体分溜まるとC級冒険者になるのだそうだ。俺達は4人だからオークを20体倒せば全員C級冒険者って事だな。
「オークってどうだった?強かったか?」
「弱いッス、大根切るのと変わらないッス。多分魔王さんでも1対1なら楽勝っす」
オークを倒した俺達はまた村に向かって歩き出した。盗賊達にオークの事を聞いてみたら、村でも男たちが集まってオーク達と戦っているらしい。しかし村には戦えそうな男は20人程で残りは女や子供、老人ばかりなので分が悪いのだそうだ。
オークの外見は分かったが実際の戦闘力は勇者が瞬殺したので分からなかった、俺が銃で倒したいところだが弾が100発しか無いので余り使いたく無いのだ。あくまで銃は護身用に使うつもりなので俺も剣か槍か弓を使う事も考えなくてはならないな。怪物と接近戦をするのは怖いから弓が良いかもしれないな、後で弓と矢を買う事にしよう。
「ここら辺にオークが出るって事は村には結構オークが出るのかな?」
「村には滅多に出ないけど、畑や狩をしていると襲われるんだ、人間が固まってると襲ってこないけど、2~3人だと襲われて殺されたり怪我をする。女は攫われてしまうんだ」
「そりゃあ大変っす、殲滅しないと村が亡ぶっすね」
「しかし、それなら村の人間全員で戦えば良いじゃないか。なんで他人を頼るんだ?」
「俺達は農民だ、戦うのは無理だよ~」
何だか甘っちょろい連中だった、農民だから戦って悪い事は無いハズだ、むしろ自分たちの生存が掛かっているのだから死に物狂いで戦うのが普通だと思う。
「皆があんたみたいに戦える訳じゃないんだ。むしろ戦うより逃げるヤツの方が多いのさ」
「そんなものか、俺には分からない考え方だな」
「あ~、何か分かる気がするッス。逃げた方が楽な気がするんすよ、本当は辛くなるだけなんですけどね」
「まあ良いや、世の中俺みたいな奴ばかりだと殺伐とした世の中になるからな、間抜けが多い方が楽で助かるな」
村に着いた俺達は村長の家に案内された。村は小さな小屋が20棟程建ってるだけのこじんまりした所だった。村全体を囲う真新しい木の柵が目立つが、これは多分オーク避けなのだろうな。高さが150センチ位なので大して役に立つとは思えないが、隠れて弓を撃ったり、槍で攻撃する時には役に立ちそうだ。
「ようこそお出で下されました、歓迎します」
「こんにちは村長さん、お世話になります」
「あの~、紐で縛っている3人は一体どうしたのでしょうか?」
「ああ、あいつら盗賊です。この村の出身らしいので連れてきました。欲しいなら売りますよ、要らないなら他所に売り飛ばします」
「え~!あの馬鹿どもが盗賊・・・」
村長の顔見知りなので3人は安く売ってあげた。金は無いって言うから農産物や弓や矢、後は毛皮なんかを貰ったのだ。あの3人は罰として村の重労働をさせるそうだ。連れて歩くのも疲れるので良い取引だったと思う。
「それじゃあ村長さん、明日の朝からオークを討伐しますから安心して下さい」
「お願いします、村の存亡がかかっているのです」
3人の盗賊を売り払って毛皮や野菜を貰ったので、また少し豊かになった。どうも俺達は金や物に困らない様だ、この調子で頑張ればわらしべ長者に成れそうだ。
「また儲かったっすね、好調っす」
「こんなに上手く行くとは思わなかったな、目指せわらしべ長者だな」
「わらしべ長者って何だい?」
「たしかドンドン成り上がっていく人っすよ。向こうから勝手に金が入るッス」
「うん、そんな感じだと思う。俺達も襲って来た連中を金に換えてるだけだしな。向こうから来てるだけだよな、俺達は全然悪くない」
驢馬のロバート君に貰った人参をやりながら4人で仲良く野営の準備だ。村長の家に泊めてくれるって話が有ったが断った。自分のテントの方が虫が入ってこないので快適なのだ。後は手早くかたずけて街に帰りたいな、勇者の造った風呂が懐かしい。旅は面白いけど風呂にゆっくり浸かれないのが不満だった。
「あ~、風呂にはいりて~な」
「俺もっす、彼女達を風呂に入れてやりたいっす」
「あ~何となくお前の考えが分かったわ」
「いや・・俺は紳士として・・・」
「で・・どっちのおっぱいが大きいんだ?」
「ココちゃんっす!」
「ふ~ん・・」
「違うッス、今のは冗談っす」
勇者は青春してる様だった。そう言えばアリアもココも女だったな、良く見ると標準以上の容姿だった。俺が若けりゃ勇者みたいに意識するのかもしれんな。ここで彼女とか作ったらサキュバスやシルフィーネ達に酷い目にあわされるので我慢だな。