第8章 開戦2日目 昼
「魔王様、朝ですよ。」
俺は一瞬で目が覚める。起きた瞬間から全力で活動できた。普通の人間は出来ない様だが理由は分からない。他人の事には興味がないし他人の事など分からないからだ。そう言えば夜寝る時も布団に入ると直ぐに熟睡する、友人に言わせるとスイッチを切った様に寝るのだそうだ、おれにとっては普通の事だが中には寝つきの悪い人も居るのだそうだ。生まれつきそうなのだからそんなものだと思っていた。
「よお、オルフェイスおはよう。何か変化は有ったか?」
「全て魔王様の計画通りでございます。」
「そうか、野戦部隊は帰って来たか?」
「はい、日が昇る直前に帰って来ております。現在休息中です。」
俺は直ぐに彼らの所に言って戦果の報告を聞いた。補給物資保管場所は9か所で有る事が事前に分かっていたので戦果を聞けば相手の被害状況を予測出来るはずなのだ、そして相手の被害状況をこちらに有利な様に戦闘を進める必要がある。西の軍勢2万が来る前に東の軍団3万を殲滅しないと挟撃されて不味いことに成ってしまう。
「お前達良くやってくれた。9か所のうち7か所を完全に焼き払えたのは十分な戦果だ、それに彼らの睡眠を奪ったのも大きいぞ。今晩は残りの2か所を攻撃してくれ、相手も十分警戒しているから難しい作戦になるだろうが、君達夜の部隊なら出来るはずだ。期待している。」
「魔王様ありがとうございます。わざわざ俺達なんかを褒めに来て下さるとは。今晩も俺達は頑張りますから期待していて下さい。」
彼らは魔族の中では戦闘力が低い方なのでかなり馬鹿にされていた過去が有る。そこに俺、魔王が直接褒めに来たので大層喜んでいる様だ。直接褒めるだけでこんなに喜ぶなら勲章とか渡したら物凄く喜びそうだ、魔族は名誉とか評判とかを気にするみたいなので、さっそく勲章を造らせて魔族の士気向上に利用する事にした。こういう場合はたくさん種類を造って金・銀・銅みたいに戦果によって差をつけると有難みが増して頑張る奴が出て来るだろうな。こういう物に興味を持たないクールなヤツは大抵頭が良いので、俺や部隊の参謀にしたら丁度良いだろうな。
「オルフェイス、勲章を作成しろ。金・銀・銅の勲章だ!活躍した者に俺が直接渡す。」
「おお~魔王様、それは我々の士気が向上します。早速作らせます。」
やはり魔族4天王筆頭のオルフェイスは頭が良い様だ、勲章の効果が直ぐに分かった様だ。こんな安物でやる気を出してくれるなら幾らでも作ってやる。
「シルフィーネの部隊はどうなっている?」
「現在ドラゴンを集めています。大型の飛竜なのでかなり離れた場所に住んでいますから時間が掛かる様です。」
「そうか、集まり次第西の軍団の食料を攻撃させてくれ。俺は朝飯を食って今日の戦闘計画を立てる。」
ドラゴンはデカいので魔王城の中にはいない。遠く離れた場所に生息しているのだ、今回攻撃に使う様なドラゴンは大きくて強いので当然沢山食べる、沢山の食料を確保できる広大な土地を縄張りとして生きているので集めるのが難しい。それにドラゴンが従うのはドラゴン族のシルフィーネだけだ。他の魔族が生意気な事を言ったら食われるだろう。ドラゴンは大きくて強くて知能も高いのだ。それに数も少ないこの世界でも珍しい存在なのだ。
「魔王様朝食ですわ、血も滴るステーキでございます。」
「うえ~、朝からステーキか~。」
サキュバスが満面の笑みで俺に血の滴るステーキを差し出してくる、やはり魔王たるもの肉食のイメージなのだろう。俺は良く焼いたヤツしか食べないので調理場に行って自分で良く焼いて食べた。サキュバスはしょんぼりしているが別に気にしない。女の機嫌を取るために食ってるわけじゃないからな。
「血の滴るのはお嫌いでしたか?」
「ああ、良く火を通してくれ。俺は人間だから雑菌に弱いんだ。」
「雑菌?ですか・・」
「ああ、何でも火を通せば安全に食べられると思ってくれ。毒物は別だがな。水も一度沸かしたヤツを持って来てくれ。」
「分かりました魔王様。」
この世界の食い物が安全かどうか一々食って試している時間は無いので最低限の安全の為に指示を出す、遠慮して腹を壊したり中毒になってる場合じゃ無いからな、今は戦時なのだ。そういえば今日は忙しくなりそうだ、昨日寝かせなかった東の連中に更にプレッシャーをかけなくては行けないからな。チビチビ叩いていたら慣れたり回復したりしてしまう。睡眠を奪って正常な判断力を奪って、食事を摂らせない様にして体力を奪い。周りの人間を殺すことで恐怖を叩き込んでやる。
「ふふん、やるではないか新魔王よ。」
「なんだ腕輪ちゃんか、出て来たのか。」
「腕輪ちゃんではないわ!大魔王様と呼べ!」
「はいはい大魔王様。何しに出て来たんだ?暇になったのか?俺は忙しいから遊んでやらないぞ。」
「貴様、儂に対する敬意のかけらも無いのじゃな。」
「敬意が欲しかったら自分の力で勝ち取ってみろ大魔王とやら。口先だけでは誰も敬意を払わないぞ。」
「人間の小僧の癖に生意気なヤツじゃ、だが一理はある。魔力さえ有れば東の軍勢など消し飛ばして見せるのじゃが・・・今は無理じゃ。」
「東は俺が叩き潰すから結構だ。何か出来るなら西の軍団を叩いてくれ。」
「ぐ~、魔力が回復するまで待っておれ。儂の実力を見せてやるからな!」
初日に出て来た腕輪ちゃんが現れたが別段役に立たない様だ。大魔王とか言いながら前魔王も制御できなかった無能なので魔王の腕輪の付属品みたいなもんなのだろう。さて東の国の部隊に最大限の嫌がらせをしに行こうか、精々無駄な頑張りをしてもらおう。俺は今の時間の防御担当のバルドの所にゆっくり歩いて行った、腕輪ちゃんは元の腕輪に戻った様だ。