第77話 クエスト受注
アリアと一緒にギルドにやって来た。背中に40キロの背嚢を背負って無いのでとても楽だ、荷物はアリアの家に置いているので勇者とココが番をしているのだ。家が無かったら何時も背嚢を背負って移動しなくてはならないから疲れるのだが、この世界では金目の物は直ぐに盗まれるので基本的には常に金目の物は身に着けているのが基本だった。因みに俺と勇者は金貨の袋等は腹巻に入れて身に着けている、アリアやココは腕輪やネックレスとして身に着けている様だ、スリや泥棒が多い世界では普通の光景だった。
「アリア、ギルドのクエストって儲かるのか?」
「儲かる奴は危険だったり、物凄く難しいクエストだね。安い奴は簡単で誰でも出来るヤツだね」
「薬草採取とかは安そうだな?」
「安いよ、でも危険地帯に生えてる薬草とかは物凄く高い奴も有るよ。ハイポーション用の薬草なんて1本1万ゴールド位するんだ。山の上の危険地帯に有るから滅多に取れないけどね」
「へ~、それ良さそうだな。100本位取ってこようぜ」
「無理だって、危険地帯には狼がうようよ居るから10人以上の冒険者が行かないと危険なんだ。そして大勢で行くと余り儲からないんだよ」
成程上手く出来てる様だ、薬草100本採れば100万だが10人が装備を整えて20日程かけてクエストを成功させると一人当たりの日当は5000にしかならないのだ食費や装備の分を引いたら一日2000~3000ゴールドだから割に合わなくなる計算だ。山までは100キロ程だが結構険しい山なので登るのが大変なのだそうだ。10日でクエストを終わらせてやっと普通の稼ぎになる程度だな。
「じゃあさ、簡単な薬草採取って幾ら位になるんだ?」
「一日で終わるような奴は大体一日1000ゴールド位さ、子供達がやってるよ」
「ふ~ん、それじゃあ一応真面目に働くと食うには困らない訳か」
「本当に食うだけさ、服も家も無しさ」
俺が子供なら5人程でチームを組んで、食料を確保するのに2人、薬草採取に3人回して一日3000ゴールド稼いで生活するだろうな、こっちの子供達はしないのかな?
「こっちで子供が儲けていたら、この間の奴らみたいのがやって来て金を盗んで行くから無理だね」
「成程、クズが多いのか・・・孤児は多いのか?」
「多いね・・私たちもそうさ」
「そうか、助けたいが今は無理だな。金を稼ぐのが先だな」
「そんな事が出来たら、あんたは神様さ」
俺は神では無いが、金さえ有れば色々な事が出来るのを知っていた。金なんて死んだ時には持って行けないのだから使えば良いのだ。貯めこんでも何の意味もないからな、魔王が人助けをするのも面白いな、神に出来なくても魔王なら出来ることが色々有るのだ。職業魔王、趣味善行ってのも変わってて面白い。
「ふへへへ~、面白い!」
「何だよ!気味悪いね!」
「うむ、すまんかった」
アリアと一緒にギルドに入ってクエストを探す、俺は字が読めないからアリアが探している。俺は壁に貼ってあるクエストの数字の大きさを見てるだけだ。この数字が大きければ儲かるクエストだと思う。それに高そうなクエストは革の質が良くて大きい様な気がする。
アリアは難しい顔をしてクエストを吟味している様だ、自分達と俺達の強さをまだ把握出来ていないので迷っているのだろう。
「良いクエスト有ったかアリア?」
「う~ん、4人だから1日2万以上の奴を探してるんだけど、危ない奴ばっかりだね」
「じゃあこれにしようぜ」
俺は壁に貼っていたヤツの中で一番数字が大きい奴を剥がしてアリアに見せた。そうしたらアリアが怒り出したんだ、難し過ぎて危険なんだそうだ。これはB級冒険者用のクエストなのだそうだ。
「でも金になるんだろ?幾らだ」
「クエスト達成で300万ゴールド、達成条件がオークの殲滅だよ。何匹いるのか分からないオークを殲滅なんて軍隊じゃなければ無理だからね」
「そうか、じゃあ勇者と2人で行って来る」
俺は内容が分かったので、怖い顔をした受付にクエストの依頼書を持って行った。オークが何かは知らないが、きっと勇者が何とかするはずだ、だって勇者だからな。
「このクエストが受けたいんだ」
「こりゃあんた達には無理だ。B級のチームが5チーム位で受けるクエストだ」
「でも受けたいんだ、俺の連れは物凄く強いから大丈夫だと思う」
「う~ん・・・本当はあんた達に紹介する訳にはいかないんだが・・・」
結論から言えば俺はこのクエストを受けられた。誰も引き受け手が居ないのでギルドが困っていたのだそうだ、そして依頼主は領主だから断れない依頼なのだそうだ。つまりギルドとしては一応冒険者を出したという名目が欲しかったらしい。俺は生贄みたいなもんだな。
「あんた、死んじゃうよ!」
「生きて帰ったらBクラスにしてくれるってさ、怖い顔の奴が言ってたよ」
家に帰るついでに食料品を買って帰る事にする、野菜や肉を買ってみたが何の野菜か分からない、味もどんなものか分からないが沢山売っていた奴なので食えるはずだ、アリアに聞いてみたらスープに入れて食うのだそうだ。見た目はホウレンソウみたいだった、肉は兎肉なんだそうだ、ここらじゃ豚肉か兎肉が主力で後は魚食ってるらしい。
「ただいま!」
「お帰り魔王さん、今日は竈作ったッス」
俺達がギルドに行ってる間に暇な勇者は竈を造っていた。最近土魔法に目覚めた勇者は立派な竈を造っていた。これなら2種類の料理が同時に出来そうだ。最近芸が細かくなって成って来た様だ、流石勇者だ一家に一人居れば生活が楽になるだろう。
「じゃあ、飯つくる」
「ご飯っすか?久しぶりに米食いたいッスね」
「良いぞ、飯盒持って来いよ。炊くから」
「ちょっとあんた!それどころじゃないだろ、クエストどうするんだい!」
「クエスト?」
「殲滅クエスト受注してきたぞ、300万になるぞ」
「良いッスね、チマチマした奴は苦手っす。派手に吹き飛ばすなら楽ッスよ」
「だよな(笑い)」
アリアとココは困った顔をしていたが、俺達に細かい作業や地味なクエストは無理だ。なにせ魔族の国から出て来たのは冒険をするためなのだ。派手な冒険なら望む所だ。危なく成ったら逃げるだけだからな。
明日からクエストに出かける予定なので、今晩は貴重なお米を使う事にした大事に背負っている背嚢に米を5キロ程持って来ているのだ、飯盒で4合炊けるから4人で食えるはずだ。
「俺は飯盒でご飯炊いた事無いっす」
「俺に任せろ、俺達がガキの頃はキャンプでは飯盒ご飯だったんだ」
俺が子供の頃は小学校のキャンプは飯盒でご飯を炊いていた、おかずは女子がカレーを作っていた様な気がする、家庭科の授業で雑巾縫わされたり、味噌汁を作ったりしていたので小学校高学年なら自炊が出来ていたし、中学では工作の授業で椅子を造ったりしていたので、中学卒業したら日曜大工も出来る様になっていた。早い話が中卒で一人暮らしが出来る教育カリキュラムだった訳だ。面白い時代だったな、中卒で働く奴は居なかったけど。
「飯盒ってどうやって炊くんですか?」
「普通に米研いで、火にかけるだけだぞ。炊きあがりは音で判断するんだ、チリチリ音がしたら出来上がりだな。後は火から下して10~20分位置いとけば出来上がり、焦げ目がついいてて美味しいぞ」
「へ~、簡単っすね」
「そりゃあそうだ、やって見れば簡単だ。飯盒には親切に水の量の印までついてるからな」
飯盒でご飯を炊いてる横でスープを作る、固形のコンソメを持って来てるので簡単だ、コンソメ1個で500CCの水に対応してるので4人分なら1000CC、コンソメ2個で普通のコンソメスープの出来上がりだ。おかずは買って来た肉を焼いた奴だ。塩コショウだけだが結構美味かった。
「飯盒ご飯って美味いっすね!焦げ目が美味いっす」
「沢庵も有るぞ、缶詰沢庵」
「久しぶりッス、ご飯と沢庵は美味いッス」
幸せそうに沢庵とご飯を食べている俺達の横でアリアは心配そうな顔をしていた。勇者の強さを信じてない様だ。オークが何かは知らないけど、人間が戦える程度の相手なら勇者が何とかすると思う、魔族の国で戦闘訓練を受けた勇者は4天王最強のシルフィーネにはボコボコにされていたが4天王最弱のオルカよりは強いみたいだからだ。多分何とかなるだろう、俺は危ないので遠くから見てるつもりだったのだ。