第71話 魔王の帰還
今日は王子を連れての里帰りだ、もはや俺と勇者はこっちの世界が自分の世界だと覚悟を決めたのだ。王子をこちらに連れて来たのは向こうで世話になったお礼替わりだ。王子も国のナンバー2となったのだから色々な物を見て見識を広めた方が良いと思ったのだ、自分が一番なんて思うと現実から簡単に破滅させられるのがオチだからな。
「ただいま、サキュバス達」
「お帰りなさいませ魔王様、勇者」
久しぶりの自分の部屋だ、サキュバス達10人が俺達を出迎えてくれる。なかに向こうの世界でメイド喫茶に居たサキュバスも居るので王子に気が付く者もいた。王子は一生懸命皿を洗って手伝ってくれたのでサキュバス達も気に入っていた様だ。
「あら、王子もいらっしゃい」
「うむ、久しいのサキュバス達」
ーーボカ!--
「痛い!痛いではないか勇者!」
「気取るんじゃねース!ここで生意気な態度を取ると食われるッス」
「な・なんじゃと!」
「そうだな、王子この服に着替えとけよ。この服着てたら食われないからな」
「え~!本当に食われるのか!怖ろしい所だな」
俺の部屋にはサキュバス達やアルしか居ないから怖くないが外に出ればここは魔族の国だから当然魔族だらけなのだ、転移初日に魔族を見た時は怖かった、真面目に食われるかと思った位だ。今では魔族も見慣れたがそれでも夜などに3メートル近い巨体に会ったりすると純粋に恐怖心が出て来るのだ。
「なんだ、運動着ではないか。これを着てたら何で食われないのだ?」
「これを着てたら俺の親衛隊って分かるから魔族は襲わないんだ」
自堕落な俺は何時もジャージを着ていたのだ、そしてサキュバス達が欲しがったので彼女達もジャージを身に着ける様になったのだ。そうしたらジャージを着ている者は俺に近い者だから魔族から敬意を持って扱われる事になった訳だ。今では短気なトランザムや魔族最強のシルフィーネまで毎日ジャージを着てるので、敬意どころか逆らうと危険って感じに成っていた。俺達の世界ではジャージは運動着なんだがこの世界では合成繊維は存在しないので偽物すら出来ないのだ、真似して着たい奴もいる様だがこの世界では似たものすら出来ないオーバーテクノロジーの服だった。まあタダのジャージなんだがな。
「あっこれお土産、後で一緒に食べような、冷やしておいてくれ」
「何ですかこれは?不気味な色ですね」
お土産に両手にぶら下げて来た西瓜の反応は予想通りだった、おまけに今回はマンゴーやドラゴンフルーツ等の見た目の派手な南洋の果物も持って帰ったのでサキュバス達は警戒していた。こっちの世界では派手な色のヤツは大抵毒を持ってるから警戒するのだ。
「着替えたのだ、魔王」
「そうか、それじゃあ城を案内するから付いて来いよ」
「何を見せてくれるのだ?」
「何でも好きな物見せてやるぞ、宝物庫とか見たいか?」
「この世界の宝物か、興味は有るな」
王子を連れて宝持庫にやって来た、今では少し宝物やお金が入っているのだ。俺が来たときは空っぽだったが、俺の涙ぐましい努力で少しだけ中身が入ったのだ。
「うわ~!何だこれは!」
「何だって言われてもな、これはケルベロスだ。宝物庫の番をして貰ってるんだ、とっても有能なんだぞ」
「怖い・・」
「そりゃあ怖いだろうな、地獄の番犬だもんな」
宝物庫の見張りをしてくれていたケルベロスのケロちゃんを撫でまわし、3つある頭をポンポン叩いていたら喜んでいた。ケロちゃんは賢いのでちゃんと俺を覚えていたのだ。俺が宝物庫に入ろうとしたら、頭で宝物庫のドアを開けてくれる位賢かった。
「じゃあなケロちゃん、後で遊ぼうな」
「バオン!ウオン!ギャオン!」
3つの頭から同時に返事がする、凄くデカい声なのだ、それに微妙に鳴き声が違うのだ。今ではどの頭がどの声を出すか知ってるが、最初は同時に吠えられて何が何だか分からなかったな。戦闘時には相手を金縛りに掛けたり威嚇する声を同時に掛けて戦うのだそうだ、身体も馬並みに大きいから多分凄く強いと思う。
「来いよ王子」
「怖いのだ・・3つの頭で私を見ているのだ・・」
「余り気にするなよ、ケロちゃんが暴れ出したら俺には止められないからな、気にしても無駄だぞ」
「ひ~、余計怖いのだ」
震える王子を連れて宝物庫に入った俺は宝物や宝石等を見せた。俺はこれらの価値が良く分からないが、王子は俺よりも金目の物に縁が有るから分かるはずだ。
「なかなかの物だな」
「そうか?どれが価値が有りそうだ?」
「金貨や銀貨は含有量が分からないから何とも言えないが、宝石は凄い価値が有ると思う」
「そうか、それじゃ少しやるから持って帰れよ。お土産だ」
「はあ?私のいう事を聞いてなかったのか魔王。それは凄い価値が有るのだぞ」
「・・・?価値が有るならお土産に丁度良いではないか」
「・・・全く魔王には欲が無いのだな・・」
元々この金貨や宝石を金に換えようとして向こうの世界に行っていたのだ。そしてネットで売っても身元がバレない様に勇者に海外の秘密口座を作らせたのだが、俺達は王子のお陰で金持ちになったので宝物庫の宝に余り価値が無くなったのだ。それに俺は金や物に執着する性格では無いのだ。
金貨や銀貨、宝石などをエコバックに詰めて王子に渡した、エコバックは安くて丈夫だから俺のお気に入りなのだ。
「ほれ、王子お土産だ。帰ったら金貨や銀貨の含有量を調べてくれ、少し興味が有るからな」
「分かった、宝石の価格も教えよう。凄い値段になると思う」
「そうか、ありがとう」
用も済んだので宝物庫を後にする、ケロちゃんは尻尾をブンブン振って挨拶している。そう言えば尻尾を振ってるだけなのにバットの素振りみたいな音を出してるな、あの尻尾に当たったらバットで殴られるようなものなのだろうか・・等と考えていたら、王子がしきりに俺を引っ張るのだ。
「魔王、早く行こう。怖いのだ」
「あんまりケロちゃんを嫌うなよ、しょんぼりしてるぞ。見ろ、尻尾が垂れたじゃないか」
「済まないのだ」
王子がケロちゃんに頭を下げるとケロちゃんは再び尻尾をブンブン振り始めた、機嫌が直った様だ。でもやっぱりあの尻尾に当たったら人間は骨位簡単に折れそうだと思った。
「来いよ、街を案内するよ。色々な魔族が居るから面白いぞ」
「うむ、楽しみ・・・な様な怖い様な・・・」
エコバックを手に持った王子を連れて俺は魔王城の階段を下りてゆく。以前は怖くて一人で街に行けなかったのだが、武闘大会以降は一人で街に行っても平気になったのだ。あの大会から俺は魔族全員に顔を覚えられたのだ。そして俺が古龍の友人だって事も魔族全員に知れ渡ったのでいきなり俺を食おうとする魔族は居なくなったのだ。俺を食ったら古龍に食われてしまうからな。