第69話 魔王駐日大使になる
王子の国は内戦状態になってしまったので、このまま保護する事にした。日本でも小さなニュースに取り上げられる程度だったので、余り日本と関わりのない国だった様だ。
俺達はいつも通り喫茶店で頑張って働く毎日だ、男爵と昆虫族の2人は山の別荘が気に入った様なので、別荘で休暇中だ。王子は健気に皿を洗って頑張っていた。最初は馬鹿かと思ったが、3か国語を喋ったり、誰が味方か分からないので国に連絡をしなかったりと結構優秀だった事が分かって来た。
「魔王、世話になったな。私は国に帰る事にする」
「おっ、終わったのか?」
「やっと終わった様だ、それに私にも仕事が出来たらしい」
どうやら決着がついた様だ、国に帰るのだから勝てた様で良かった。王子は口が堅くて内戦については俺達に話さないのだ、それに俺達も他人の兄弟げんかに口出しする気も無かった。
「そうか達者で暮らせよ、これからが大変だろうけどな」
「うむ、国を建て直さなくてはな。詳しい話は国の恥なので話せないが世話になった」
「また遊びに来ると良いっすよ、こき使ってやるッス(笑い)」
「有難う勇者に魔王、落ち着いたら連絡する」
襲撃から1か月後王子は国に帰って行った。結構王子を気に入っていた俺達は盛大な送別会を開いて送り出してやった。まああいつは金持ちなので又チャーター機で国に帰った行った、お土産はラノベやアニメの円盤の大人買いだった。そもそもあいつが日本語を話していたのはアニオタだったので日本語を勉強していた為だったのだ。
「面白い奴だったな」
「ソウっすね、良い奴だったッス」
王子が帰ったのでサキュバス達の入れ替えを行った、王子は俺達が普通の人間じゃ無い事を気づいていたみたいだが、一応用心の為にあっちの世界の事は隠しておいたのだ。
「ふひ~!又忙しくなったッス!」
「ああ、新しいサキュバスが来たら客が増えるとは思わなかったぞ!」
サキュバスの入れ替えを行った当初は以前のサキュバスのファンだった紳士達がショックで店に来なくなったのだが、新しいサキュバス達のファンが次第に増えて来て又店は忙しくなって来ていた。この時はもう十分儲けたのでのんびりやりたかったのだが、サキュバス達が店をやりたがっていたので仕方なく店をやっている感じだった。
毎月1000万程の純利益が出るので郊外に10年ローンで建物を建てる事にした。3階建てのビルで1階はメイド喫茶、2階はスナック3階はサキュバス達の部屋だ。その頃には個人の事業を辞めて会社形式にして全員に各種保険や年金等もかけていた、週休2日でボーナスも年間6出す優良企業の出来上がりだ。
「なんか大掛かりに成って来たッスね、魔王さん」
「そうだな、何でこんな事になるんだろうな?趣味で始めただけなのにな」
「魔王さんは凝り性だからじゃ無いッスかね?」
「凝り過ぎた様な気がするな」
「まあ良いではないか、自分の城が有るのは良い事だ」
郊外に俺達のビルが建った頃に隣にも立派なビルが建った。高い塀と監視装置が沢山ついた胡散臭いビルだったのだが、なんと王子の国の大使館だったのだ。日本に初めて建てた大使館が俺のビルの隣というのも変だったが、王子が俺を駐日大使に任命して、勇者を駐在武官に任命したのには驚いた。命を助けたお礼替わりなんだそうだ。給料が年間100万ドルの名誉職だった。普通のサラリーマンだった時には金に縁のない生活だったのに、魔王になったら向こうから金が寄って来るのだから不思議なもんだ。サトウも喫茶店の仕事で十分稼いでるので微妙な顔をしていた。あいつも週休2日でボーナスが有れば不満は無いのだそうだ。そしてどういう訳だか、王子がたまにやって来て皿洗いの手伝いをしていくのだ。何でも無心に皿を洗っていると良いアイデアが浮かぶのだそうだ。
「王子!国の内戦って何だったんスカ?」
「そうだな、余り言いたくは無いが、命を救われたからには話さなくてはならないな」
王子の国の内戦は第1王子対第2・3王子によるものだったらしい、結果として第1王子が勝利して王位継承した訳だが、その時に第4王子は誘拐されていて監禁場所で殺されていたそうだ。勿論第2・3王子は処刑されたそうだ。つまり俺達の前にいる王子は第5王子から第2王子にレベルアップした訳だ。
「じゃあお前国で2番目に偉くなったんだな。こんな所で皿洗っていて良いのか?」
「私は偉くなったのだから好きな事をするのだよ、魔王」
「成るほど、偉いから好き勝手にするってヤツですね」
「でもさ~、メイド喫茶で皿洗わなくても良いだろうに」
「ふ、魔王や勇者がやってるんだから問題ない」
とにかくこの王子は変わっていた、頭が良いのか悪いのか分からない変な奴だった。ただし凄く律儀で信用は出来そうなヤツだったから俺と勇者は可愛がってたのだ。
「魔王よ、我が国は資源しかない国なんだがどうやって発展したら良いと思う?」
「教育と産業の育成は金と暇がかかるからな~、それに資源国で技術が育ったって聞いた事ないな」
「国民に教育をしてレベルアップって駄目なんスカ?」
「長期的には正しいんだが、それまで国の財政や体制がもつかどうか分からないからな~、それにあそこらへんは変な宗教や国が乱立してるから独立を保つだけでも難しいだろうな」
「難しいっすね」
結局俺が王子に言ったのはリスクを回避するべく、色んな国に資産を分散させて運用して利益を出すのが一般的だろうって事だ、そもそも俺にグローバル経営や国の運営なんて無理なのだ、王子が正しいと思う事をすれば良いと言ってやった。
「そうだな、学者や専門家って言う連中は視野が狭すぎて役に立たないのだ、世界全体を見ながら計画を立てられる人材が欲しいのだがな」
「そんなの居ないぞ王子、自分でやるしかないな」
「うむ頑張ってみる、その内魔王の国も見てみたいものだ」
「その内連れてってやるよ」
王子の国は俺にとって有益な国だった、サキュバス達のパスポートや身分証明書をジャンジャン作ってくれたり、俺に外交特権を与えてくれたりしてくれたのだ。どんなやばい物でも外交郵袋で運び込めたので王子の作った大使館は難攻不落の要塞となっていた。国のナンバー2になったので用心深くなった様だ。
「魔王さん、なんか俺金持ちになったッス」
「金だけじゃないぞ、駐在武官だからかなり偉いぞ」
「昔は偉くなりたいとか、ホワイト企業に勤めたいって思ってたんすよ。でも実際なったらどうでも良いっすね。もっと感動するかと思ったっす」
「そりゃそうだろう、肩書が付いて銀行の口座の数字が変わっただけだからな」
「身も蓋も無い言い方っすね、魔王さんらしいッス」
王子を助けた事で俺達は外交特権を得て、この国で好き勝手出来る様になった。サキュバス達にも本物の身分証明書がジャンジャン出来るしどんな身分も作り放題になった。もっとも俺は目立つのも、面倒なのも嫌なので真面目に店を経営して税金を納めていた、でも金が余るのだ。
どうせなら出版会社でも作るか・・アニメの制作会社でも良いな、週休2日でボーナス5位出したら人も集まるだろうしな~俺の後ろにはオイルマネーが有るから幾らでも金ならあるし・・俺の小説をアニメ化して映画にしてアカデミー賞も買って、宣伝に100億程金をつぎ込めば・・・・いやいや、辞めておこう俺の話は一般向けじゃないから売れないしな。宣伝してこけたら結構恥ずかしいよな、恥ずかしさの余り人間たちを皆殺しとかするとマズいよな。
「魔王様、どうして難しい顔してるのですか?」
「何でもないよ~、ちょっとした妄想ってやつさ」
「じゃあ今日も一日頑張るっすよ!なんせ今日はボーナスの支給日っすからね!」
年に2回、ボーナスの支給日に異常にやる気をだす勇者が朝礼を仕切っていた。何はともあれ、また俺達の店は平常運転に戻ったのだ。しかし今のボーナスって昔と違って国が色々取って行くから手取りが凄く減ってるって知ったら勇者はブチ切れるだろうな~、うん黙っておこう。