第68話 迎撃
さて晩飯を食べてくつろぐフリでもしようか。サキュバス達は既に位置についている、勇者も裏口からの侵入に備えて奥の部屋で待機状態に入った様だ。俺と王子は部屋の真ん中でノンビリしている。一番目立つ所に居る囮の役割だ、銃撃戦だと一番最初に死ぬ場所なのだが多分大丈夫だろう。武器も持って無いし普通のオッサンだからいきなり撃たれたりは多分しないと思う。悪運だけでここまで生き延びて来たので死んでも別に文句も無いし、面白い人生だったなって思うだけだしな。
「魔王様、来ます!」
「あれ?念話出来たの男爵」
「これでも爵位持ちですからね、一応出来ますよ」
男爵から情報が入ったのでサキュバス達にハンドシグナルで合図をだす。サキュバスはナイフを持ってドアの左右に展開した。勇者もドアの脇に素早く移動する。もうすぐだ、俺と王子はボ~っとして座る係だ。耳栓をしてるので話しても何も聞こえないので退屈だ、ただドアが開くのを待っているだけだ。
そのとき突然ドアが開きスタングレネードが投げ込まれた、目を閉じても無駄なので顔を反対方向に向けるそして爆音に備えて口を軽く開けておく。
何とも言えない爆音が体に響き、目を閉じていても分かる閃光が閃いた。部屋の中は埃が舞い、天井からパラパラと何かが落ちて来た。隣の王子は目を閉じただけだったのか目を手で押さえて喚いていた。俺は埃が舞う室内を見て、後の掃除が大変だなって考えてた。そしてその1秒後、侵入者が2名入って来た。
「ウゴクナ!ジットシテロ!」
普通なら何も聞こえないので何を言っても無駄なのだが、律儀に警告してくれている様だった。手には麻酔銃を持っている様だったが、一瞬で壁に叩きつけられたのでよくわからない。サキュバス達は侵入者を壁に圧しつけ両手はナイフで壁に縫い付けられ固定されていた。既に彼ら2名の戦闘力はゼロだ、少しでも動けばサキュバスのナイフが今度は手では無く首に突き立つだろう。グレネードが爆発してここまで3秒で制圧完了だ、サキュバスの戦闘力は人間を遥かに超える様だ。
「サトウ!そっちはどうだ?」
「駄目っす!」
「何だと!男爵バックアップしろ!」
「嫌違うッス、大丈夫っす!」
何の事は無い、後ろから入ろうとした二人は昆虫族の2人に捕まえられていた、ちょっと手足がブラブラしているが生きてる様だ、カブちゃんとクワちゃんは人間を殺さない様に気を使った様だった。彼らが普通に攻撃すると人間の手足は千切れてしまうからな。
「また俺だけ何にもして無いっす!」
「俺も座ってただけだぞ」
「でも俺一応勇者っすから」
「それじゃあ、あいつらの逃走用の車を取ってこいよ、近くに隠してるハズ。もしかしたら人も居るかもしれんが」
「行ってくるッス」
勇者は急いで外に走って行った、そう言えばアイツは勇者らしいことをしてなかったな。サキュバスに手を出して死にかけたり、サキュバスのエロ画像を売って儲けたり、サキュバスのメイド喫茶で飯作ったりしかしてないな、やっぱり気にしてたのかな?
それから3分ほどして男爵が男を2名両手に抱えて入って来た、完全に気絶してるようで身体がブラブラだった。
「魔王様、遅くなりました。車の中に居た2名を捕まえました」
「ご苦労男爵、そこに寝かせて置いてくれ」
今回の襲撃に参加したのは全部で6名だった様だ、残りはアジトの始末と逃走用の船か飛行機で待ってるのだろう。残りのメンバーと王子の誘拐の目的について聞き出さないといけない。6人の中で意識が有るのはサキュバスにナイフで壁に縫い付けられている2名だけだった。プロらしく痛みを我慢して一言もしゃべらない立派な兵士だった。
「さて誘拐者の諸君、知ってる事を全て話して貰おう」
「・・・・」
流石はプロだ全然喋らない、何だか微笑んで友好的な感じだ。捕虜になっても泣きわめいたり暴れたりしない所を見るとこちらの隙を探っているのだろう。ふっ・・やるじゃん、プロって良いよな。
「拷問は面倒だから話してくれないか?」
「・・・・・・」
うむ、強情なプロの様だ。だが強情な奴は何だか腹が立つな・・カブちゃんに腕でもちぎってもらおうかな・・それとも腕でも食って貰うか・・・。プロだから時間稼ぎをしているのは分かっている、決められた時間が過ぎれば喋る様に指示を受けてるはずだ。拷問に耐えられる人間は存在しないのだ。
「なあ魔王、こいつら日本語分からないんじゃないかな?」
「えっ、そうなの。・・俺は英語喋れないぞ」
うむ大問題だ、言葉の壁って奴だな。俺の言ってることが分からないなら相手も答えようが無いな。たとえ相手が素直に喋っても俺には分からないしな。ふっ・・・これだから人生って奴は面白いぜ。もう面倒だから皆殺しでイイカナ・・・。辞書使って尋問とか面倒だしな。俺が色々考えていると捕虜たちの顔色がドンドン青ざめて行く、俺の考えが分かるのかな?カンの鋭い奴だな、益々生かしておけんな。
「魔王さん英語駄目っすか?」
「うむ、挨拶とありがとう位だな」
「俺もッス!ニーハオしか知らないッス!」
「そりゃあ中国語だろ、俺より駄目じゃん」
いつの間にか帰って来た勇者も尋問に加わったが役に立たない。それから俺と勇者の外国語の知識の披露が始まった。「ボンジュール」、「トレビアン」、「グッドモーニング」、「グーテンタッグ」、知ってる外国語を言うたびにゲラゲラ笑う俺達を見て捕虜は泣きそうな顔をしている。どうも俺達の事を危ない人間だと気が付いた様だ、サキュバスは俺が笑ってるので楽しそうだし、男爵は獲物を見る目で捕虜たちを見つめてるし、カブちゃんとクワちゃんは黙って立ってるだけだ、はっきり言って非常に不気味な感じだった。
「魔王、私が英語を話せるぞ。通訳しようか?」
「何だと!王子って有能だったのか!」
それから王子が俺の通訳をしだすと捕虜たちは何でも喋ってくれた。物凄く協力的な捕虜だった、まだ死にたくないのか、楽に死にたいのか分からないがな。
「ふ~ん、こいつらの雇い主はお前の第2王子なのか。それじゃあ王位継承争いだな」
「まさか兄さんがそんな事をするなんて・・」
「どうする?このままここで暮らすか?それとも反撃するか?」
結局この第5王子が誘拐されそうになった原因は王位継承争いの為だった、元は第1王子が王位を継承する事に成っていたのだが、第2王子が第1王子を脅迫して自分が王に成ろうとしてるらしい。他の王子達も狙われているそうだ。
「兄さんに話してみる、それからどうするか決める」
誘拐犯の写真や証言を王子に転送させて指示を待つ事にした。王位継承争いなので俺としてはどうでも良い問題だった、強い奴が王になれば良いのだ。こんな事位でつまずく様な奴なら王にはふさわしくないからな。
「魔王さん、所でこいつらどうします?消しますか?」
「そいつらなら逃がしてやっても良いぞ」
「なんでですか?」
「もう、全部バレたから王子を襲う理由が無くなったんだ。多分どっかにひっそり逃げると思うぞ」
「甘くないっすか?」
襲撃者は麻酔銃は持っていたが他の武器は持っていなかったから俺はこいつらに甘かった、俺達を殺そうとする奴は躊躇なく殺すが、そうでなければ俺はとても温厚なのだ。
「魔王、兄さんから連絡だ。私をもう少し守って欲しいそうだ」
「そうか、良いぞ」
この王子の本国では既に戦いが始まっているらしい、第1王子派と第2王子派が内戦状態になってるそうだ、しょうがないから争いが収まるまでこいつは俺が守る事にする、結構気に入っているのだ。襲撃者達は放してやったら喜んで逃げて行った、俺達の事は誰にも話さないという約束だ。まあ、喋っても誰も信じないだろうがな。怪我をしていたが救急医療キットを持っていたので大丈夫だろう。手の傷はチョット縫えば1か月位で傷は塞がるはずだ、まあ心の傷は多分一生残るだろうがな。
「魔王さん、何かあっけなかったッスね」
「準備したらからな、いきなりの攻撃なら危なかったと思うぞ」
「やっぱりこの世界は物騒っすね」
「まあな、あっちの方がノンビリしてるから生きやすいよな」