第67話 襲撃予測
「この車凄いパワフルっすね」
「そりゃ4700CC有るからな。その分ガソリン食うけどな」
メイド喫茶で儲けた金で国産4WDの中古を買ったのだ、サキュバスや俺達が全員で乗れて山の中でも走れる車はこれしか無かったのだ。税金やガソリン代が凄いのだがサキュバス達が沢山稼いでくるので問題はないな。
「10万キロ以上走ってるのに平気っすね。国産って凄いッス」
「国産はちゃんと整備して乗れば平気だぞ、一部に例外も有るけどな」
そうあれは2年ほど前だったな、タイヤやバッテリーや色々な部品を変えて車検を受けたのに、車検を受けてたった1か月で白煙を吹いて死んだ国産車が有ったな。二度とあのメーカーの車は買わないと誓ったのだ。まあ造船も航空機も車も全部駄目になってる会社だったからな、体質に問題が有るんだろうな。
「お帰りなさいませ、魔王様」
「おう、男爵ご苦労。変わりはないか?」
「ネズミが2匹藪の中にいます。今日の明け方からいますね」
「そうか、やはり襲撃は今日だな」
別荘に着いた俺は部屋の中で待機していた男爵に報告を受けた。着いた時に出迎えが無かったので、既に敵が配置についている事は直ぐに分かったのだ。建物に入ると直ぐに盗聴防止用に音楽を大音量で流して男爵を探す、彼は部屋の奥の目立たない場所に腰かけていたのだ。
「カブちゃんとクワちゃんは?」
「2人はネズミを監視しています。動きが有れば制圧する手はずになってます」
「そうか、実行部隊は暗くなってから合流すると思う、それにバックアップも一緒に来るはずだ」
「ふふふ、魔王様の予言通りに物事が進みますな」
「予言じゃなくてセオリーだよ男爵、こういうのはやり方が決まってるんだ」
「ほう、どこかで教える場所が有るのですか?」
「ああ、偵察・戦闘・誘拐・防御を教える部隊が有るんだ。彼らは有能だぞ」
俺には魔族がついているから平気だが、普通の人間は彼らに立ち向かうのは不可能だ。国でもかなりの強国じゃないと防御出来ないだろうな彼らは少人数で国を傾ける訓練まで受けてるからな。こういう場合は警察は無力だ、軍人には軍人をぶつけるしか方法は無い、戦闘力が桁違いなのだ。
「魔王様、今日のお昼は何ですか?」
「今日はパン食べたいな、ピザで良いか?」
「ピザ大好きです、私たちがスープ作りますね」
今晩は多分連中の襲撃が有るので軽めの食事にする、流石に腹いっぱいで眠くなっては戦えないからな。
「がっつり食いたいッス。折角の休みなのに~」
「文句はあいつ等に言え!戦闘前に腹いっぱい食えるわけね~だろ!」
「あいつ等ぶち殺すっす!皆殺しッス!」
「いやいや、全部殺しちゃ駄目だから、何人か生かしとかないと黒幕が分からないから」
サキュバス達が造ったポトフと俺が作ったピザトーストで軽く食事をする。ここで襲撃者達の襲撃方法と対処方法を皆に教えなくてはならない。
「それじゃ皆聞いてくれ、相手の襲撃方法を教えるぞ」
「なんでそんな事が分かるんすか?やっぱ魔法っすか?」
「あいつ等のやり方は決まってるからな、軍隊って決まりきった安全策を使うんだ。ここが素人よりも対応しやすい理由なんだ」
「へ~、そうだったんすか。知ってる部隊なんすか?」
「中東で活動して、偵察に誘拐まで出来る兵士が居るのは一つだけだ」
「聞いても分からないような気がするッス」
まあそうだろうな、今の平和ボケした日本人は軍隊がどんなものか知らないしな。自衛隊の迷彩とかの写真を見たらまだらに迷彩塗ってる阿呆がいて驚いたしな、現役でもあの程度なのが今の日本だな。まあワザと他の国の連中を油断させるために阿呆なふりをしてるだけかも知れないがな。
「さて説明するぞ、襲撃方法は大まかに分けて2種類だ。どちらにも対応出来るようにしておいてくれ」
「余裕っスよ」
「お前が一番アブね~んだよ」
「え~、俺勇者だから負けないッスよ」
「阿呆!フラッシュパン投げられて身動きが止まった所をやられてお前なんかイチコロだぞ」
「?フラッシュパンって何スカ?」
勇者もサキュバスもここ世界の襲撃方法を知らないので教える事にした。まず簡単な襲撃方法の方からだ、これは俺達が居間などに固まっている場合の襲撃方法だ。これは襲撃者がスタングレネードを投げ込み俺達の視界と聴力を無くしてる隙に制圧して王子を浚う方法。
「そんなのどうしたら躱せるんですか?」
「これを使う、ガムと耳栓。そして扉が開いたら反対側を見る事」
スタングレネードの大音量はガムと耳栓を使用して軽減し、閃光は反対側を向いて対抗する。そしてグレネードの爆発から1秒以内に戦闘員が入って来るので迎撃しなくてはならない。油断してる状態なら確実に負けてしまう、実戦経験がある兵士にも対応不可能だ。しかし俺達は部屋に入って来る事も知っているし、外部に男爵がいて襲撃前に教えてもらえるので対応可能だ。勇者は頼りないがサキュバス達は人間より反応速度が速いのだ、おまけに彼女達は戦いにためらいが一切無いのだ。
「行けるか?サキュバス達?」
「お任せください魔王様、私たちは敵には容赦しません」
「俺も頑張るッスよ」
「男爵、入るタイミングを教えてくれよ」
「お任せください魔王様、責任重大ですがやりがいが有ります。わたしゾクゾクして参りました」
サキュバス達はニコニコしてナイフを研いでいた、美人がナイフを研いでいるのは不気味だった。勇者は全然期待して無いのでどうでも良かった。勇者は実戦経験も覚悟も不足してるのだ。王子は邪魔にならなければ良いだけだ、動かないのが一番良い。
「それじゃあ2番目の方法を教えるぞ、これは手間が係るから今回は使わないと思う」
「どんなやり方ですか?私非常に興味が有ります」
「そりゃあ男爵は興味が有るだろうな。情報要員だしな」
二つ目の襲撃の仕方は深夜に住民が寝てから行う方法だ、密かに建物に侵入して寝ている住民を麻酔銃で狙って行く方法だ。これは一々寝ている場所を確認して行わなくてはならないので、今回の様に人数が多い場合は向いてない。誰かが気が付いて騒ぎ出すと計画が無茶苦茶になるのだ。
「麻酔銃・・ですか・・」
「ああ、動物を捕獲したり保護する時に使う銃だ、音もしないし室内なら間違いなく当たる」
この場合はベットの陰か下から撃ち返しを狙いたいが銃は持って無いので、室内に入った瞬間に無力化を狙うしか無いな。
「他には?有りませんか。魔王様」
「色々有る、ガスを使って眠らせたり殺したりする方法や、放火して出て来た所を無力化する方法なんかが一般的だな」
「今回は大丈夫ですか?」
「派手な方法は証拠が残るし、逃走しにくくなるので使わないと思う。人質を抱えてると不利なので出来るだけ楽に逃げたいはずだからな」
男爵はしきりにメモを取っていた、多分あっちの世界で必要が有ればやるつもりなんだろうな。王子もメモを取って真剣に悩んでいる様だ、なにせ又いつ襲われるか分からないから不安なんだろうな。
「さて、襲撃方法は理解したな、対処方法はいつも通り。激しく素早く容赦なくだ!」
「「「は~い!!!」」」
「よく分からないっすけど、思いっきりヤルっす」
「男爵、スタンバイ頼む」
「はい、魔王様」
男爵はかき消す様に部屋から出て行った。目の前からいきなり消えたのだ、もしかしたら初めから室内には居なかったのかもしれない。魔族は不思議すぎて俺にもよくわからない事が多いのだ。まあ外のどこかに居て敵が入り口にたどり着いたら俺に教えてくれるはずだ、バイブレーションにしてる携帯をズボンのポケットにしまい込んで準備完了だ。本当はもっと色々と皆に教えたいが知りすぎると迷いが出るので最低限の知識だけにしておく事にした。