第62話 勇者のお土産
ねこ2匹洗って疲れました、洗うのより乾かすのが大変です。
海外に口座を作りに行った勇者が変な者を拾ってきた。
「ただいま~ッス」
「おうお帰り、早かったな」
「チャーター機で帰って来たから早かったッスよ」
「はあ?何でそんな金が有るんだ?海外で銀行でも襲ったのか?」
「嫌だな俺は勇者っすよ、強盗なんかしないッスよ」
勇者の話では海外に口座を作りに行った時に誘拐されそうになっていた餓鬼を助けたのだそうだ。その餓鬼は何処かの王族らしくて帰りに自家用機で送ってくれたのだそうだ。
「へ~自家用機ってすげ~な、王族って金持ってるんだな」
「何でも第6王子って言ってたッスよ」
「違うぞ!第5王子だ!」
「何だこのガキ?」
「あっこいつッス、助けた餓鬼」
白いターバンを巻いた小柄な餓鬼が勇者の後ろに立っていた。なんだこいつどこから見ても野蛮人だぞ。ターバン巻いて白いぶかぶかの服きてるし。
「私は第5王子だ!間違えるな平民!殺すぞ」
「おい、勇者。こいつ何処かに捨てて来い!」
「分かったッス、こいつ俺に懐いて煩いッス」
「何をする!私に逆らうと死刑だぞ!」
煩いので店の外に捨てさせたのだが何度でも店に入って来るのだ。なかなか根性の有る餓鬼だった。
「何か用なのか?」
「うむ、私はこいつを買いたいのだ。金なら幾らでも払うから売ってくれ」
「魔王さんが俺を売る訳ねース(笑い)」
「よし売った。100万ドル秘密口座に振り込んでくれ」
「え~!!!」
「本当か?良いのか」
「良いぞ」
勇者がブ~ブ~文句を言っていたが、金が振り込まれたら逃げろって言って誤魔化した。元々勇者の逃亡を阻止出来る人間は居ないのだ。この世界では勇者は化け物並みの戦闘力が有るからな。魔法が使える人間をどうやって閉じ込めるつもりだ?
「分かったッス、適当に向こうで遊んでくるッス。飽きたら逃げるっす」
「逃げては駄目じゃないか!私を守ってくれ」
「逃げる邪魔すると皆殺しッス(笑い)」
「駄目だ私を守るのだ」
「誰に狙われてるんだ?」
「分からないのだ・・・」
この子は国でも誘拐されそうになってケイマン諸島に避難していたそうだ。そこでも護衛が裏切って誘拐されそうになっていた所を勇者に助けられたので付いて来たらしい。つまり現状では勇者以外は信用できない状態だな。
「そういう事なら協力してやろう」
「本当か?私を守ってくれるのか?」
「ああ、守ってやろう。おい勇者誘拐犯はどうした?」
「全部消したっすけど・・・不味かったッスか?」
「消すのは構わんが黒幕を聞き出してから消せよな」
「まさか関わり合いになるとは思わなかったっすよ」
子供が誘拐される理由なんて金か親に対する圧力位なもんだ。金や権力が欲しければ戦って勝ち取れば良いのに子供をダシに使うのは気に食わない。だから俺はこのガキを保護する事にした。まあ他にも色々と考えが有ったんだがな。
「おい、ガキ!守ってやるから仕事しろ」
「え・・我は働いた事等無いのだが・・・」
「お前の仕事は皿洗いだ!」
「何だと!私は王族だぞ。そんな下賤な・・・・」
「・・痛い!痛い!・・・殴らないでくれ。やるから」
王族の端っこに居るだけなのに生意気な奴だった。こいつは何の努力もせずに偉くなったと勘違いしているのだ。こいつが偉いのではなく親が偉いだけなんだがな、まあちゃんとした教育を受けて無いのだから親もどうせ世襲のボンクラに違いない。そもそも王族位で俺がビビル訳無い、だって俺は王だからな。
「なぜ私が皿洗い等を・・・」
「ちゃんと洗うッス!魔王さんだって皿洗ったり料理作ったりしてるッス!」
「何だと!王が皿洗いだと」
「民衆を知る為には民衆の中が一番だからな。そんな事も分からんのかお前は?」
「お~!!素晴らしい考えじゃ。私が間違っていた様だ」
王で有る俺がお忍びで皿洗いをしていると勘違いした王子は感動していた。キラキラした瞳で俺を見て一生懸命皿を洗うようになったのだ。よし、タダ働きを一人ゲットだぜ。喫茶魔王はいつもの様に忙しかったが皿洗いが増えたお陰で大部楽になった。そして何時もの様に仕事終わりに皆でお茶を飲む。
「皆聞いてくれ」
「どうしたんですか?魔王さん真面目な顔して?」
「この子の事なんだがな。どこかの誰かに狙われているらしい」
「何故ですか?魔王様」
「理由は知らんが、本人にも分からない様だ。まあ本人がかなり馬鹿だからな」
「何だと、私は国では賢いと言われているのだ!」
「ハハハ、やっぱり此奴馬鹿っす!王族に馬鹿っていうヤツいねース」
冗談はこれぐらいにして、本題はこの子がまた襲われる可能性が高いって事だ。殺害目的なら簡単だが誘拐は手間がかかる上に難しい。特に日本では外国人が目立つのでこの子の国の人間は苦労するはずだ。
「この子が又襲われるんですか?」
「自家用機で移動してるから簡単に追跡されるな。逃亡するなら人ごみに紛れるのがセオリーなんだがな」
「何時頃バレるんでしょうね?」
「大した国じゃ無いから時間が掛かると思うぞ。アメリカ位の国でもここで拉致するとしたら準備にかなりの時間が掛かるからな」
この子の国は砂漠にある人口100万程度のちっぽけな国らしい。石油のお陰で国自体は豊だが民衆の教育レベルや技術レベルは低いそうだ。
「なあ王よ、本当に私を守れるのか?」
「まあな、金は掛かるが可能だな。俺の傍が一番安全だと思うぞ」
「お金なら有るのだ、幾らでも払うぞ」
この子に恩を売ると結構俺にとって都合が良い。外国の身分証明書や口座等が楽に手に入る、そして多分それ以外の物も手に入りそうだ。なにせ自家用機持ちなのだからかなりの金持ちだ。しかし今の人数では護衛をするには人手不足なのだ。荒事が得意な奴が必要だ、一度国に帰る必要が有りそうだな。
「サトウ、この子から金を貰って郊外の別荘を1軒買ってくれ。山の中が良いな。周りに人が居ない場所」
「了解っす。おびき寄せるんスね」
「ああ、その通り。別荘が手に入ったら国から2~3人連れて来るよ」
さてさて外国の王子護衛ミッションの始まりだな。結構面白そうだ、最近暇してる国の連中も喜ぶだろう。