第6章 開戦初日~夕方~
「どうだバルド、人間族の手ごたえは?」
「こちらは城壁の陰から攻撃するだけなんで随分楽です。魔王様」
「楽なのは良い事だなバルド。」
「しかし、もう少し歯ごたえの有る戦がしたいですな。」
「後でお前の望む戦いが有るだろうよ、多分な。」
魔族は城壁の中に閉じこもって防戦だけをしていた。城壁に閉じこもってるので人間達は城壁を取り囲んで魔族を逃がさない様に、また補給をさせない様に頑張っていた。これで俺達魔族は援軍がこなければこのままじり貧になって最後は出て来るだろうと思ってる様だ。まあ普通はそうだな、援軍が期待でき無いのに閉じこもると酷い目に会うのが普通だ。
「少しは敵を減らしたか?」
「弓隊の連中と、あせって城壁の下に着た連中に熱湯や油・投石で多少の被害を与えました。でもせいぜい死亡が100人とけが人が300位です。」
「こっちの被害はどうだ?」
「こちらはけが人は出ましたが死亡はゼロです。弓矢が当たった位では即死しませんから。それにこっちの方が高い所に居るので弓の威力が全然有りませんからね。」
この世界も物理の法則が役に立つ、高い所の方が位置エネルギー的に有利だ。火薬を使った武器でさえ高い位置を攻撃するのは難しいのだから人力頼りの武器ではたったの10メートルの高さでもかなり武器の威力が低下する。そしてこちらは高い位置に居るので色々有利だった。
「ちゃんと殺さずに逃がしてるか?」
「はい、止めは刺さない様に徹底しております。」
「よし良いぞ。これがその内効いてくるからな。」
「はあ・・」
バルドには意味が良くわかってない様だが、戦えない人間でも飯は食うし、水だって飲むのだ。つまり相手の物資を減らしてくれる大事な駒なのだ。怪我人が部隊の中に居る事で相手の士気を低下させ世話をさせる事で相手の疲労を誘う事だって出来るのだ。
「さて、日が沈んでからはオルフェイスの部隊の番だな。バルド達の部隊は十分に休んでおけよ。また明日の戦いが有るからな。」
「はい、魔王様。」
次の守備隊はオルフェイスの部隊だ。オルフェイスの部隊は吸血族がメインの部隊なので夜に強いのが特徴だ。まあその分昼が弱いのだが。
「オルフェイス、消極的な防御をしてくれ。」
「消極的な防御ですか?」
「そうだ、攻撃された場合のみ反撃して相手を油断させてくれ。相手の油断が欲しい。」
「分かりました。やって見ます。」
夕方からの防戦は最低限の戦い方で相手に有利に思える様にする作戦だ。はるばる遠征してきて戦争をしているのでかなり疲労がたまってるはずなのだ。ここで緊張感何かを持ってもらうと厄介なので油断してもらう事にする。そして、俺は別の部隊、俺専用の夜戦部隊と打ち合わせに向かう。彼らは全員を一か所に集めている、魔族にスパイが入っているとは思えないがこの部隊はもう少しだけ人間族には秘密にしておきたいのだ、あと7時間ほどだけ。
「全員集まってるか?クロード。」
「はい魔王様。全員やる気満々です。」
「そうか、作戦は今から7時間後だ。今のうちに食事と睡眠を取っておいてくれ。期待しているぞ。」
「お任せ下さい、我々が役に立つ事をお見せします。」
彼ら野戦部隊は隠密性を重視して集めた50名だ。戦闘力を重視する魔族の中では地位が低い物が多かった。この作戦で戦果を挙げれば魔族の中での地位が上がるので彼らはやる気満々だった。夜戦は作戦の性格上、音を上げずに動ける事、夜目が効く事、少人数での作戦になるのでチームの連携が取れる事。個人で状況判断出来ることが重要だ。その為に全員一か所に集めて顔合わせさせていたのだ。
「魔王様、偵察に出ていたシルフィーネの部隊から緊急連絡が入っております。」
「そうか、見つけた様だな。ここに通してくれ。」
シルフィーネの部隊は空を飛べる魔族なので魔王城の周りを空から全ての方向を偵察させている。緊急連絡なので、その哨戒網に何か引っ掛かったのだろう。
「よおシルフィーネ、ご苦労。報告してくれ。」
「魔王城より西の人族の国から約2万の大部隊が接近中です。」
「そうか、他の4つの国はどうだ?部隊を出してないか?」
「他の国はまだ部隊を出していません。」
「そうか、その部隊の位置を教えてくれ。どの位でここに着きそうだ?」
「早ければ2日、遅くても3日後にはこっちに着くはずです。」
「そうか、ではそいつ等は3日目以降にこちらに着いてもらう事にしよう。」
「え・・どうやってそんな事を?」
「勿論お前達に活躍して貰ってだ。シルフィーネ。」
シルフィーネの部隊のお陰で今回の戦争の大まかな形が分かった。今の魔王城を攻めているのは牽制するのが本来の目的だ。平原で俺達と戦って時間を稼ごうとしてたのだろう。その為の編成なのでこの城を攻める攻城兵器を持って来ていないのだ。それに重装甲の兵士が多く動きが鈍いのが特徴だ。今までなら魔族が城を出て今頃平原で陣地を構えてにらみ合ってるハズなので、守り手の少なくなった城を西の人族の部隊が攻める両面作戦なのだろう。
「シルフィーネ、明日からは西の部隊を攻撃しろ。ドラゴンを連れていけ。東の奴らを殲滅するのに3日欲しいのだ、そして殲滅した後そいつらを叩く。」
「分かりました。ドラゴンを集めて攻撃いたします!お任せ下さい。魔王様。」
戦闘出来ずに偵察ばかりしていたシルフィーネが戦闘と聞いて俄然やる気を出している。どうも魔族連中は戦闘が好きな様だ。俺は面倒なので戦闘は嫌いなのだが、魔族は戦闘力で序列が決まるらしいので戦闘時には皆やる気満々だった。
「あっ、シルフィーネ。攻撃目標は第一に食料、二番目が指揮官だからな。」
「はあ・・食料と指揮官ですか?」
「そうだ。敵を殺した数が多ければ良い訳じゃない、今回は時間を稼ぐのが目的だ。こっちの準備が整うまで到着を引き延ばせればシルフィーネの勝だ!」
「分かりました、我ら飛竜隊の力をお見せしましょう。」
さて最悪後の国達も俺達魔族を滅ぼす気かと思ったが今回は2つの国だけの様だ。全部で5万対3千の戦いになったが同時に来られるより大部マシだ。多分西の国は自分たちの兵隊の被害が少なく成る様に少し遅れて到着するつもりだったのだろうな。魔族が南との戦いで疲れた所を叩く作戦だったのだろう。西と南は完全に連携が取れている訳では無い様で安心した。さて、魔王城の周りを3日で蹴散らす作戦を始める時が来たようだ。
「クロード。状況は聞いたな。お前達が益々重要になったぞ!」
「はい魔王様。こんな嬉しい事はございません。死んでも戦果を挙げます!」
「死んだら困るのだクロード。明日も明後日も戦ってもらわねばならんのだからな!」
「申し訳ございません魔王様、一生魔王様にお仕え出来る様に生きて帰って参ります。」
俺の生きて帰って来いと言う言葉に感動した者と、一生戦わせると言う事に恐怖した連中がいた。そして戦いの後では死ぬ事すら許さない魔王という評判が立ってしまう事になった。
「