第58話 転移前日
サラリーマン生活にピリオドをうった俺は魔族の世界に帰って来た。約1か月ぶりの魔族の国だ、もはやこっちの方が自分の世界の様な気がする。やはり過ごした時間の長さよりも内容なのか?それともこっちの方が自分にとって都合が良いからなのかは正直わからない。一つ分かってる事はこっちの世界の方が友達が多いって事だった。
「う~す、サトウ!ただいまー」
「魔王さん、お帰りッス」
「喫茶店の準備は整ったぞ、行政手続きも終わった」
「それじゃ後は俺達が行くだけっすね」
「ああ、サキュバス達の方はどうだ?」
「もう日本語はペラペラっす、自分の名前位なら書けるサキュバスも居るっすよ」
こっちの世界も順調らしい、あとは腕輪ちゃんに魔力を集めるだけだ。今日は久しぶりに帰って来た自分の城でゆっくりする事にしよう。サキュバス達とご飯を食べたりお風呂に入ったりして癒されたいのだ。それにペットのケロちゃんもたまには散歩に連れて行かねば俺の顔を忘れてしまうからな。
「オルフェウス、魔族の国と人間たちの国との関係はどうだ?」
「現在は極めて良好ですな、東の国が相変わらず敵対的ですが、国力が低下し過ぎて脅威になりませんな」
「そうか、警戒だけはしておけよ、変な動きをしたら殲滅しろ。2度目のチャンスを与える気はない」
「分りました、魔王様」
魔族の国も周りも落ち着いているので今がチャンスだ、俺の世界にも拠点を作るのだ。俺は兎に角集めるのが好きなのだ、家の押し入れの中にはプラモデルが山ほど有るのだ。作らないのは分かっていても買って貯めとくのだ、老後の楽しみだとか、金型が新しい内に買わなくてはいけない、などと、自分に対する言い訳を重ねて買ったのだ。ハッキリ言って邪魔なのだが捨てる事も売る事もしたくないのだ。ちょっと話がそれたな、まあハッキリ言えばただの思い付きだな。俺の世界の男達にサキュバスを見せてやろうと言う俺の人類愛だな。俺は優しい魔王を目指してるからな。
「魔王様、私久しぶりに食べたいものが有るのですが・・」
「どうしたサキちゃん?俺のフラクフルトが食べたいのかな?ワッハッハー」
「魔王さんテンション高すぎッスよ!親父セクハラギャグっすね!」
「魔王様のフラクフルトも食べたいのですが、すき焼きが食べたいのですわ」
「分かった、今晩はスキ焼にしようなサキちゃん。サキュバス達全員と宴会だ」
せっかくの俺のセクハラ親父ギャグもサキュバスのサキちゃんのは通じない、素で返されると親父ギャグやセクハラギャグはブーメランとなって自分にダメージを与えるのだ。しかし俺は魔王だ、実際の戦闘力や防御力は無いが厚かましさなら自信がある、親父ギャグなど無かったふりをして話を進めれば良いのだ。
「魔王さんの帰還を祝って!カンパーイ」
「みんな有難う、今日はスキ焼を食べてビールを飲んでくれ。向こうの準備も整ったからな、サキュバスの魅力を試す、いい機会になるぞ」
「魔王様、私達頑張りますわ!向こうの女には負けませんわ」
「頑張らなくても楽勝っすよ。顔も体も性格も負けないッス」
「だよな、彼女達がメイド服とか着たら似合過ぎだよな、まあ何着ても似合うんだが」
宴会の次の日、朝早く目覚めた俺はケロべロスの馬車に飛び乗り、ドワーフの国や魔導士の国、獣人の国等に顔を出して王達と会食をする。魔族の国周りが本当に安全な状態かどうか確かめに行ったのだ。そして帰りには古龍の住処に行き長老に挨拶する。ちょっと感覚がずれているが古龍の長老とは気が合うのだ。お互い、物凄くいい加減な所が上手く行くのかもしれない。
「長老、久しぶり!遊びに来たよ」
「おお魔王か。ここに遊びに来た魔王はお前が初めてじゃ。歓迎するぞ」
「そうなの?」
「儂らは恐れられているからのう」
「気の良い竜なのにな、俺と同じで誤解されやすいんだな」
「そう!そうなのじゃ!お前は良く分かってるようじゃのう。流石は儂のマブダチじゃ!」
誤解を受けやすい古龍の爺さんと大いに意気投合した俺は他の古龍の爺さんや婆さん達と一緒に鍋パーティーを開いて大いに盛り上がった。いや~酒飲んで愚痴をこぼすのは大人の醍醐味って奴だな、古龍の爺さんたちも長く生きてる分不満が溜まっていて偉く盛り上がってしまった。
「爺さん飲め!」
「おお!すまんのう魔王よ・」
「お互い辛いな!人間共は分かって無いよな!」
「そうなんじゃ!お前は中々見どころがあるな」
「魔王、お代わり!」
「おお、幾らでも出してやるぞ。沢山食え!」
一晩中ジジババ達と飲んで騒いでた俺は、その日の夜は竜族の住処に泊まらせてもらった。お土産に持って行った酒は全部飲んでしまった。二日酔いの頭を抱えてうなっていたら古龍が心配して伝説の薬を飲ませてくれたので直ぐに治った。何でも死人でも生き返る程の薬なのだそうだ、国が一つ買える程の値段だと言って笑っていた。なかなか豪快な爺さんたちだったな。腕輪ちゃんにも大量の魔力を分けてくれたので腕輪ちゃんは全盛期の見かけになっていた、偉く美人で目つきがキツイ感じのお姉さんだった。
「じゃあな爺さん、また遊びにくるよ」
「おう、何時でも来るのじゃ、土産を忘れずに持って帰れよ」
古龍の長老たちはジジババらしく沢山のお土産をくれた、中でもひと際凄いのはデッカイ魔石だった。これに話しかけると古龍達と話が出来るのだそうだ。ただ凄く大きくて重いので俺一人で抱えて帰って来るのは大変だった。しかし、これで俺の世界に行く十分な魔力も集まったし、周辺国の安定も確認できたので心置きなく俺の世界で商売が出来そうだ。
「全員集合!」
「どうしたんですか?魔王さん」
「俺の世界に行く準備が出来ました。明日行きますから心の準備をして下さい」
「お~、やっとですか。何時でも行けるッスよ」
明日俺の世界に行くのは勇者とサキュバス4人だ。サキュバスは日本語が上手い上位4人、勇者は俺と一緒にメイド喫茶の厨房をする予定だ。合計6人でどこまでやれるか楽しみだ。