第56話 異世界進行計画?
1週間残業して2期の翻訳も終わった俺と勇者は黄昏ていた。俺はもう当分パソコン画面を見たくないし勇者も誤字脱字チェックで神経をすり減らし何だかやつれていた。あのサキュバスの攻撃をも跳ね返す勇者が誤字脱字チェックをするとやつれるのだ。誤字脱字が小説に有るのは普通だと言って慰めたが、性格なのか勇者は気にしていた。
「残業ってダルイな、勇者」
「一日18時間労働は疲れるッスね」
「おまけに給料無いしな!」
「そう言えば無いっすね、でもサキュバス達から金は貰えないッスよ」
「そうだ、俺ちょっと内政してくる!」
俺は魔王だったのだ、危うく忘れるところだった、魔王という位だから魔族の生活向上をする義務があるはずだ。残業をし過ぎて残業嫌いになった俺は直ぐに魔族のしきたりを改善することにする。
「という訳で、第65回4天王会議を始めたいと思います」
「またインフレ気味な回数ですね魔王様」
「インフレでは有りません、景気が良いと言ってください。景気とは気分だと偉い人が言ってました」
「で?今度は何をするつもりですか?魔王様」
「魔族の国は週休2日制にします、俺が決めました」
「何ですかそれ?美味しいんですか?」
「食べ物じゃ有りません、1週間に2日は働かない日を作るって事です」
「???働かないと食べられませんが?」
「全員が一度に休む訳じゃ有りません、交代で休みます」
4天王は週休2日制とか言ってもサッパリ分かっていなかった。大体この国は決まった休みが無いのだ、雨が降ったら休みとか、日が暮れたから仕事終わりとかの世界なのだ。そこで俺は週休二日制のメリットをドンドン上げて行った。早い話、俺は自分が休みたいから必死なのだ。
まずこの国にもカレンダーを造る事にした、そして1週間の内土日は休みにしたのだ。基本的に魔族の公的機関は休みだ、勿論休めない部門は交代で開けておく事にした。残業に関しては日が暮れたら仕事は終わりなのでそのままにする。要はちゃんと休んで働こうって事だ、そして金を稼いだら使おうって話なのだ。
「へ~、休みが増えると景気が良くなるのですか。初めて知りました」
「ちゃんと給料を払って、庶民が金を持っていれば使うだろ。休みなんだからな」
「庶民が金を使いだすと色々な仕事も増えて行くわけですね」
「そうだ、だから週休二日制にする。いきなりは無理だろうから来年の新年度より開始する」
「了解しました。反対する者が出た場合いかがしますか?」
「俺の前に連れて来い、賛成するまで木から吊るしておく事にする」
「・・」
4天王達もカレンダーや時間の概念を余り持って無かったので、4人に綺麗なカレンダーと置時計を渡したら感動していた。置時計は温度や湿度・曜日まで出るので便利が良いのだ。この時計を見ていれば時間や曜日について理解出来るはずだ。
「これが時計・・時間を表示する魔道具ですか。素晴らしい」
「それを見てれば時間や曜日について分かると思う、魔族の中央公園に大きな時計も置いて民衆にも見せるからな、来年からの週休二日制に移行する準備を始めてくれ」
「一つ質問が有るのですが?」
「何だいオルフェイス?」
「魔王様の異世界進行計画はどうなっておりますか?」
「はい?」
「おっと失礼しました、機密事項でしたか」
何だかオルフェイスが嬉しそうにウインクしている。異世界進行計画ってなんだよ、そんな計画知らないぞ。もしかしてどっかの馬鹿魔族が俺の世界を侵略する気なのか?俺の世界は戦争なら強いが魔族によるテロには無力だ。何だかヤバそうなのでセイロン男爵に聞くことにする、俺の世界が亡びるのは構わないが魔族が滅ぼすと、俺の気分が悪いのだ。
「チェックメイトキングキング2、チェックメイトキング2、こちらキング応答せよ」
「おや魔王様、お久しぶりです。どうかされましたか?」
「そっちの具合はどうだ?不穏な動きはあるか?」
「この間の武闘大会から人間達が魔族に友好的に成ってまして、全然不穏な動きも情報も有りませんね。こっちは退屈です魔王様」
「異世界進行計画って聞いた事があるか?」
「有りますよ、今は魔族のゴシップナンバー1です。魔王様が異世界を滅ぼすカモって話ですよね」
「なんじゃそりゃ~!」
俺がサキュバス達に日本語を教えているのを見た連中が色々曲解して始まった噂らしい。俺の変な噂に尾ひれや角まで付いて凄い話になってるそうだ。大陸を統一した魔王が今度は異世界を狙っているって話だ、まずサキュバス達に言葉を教えて情報収集しているらしいと言う噂だ。俺がなんでそんな好戦的な魔王に成ってるんだ、過剰防衛しかしない、とっても良い魔王としてやっていたのに。
「大変だ!サトウ、なんか俺達が地球を攻めるって話になってるぞ!」
「ああ、異世界進行計画の事っすか?」
「知ってたのか、お前」
「勿論っすよ、どこに行ってもその話を聞かれるッス」
「なんで俺が知らないんだ。誰も俺には言わないぞ!」
「そりゃあ計画の張本人には聞かないッスよ。俺も機密事項ですって言ってますから(笑い)」
「・・・・・・・」
「でも本当に侵略するなら手伝うッスよ。人間の10万人や20万人位俺が殲滅してやるッス」
「お前勇者だろ、魔族に転向したのか?」
「何を今更、一緒に残業した仲じゃ無いっすか。俺は魔王さんの味方ッス。逆らうヤツは皆殺しッス」
勇者は俺の傍にいる事が多いので俺の護衛として4天王が密かに鍛えていたらしい、今では相当に強くなってオルカやバルトより戦闘力が上になったと笑っていた。流石は勇者と言うべきか、それよりもヘラヘラ笑っている勇者の馬鹿さ加減に驚くべきなのか?どっちにしろ俺と同じ人間だと思っていたサトウがかなりの化け物になっている様だ。
「お前そんなに強くなったんか?」
「一応勇者っすからね。人間相手なら無敵っすよ(笑い)」
「サキュバスのエロ写真売ってた奴が勇者ってのもな・・・」
「あれは副業っす、本業は魔王さんの護衛勇者っす・キリッ」
何だか俺が知らない間に周りは色々変わって行ってる様だな。まあ考えてもしょうがない、物事はなる様にしかならないからな。出たとこ勝負は変わらないな。
「まあ良いや。サキュバス達と飯食って日本語教えようぜ」
「そうっすね。何聞かれても機密事項って言えば良いだけだから楽っすよ」
「それもそうだな。煩い奴は紐で縛って地下室行きだ(笑い)」