第5章 開戦初日 パート1
「魔王様、朝食でございます。」
「ああ、ありがとう。」
今日からここは戦場になるらしい、朝食が最後の食事になるかもしれないので何時もは食べない朝食も食べる事にする。魔族だからか、魔王だからか知らないが朝食からステーキだった。おまけに血が滴るような肉が1キロ程・・・・。
「おい、これ良く焼いてくれ。」
「・・はあ・・。血の滴る奴はお嫌いですか?」
「嫌いだ・・・そうだ自分で焼くから調理場に連れて行ってくれ。」
そう俺はレアが嫌いだ、そもそも肉が余り好きじゃない。分厚い肉は焼きにくいので薄く切って貰って適当に焼いて食べた。後は昨晩オルフェイスに言って作らせたCICに行くだけだ。戦争するには正確で速い情報が必要だ、戦い方は昨日指示したので、状況の変化に対応する場所にいて後は正確に情報を読んで指示するのが俺の仕事だ。
「オルフェイス、状況はどうだ?」
「もう直ぐ人間共が城壁にたどり着きます。城壁の守りはバルド達が担当します。」
「他の部隊はどうだ?」
「次に防衛するオルカ部隊は現在休息中です、その次の防衛部隊担当の私の軍は食事や補給物資を集めています。シルフィーネの部隊は各方面に偵察を送り出しました。」
「そうか順調だな。俺用の夜戦部隊はどうなった?」
「はい、全員集合して広間に待機中です。」
「そうか、では防衛戦の指揮を頼む、俺は夜戦隊の隊長と話してくる。」
俺は夜戦用の自分の部隊を見に行った、この部隊は一番運用が難しい。防衛部隊は直ぐ傍にいるので状況が変化してもすぐに命令を出せるし、追加部隊も送れる。しかし、この夜戦部隊は一度送り出すと帰って来るまで独自の行動をとる部隊にするつもりなので、最初にきちんと目的を伝える必要があるのだ。まあ、今でいうならSASみたいなもんだな、ただ戦うだけでは駄目なのだ、目的を果たす事が大事な部隊なのだ。
「魔王様、お初にお目にかかります。この部隊の隊長のクロードです。吸血族です。」
「ああ、宜しく頼む。では君達の任務について説明する。」
それから俺は彼らに目標の話をした。そしてそれが如何に大切なのか、それによってどんな効果が見込めるのかを説明した。方法は彼らの能力を知らないので彼ら自身の得意な方法でやって貰う事にする。そして必ず生きて帰って来る方法を取る事を良く説明する。こちらは数が少ないし、経験を積んだ者はとても貴重なのだ。その者自体の価値だけではなく、次に経験を伝える事によりより良い兵士が出来るのだ。
「よし、それではそれぞれで一番いいやり方を検討してくれ。」
「分かりました魔王様。何だかやる気が出てきました。」
彼らは全部で50人程なので、10人づつで5つの部隊を作った、そしてそれぞれ全員で計画を練って貰う、これにより計画が改善されることも有るが一番良いのは全員が役割を理解することが一番重要な事だ、当然生きて帰って貰って、また作戦終了後に話し合って作戦を改善してもらうつもりだ。まあ彼らの働きどころは夜なのでそれまでのんびりしてもらう。
「魔王様、人族が攻めてきました。」
「そうか、直ぐ行く。」
さて本番の様だ、今回は魔王としての戦いだ。転移したのが昨日なので準備時間が全くない所が気に食わないが、勇者として転移するよりかなりマシだと思う事にした。取りあえず防衛すれば良いので気が楽だ。俺は魔王だから何でもアリのはずだ、極悪で残忍で卑怯な代表なのだ。おまけにこれまでは平原で対峙して馬鹿正直に戦う古代の戦闘方法だったららしい。正直、太鼓の合図で戦ったり、槍の長さを少し長くした程度で無双になる戦いを少し見て見たかった。素人兵士どうしがぶつかるから成り立つ陣形と言うのも少し見たかった、第1次大戦ではもう見られなくなった戦い方だったからな。そして第1次大戦の塹壕戦や防衛ライン構想も第2次大戦には役に立たなくなったのだ。要は相手に対策を取られると、古い戦い方は脆すぎるのだ。そして同じことにこだわり過ぎると墓穴を自分で掘る事になる。
「どうだ、バルト達は?上手くやってるか?」
「今のところは順調です、城壁の上にいるので地の利が有りますから。」
魔王の城は人間達に完全に包囲されていた。500メートル四方の城壁の周り中に人がいる状態だ。その数約3万人。四面楚歌って言うのはこの事だな。でも3万人が一度に攻撃できる訳でもないし、城壁は高さ10メートル程の石で出来た頑丈な作りなので簡単には壊れない。そして平原での戦いをする為に来た人間達は攻城兵器を持っていなかった。その内持ってくるかも知れないが、時間がかかるだろう。
「どうだバルト、お前の部下たちだけで持ちこたえられそうか?」
「簡単です魔王様、あいつら城壁の上に居る我々を攻撃できませんからな。」
相手の兵士が3万人居ても、食料等を運んだり食事の支度何かをする部隊が約3000人程、そして平原の戦いをしに来たので、騎兵や歩兵がメインの部隊になり、弓隊は3000名程。つまり城壁の上にいる魔族を攻撃できるのは3000名の弓隊と短槍を投げる部隊の1000名程しかいないのだ。平原から籠城戦に変えただけで相手にする部隊の数がこれだけ減るわけだ。
そして強制的に相手に戦力の逐次投入と言う下策を取らせれば良いだけだな。
「おい、オルフェウス。相手が矢とか槍とかこちらの城壁に投げ入れてくれてるのだから、ちゃんと拾っとけよ。後で丁寧にお返し出来る様にな。」
「流石は魔王様、抜け目がありませんな。」
「抜けてると負けるからな。」
やっぱり自分は魔王が向いてる様な気がしていた、良い人を演じるのは疲れるからな。腕輪の影響が有るかもしれないが元々こっち側の人間だったのかも知れないと俺は思い始めていた。