第49話 閉会式
さて大会最終戦、これが受ければこの大会は成功する。シルフィーネが俺の方を見て頷いていたので大声で応援する。打ち合わせ通りなら相手の攻撃を全て受けきった後で勝負を付けるハズである。言って見れば横綱相撲って奴だ。最近の蚤みたいに飛び跳ねる相撲では無く、相手の全力を出させた上で完全な勝利という本当の強さを、相手にも観客にも知らせる勝ち方を俺は求めていたのだ。
「ナンマンダブ・ナンマンダブ・・」
「何してるんだ魔王?」
「魔王が神頼み?」
「何とでも言え、利用できるの物は何でも使うのが俺の主義だ」
最終戦が始まった、舞台中央に選手が歩いて来る。真っ赤な魔導士のガウンに身を包んだ爆炎の魔女。身長は155センチ程だが見事な巨乳の魔女だ。歩くたびに胸が揺れている、顔はやや幼い感じの女の子だ。実力的には魔女最高ではないが、兎に角見栄えが良くて派手な魔法を使う選手を出してくれって言う俺の要望に魔導士の長老が従って出した選手だ。男の観客は大喜びで声援を送っていた。そして魔族代表のシルフィーネ、身長180センチ88・58・90のモデル体型の美人だ、ただ胸の揺れ方では魔女に完敗していた。
「くそ、チチの揺れ方で負けてやがる、もっと巨乳を出すべきだったかな?」
「しかし、シルフィーネ殿の顔と尻の形は素晴らしい。顔と尻は勝ってますな」
「チチ対尻の戦いですな」
「両者中央へ、試合開始!」
試合開始の合図と共に魔女がファイアーボールを乱射している。この魔女最強では無いとはいえ物凄い数の火の玉がシルフィーネに着弾している。煙でシルフィーネの姿が良く見えなくなってきた、誰か気の利く魔導士が風を吹かせたようで、会場に風が吹き始めて煙が急速に晴れていく。そして煙が晴れた会場の中央に腕組みをしたシルフィーネが悠然と立っていた、全く効いてない様で、相手の魔女に対してもっと打ってこいと言う合図をしていた。この挑発に完全に乗った魔女は物凄く長い呪文を唱え始めた、呪文と共に姿を現した魔法陣が時間と共に段々大きくなっていっている。
「あれなんだ?段々大きくなってるな」
「魔法陣だろ、大きさと威力が比例するらしいぞ」
「あの魔女いったいどれだけ大きくするつもりだ?」
「これは不味いですな、危険なので結界を張りますぞ」
なんだかヤバい魔法みたいで、魔導士の長老や他の魔導士達が会場に結界をはりだした。俺を守っていた親衛隊員達も俺の周りに集まって来て俺を守る体制に入っている。
「そんなにヤバいの?長老」
「結界を張らないとこのコロシアムが消し飛びますな」
「マジか!造って2日で壊されたら大赤字だぞ!」
「それよりも魔王殿、逃げた方が良いのではないか?」
会場に居た審判たちが全員走って逃げ出した、凄い速さだ。それを見た観客達が騒ぎ出して逃げ出そうとした瞬間に魔法が発動してしまった。
「あち~!!!」
「ひえええええ~!!!!」
会場中央シルフィーネを中心とした炎の竜巻が巻き起こる。直径10メートル高さ50メートル程の馬鹿でかい竜巻だ。結界越しに熱が伝わって来て顔が物凄く熱い、会場の中はオーブンの中並みに熱いハズだ。シルフィーネが気になって熱いのを我慢して見ていると、炎の中からゆっくりと人影が出て来た。一回り身体が大きく成り、角が2本生えているが間違いなくシルフィーネだ。
「角と尻尾が有るけど、あれはシルフィーネだよな?」
「竜化しておるがあれはシルフィーネじゃ」
「竜化?」
「竜人の最強形態じゃよ、全ての能力が爆発的に上昇する。余り長い時間は無理じゃがな」
長老が俺に親切に教えてくれたが良く分からない、多分ヒーローが変身するみたいなもんだろうな。
シルフィーネはゆっくりと対戦相手の所まで歩いて行って右手を突き上げた。対戦相手は熱で焼け焦げて地面に倒れていた、威力があり過ぎて自爆したのか魔力切れで失神したのか分からないが戦闘不能状態なのでシルフィーネの勝ちだった。
「個人戦優勝はシルフィーネ!勝者シルフィーネ!」
会場のアナウンスが始まり、やっと状況を理解した観客が歓声を上げだした。しかし、たまげた試合だった、こっちまで危ない試合になるとは思わなかったが臨場感は抜群だった。逃げ出した審判たちも帰って来てシルフィーネの手を上げて勝者を祝福していた。対戦相手は焼け焦げてボロボロだったので担架で退場していった。さてさて表彰式をしてこの大会にけじめを付けなくてはな。
焼け焦げた会場に表彰台を置いて表彰式をする事になった、折角綺麗な試合場を作ったのにボコボコにされてガッカリだ。結界のお陰でコロシアム自体が壊されなかっただけマシだったと考える事にした。
「個人戦優勝者風のシルフィーネ選手に拍手をお願い致します!」
観客の盛大な拍手の元、俺はシルフィーネの首に優勝メダルを掛けてやり更に大型の優勝トロフィーを渡した。最初は純金製にしようかと思ったが、重くて持てないので俺が魔力変換したプラスチック製の安物だ、でもプラスチックが珍しいこの世界では純金製より価値が有ると言う変な物体だった。
「良くやったシルフィーネ!優勝おめでとう」
「ありがとうございます、魔王様」
この世界初の各国対抗闘技大会は何とか死者を出さずに終了した。観客から怒声が聞こえない所を見ると上手く行った様だ。シルフィーネも珍しく観客に手を振って笑っていたので、まあ良かったのだろう。
「上空をご覧ください、古龍の編隊飛行とドラゴンブレスの展示になります」
コロシアム上空を巨大な古龍10体による編隊飛行が行われた、コロシアムを巨大な影が覆うが観客は2度目なので歓声を上げて古龍に手を振っていた。そして古龍の編隊がコロシアム上空で停止してそのままホバリングに入った。
古龍の長老は俺にウインクをした後10体の古龍による、ブレスが盛大に行われた・・いや・・盛大過ぎて阿鼻叫喚の事態になってしまった。
「あち~!!!!」
「うわあああ~!!!!!」
ブレスの威力が強力すぎて観客は悲鳴を上げてコロシアムから逃げ出した、俺も余りの熱さに走って逃げた。こうして闘技大会は終わりを告げたのだった。
「おいジジイ!やりやがったな!」
「すまんじゃった!つい見栄をはって全力でブレスしてしまったんじゃ」
その日の夜、古龍の長老が謝りに来たのだ、決勝戦に刺激されて対抗意識を持ったらしい。罰として長老からかなりの魔力を吸い取ってやった。色々有ったがこの大会は多分成功だったと思う、各種族の強さも分かったし、古龍の馬鹿げた力も身を持って知る事が出来たから。最後は皆逃げ出したが、今頃皆思い思いに感想でも語ってる事だろう。