第48話 個人戦
さて昼休み休憩だ、今回も2時間昼休みをとって午後からは個人戦だ、取りあえず魔王城に帰って昼飯を食う事にする。王や長老もゾロゾロ俺についてくる所を見ると完全に俺の昼飯を当てにしてるらしい。まあ友好の為には仕方ない。
「サキちゃん、昼飯なんかな?」
「お弁当を作ってみました」
重箱におにぎりや卵焼き、から揚げ、蛸さんウインナー等が綺麗に並べられていた。サキちゃんの女子力は増々上がって来ている様だ。しかし、俺について来た連中はこの位で満足する玉では無いのだ、午前中に3人前位の食べ物を食わせてもまだ別腹で昼飯を食う連中なので、ラーメンを作る事にする。汁まで飲めば腹が膨れるはずだ。
「魔王それなんじゃ?」
「これは味噌ラーメンだ、ご飯に合うのが特徴だな」
「どうやって食うんだ?」
「これはな、こうやって・・・・」
俺とサキちゃんは箸を使って食べて見せたが、ここの連中には無理だな。フォークを出して箸の代わりにしてもらう。長老は熱さに強いのか平気な顔でラーメンを飲んでいた、竜にかかるとラーメンは飲み物になる様だ。長老以外はアツアツのラーメンを飲むのは無理なので冷ましながらゆっくり食べていた、特に獣人は念入りに冷やして食べていた、多分猫舌だな。
「これは身体が温まって腹が膨れる良い料理だな」
「寒い時に良さそうだ、この屋台は有るのか?魔王」
「この屋台はまだ出して無いな、麺がこっちで作れれば直ぐに出せるんだがな」
「俺の国なら作れると思うぞ、麺は結構食ってるからな」
西の国は交易で成り立っている国なので、外国からの製品や文化等が入って来るらしい。麺の製法なども既に持っている様だ。西の国から麺の製法を教わって、代わりにスープの作り方を教える事にした。これで西と魔族の共同事業が一つ出来た訳だ、昼飯食ってるだけで事業が出来上がるのは王同士の話合いならではの効果だな。結局他の国もラーメンを食いたいらしいので、西の国経由で広げる事にした、俺の国は西から賠償金を受け取っているので西の国が儲かってる方が都合が良いのだ。
「さて午後からの個人戦はどうなるかな?」
「どうもこうも、魔族が優勝だろうな」
「そうだな、2位がドワーフか獣人か、それとも魔導士かって所だな」
「俺達人間はもう諦めたぞ、魔王」
「それじゃ、会場に行くか」
会場に着いた俺達は観覧席から観戦する。この試合も面白くするために対戦相手を俺がいじっていた、シルフィーネに当たった相手は間違いなく負けるので、試合を盛り上げる為に魔導士やミーシャ等と早く当たらない様にしてたのだ。
「観客の皆さま第1試合が開始されます。対戦は昨日の勝ち残り選手、獣人対西の国の代表選手です」
人間代表はやはり巨漢のフルアーマーだったが獣人の方は多分サイか何かの獣人だった。相手を見た瞬間に人間代表は戦意を喪失した様だ。500キロ近い角の生えた獣人を見たらまあそんなもんだろうな。
「試合開始!」
「ぐは~!!!」
サイ型獣人の突進を受けて人間が吹きとばされて終わり。実にあっけない対戦だ。観客も人間には全然期待していないのでため息をついているだけだった。南の国の代表選手が出て来ても同じことの繰り返しだ、まったく獣人に歯がたたずに試合終了。見ていて全然面白くなかった。
「詰まらんのう、魔王、ポップコーン!」
「ほらよ長老、今度の試合は面白いぞ。ミーシャが出るからな」
西と南の王様は物を食べる気力も無くなった様だ、それなりの強者が子供扱いなんだから途方に暮れてる様だ。次はドワーフ族のミーシャ対勝ち残り獣人の試合だ。ミーシャはドワーフの女王なので会場の声援が凄い事になっている、相手の獣人はやりにくそうだ。
勝ち残り獣人は熊の獣人の様だ、それも灰色熊なので偉くデカい3メートルに近い大きさを誇っていた、対するミーシャは150センチ無い位の身長なので相手の半分、大人と幼児の対戦にしか見えなかった。獣人は革の鎧に素手、素手だが20センチ位の爪が生えているので人間の素手とは全然違う破壊力だ。ミーシャはドワーフ族用のタワーシールドとハンマー装備だ。
「ミーシャ大丈夫か?幾ら何でもあの体重差は酷いな」
「一応殺す様な攻撃はするなって言っておいたがな・・」
「魔王殿、危なそうだったら途中で止めた方が良いのではないか?」
「ドワーフ族の女王が死ぬような事が有れば洒落に成らんぞ」
どう見ても危ない感じだったが、ミーシャは余裕の表情だ。ミーシャが強いのは知ってるが相手が悪すぎだと思う、あれに勝つには魔法が必要だ。
「両者前へ!試合開始!」
両者がゆっくりと前に進んで来た、そしていきなりミーシャが加速して熊の獣人に体当たりした。残像が残るほどの速度を出している。小柄とは言え盾が50キロ、ハンマーが50キロ近い重さが有るのでミーシャの体重を合わせると150キロのバイクがぶち当たった様な感じだ。それでも熊獣人は少し後ろに下がる程度で余り効いてない感じだったが、ミーシャにはそれで充分だった様だ。右手のハンマーを熊獣人の左足に叩きつけ左足を粉砕して、相手が痛みで身体をかがめた瞬間に左手のタワーシールドで思いっきり顔をぶん殴っていた。鐘をついた様な鈍い音がしたと思ったら熊獣人が舌を出して崩れ落ちた。完全に失神している様だ。会場はミーシャの勝利に興奮して大騒ぎになっていた。
「すげ~な、ミーシャ」
「異常に強いな女王」
「あれは魔法を使ってますな、身体強化の魔法ですな」
「ミーシャは魔法が使えたのか、知らなかったな」
「元々強いドワーフが魔法で身体強化したら獣人より強いのは納得だな」
さて次は勝ち残りの魔導士対獣人代表のトラ型お姉さんの戦いだな、順当に行けば接近すれば獣人、離れれば魔導士が有利の戦いだ。
「両者前へ!試合開始!」
予想通り獣人のお姉さんが魔導士に襲い掛かった、魔導士は自分の前に炎壁・ファイアーウォールを発生させ接近を阻むが、お姉さんは全く避けることなく炎の壁に突っ込んで行った。そして炎の中から飛び出して来たお姉さんはそれはそれは怒っていた。自慢の尻尾や耳の毛が焼け焦げていたせいだと思うが良く分からない。怒りの咆哮を上げたお姉さんは恐ろしかった。お姉さんの怒り狂った顔を見た魔導士はその場に座り込んで降参してしまった。降参は恥ずべき行為と思われていたが、俺だって目の前に怒り狂ったトラが出てきたら降参すると思う。
その後もサクサク試合が進んで行ったわけだが、観客に受ける様に女性選手を多く出したんだが余りに女性選手が強すぎた様だ。男が全然残ってない、まあ男の選手よりも綺麗なお姉さん選手を見たいので良い事にしよう。ミーシャにも負けて退場するとカッコ悪いって言って試合放棄させたりして俺が仕込んだカードが決勝戦となった。
「儂も出たかったぞ、魔王」
「でもさ、女王が負けたら面子が立たないから、勝ってる所で棄権した方が良いと思うんだよ」
「その通りだなミーシャ、儂も出ようとして止められたぞ」
少々ご機嫌斜めのミーシャに、大好物のたこ焼きを出して試合観戦だ。決勝は魔族代表のシルフィーネ対魔導士の街の代表爆炎の魔女の戦いだ。ド派手な試合になる様に仕込んだんだ。今回に限って魔女は全力を出して良い事にしている、普通の選手に魔女が全力を出すと危険だがシルフィーネなら多分大丈夫。魔法耐性Aとか言ってたから。
「これ食って機嫌治せよ、ミーシャ」
「オ~たこ焼きではないか、久しぶりじゃの。マヨネーズとかつお節を沢山かけてくれたら許す」
「何だそれ?いい匂いだな」
「また新しい食い物か、一体幾つ有るんだ?」
「それくれ魔王、支払いは魔力で」
最後の試合なので皆にもたこ焼きを出して試合観戦だ。最後はド派手な試合になるだろう、興行的な受け狙いっていう事も有ったが魔導士と魔族の強さをアピールして無駄な争いを起こさせない様にするのが一番の狙いだ。この世界が落ち着かないと俺が元の世界に安心して帰れないからな。
「ハフハフ、何か不思議な旨さが有るな」
「変わった食い物だが美味いな」
「タコってなんだ?」
西の国の王にタコの説明をしたら、今度取れたら送ってくれる事になった。現地では外道扱いで捨ててるらしい。勿体ないから俺が引き取って加工する事にした。今度の加工はミーシャと一緒にする事業になる様だ。そして南の国とは昨日の内にポップコーンを共同で事業化することになっていた。南ではトウモロコシが沢山取れるらしいのだ。結局昨日と今日で魔族は周りの国全部と食品の合同事業化をする事になった、外交的には全部の国に利益のある素晴らしい成果って事になると思う。接待で出したジャンクフードが外交的な成果に成るとは思わなかったのでビックリした。
さて、最終試合だな。シルフィーネの活躍に期待しよう。スタイル抜群で美人のお姉さんが優勝するってのも面白いだろう、優勝者には俺が直々に首に優勝メダルを掛ける事になっているので、絶対汗臭い男には優勝させないのだ。