第47話 大会2日目チーム戦2
さてドワーフ対獣人の戦いだ。チームワーク隊個人の戦いになるはずだ。狼族の獣人チームだったら連携を使って戦うが今回の獣人は混成なので連携は取れないだろう、獣人特有のスピードとパワーで勝負するつもりだろうと思う。
「どっちが勝つと思う?」
「そりゃあ俺は獣人だからな、獣人って言いたいが・・ドワーフは強いんだよな」
「うむ、ドワーフは数が増える程強くなるから厄介だな」
「魔王、ハンバーガーとコーラ」
食い物を出すまで煩い長老にハンバーガーとフライドポテトを大量に出してやり、全員にコーラを持たせて試合観戦だ。最初は古龍の長老に敬意を払っていた俺達だが、このジジイは食ってばっかりいるので今では無視されていた。
「爺さん、食い過ぎると飛べなく成るぞ」
「大丈夫じゃ、儂らは魔力で飛んでおるからのう」
竜は魔力で飛んでるのか、どうりで莫大な魔力を持っているハズだ。あの巨体を飛ばす魔力だから俺が少しばかり魔力を吸い取っても文句言わなかったんだな。
さて試合の方を見てみよう、予想通り獣人がドワーフに突進するところから始まった。そして予想通りドワーフ族はタワーシールドを地面に突き立てて防御態勢をとった。ドワーフのタワーシールドは盾の下側に10センチ程のアンカーが付いているので地面にかなり堅個に固定される、そして垂直ではなく45度に構えてる為に獣人は上手く体当たり出来なかった様だ。大型の熊人等は上から押しつぶそうとしていた所を左右にいなされて、これまた失敗していた。
「上手いもんだな、簡単に攻撃を逸らしてるよ」
「ドワーフの防御は定評があるからな」
最初の体当たりが不発に終わった獣人達は1対1の戦いに移行していった、ここでも盾の後ろを攻撃しようとして焦った獣人が盾やハンマーで下半身を集中的に狙われて段々動きが鈍くなって来ていた。下半身ばかり狙うのはドワーフ族の作戦というよりも、単にドワーフの身長が低いので獣人の下半身にしか攻撃が届かない為だった。例えばドワーフに突っ込んで来た獣人が盾で止められると、次には一番近い位置にある足をハンマーで狙われるのだ。ドワーフのハンマーで足を殴られると足の骨等簡単に粉砕されるので、それから先は足は使えないのだ。今では獣人達は2本足で立つのを止めて4本足で動いていた。
「足にハンマーとか、見るからに痛そうだな」
「痛い上に動けなくなるから物凄く不利になるな」
「骨が折れたら、流石に根性だけではどうにもなりませんな」
結局4足歩行になった獣人は前足の他に、位置が下がった頭までハンマーで叩かれて良い所なしで全員気絶させられてしまった。ドワーフの盾に負けた形になったわけだ。
「何だか派手さは無いが、見ていて痛そうな試合だったな」
「あんな巨大なハンマーで足先や指を叩かれたらな、動けなくなるのはしょうがないな」
「ハンマーに気を取られると盾で殴られれるから、余計始末が悪いな」
さて次はいよいよ俺の魔族チームの出番だ、あまり強いと面白くないので中堅の選手を出すようにしておいた。見た目は小柄な選手ばかりにした。170センチ位の細身のフルアーマーの選手に見えるハズだ。見た目だけなら弱そうだが、フルアーマーに見えるのは本人の外骨格なのだ、つまり彼らは昆虫の流れをもつ魔族なのだ。相手は人間チーム、こっちは正真正銘フルアーマーを着て、盾とハンマー装備の2メートルを超える巨漢が5名だ、一人当たり全備重量は200キロ位あるはずだ。
「試合開始!」
試合開始の合図と共に人間チームがノソノソと魔族チームに接近する。魔族チームもゆっくりと歩きだしている。人間チームのハンマーや盾の突撃を受けて俺の魔族達は5メートル程吹き飛ばされていた。会場にどよめきが起こる、魔族チームが人間に良い様にやられているので驚いている様だ。
「おお~!!良いぞ、行け!行け!」
「???・・何で魔族が負けてるんだ?」
「魔王、食い物くれ」
魔族が攻撃を受けて吹き飛ばされるのにはわけが有った、彼らは軽いのだ。多分彼らの体重は40キロ位しか無いのでハンマーや盾で殴られると派手に吹き飛ぶのだ。だが彼らは全くダメージを負っていないハズだ。蟻が高い所から落ちても平気なのと同じだ。
「ほら爺さん、ホットドッグだぞ。中はカレー味だから美味いぞ」
「また新しい食い物じゃな、一体何種類の食い物を知ってるんだ?」
「数えた事無いから知らん、代金は魔力で貰うぞ」
何度倒れても平気な顔で起き上がる魔族の選手に会場の観客も対戦相手も恐怖を感じ始めていた。このままでは不味いので俺は昆虫の連中に合図を出した。彼らは複眼なので何処を見てるか分からないが、俺の方の合図をジッと待ってた事は確実だ。俺が両手を握りしめた合図と共に魔族の動きが速くなる。今までとはけた違いの速さで相手に近づき持ち上げて地面に叩きつける。その一撃であっけなく勝負はついてしまった。会場にはどよめきだけが残っている、魔族の余りの強さに人間達は言葉が無いようだ。ドワーフや獣人達も渋い顔をしていた、ただ魔族の観客だけが当然と言う顔で見ていた。
「魔族は強すぎますな」
「然り」
「まあ、魔族だからな。強くて当たり前だな」
その後の対戦は魔族チームが強すぎるので、ドワーフ族と魔導士チームの混成チームとの対戦になった。5対10の変則マッチだ、だがこれはチョット不味いのだ。俺の魔族チームは昆虫の流れの選手なので火に物凄く弱いのだ。これに気づかれるとヤバいのだ、ドワーフは問題にしないが、火を付けられたり凍らされたりするとあっけなくやられるかも知れない。俺は少し焦っていた、選抜選手の選択を間違った様だ、もっとオールマイティーな選手を出せば良かったと思う。
「5対10なら何とかなるのか?」
「あんなにタフで力が強いから、どうなのかね?」
「ほらジジイ、ドーナツ食え」
「儂、喉が渇いた」
対戦が始まった様だ、俺は焦って最初から両手を握りしめて選手に合図を出していた。前回みたいに余裕を見せていたら、俺の選手が燃えるかも知れないので焦っていたのだ。
「試合開始!」
今度は最初から魔族が全力で突撃している、勿論相手は魔導士チームだ。弱点に気づく前に叩く作戦だ、人間とは比べ物にならない速度で近づきあっという間に魔導士達を地面に叩きつける。相手の攻撃は複眼で完全に見える様だ。彼らは真後ろ以外は複眼で見えるので、横からの攻撃も簡単に躱していた。そして魔導士を倒した魔族は今度はドワーフ達に向かって行った。
「おいおい、魔導士を秒殺かよ」
「動きが速すぎる」
「魔王、ドーナツ旨いな」
「メロンソーダも飲んどけ爺さん、ドーナツは喉に詰まるからな」
ドワーフ族はタワーシールドで防御体勢をとっていたが、魔族はタワーシールド毎ドワーフを持ち上げて地面に叩きつけていた。幾ら頑丈なドワーフとはいえ桁違いのパワーの前にはどうにもならない様だ。俺が焦る必要は全然無かった様だ、俺が思ってた以上に魔族は強かった。この選手で中堅クラスらしいから4天王ってのはどの位強いのか分からない。最も午後からシルフィーネが出るので、強さの一端は見れると思う。結局国対抗チーム戦は魔族チームの完勝で終わった。