第44話 観覧席
オープン参加選手の勝ち抜き戦が始まった、参加料1万シルバーなんだが賞金1000万シルバーに目がくらんだ選手が多数応募してきた様だ。皆腕に自慢の有る者ばかりだ、しかし300人も居るので10か所同時に試合を行う。審判は魔族だけではなく人間達からも出して貰って公平に裁く事にする。ルールは簡単気絶するか立てなくなったら負けだ。つまり全部KOで勝負がつくのだ、面白そうだろ?
「うお~!!魔王よ、受けたのう!」
「声がデカすぎだ長老!」
「おう、すまんかった。こんなに面白いのは3千年ぶりじゃったからの!」
今俺の隣には人間に化けた古龍の長老が居た。飛行展示が大受けしたので気分を良くして俺の所に遊びに来たのだ。人間界に降りて来るのは千年ぶりだとか言っていた。
「お疲れ様、長老。まあ食ってくれ。俺が焼いた串焼きや料理だ」
「うむ、馳走に成ろう。しかし人間共の悲鳴と歓声は良い気持ちじゃった、今度はいつ飛べばいいんじゃな?」
「何だまた目立ちたいのか?じゃあ閉会式の時に飛ぶか?最後だから派手に火でも吐いてくれれば見栄えが良いんじゃないかな。」
「良かろう、最後に派手なドラゴンブレスを見せてやろう。ふふ、また、大受けしてやるのじゃ」
「魔王殿、そちらの方を私達にも紹介して下さらんか?」
「ああそうだな、この人はさっき上を飛んでいた古龍の長老さんだから。宜しくね」
「長老、この人たち南の国の王様と西の国の王様だから宜しくね」
人間の王達が長老にペコペコしていた、伝説の古龍が人型になっているのを不思議とも思ってない様だ、竜族は不思議な存在だから何が有っても不思議では無いと言う事なのだろうな。
「これ、儂の事はどうでも良い。試合を見るのじゃ。」
基本的に竜の長老は人間が嫌いなのだ、小うるさい虫位にしか思っていない。俺と仲良くなったのは新し物好きなせいなのだ。おべんちゃらが通じる相手ではなかった。
「長老、ここから試合見えるのか?」
「儂は年寄だから、近くより遠くの方が見えるのじゃ。」
「そうか、じゃあ問題ないな」
俺は試合会場が遠すぎて見えないのでオペラグラスを取り出して見ていた。人間の王達も俺と同様見えないだろうから、オペラグラスを渡した。1個1000円位の安物だが2~3倍位の倍率が有り、軽いのが取り柄のやつだ。
「うお~、何だこれは!遠くの物がハッキリ見えるぞ!」
「これは便利良い物だな!是非売って欲しい!」
「これは売らない。軍用に使われると嫌だからな。大会の時は貸してやるよ」
「流石に魔王殿は抜け目が無いの」
「儂らが敵対出来る相手ではない様じゃの」
さて闘技大会の一般参加部門はサクサク試合が進んでいた。KOルールなのでもめることが非常に少ないのだ。2人が戦って立ってる方が勝なので当然なのだが、気絶したり立てなくなった戦士は担架に乗せられて治療院に運ばれて行っている。武器は木製にしているが、やはり骨折するのはしょうがない。手足が千切れないだけマシだった。
「うわ!また負けた!」
「頑張らんか!貴様ら!」
人間達はかなりの数の選手を送り込んでいた様だ、露骨に応援したり落胆したりしていた。もう隠す気なんか全然ない様だ。俺は魔族を出さないようしていた、魔族は強すぎるので選手が全部魔族になってしまうと大会が面白くなくなるからだ。
「長老、焼きそば焼けたぞ!」
「おうすまんのう。儂はこれが一番好きじゃ!」
「魔王殿、儂にも下され」
王や長老は試合を見ていたが、俺はひたすら食い物を作っていた。試合を見る暇なんか全然無かった、この長老、物凄く食うのだ。元は巨大なドラゴンだから当然と言えば当然なのだが。
「会場の皆様に申し上げます、丁度お昼になりましたので。午前の試合はここで終了です。午後からの試合はこれから2時間後からになっております。」
やっと午前中の試合が終わった様だ。俺は試合を殆ど見てない。長老と王達の食い物を作っていただけだった。鉢巻をして飯を作っている姿を見た観客は俺の事を料理人と思っているだろう。接待するのも楽じゃないな、午前中の試合で総当たりしたので選手の数は半分の150人になってるハズだ。午後から再び2回試合を行えば32人になる予定だが、怪我で出られない選手も出て来るので実際には30人居るか居ないか位になるはずだ。
「あ~、疲れたよサキちゃん」
「魔王様!どうしたんですか、ボロボロじゃ有りませんか?」
「長老と王達の飯作りでボロボロさ」
「もうさ、午後から休んで良いかな?メンドクサイ」
「駄目ですよ魔王様」
長老と国王達は俺の街の食堂に昼飯を食いに行ったので俺は城に帰って来たのだ。物凄く疲れたのでサキュバス達に慰めて貰いに来たのだ。でもサキュバスの長のサキちゃんしか居なかった。何時も居るリッツは治療院、トランザムは魔導士の街から参戦、サキュバス達と牛ちゃんは食堂の手伝いに行っていた。
「サキちゃん、昼飯頼む。俺は風呂入るから。」
久しぶりの昼風呂は気持ちよかった、何故俺は試合を見ずに料理ばっかりしてたのだろう?王様達は自分では何もしない連中ばかりだったが、俺は元々庶民だから働くのが普通なんだな、これが社畜って奴なのかもしれないな。
「魔王様、出来ましたよ」
「ありがとう、直ぐに行く」
昼飯はサキちゃんが作ってくれたおにぎりと卵焼きだ、もう俺より上手く成ってるな。サキュバスって言うのは戦闘は駄目だが家庭関係は抜群に上手い種族だった。
「魔王様、あ~ん」
「あ~ん」
サキちゃんに甘やかされて俺の機嫌は段々良く成って来た。綺麗なお姉さんと食事するのは楽しいのだ、ついでに立派な胸や色っぽい唇もガン見すると、益々気分が良く成って来た。これなら午後からも出席できそうだ。良く考えたら俺は魔王で大会の主催者だったのだ。飯を作るのは他の連中に任せて午後からは俺は闘技大会を見るのだ。この世界の人間達の戦闘力や耐久性能を確かめないといけないな、俺は真面目な顔をしてサキちゃんの身体を撫でまわしながら妄想していた。
「魔王様、午後からも頑張って下さいね」
「おじさん頑張っちゃうぞ」
サキュバスの手のひらで転がされて午後も頑張るオッサン魔王であった。