第43話 開会式
素晴らしい快晴だ、今日の武闘大会を天も祝ってくれている様だ。今の時刻は午前10時、1万人収容のコロシアムは既に観客で一杯だ。入りきれなかった観衆がコロシアムの特設モニターの周りにも大勢いる状況だった。そして俺はコロシアムの最上段の特設観客席に王族達と並んで座っていた。護衛には魔族の親衛隊員が10人、見るからに恐ろし気なフルアーマーを着て控えていた。俺もこの日の為に魔王専用バトルドレス、黒のフルアーマーを着るハズだったが、重くて動けなかったのでマントだけ付けた状態だった。さて開会の挨拶の時間だ。
「皆の者、良く魔族主催の武闘大会に集まってくれた。心より感謝する!今日と明日はそれぞれの国の自慢の勇者達が素晴らしい戦いを我々に見せてくれる事だろう。皆楽しんでくれ!以上だ。」
会場から割れんばかりの歓声と拍手が響き渡る。皆凄く期待している様だ、これでショッパイ試合等したら暴動が起こりそうだ。顔には出さないが俺は内心冷や冷やしていた。
「会場の皆さま、上空をご覧ください。闘技大会の開催を祝ってドラゴンによる展示飛行でございます。」
コロシアム上空を古龍による編隊飛行が横切って行く、50メートルクラスの大型古龍10匹による横一列の編隊飛行である。巨大な影がコロシアムを横切り悲鳴を上げる観客が多数いた。実物の古龍を見た事の有る人間は殆ど居ないだろう、通常古龍を見た人間は逃げ出すのだ。人間が絶対に勝てない相手が古龍なのだ。爆撃機サイズの古龍が悠々と空を横切って行く、隣の国王達は青い顔をしてただ空を見上げていた。この古龍に都市を攻められた時の事を考えているのだろう。ふふ、もっと怯えるが良い、俺は古龍とも友達になったのだ。
「次に参りりますのは、中型の飛竜でございます」
会場の左手から、今度は20メートル程の若いドラゴンがダイアモンド隊形で飛行してくる。古龍と違い今度はかなり速い。綺麗な密集陣形で会場を高速で横切って行く。会場は今度は興奮して歓声を上げていた竜の飛行速度に感動している様だ。ふっふっふ、驚くのはまだ早いぞ観客共、次が一番苦労したのだ。この世界初のアクロバット飛行展示を見るが良い!
「最後は風竜5体によるアクロバット飛行です。この世界初の飛行展示をご覧ください」
10メートルクラスの風竜5体によるアクロバット飛行が始まった。会場真上からは5体の竜それぞれがスモークを炊いて見栄えを良くしている。この日の為に俺は沢山発煙筒を魔力変換したのだ、
まず最初は会場真上から急降下で5体が降りて来て会場すれすれで花が開くように飛ぶ、レインフォール。
「うおおおお~!!!!!」
急降下した竜が会場すれすれを飛びぬけて観客たちは大喜びだ、竜の姿がはっきり見える高度まで降りて来ているのだ。多分300キロ位の速度は出ているハズだ。そして又編隊を組み直して次の技に入る。次はデルタ・ループ。緊密な編隊を組んでの宙返りだ。これは編隊の幅が狭いほど難易度が上がる技なのだが、この世界の人間達は知らないだろうな、残念だ。
「カッコイイ!!!竜最高だぜ~!!!」
そして地上すれすれから急上昇して花が開いた姿を見せるアップワードエアブルーム。最後は我が国のインパルスの得意技キューピットで締めくくる。会場からは割れんばかりの拍手と喝さいが巻き起こった。
「魔王殿、竜族がこんな事をすとは信じられません!」
「もしかして魔王殿は竜族を支配しているのかな?」
「支配なんかしてないぞ!友達なだけだ。彼らは快く協力してくれたんだ。」
俺は大会の開幕式に航空祭の様な事をやるとカッコイイな~とか思ってドラゴン族に出演依頼に行ったのだ。最初は古龍達も嫌がっていたが、カッコイイ姿を人間達に見せてくれって言葉に古龍が食いついたのだ。
「カッコイイとな?」
「そうだ!巨大な古龍の編隊飛行や高機動の竜によるアクロバット飛行は受けるぞ!」
「なんじゃ?アクロバット飛行・・・?」
それから俺は編隊飛行やアクロバット飛行について説明を始めた。ドラゴン達はアクロバット飛行に興味を持った様だ。それに世界初って言葉に竜族も偉く興味を持ったのだ。なんせ俺は飛行機が大好きなのだ一晩中でも話続ける位の飛行機好きなのだ。
「我らの雄姿を人間共に見せつけるのも一興じゃな。面白いかもしれんの。」
「絶対受けると思うんだ。竜族の偉大さを見せるチャンスなんだって、カッコ良い技で人間達の度肝を抜いてやってくれ。」
「よかろう、世界初のアクロバット飛行は竜族が頂く事にしよう」
それから古龍によるスパルタ教育が始まった、若い竜たちは失敗する度に古龍に噛みつかれるのだ。泣きながら不眠不休で特訓した成果がこの飛行展示になったのだ、今頃若い竜達は自分の家に帰って寝ているハズだ。ここまでは俺の大好きな航空祭風に仕上げたのだ、ぼったくり屋台で串焼きを食べたり、ボッタクリ価格のグッズを買わせるためには観客が感動する演出の必要が有ると判断したのだ。行く度にボッタクリ価格のグッズを買っていた経験が生きたとも言えるな。
「さて、いよいよ本番だな。選手の入場だ」
「魔王殿は恐ろしい友人をお持ちの様だな」
「それが分かっただけでも来たかいが有ったな」
俺と友好的なドワーフ・獣人・魔導士はドラゴンの飛行展示に大喜びだが、敵対する人間達は本物のドラゴンの巨大さを見て震えあがっている様だ。親切に秘密兵器を見せたかいが有った様だ。
「選手入場です、皆さま盛大な拍手でお迎えください!」
先頭は魔族の代表選手、4天王の一人である風のシルフィーネだ。180センチのプラチナブロンドの美女がゆっくりと進んでくる。4天王の名前は知っていても実物を始めてみる人間達は、余りの美貌にため息をついていた。戦場で彼女に会った人間で生きている者は居ないので、彼女を見るのは全員が初めてなのだった。続いてドワーフ族代表ミーシャ。145センチの小柄な体だが100キロ近いトールハンマーを軽々と担いで歩いている。見た目は子供だが中身は凶悪な破壊力を持った化け物だ。そして獣人代表のトラ族のアマゾネス・バーバラ。身長2メートル超えの巨体でしなやかに歩いている、尻尾と耳がピクピク動いているので少し緊張している様だ。それから人間代表選手が2名、共に2メートルを超える筋骨隆々の戦士だ。多分親衛隊の隊員か国で最高の冒険者なのだろう、そしてその後にはオープン参加の選手が300人程ぞろぞろ付いて来ている。
「さて、選手も揃った様だな。人間の王よ、開会の挨拶と合図を頼む」
「うむ、任せておけ!」
「選手と観客の諸君!ここに第1回武闘大会の開会を宣言する!正々堂々と勝負するように!」
ここに第1回武闘大会が始まった、最初はオープン参加の選手による勝ち抜き戦だ。10か所で同時に選手が戦って勝った選手が次に進むのだ。そして最終戦に勝ち残った4人は明日各国の代表選手と戦って一番強い者を決めるのだ。