第38話 魔王のパンフ配り
俺は自慢の武闘大会パンフレットを持ってドワーフ国に来ていた。表紙にカラー印刷の魔王城そして中には建設中のスタジアムの写真、宿泊施設の写真をいれて、更に大会のルールや入場料金の案内等を書いた6ページの物だ。まあはっきり言ってショボい出来だがこの世界では珍しい白い紙にカラー印刷でかなりカラフルな見栄えになっているハズだ。俺と勇者が夜なべして作ったのだ、まあコピー用紙をホッチキスで留めただけなんだが。正式な日時が決まったらコピー用紙から写真用紙のA4サイズに変更して、更にサキュバスやシルフィーネの画像を沢山載せて客に売るつもりなんだが、今回は説明用の簡易版だ。
「ミーシャ久しぶり。元気にしてたか?」
「おう久しぶりじゃの、温泉に来たのか?」
「いや、闘技大会の説明と宣伝に来たんだ。これを見てくれないか?」
「なんじゃこれは!見た事もない物に色が付いておるの。素晴らしい絵じゃ!」
「気に入って貰えて良かったよ。本番用にはもっと綺麗な奴を作るから参加宜しく。」
「待て!魔王。これはシルフィーネの絵じゃな。魔族代表と書かれておるぞ。」
「おう、魔剣を持って立ってる姿がカッコイイだろ。」
「凄いのう、かっこ良すぎじゃろう。参加するとこのように綺麗な絵にしてもらえるのか?」
「そうだな、かっこ良く載せるつもりだ。大会の華だからな。」
「待っておれ」の一言を言ってミーシャは全力で走って行ってしまった。何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが偉く興奮しているようだった。俺と勇者がケロべロスと遊んでいたら10分位で戻って来た。そしてその手には偉く大きなハンマーが握られていた。
「待たせたの、さあ私もカッコよく描いてくれ。」
「ミーシャがドワーフ代表で良いのか?」
「勿論じゃ、このドワーフの至宝・トールハンマーさえ使えば楽勝なのじゃ!」
「トールハンマーって何だ?」
「見ておれ!」
ミーシャが自分よりも大きなハンマーを振り上げて地面に叩きつける。軽々と扱ってるが物凄く重そうなハンマーだって事は見ただけで分かった。地響きと共にハンマーが叩きつけられた地面が1メートル程陥没していた。
「なんだそりゃ?」
「ドワーフ族の王家専用のハンマーじゃ。凄いだろう。」
「それ、使用禁止な。死人が出るから。」
「なんじゃと!シルフィーネの魔剣はどうなるのじゃ。」
「あれは演出用だ、カッコイイから持たせてポーズを付けてるだけだぞ。殺し合いをさせるつもりは無いからな。皆に楽しんでもらうんだ。」
「それならばしょうがないの、これを持ってる所をカッコ良く絵にしてくれ。」
ミーシャも一応納得してくれた様なので勇者にレフ版を持たせてバシバシ写真を撮ってみた。ミーシャはチッコイけど結構可愛いので見栄えが良かった。パソコンとプリンター等一式を運んできているのでその場で写真画像を3枚程やったら、物凄く喜んでいた。自分の姿をはっきり見たのは初めてだった様だ。交渉は上手く行ったので次の街に向かう事にする。
「ミーシャは可愛かったのに何か興味無さそうだな、サトウ。」
「自分はツルペタに興味無いっすから。でもまあ可愛いから大きなお友達には受けるかも知れないッスね。」
「次の魔道の街ではもっと一般受けする選手を出してもらおうか?」
「良いッスね。でも何だか最初の目的からドンドン外れて行ってる気がするッス。」
「気にするな、予定なんて直ぐ変わるもんだ。」
どうせ闘技大会なんて本気で殺し合いをすれば直ぐに廃れてしまうし、恨みが残る。それよりも出来るだけ俺が操作して楽しいイベントにするのだ。毎年開催して不労所得を得るのだ。でも綺麗なねーちゃんばっかり出すのも何か詰まらないな。やっぱオープン参加の決定性も有った方が盛り上がるよな。
「なあ勇者、お前も参加しないか?」
「嫌っす、絶対負けるッス。」
「でも勇者だろ?強いんじゃないのか。」
「普通の人間より少し強い位っすよ。多分元の世界のレスラー位じゃ無いっすかね?」
「そうか・・その位じゃこの世界では秒殺されるな。」
オーオプン参加用の目立たない選手も探さないといけないな、兎に角、賞金は全部魔族で頂くのだ。いや待てよ、魔族以外の者に賞金が行った方が宣伝になるな。来年の事を考えれば今年は違う種族が優勝してくれた方が大会の公正さの宣伝になるよな。女性専用枠とオープン参加の2つをメインで行う事にしよう。そしてオープン参加はチーム戦も行うと時間が掛かって良いかもしれない。宿泊費は全部魔族の儲けになるしな。
「と言う訳で、綺麗なお姉さんを出場させてほしい。魔族の長さん。」
「そういう事なら一人は見栄えの良い魔女を出しましょう。もう一人は実力の有る男の魔導士で宜しいかな。チーム戦の方はこれから選抜いたします。」
「ありがとう、3つ優勝者が居れば大会も見栄えが良くなると思う。」
「まあ何にせよ我々は人間だけには負けたくないですな。」
「人間が上手く戦えるのはチーム戦だけだと思うな。個人の戦闘力は格段に下だからな。」
魔道都市からも綺麗なお姉さんを出して貰える様になったので、バシバシ写真を撮った。勇者の張り切り方が凄かった。爆炎の魔女とか言う炎の魔法を得意とする派手な魔女だった。
「長老さん、聞きたい事が有るんだ。」
「何でしょう、魔王様。」
「魔力を貯められる魔道具とか無いのかな?」
「有りますが、魔力なら魔石の魔力が一番ですぞ。」
「魔石?」
「魔力の有る魔族が死んだときに落とす石です。ドラゴンの魔石など膨大な魔力が有りますぞ。値段も物凄いですがな。」
「へ~、今度シルフィーネに聞いてみよう。」
「魔王様、ドラゴンの魔石が手に入りましたら是非わたし達にもお売り下さい。」
「分かった、あてにしないで待っていてくれ。」
毎晩勇者やサキュバス達、それにトランザム達から魔力をわけて貰うのに最近疲れて来たのだ、最初はサキュバス達に引っ付けるので喜んでいたが、今では時間ばかり掛かって自分の時間が減るのが嫌なのだ。思えば贅沢なんだが毎日2時間近く時間を取られると流石に不便だった。
そして最後に獣人の国でパンフレットを見せて説明する。格闘好きの獣人も沢山試合が見られるのに喜んで、トラ族の美人ファイターやチームを出してくれる様になった。トラ族のお姉さんは2メートル近い巨体でトラの耳と尻尾が生えているファイターだった。近くで見ると腕の筋肉が俺の太ももサイズ位有ったのでビックリした。でも写真写りは素晴らしく、サイズを知らなかったら可愛く見えるはずだ。
西と南の人間の国にはトランザムに行ってもらった、グリフォンに乗って行ったので1日で2つの国に案内状代わりのパンフレットを届けられた様だ。
「お疲れ、トランザム。人間達は何か言ってなかったか?」
「パンフレットを見て驚いてたぞ。色と中の絵が精密だからな。」
「興味を持って貰えたんならそれで良い。大会が楽しみだ。」
何故か魔族の為に必死で働いている事に全然疑問を感じていない魔王だった。元の世界では残業嫌いで、週休2日しか受け付けなかった癖に、ここでは1か月休みなしで働いていた。