第33話 俺の世界のセオリー
格闘大会の開催に伴って俺は治療をしてくれる者が欲しかった。魔族は破壊魔法しか使えない奴ばかりで役に立たないのだ。出場選手が死んだり後遺症が残ったりすると大会の評判が悪くなるから、そうすると俺の評判も悪くなるので困るのだ。俺は大会を定期的に開催して楽して儲けたいのだ。
「楽して儲けたいのだ~!!!」
「魔王様。声に出てますよ。」
「あ、すまん。オルフェイス。所で魔族に回復魔法を使えるヤツ居ないかな?」
「魔族にとって回復魔法は毒みたいなものですから、使い手は居ませんね。」
「やっぱり駄目か、獣人は魔法使えないしな。やはり魔導士達に助けて貰うか。」
「回復魔法が使える子がスラムに居ますよ、魔王様。」
「そうなの、それじゃあ会いに行こう。」
回復魔法が使えるのにスラムに居るのは不思議だが、魔族にとってはダメージ魔法だから嫌われたのかな? 人間や獣人達には貴重な魔法だから保護されてるはずなのだが違うのか? まあ実際に会ってスカウトしてみようと俺は思った訳だ。
「え~と、アル君。この子かね?」
「この子ですよ、魔王様。スラムの聖女ちゃんです。」
何だかチッコイ女の子だった、薄汚れたワンピースを着て髪もボサボサで痩せている。とても聖女には見えない子だ。簡単に言えば浮浪児だな。
「何でこんなに貧乏そうなんだ?治療したら金になるだろうに?」
「ここはスラムですよ魔王様、皆お金持ってませんよ。」
「そうか、ただ働きなんだな可哀そうに。俺の所で働かないか?美味しい物食べさせて給金も払うぞ。」
「行く!」
この子の名前はリッツと言うらしい。小さい頃にスラムに捨てられたので年や名前は適当なんだそうだ。そもそも人間と何かのハーフらしいが親が分からないから、良く分からない。見た目は人間と変わらない。
「リッツ、今日から魔王城に住んで俺の仕事を手伝ってくれ。」
「私なんかで良いの?スラムの孤児だよ。」
「俺は回復魔法が使える奴が欲しいんだ、育ちが良い奴が欲しい訳じゃない。」
「回復魔法だったら使えるよ、回復魔法しか使えないけど。」
俺は魔王城にリッツを連れて来て部屋を一部屋与えた、魔王城には空き部屋が沢山有るのだ、使用人用の部屋だけで100部屋近く有るほど巨大な城だった。俺の部屋は最上階に有るが使用人の部屋は1階に集中して有った。
「この部屋を使ってくれ、嫌だったら別の部屋でも良いぞ。気に入った所に住むと良い。」
「こんな広い所は嫌、もっと狭い所が良い。」
「貧乏性な奴だな、お前日本人かも知れんな。」
その後サキュバスやアルに頼んでリッツを風呂に入れて綺麗にしてもらった、生まれて初めて入る風呂は新鮮だった様ではしゃいでいた。
「魔王様、私お風呂に住みたい。」
「いや駄目だから、お風呂に住まれると困るから。」
「私浄化魔法使えるから何時でも風呂を綺麗に出来るよ。」
「お風呂に中に住まれると俺が困るから、お風呂の外に住んでくれ。」
「じゃあ、お風呂の入り口に住む。そして毎日お風呂に入って掃除するの。」
「入り口ならまあ良いだろう。衝立で囲ってベット置いてやるよ。」
リッツは風呂が気に入った様だ、まあ中に住まなければ何処でも良いや、俺は適当な人間だから余り気にならないのだ。次に晩御飯を食わせたら、今度は厨房に住むと言い出した。美味しい物も大好きの様だな。それにしてもここの世界の人達はメンタルが強いので感心する、今が良ければ満足なのだ。過去を嘆いても無意味な事を知っている様だ。リッツを見ていてそう思う。
「回復の使い手が雇えて良かったですね。、魔王様。」
「うん、闘技大会は何とかなるかも知れないな。でもリッツ一人じゃ無理かも知れないから他にも探してみるよ。」
「トランザムの知り合いに回復魔法使える人は居ないのか?」
「私の友達には居ないな、魔導士の長に聞いた方が良いだろうな。」
「魔女が病気や怪我をしたらどうするんだ?」
「魔女は薬を使うんだ、回復薬みたいな苦い奴だ。」
大会出場者の為に回復薬とかも用意しておいた方が良いだろうな、明日は魔導士の街で回復魔法の使い手をスカウトして、魔女に色んな薬を注文しなくてはいけないな。何だか忙しかった、毎日休みのハズが休みなしで毎日働いてるのだ。なんでこんなに働いてるんだろう?貧乏性だからか?どうも遊んでいると落ち着かないのだ、働いてる方が落ち着くとはやはり俺は小物に違いない。
「魔王様、またセイロン男爵から緊急通信ですわ。」
「また勇者でも現れたのかな?」
南の国の召喚勇者は酷い目に会わせたから、南の国はもう当分召喚しないだろうが、西の国と東の国は俺を殺そうとしてるから何時勇者を召喚しても不思議は無いな。この間の勇者みたいに馬鹿だったら良いけど頭が良かったり、最初から強いチート持ちだったら物凄く不味いんだよな。
「ご苦労さんセイロン男爵。もしかして又勇者でも召喚されたのかな?」
「はい、今回は西の国で召喚された様です。詳しい事は分かっておりませんが何だか大騒ぎになってます。」
「大騒ぎ?凄い勇者が現れてお祭りしてるとかかな?」
「いえいえ逆です。召喚した勇者が逃げ出したとかで大騒ぎになってます。」
「セイロン男爵、急いでその勇者を保護しろ。緊急事態だ。」
召喚されて直ぐ逃げ出すとは見込みのありそうな勇者だ、捕虜になった場合の鉄則は直ぐに逃げる事だからな、時間がたつと不利になる事を知っている様だ。同じ世界から来たなら話が合うかもしれない。
「急いで探しますが、何処を探せば良いのかさっぱりです魔王様。」
「そう言う場合は、相手が捕まえたのを横から浚うのだ、人間の捜索隊を見張っておけ男爵。」
「うお~、何とずる賢い。流石は王です、書き残して子孫に伝えます。」
別にズルく無いんだけどな、普通そうするんだがな~。自分で探すの面倒じゃん。
「サキちゃん、俺ズルく無いよな。」
「勿論です魔王様、魔族らしいだけですわ。」
セイロン男爵が喋ったのだろう、次の日から4天王達がキラキラした目で俺を見るのだ。そして魔族の皆は俺を見ると逃げ出すのだ。きっとズルい魔王とか悪魔魔王とか言われてるのだと思う。そうしてみると俺の世界の色々なセオリーってヤツは悪魔的な方法ばっかりだったのか?俺の世界は世紀末だったのかな?