第26話 勇者の影
トランザムとグリフォンのコンビは物凄く働き者で役にたっていた。ドワーフの温泉宿や魔導士の街の食堂等に食料や生活用品なんかを運んでくれるのだ。そして週に1回、西の国に行って魚を運んでくれる働き者だ。この働きで彼女はサキュバス達から信頼と居場所を確保していた。
「なあトランザム、お前箒に乗って空飛べたりするのか?」
「どうやったら箒で空を飛べるんだ?」
「だよな~、箒で飛べるなら無くても飛べるよな。」
トランザムが箒に乗って宅配便をするのは無理な様だ、いやまあちょっと思いついただけなんだがね。俺の世界では可愛い魔女が箒で宅配便をするのだが、ここでは美人魔女がグリフォンに乗って高笑いしながら配達するんだよな。大きなお友達ならこっちの魔女の方が人気が出ると思う。派手でエロいのだ。
いま俺の部屋にいるサキュバス達はかなり数が減ってしまった。別に愛想を付かされた訳ではない。ドワーフの温泉宿に泊まって商売しているサキュバスが4人程、魔導士の街に行って森林浴を楽しみながらお好み焼きを焼いているサキュバスが4人。そしてセイロン男爵の元で人間達の街で権力者をたぶらかして情報収集しているサキュバスが3人居るのだ。彼女達は1か月交代で任務に就いてもらっている、完全に俺の特殊工作員となっているのだ。だから今俺の部屋に住んでるサキュバスは9人だ、任務が終わると俺の部屋で1か月休んで次の任地に行くのだ、そしてトランザムも当然の様に住み着いた、最近ではテラスにグリフォンも巣を作ったので結構にぎやかだ。
「魔王様、セイロン男爵から通信が入っています。」
「ほう、珍しいな。直ぐに行く。」
人間の動向をさぐらせているセイロン男爵からの時間外通信は珍しい、何時もは夜の決まった時間にすることに成っているのだ。その時間以外なら緊急連絡と言う事だ。
「待たせたなセイロン男爵、どうした?」
「魔王様、人間界に勇者なるものが召喚された模様です。」
「まじか!それはまずいな。」
「やはり邪悪な者達でございますか?」
「多分そいつら魔王討伐要員だな。変な力を持ってるはずだ。」
「何ですと一大事ですな、詳しい情報を直ぐに調べます。今は召喚された位しか分かっておりません。」
「そいつらの監視を頼む、最重要人物に指定する。」
参ったな、本当に勇者召還をやられるとは思ってなかった、俺は相当に恨まれている様だ。しかし、このまま黙っているときっと勇者たちは成長して俺を倒しに来るに違いない。チート能力とか持っていると俺が殺されてしまう、俺には何の能力も無いのだ。
「大変な事に成りましたわね、魔王様。大丈夫でしょうか?」
「まず情報収取だな、相手が人数も能力も分からないから作戦の立てようがないな。」
「魔王様の敵は我らサキュバスの敵、必ずや成敗して見せます。」
「そんなに張り切らなくても良いよ。今回の情報もセイロン男爵とサキュバスのお陰だからな。」
情報収集に力を入れていて良かったと思う。知らない内に勇者が成長して殺されたら馬鹿みたいだからな。俺は簡単には死なないのだ。魔族から逃げ出す為に造った秘密基地も役にたちそうだ。勇者たちが俺の手に負えない位強かったら逃げればいいだけだ。ドワーフ族の温泉に逃げ込んで、そこまで追いかけてきたら魔導士の街に逃げ出すのだ。そしてそこに来たら魔王城に逃げ込むと言うのはどうだろう?名付けて「グルグル作戦」うんカッコ悪い。でもまあ人間だから空を飛ぶわけでもないし、ケルベロスやグリフォンを使えば簡単に逃げられそうだな。
「魔王様、勇者とかいう悪人が現れた様だな。」
「どうしたトランザム、偉く怒ってるじゃないか。」
「当たり前だ魔王に死なれると困るのだ、折角得た仕事が無くなってしまう!魔王の敵は私の敵だ、氷の魔女がそいつらをぶち殺してやる。」
「立派な考えですわ、我々サキュバスも何でもしますわ!石鹸とシャンプーの邪魔するヤツは殺します。」
「私たち獣人も魔王様の味方です、勇者を見かけたらぶち殺すように獣人達に通達しますね。」
「お、おう。」
最近、魔族領の屋台や獣人国の屋台なんかを獣人族にやらせだしたのだ、通常串焼きは1本100ゴールド位の値段なのだが、俺が醤油とハチミツをベースとした串焼きのたれ通称「魔王のタレ」を開発してからは獣人の屋台では1本200ゴールドで魔王特性串焼きとして大ヒットしているのだ、儲かるから獣人の給金を上げたら又しても俺の人気が上がってるのだ。獣人の生活向上に貢献している俺の敵は獣人の敵でも有る訳だ。
「獣人は戦闘力が有るけど、サキュバスは無いよな?どうするんだ。」
「ふふ、人間達をたぶらかして襲わせれば良いだけですわ。簡単な事です。」
「そりゃあそうだな、サキュバスにかかれば人間の男なんてイチコロだよな。」
「私は攻撃魔法が使えるぞ。初級から上級まで何でも行ける。」
「えっ、魔女って戦えたのか。」
「グリフォンと私のコンビなら人間1000人位なら楽勝だ!」
「何だよ、お前ら恐ろしい奴らだったんだな知らなかったよ。」
俺は彼女達の事を見くびっていた様だ。おっぱいが大きくて太ももがエロいだけの女ではなかったのだ、男たちを惑わすサキュバス達と氷魔法を空から乱打するトランザムはかなり強い様だ。それにウオッカが手に入らなくなると知ったら、ドワーフ達も暴れ出すだろう、国民皆兵士のドワーフ達が暴れ出したら大変だ、これに魔導士達が加わったら人間なんか簡単に亡ぼせそうな気がする。
「まあ勇者如きどうとでもなる。気にするな。」
「流石は魔王様、落ち着いてらっしゃる。」
「魔王、いつでも命令してくれ、グリフォンと共に成敗しに行って来るからな。」
何だか頼もしい女達だった、物に釣られているとはいえ俺を守る気満々だ。意味もなく忠誠を誓う連中よりも信頼できた。そしてトランザムの愛馬と化したグリフォンについて調べてみたら、かなり強い幻獣だった、インコみたいに喋るから可愛い系の生き物かと思ったらドラゴンに匹敵するぐらい強いのだそうだ。そんな強い奴が何故かトランザムと仲が良いのは不思議だった。