第16話 ドワーフの姫様と腕輪ちゃん
西の国の使者が帰って直ぐに、ドワーフから畑の完成の知らせが来たので俺は次の日には又国境近くの畑にケルベロスの犬車に乗って見物に来ていた。畑は木を切り倒して開墾した1町程の小さな畑だ。木の根を掘り返したりするのが大変なので最初は小さな畑から始める様だ。川の向こうのドワーフの土地はもっと大規模に木を切っている様だ。
「魔王様、いらっしゃい。」
「やあ、畑を見に来たよ。」
「何とか形に成りました、これから色々植えて何が一番育つのか試す予定です。」
「やっぱり芋とか植えるのかい。」
「芋や小麦、それにヤギが食べそうな草とかですね。」
ドワーフも色々考えてる様なので安心だ、肥料なんかはヤギの糞とか利用するのかな?焼き畑はやらないみたいだから聞いてみたが、他人の領地に火を掛けると戦争になるのでやらないそうだ。ただし、ドワーフ族の山では普通にやってるそうだ。
「魔王様、初めましてドワーフ族の族長をしているミーシャです。」
「ああミーシャさんこんにちは、魔王です。」
ドワーフ族の族長のミーシャさんが現れた、小柄な女性だった。男のドワーフは小柄だがガッチリした体格なのだが、女性のドワーフは小柄なだけでガッチリはしていなかった。人間で言うと中学生位のサイズだった。
「この度は、土地を貸して下さりありがとうございます。これで食料が確保出来ます。」
「これ位では大して作物が出来ないんじゃないですか?」
「川向うのドワーフ領が使える様になったのが大きいです。魔王様のお陰です。」
「ああ、そういう事ですか。」
今までは敵対こそしてなかったが、友好的でも無かったために国境付近を開発出来なかったのだが、俺がドワーフ族と敵対する気が無い様なので国境付近を安心して使える様になったのが食料生産上有利になったって事だった。
「俺はドワーフ族と仲良くしたいので安心して下さい。出来れば交易なんかもしたいですね。」
「ドワーフ族は金属加工が得意な種族ですから交易するなら大歓迎ですよ。食料や果物と交換してもらえれば助かります。」
「魔族領で何が取れるか調べて少しづづ交易を始めてみましょう。」
俺は魔族領の事を何も知らなかったので、魔族領で何が取れるか知らなかった。そもそも魔族って何して食べてるんだろう?オルフェイスは吸血族って言ってたから血を吸って生きてるのかな?サキュバスは精気を食べるらしいし、帰って色々調べる事が多そうだ。
「魔王様、一度ドワーフの国に遊びに来て下さい。歓迎いたしますよ。」
「ありがとう、その内行かせてもらうよ。」
俺はドワーフと何とかうまくやれそうな気がしていた。族長が女なのは有難い、取りあえず何か送り物でもしとけば大概上手く行くはずだ。男よりも現実的な感覚を持ってるタイプである事を祈っておこう。見た所、理想主義や原理主義の狂人には見えないので一安心だ。どちらかと言うと獣人の国に居た魔導士や魔女達の方が危ない感じがしていた。人間に迫害され過ぎて人間達を敵視しすぎている様な感じだ。嫌いな奴とは距離を置いて取り合わないのが一番良いのだが、人間にまだ興味がある様だった。
それから俺は城に帰って魔族の事を色々調べ始めたのだが、直ぐに問題に直面した。兎に角種類が多いのだ、肉を食う者、草を食べる者、精気を吸う者、血を吸う者、魔族は種類が多すぎて簡単には調べられなかった。
「魔族にまとまりの無い理由が分かった気がする。」
「理由・・ですか?」
「食い物も考え方もバラバラだから、同じ方向を向かないんだな。皆がまとまるのは戦争の時だけだな。」
「そう言われて見れば、そんな気がします。」
「こんな状況じゃ話し合いは無理だな、それで魔王と4天王が魔族を支配してる訳だ。無茶だと思ってたがこれが一番良いから定着したんだろうな。」
「昔は魔族同士で戦って、絶滅しそうになったと聞いた事が有りますよ。」
魔族は人間で言うと、人種や宗教が違う者が一緒に暮らしてる様なものだった、纏めるには力による支配しかない。宗教に道理は通じないし、考え方も差が有り過ぎるのだ。
「魔王様、パスタでございます。」
「サキちゃんが作ったのか?」
「練習しました。」
前に俺が作ったのを見て覚えた様だ、サキュバスは頭が良かった。美人で男に尽くす種族なのだ。その代り精力を吸われてしまうのだが。
「お~美味しいな。上手いもんだ。」
「毎日練習しましたのよ、私これのファンになりましたの。」
「屋台で売れそうだな。」
「売れると思いますよ、サキュバス族は喜んで食べると思います。」
美味しいけれど、塩味なのだ。調味料が塩しか無いのは不満だった。この世界の住民には普通でも俺にはとても不満だ。醤油が欲しい、味噌汁飲みたい、ご飯が食べたい。
「助けて欲しいのか?魔王よ。」
「何だ腕輪ちゃんか、久しぶりだな。」
「異世界の物が欲しいのであろう?泣いて頼むなら何とかしてやっても良いぞ。」
「そんな事が出来るのか?」
「異世界からお主を連れて来たのは儂じゃぞ、出来るに決まっておろうが。」
そう言えば前の魔王は俺の世界に来ていたし、俺はこの世界に連れて来られた訳だから又帰れるかも知れない。異世界こそが一番安全な逃げ場所なのだ。なにせ俺の世界なのだ。
「俺を元の世界に返してくれ!」
「駄目じゃ、お主はここに必要なのだ。」
「じゃあ、チョットだけ返してくれ。色々欲しい物が有るんだ。」
「よかろう、魔力を寄越すのじゃ。」
「好きなだけ取ってくれ。」
「お主は魔力が無いから、生贄を寄越すのだ。魔力が多い者が良いぞよ。」
生贄を捧げて願いを叶えるってのは魔族らしいが、俺の為に誰かを犠牲にするのはチョット嫌だった。敵には容赦しないが、無関係の者を殺すような異常者では無いのだ。
「魔王様、私を使ってください。」
「何言ってるんだアル、そんな事は出来んぞ。」
「その子は駄目じゃ、魔力が殆ど無い。そっちのサキュバスなら少しは有る様じゃな。」
「魔王様、お許しください。私はまだ死にたく有りません。」
サキュバスもアルも俺の大事なメイドなので殺す気なんて無かった。俺が我慢すれば良い話だから。
「なあ腕輪ちゃん、ちょっと魔力を貰うって出来ないのか?」
「ちょっと位では異世界転移は無理じゃ。」
「じゃあ仕方ないな、あっちの世界の物が欲しかったんだがな~」
「軽い物なら出来るぞ、まあ魔力次第だがな。」
「じゃあ試しにやってみるか。サキちゃんちょっとだけ魔力を分けてくれ。」
俺は腕輪ちゃんに言われたとおり、サキュバスに抱き着いた。肌が密着するほど魔力を吸い上げ易いのだそうだ。サキちゃんは何故だか喜んで服を脱いでいた。1分位でサキちゃんの魔力を吸い取った腕輪ちゃんは、俺に欲しい物を強く思う様に言った。ただし軽い物しか引き寄せられない様だ。
「じゃあ軽い物を念じてみるぞ。」
腕輪ちゃんの前に魔法陣が現れて、俺の念じた物が現れた。それはトイレットペーパーだった。俺が買い置きで家に蓄えておいた12ロール入りのやつだ。
「サキュバスの魔力ではこれ位じゃな。」
「何ですかこれは?」
「紙だ。」
俺はサキュバスに使い方を教えて2個やったら、とても喜んでいた。食事の後に口を拭いたり、トイレの時に使ったり、とても役に立つからだ。しかし、サキュバスの魔力でトイレットペーパーしか転移出来ないとは、物凄く燃費の悪い魔法だった。俺が転移するには一体どれ位の魔力が要るのだろう?その内どうにかして魔力を集めて帰ってやろうと思った。