第15話 西の国の使者
魔王って本当に損だと思う。人間から嫌われて、そのくせ給料も出ない壮絶ブラックな職業なのだ。サキュバスは物凄い美人で良い体をしてるが、精気を吸い取られて殺されそうだから手出し出来ないし、他の魔族は見た目も性格も怖かった。最近よく利用するケルベロスの犬車は便利良かったが、やっぱりケルベロスは怖かった。でっかい口が3つも有る化け物なのだ。俺の癒しは牛族のアルちゃんだけだ、胸が大きくて優しい目をしてるのだ、牛族は温厚な種族らしいので少し位手が滑っても怒られる位で済みそうだ。
「魔王様、何を黄昏ているんですか?」
「ああ、魔王ってめんどくせ~!って思ってな。」
「魔王様のお陰で私たち幸せです。」
「こんなの普通だぞ、仕事して給料出るのは当たり前なんだがな。俺には誰も給料くれないけどな。」
俺はサラリーマンが好きなのだ、友人から自営業を良く進められていたが、俺は彼らの大変さを良く知っていた。自分だけじゃなく部下の生活まで掛かっているのだ、今良くても、来年良いとは限らない無限の苦行なのだ。会社が潰れたら失業保険を貰って転職すれば良いサラリーマンは無敵なのだ。特に平は最高だ文句だけ言ってればよい気楽なポジションなのだ、役が付くと部下と上司に挟まれて悲惨な事になるので嫌いだった。
「魔王様。西の国から使者が来ております。お会いになりますか?」
「ああ、合うよ。見た目の怖い連中を集めておけ、広間で使者に会う。」
西の国は先日の戦いで、うちに軍隊を送って来たので絶賛嫌がらせ中だ。交易都市なので船をドラゴンで沈め捲くっているのだ。戦争用語で言うと通商破壊って奴だ。そろそろ都市にも攻撃を加えてやろうかと思ってた所だ。戦争を仕掛けておいてやり逃げなんて俺は絶対に許さない。
「西の国の使者よ、何の用だ?」
「とぼけないで頂きたい!我々の船をドラゴンを使って沈めている事に対する抗議に来たのです。」
「ほ~、我が国に軍隊を送り込んできたくせに、今頃になって被害者のフリをしてるのか。」
「・・・」
「言っておくが、わが魔族とお前の西の国は戦争中だぞ。これからは船だけじゃなく町も燃やしてやろう。」
「・・・どうすれば攻撃を止めていただけますか?」
「我が国に対して謝罪と賠償をするなら考えても良いぞ。嫌なら戦争だな。」
この世界の人間も最初は強気で攻めるのが作法の様だ。被害者のフリをして譲歩を引き出したいのだろう、だが俺にやっても無駄だ、譲歩する気は全然ないのだ。なにせ船が沈んで困るのは西の国で俺は全然困らないからな。それに周りに集めた魔族は好戦的な連中ばかりだ、今すぐ西に進軍したくてたまらない連中なのだ。交易して金が欲しい連中と、金よりも戦争をしたい馬鹿と話がかみ合う事は無いのだ。
「分かりました、帰って王に伝えます。その間は攻撃を控えて頂きたい。」
「よかろう、俺は寛大だ。1週間だけ待ってやろう。」
「それは少なすぎます、せめて2週間は頂きたい。」
「そうか少ないか、では6日待ってやろう。」
「減っていますぞ!」
「5日だ。俺の好意は直ぐに無くなるのを覚えておくと良い。」
「・・・・分かりました。直ぐに王に話します。」
交渉人は青い顔をして帰って行った。魔王相手に駆け引きを出来ると考えているなら甘い。こっちが攻撃を止める程の何かが無ければ交渉にならないのだ。
「魔王様の駆け引きは素晴らしい。このオルフェイス感動いたしました。」
「そうか、駆け引きなんてしてないぞ。嫌がらせしただけだ。」
「流石は魔王様、生まれながらの魔王ですな。」
「シルフィーネに言って、ドラゴン達を休ませろ。5日間の休暇だ。」
「了解しました。一応西の国に進軍する準備だけは整えます。」
さて西の連中はどの位耐えられるのだろうか?相手の事を知らないので考えても無駄だな。それにこちらに軍隊を送って逃げているから何時もより体力が無くなってる事は間違いないだろう。つまりこちらが有利な訳だ、もう一度戦争を起こす可能性も有るが、東は既にボロボロなので同盟は問題外だし、南の国は今の所魔族と敵対する気はない様だ、狙うとすれば弱っている東の国の方だろうな、今なら南の国単独でも落とせるだろうな。
「さて晩飯でも食おうか?アル。」
「今晩は魔王様が言っていたパスタですよ。」
「そうか、俺が作るよ。」
魔族の国にも小麦粉が有ったので何とか麺もどきを作って見た。アルは体力が有るので頑張って捏ねて貰ったのだ。それを薄く延ばして切ったら蕎麦とうどんの中間位の麺もどきが出来たのだ。お湯でゆでた面に肉と野菜を炒めた物を混ぜて、塩で味付けして出来上がりだ。
「う~む、微妙な味だな。」
「変わった料理ですね、魔王様。」
「面白いですわ。」
何時もの様に俺とサキュバスとアルで晩飯を食べた。料理の味付けは塩とハチミツしか無いので美味くは無かった。救いは美人のサキュバスと巨乳美少女のアルが傍にいる事だけだった。調味料が欲しい、ケチャップやマヨネーズや醤油が欲しい。
「そう言えば、ドワーフ族から畑が完成したって知らせが届いてますよ。」
「お~それは良かった、明日見に行こう。」
「魔王様、何故そんなにドワーフ族を気にするんですか?」
「それは魔族が人間達に嫌われているからだ。せめてドワーフ族とは仲良くしたいな、いくら魔族が強くても周り全部に攻められたら負けるぞ。」
「それで獣人国やドワーフ族達の所に行ってたんですか。魔王様、頭良いです。」
「周り中に喧嘩売るのは馬鹿だぞ、戦争なんかしなくて良いなら、しないほうが良いいんだ。だが戦争を怖がって逃げてると余計戦争になるからな。」
「そう言えば、サキちゃん。風呂か修理出来たんだって。」
「はい、前の魔王は一度も入りませんでしたから酷い状態でした。」
「今晩入れるのかな?」
「入れますよ、お湯を入れましょうか?」
「直ぐに入る、頼むよ。」
こっちに来てからの初めての風呂だった、魔族も獣人も風呂に入らないのだ。布で身体を拭いたり水浴びだけってのはやはり俺には無理だった。一応魔王だから風呂位の贅沢は良いだろう。石鹸とシャンプーが無いのは寂しいが、久しぶりにゆっくりお湯に浸かってのんびりした。勿論アルやサキちゃんも一緒に入って風呂の作法を教えて上げた。2人の身体は凄かった。