第14話 獣人国
ケルベロスの曳く犬車に乗って獣人国に行って見た。お付きは牛人族のアルちゃんだ。更に今回は護衛として夜の部隊の隊長クロードが付いて来ている。クロードは吸血鬼と人族の雑種なので、魔族の中では戦闘力が低いらしいが、気配を消したり偵察したりするのは上手かった。勿論魔族の血が入っているので人間よりは強く、純粋な吸血鬼よりは弱いらしい。
「魔王様、着きましたよ。」
「えらい騒ぎになってるな。やっぱりケルベロスのせいか?」
「魔王様、ケルベロスは滅多に見れる様な魔獣ではございませんから、獣人族が騒ぐのは無理のない事です。ケルベロス1匹で獣人戦士100人分位の戦闘力が有ります。」
「そうか、ケルベロスって強いんだな。」
獣人の国の入り口が大騒ぎになっているので、取りあえず門番に魔王で有ると告げたところ、凄く驚いていた。魔王が単独で獣人の国に来たことは無いそうだ。
「で、魔王様が一体獣人の国に何の用でございますか?」
「新しく魔王になったから、獣人の王様に挨拶に来たんだ。」
人間相手にやらかした俺は獣人達とは仲良くしようと考えた。周り全員敵はキツイので友人とは言わないが少なくとも敵対しない関係になりたかった。でも隣り合う国は仲が悪いのが普通だから、出来ればラッキー程度の感じだ。
程なく獣人国の王様が俺達に会うと言う知らせがきた。ケロべロスの犬車で王の城まで行って欲しいそうなので、案内してもらう。
「獣人国って何人位住んでるんだ?」
「獣人が20万人位で、魔女や魔法使いが1万人位じゃないですかね。」
どうやらこの世界の国は都市位の人口らしい、俺達に戦争を仕掛けた東の国が50万人位で西の国が30万人位だったはずだ。国の広さは俺の世界の県位のサイズみたいだ。街並みも平屋の掘っ立て小屋ばかりで見るからに未開な感じだ。服も下半身こそ何か身に着けているが上半身は裸の獣人が多かった。
「ここが王の城でございます。」
「案内、ご苦労。」
案内してくれた獣人に、ちょっぴりお金を渡した。東から分捕った金なので東に行けば使えるはずだ。ここで使えるかどうかは知らなかった。
「へ~、中々立派な城だな。3階建ての石造りだな。」
「魔法使いや魔女達が造ってくれました。」
「へ~、魔法で造ったのか、これ?」
「土魔法やゴーレムで造ったと聞きました。」
「魔法って凄いな。」
そう言えば戦争時に魔族は空を飛んだり、火を吹いたりしてたな。あれも魔法だよな、獣人は魔法が使えない者が大半だそうだ。
「良く来た、魔王。俺が獣人の王、ライオン族のレオナルドだ。」
「初めましてレオナルド、俺が新しい魔王のグランツだ。」
獣人の王はライオンだった、2本足で立ってるライオンって何だか変だが、俺が魔王って言うのも十分変なのでお互い様だな。そして俺は人間達に恨みを買ってるので本名を名乗らなかった。昔乗ってた車の名前で誤魔化したのだ。
「新しい魔王よ、我が国に何をしに来たのだ?人族と戦争をして勝ったと言う噂は聞いているぞ。」
「そこだよ王様、俺達魔族は人族と仲が悪いんだ。だから獣人達と仲良くしようと思って挨拶に来たんだ。」
「成程な、それなら納得できるな。我らも人間とは仲が悪いからな。あやつらは人間以外の種族を馬鹿にしておるからな。」
「そこの牛族の娘よ。」
「はい、王様。」
「その魔王はどんな奴だ?」
「とてもいい人です王様。美味しい物を一緒に食べたり、給金をくれたりします。」
「ほう、獣人に親切にするとは変わった魔王だな。」
「ああ、変わり者って良く言われる。」
獣人族の王は俺の事を信用してない様だが、獣人仲間のアルの言葉は信じた様だった。急に同盟を結ぶのは無理でも、少しづつ国同士の交流を深める事で意見がまとまった。一応成功した様だ。東の国の財宝を王にも少し分けてやったら喜んでいた。彼は光物が好きな様だ。
やはり簡単にはいかない様だ、俺の避難場所は何時になったら確保出来るのかサッパリ見通しが立たなかった。魔族と獣人族で何か交易でもして信頼関係を造らないといけない様だ、相手の事が分からないと信頼なんかできる訳がなかった。
「さて帰るか、アル。」
「はい、魔王様。」
「何だもう帰るのか?ゆっくりしていけば良い。」
「戦争の後始末が沢山有るんだ王様。また遊びに来るよ。」
「うむ、何時でも来るが良い。」
今回はただの顔見世なので直ぐに変える事にする。俺の狙いは別口に有るのだ。ケルベロスの犬車に乗って帰る道すがら、ローブを来た人間達が道に立っていた。
「何か用か?」
「魔王様。今回の勝利、おめでとうございます。魔導士一同と魔女一同からお祝いがございます。」
「魔導士と魔女から、お祝い?」
「我らは元は人間界に住んでいましたが、迫害を受けてこの地に追い出された者でございます。平たく言えば人間共は我らの敵でございます。」
彼らは特殊な能力のお陰で人間達から嫌われているらしい、病気を治してやっても嫌われ、橋を造ってやっても怖がられ。都合が悪くなると全ての最悪は彼らのせいにされて処刑されたりしていたのだそうだ。
「そりゃあ酷いな。怒るのも尤もだ。」
「ご理解頂けましたか。」
「理解した、何か俺に出来ることが有れば言ってくれ。出来るだけ力になろう。」
「ありがとうございます魔王様。有難い事です。」
俺は嬉しかったやっと俺の仲間に成れそうな人たちを見つけたのだ、人間に恨みを持つ少数派って最高だ,人間に嫌われてる俺にぴったりだ。踊りだしたい気分だが足元を見られるのが嫌なので、一応上から目線で行く事にした。
「これは東の国から分捕った物だ、皆で分けてくれ。何かの役に立つだろう。」
「ありがとうございます。魔王様助かります。」
「魔王城に遊びに来ると良い、歓迎する。」
これで何とか成りそうだ、ドワーフ族と魔導士達。強力な連中と仲良くして俺を売り込むのだ、そして魔族の国から逃げ出してそこでのんびり暮らすのだ。魔王は自営業みたいで面倒くさいから嫌いだ。